現在ウクライナで取材中のジャーナリスト・村山祐介さんが、藤原しおりと「伝えること・伝わること」について語り合った。村山さんが登場したのは、J-WAVEの番組『HITACHI BUTSURYU TOMOLAB. ~TOMORROW LABORATORY』。オンエアは3月11日(土)。
同番組はラジオを「ラボ」に見立て、藤原しおりがチーフとしてお届けしている。「私たちそれぞれの身近にある困りごと」をテーマ(イシュー)に取り上げてかみ砕き、ラボの仲間としてゲストを「フェロー」として迎え、未来を明るくするヒントを研究している。
今回はロシアの国境から30キロほど離れたウクライナ・ハルキウにいる村山さんにリモートで話を聞いた。
藤原:いまのウクライナの様子はいかがですか?
村山:街の人たちと話をしていると「冬を乗り切った」という自信みたいなものを感じます。前回来たときが8月から10月ぐらいで「冬をどうやって乗り切ろうか」というのが、みなさんの本当に切実な心配事としてあって。ちょうどそのタイミングで、たぶんロシア軍は意図的に10月から電力といったインフラに無差別攻撃を始めて、停電が起きたりしていたんです。民家が破壊されたりする被害もあるんですけど、生活自体はなんとかここまでやってこられたと。攻撃は受けたけれど生活は守ったという感じで話す方がたくさんいました。先日ハルキウの大学生の女性と話をしたんです。停電でもあちこちで発電機をみなさん用意されていて「カフェも普通に営業していた」と言っていました。
村山さんはテレビではあまり扱われていない「普通の暮らし」について発信しており、そこにはウクライナの人々の決意があるのだという。
村山:普通の暮らしもできているけれど、自然にできているわけじゃなくて頑張って普段の生活を維持している、というところがあります。戦争があってもこれまで通りの日常を続けていくことが、自分にとっての戦いというか。経済も動かしていかなきゃいけないし、教育だってやらなきゃいけない。ここまでくると長期戦を覚悟していますので、長い戦いをどうやって維持していくかというところで生活をきちっとしようと、そういう想いを持ってやっている方がすごく多いです。
【関連記事】ウクライナの人のために、私たちができることは。現地取材したジャーナリストが語る
2020年の米大統領選挙を取材した村山さんは、トランプ前大統領があらゆるメディアに「フェイクニュースだ」と、いわゆる「レッテル貼り」をしたことで「マスメディアが書いてないところにこそ真実がある」という風潮が広がってしまったと指摘した。
村山:そうするとネットの世界で、真偽はよくわからないけれども、そっちのほうが正しいんだという、いわゆる「陰謀論」というか、そっちに走っていってしまう。日本でもここ数年、「メディアが書かない真実をお知らせします」みたいな、SNSでそういううたい文句があると思います。「メディアは全部フェイクニュースで、書いてないことが真実だ」みたいなところまでいってしまっているような気がします。
藤原:情報があふれかえっている世の中で、なにを頼りにすればいいかわからなくなっているなと、日本にいる自分も感じます。
村山:フェイクニュースを流布しているほうからすると、それが目的のひとつだったりするんですよね。今回のウクライナ戦争をめぐるいろいろな虚偽・フェイクも飛び交っているんです。飛び交うことによって、なにが本当かわからなくなって「なにがなんだかわからない」と第三者に思わせてしまうんです。
桜美林大学教授でジャーナリストの平 和博さんによる記事から一部抜粋、編集して紹介。
ロシアによるウクライナ侵攻開始当初から、フェイクニュースの検証を続けてきたプロジェクト「#UkraineFacts」。公開されているリストによれば、ファクトチェックをおこなう団体は89で、合わせて69の国や地域のチェックを担当している。
村山:「#UkraineFacts」にも参画している、ウクライナのファクトチェック団体「StopFake.org」を取材したことがあります。キエフ・モヒーラ大学という国立大学を拠点にボランティアで運営されているんですけど、そのときに事務局長の方がおっしゃっていたのが、膨大な数のフェイクニュースが毎日入ってくる、それを全部ファクトチェックするのは無理だと。1つをやったとしてもその何倍ものフェイクニュースがどんどん出るし、それをファクトチェックするのはものすごく大変な作業なんです。
村山さんによれば、ファクトチェックは簡単にできるものもあれば、数日かかってしまうものもあり「物量作戦でいったら絶対に勝てない」と説明。しかし取り組み自体は無駄ではなく成果が出てきているそうだ。
