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女性ラッパーの登場はギャルが関係している? 「弱さを認める芯の強さ」が共通点

女性ラッパーの登場はギャルが関係している? 「弱さを認める芯の強さ」が共通点

日本のフィメールラッパーの変遷を、『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)を上梓した文筆家・つやちゃんが語った。

つやちゃんが登場したのは、J-WAVEで5月25日(水)に放送された番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。

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日本の女性ラッパーの登場はギャルが関係?

日本のミュージックシーンにおいて女性ラッパーはどのような変遷をたどってきたのか。そしてどんなことをラップで表現してきたのか。

日本の女性ラッパーに焦点を当てた話題の一冊『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)を上梓したつやちゃんに訊く。

『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』
日本のラップミュージック・シーンにおいて、これまで顧みられる機会が少なかった女性ラッパーの功績を明らかにするとともに、ヒップホップ界のジェンダーバランスおよび「フィメールラッパー」という呼称の是非についても問いかける。
ディスクユニオン ホームページより)

あっこゴリラ:なぜこの本を書こうと思ったんですか?
つやちゃん:昔から女性のラップ作品ってすごいなって思ってたんですよ。でもなかなかそれが評価されなかったり、紹介されるときもあまりその背景にある女性のカルチャーとかが語られることがないなという不満があって。あとは自分が女性のカルチャーのほうが昔から好きだったこともあり、よりその問題意識が自分ごと化されて蓄積されていた感じですね。

まず、つやちゃんは女性ラッパーの変遷を紐解くキーワードとして「ギャル」を挙げた。

あっこゴリラ:日本の女性ラッパーの登場はギャルが関係してるってことですけど、面白いですよね。
つやちゃん:いわゆるラッパー的なマインドとギャル的なマインドってすごく近いものがあると思うんです。うそ偽りなく自分に向き合って、自らを誇り、主張していく。そういった一貫した姿勢は近いものがあるかなと。
あっこゴリラ:確かに。
つやちゃん:もともとギャルは既存の文化に対するストリート発のカウンターカルチャーだったのかなって思っていて。独自のメイクやファッション、言語を作っていく、かつ女性はこうあるべきという従来の規範に対抗していった自然発生的な現象だったのかなと思います。
あっこゴリラ:自然発生ってところが面白いんだよな。だってギャルって肌を黒くして、メイクもいわゆる選ばれることを目的としたら絶対にしない方向に行ってるんですよね(笑)。本当にひとつの新しい国を作っちゃったみたいな感じですよね。
つやちゃん:大手マスメディアとか資本主義に食いつぶされようとする度にカウンターを繰り返していって、自律的に変形しながら生きながらえていく。そういった芯の強さ、しぶとさは、女性ラッパーと近いものを感じますね。

安室奈美恵が及ぼしたギャルカルチャー

あっこゴリラはギャルの研究をしたことがあるそうで、「最初は、ギャルは社会の闇として大人たちが切り抜いていたけど、本人たちはすごく楽しんでやっている」と語り、つやちゃんも同調する。

つやちゃん:今、あっこゴリラさんが言われた通り、自分たちが楽しんでやっているから、どんどんギャルの派生形が生まれていく。昔で言うと白ギャルとか、姫ギャルとか、2010年代以降だと原宿系とかぴえん系と接近してみたり、かたちをどんどん変えてギャルが進化している。それは本人たちが楽しんでやっているし、それがファッションとか見た目にも現れていると思います。
あっこゴリラ:昔はギャルってカテゴライズされてたんですよ。何系ギャルとか。そのなかにB系ってあったんです。渋谷のセンター街はギャルの聖地なんだけど、宇田川から先はB系だから行っちゃだめだから、みたいな感じで言ってたり(笑)。だからそれぞれのテリトリーをしっかり尊重しあっていて、いいなって思いましたね。そうやって昔はギャルとB系ってバスッと分かれてたと思うんですけど、今は密接に繋がっているわけですね。
つやちゃん:絡み合っている感じはあると思います。

つやちゃんは、2000年代前半のギャルカルチャーは安室奈美恵の影響が大きかったと続ける。

つやちゃん:いわゆるギャルの代表的な人物だった安室ちゃんがBガールに転向した影響で、ファッションもいわゆるギャルからBガールにどんどん人気が出てきた時期でした。
あっこゴリラ:2000年代後半はどうだったんですか?
つやちゃん:例えばファッション誌『小悪魔ageha』が出てきたように、いろんなものが細分化を遂げながら、どんどん派手になっていったりとかしたのがその時期から始まっていきましたね。
あっこゴリラ:ヒップホップは、2010年代前半はちょっとおとなしかった時代だったけど、そこからヒップホップとギャルが密接に絡み合って、今はかなりムーブメントみたいになっていますよね。
つやちゃん:そうですよねBガールとギャルを近づけた存在として、YA-KYIMは代表的なグループかなと思っています。Bガールギャルファッションに身を包みながらラップをしていたすごくすてきな3人組ですね。
あっこゴリラ:MoNa a.k.a. Sad Girlも2010年代に発信していたアーティストですよね。
つやちゃん:フィメールラッパーの先駆者かなと思います。ラップの冬の時代と呼ばれていた2000年代後半から2010年代前半は男女問わずヒップホップがセールス的に低迷した時代だったけど、そういう時代であってもギャル魂を忘れずにラップをし続けた、人気のラッパーがMoNa a.k.a. Sad Girlかなと思います。今でもバリバリ活躍されていますけど、非常にフィメールラップ史のなかで重要なラッパーだと思います。

もはや外見だけではギャルと判別できない

2010年代半ばになるとギャルの細分化が進んだ結果、「外見だけでギャルと判別できなくなり、またどのファッションにもギャルの要素が入ってきた」とつやちゃんは解説する。

つやちゃん:ギャルかどうかはマインドで判別するしかない時代になってきました。どんなマインドがギャルなのかと言うと、誰に何を言われようとやりたいこと、好きなことをやり通す、自分を偽らずに、弱さも含めてプレゼンテーションするような芯の強さ。
あっこゴリラ:ギャルは本当にそこら中にいるんですよ。それこそギャルかどうかは性別とか年齢だと絶対にわからないことですからね。
つやちゃん:例えば今、Tokyo Gal(トウキョウ・ギャル)ってラッパーがいるんですけど、もはや自分がギャルかはわからないけど、