村山:「ロシア政府やメディアが出しているもののなかに間違いがたくさんある」とコツコツ世に届けているわけです。それがだんだんと理解されてくると「あ、ロシア側の発表にはウソが混じっているかもしれない」と共通認識ができてくる。そうすると、ロシアが言っていることを鵜呑みにしなくなる。だからロシア側からなにか情報が出てきたときに「これはウソかもしれないな」と一拍おいて受け止めることが、少なくともウクライナの人たちにとっては当たり前になっていて。だからフェイクニュースが入ってきたときに、1回距離を置いて考えてみる。それって有効な方法なのではないかと感じています。1人1人に免疫力をつけていくというか。地道だけど、それが広がっていくと社会全体としてフェイクニュースに踊らされない土壌ができる。それは戦時下にあるウクライナだけじゃなく、どこにいる人たちにも通じることなのかなと思います。
村山:私の場合は「伝えたい」というよりも「知りたい」のほうが先にくる感じです。「どうなっているんだろう、なんでこんなことが起きているんだろう」ということを知りたいという想いがあって、現地に行って現地の方々の話を聞くわけです。話をする人は「伝えてほしい」と思ってお話をされる方がすごく多くて、そうするとメッセージを受け取ったような気持ちになるんです。それを伝えなければいけないという想いが出てくるというか。あちこちの街に行くと地元の人に呼びとめられて「なんでこんなことをされないといけないの? どうして?」と私に突きつけてくるんです。私は答えられないんですけど、鬼気迫る想いで涙ながらに耐えているんですよ。そのことを伝えたいと思う。答えられないけど伝えることで応えたい。それがウクライナの取材を続けている理由です。
SNSで発信をすると批判の声が届くこともある。村山さんがさまざまな声との向き合い方について語った。
村山:めげたりイラッとしたりしちゃうんです。たぶんそれはお互いに、私の発信を受け取っている人も「あいつ、またこんなこと書きやがって」と思っているかもしれない。ずっと私の発信を見てくださったり、あるいはコメントを寄せていただいたり、「この人はこういう風に思っていたんだな」とわかるときもある。そうかと思うと、また違う人から違うことを言われたりして(笑)。いろいろなところから弾が飛んでくるんですけど、まあでもそれがコミュニケーションだし、「伝える・伝わる」ことなのかなと思います。
J-WAVE『HITACHI BUTSURYU TOMOLAB. ~TOMORROW LABORATORY』は毎週土曜20時から20時54分にオンエア。
同番組はラジオを「ラボ」に見立て、藤原しおりがチーフとしてお届けしている。「私たちそれぞれの身近にある困りごと」をテーマ(イシュー)に取り上げてかみ砕き、ラボの仲間としてゲストを「フェロー」として迎え、未来を明るくするヒントを研究している。
ウクライナで目にした「普通の暮らし」
村山さんは立教大学法学部を卒業したのち、三菱商事株式会社に入社した。その後、朝日新聞社に入社し記者に転身。現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。オランダのハーグを拠点に、YouTubeチャンネル「CROSSBORDER REPORT by Yusuke Murayama」で取材の模様を発信し、伝え続けている。命がけの避難から1年 ウクライナ女性たちの今/京都でM1挑戦の画家&オランダで子育てのシングルマザー
藤原:いまのウクライナの様子はいかがですか?
村山:街の人たちと話をしていると「冬を乗り切った」という自信みたいなものを感じます。前回来たときが8月から10月ぐらいで「冬をどうやって乗り切ろうか」というのが、みなさんの本当に切実な心配事としてあって。ちょうどそのタイミングで、たぶんロシア軍は意図的に10月から電力といったインフラに無差別攻撃を始めて、停電が起きたりしていたんです。民家が破壊されたりする被害もあるんですけど、生活自体はなんとかここまでやってこられたと。攻撃は受けたけれど生活は守ったという感じで話す方がたくさんいました。先日ハルキウの大学生の女性と話をしたんです。停電でもあちこちで発電機をみなさん用意されていて「カフェも普通に営業していた」と言っていました。
村山さんはテレビではあまり扱われていない「普通の暮らし」について発信しており、そこにはウクライナの人々の決意があるのだという。
村山:普通の暮らしもできているけれど、自然にできているわけじゃなくて頑張って普段の生活を維持している、というところがあります。戦争があってもこれまで通りの日常を続けていくことが、自分にとっての戦いというか。経済も動かしていかなきゃいけないし、教育だってやらなきゃいけない。ここまでくると長期戦を覚悟していますので、長い戦いをどうやって維持していくかというところで生活をきちっとしようと、そういう想いを持ってやっている方がすごく多いです。
【関連記事】ウクライナの人のために、私たちができることは。現地取材したジャーナリストが語る
フェイクニュースとの向き合い方
『現代用語の基礎知識』(自由国民社)によれば、虚偽の情報や報道をSNSで拡散し、誹謗中傷や社会の混乱につながることが問題となっている。一方で政治家などが自身の都合の悪い報道をフェイクニュースだと決めつけるなどもあると説明している。2020年の米大統領選挙を取材した村山さんは、トランプ前大統領があらゆるメディアに「フェイクニュースだ」と、いわゆる「レッテル貼り」をしたことで「マスメディアが書いてないところにこそ真実がある」という風潮が広がってしまったと指摘した。
村山:そうするとネットの世界で、真偽はよくわからないけれども、そっちのほうが正しいんだという、いわゆる「陰謀論」というか、そっちに走っていってしまう。日本でもここ数年、「メディアが書かない真実をお知らせします」みたいな、SNSでそういううたい文句があると思います。「メディアは全部フェイクニュースで、書いてないことが真実だ」みたいなところまでいってしまっているような気がします。
藤原:情報があふれかえっている世の中で、なにを頼りにすればいいかわからなくなっているなと、日本にいる自分も感じます。
村山:フェイクニュースを流布しているほうからすると、それが目的のひとつだったりするんですよね。今回のウクライナ戦争をめぐるいろいろな虚偽・フェイクも飛び交っているんです。飛び交うことによって、なにが本当かわからなくなって「なにがなんだかわからない」と第三者に思わせてしまうんです。
桜美林大学教授でジャーナリストの平 和博さんによる記事から一部抜粋、編集して紹介。
ロシアによるウクライナ侵攻開始当初から、フェイクニュースの検証を続けてきたプロジェクト「#UkraineFacts」。公開されているリストによれば、ファクトチェックをおこなう団体は89で、合わせて69の国や地域のチェックを担当している。
村山:「#UkraineFacts」にも参画している、ウクライナのファクトチェック団体「StopFake.org」を取材したことがあります。キエフ・モヒーラ大学という国立大学を拠点にボランティアで運営されているんですけど、そのときに事務局長の方がおっしゃっていたのが、膨大な数のフェイクニュースが毎日入ってくる、それを全部ファクトチェックするのは無理だと。1つをやったとしてもその何倍ものフェイクニュースがどんどん出るし、それをファクトチェックするのはものすごく大変な作業なんです。
村山さんによれば、ファクトチェックは簡単にできるものもあれば、数日かかってしまうものもあり「物量作戦でいったら絶対に勝てない」と説明。しかし取り組み自体は無駄ではなく成果が出てきているそうだ。
村山:「ロシア政府やメディアが出しているもののなかに間違いがたくさんある」とコツコツ世に届けているわけです。それがだんだんと理解されてくると「あ、ロシア側の発表にはウソが混じっているかもしれない」と共通認識ができてくる。そうすると、ロシアが言っていることを鵜呑みにしなくなる。だからロシア側からなにか情報が出てきたときに「これはウソかもしれないな」と一拍おいて受け止めることが、少なくともウクライナの人たちにとっては当たり前になっていて。だからフェイクニュースが入ってきたときに、1回距離を置いて考えてみる。それって有効な方法なのではないかと感じています。1人1人に免疫力をつけていくというか。地道だけど、それが広がっていくと社会全体としてフェイクニュースに踊らされない土壌ができる。それは戦時下にあるウクライナだけじゃなく、どこにいる人たちにも通じることなのかなと思います。
「伝えたい」より「知りたい」
現在ウクライナで取材をする村山さんに、なぜ現地で活動をするのか、その理由や想いを尋ねた。村山:私の場合は「伝えたい」というよりも「知りたい」のほうが先にくる感じです。「どうなっているんだろう、なんでこんなことが起きているんだろう」ということを知りたいという想いがあって、現地に行って現地の方々の話を聞くわけです。話をする人は「伝えてほしい」と思ってお話をされる方がすごく多くて、そうするとメッセージを受け取ったような気持ちになるんです。それを伝えなければいけないという想いが出てくるというか。あちこちの街に行くと地元の人に呼びとめられて「なんでこんなことをされないといけないの? どうして?」と私に突きつけてくるんです。私は答えられないんですけど、鬼気迫る想いで涙ながらに耐えているんですよ。そのことを伝えたいと思う。答えられないけど伝えることで応えたい。それがウクライナの取材を続けている理由です。
SNSで発信をすると批判の声が届くこともある。村山さんがさまざまな声との向き合い方について語った。
村山:めげたりイラッとしたりしちゃうんです。たぶんそれはお互いに、私の発信を受け取っている人も「あいつ、またこんなこと書きやがって」と思っているかもしれない。ずっと私の発信を見てくださったり、あるいはコメントを寄せていただいたり、「この人はこういう風に思っていたんだな」とわかるときもある。そうかと思うと、また違う人から違うことを言われたりして(笑)。いろいろなところから弾が飛んでくるんですけど、まあでもそれがコミュニケーションだし、「伝える・伝わる」ことなのかなと思います。
J-WAVE『HITACHI BUTSURYU TOMOLAB. ~TOMORROW LABORATORY』は毎週土曜20時から20時54分にオンエア。
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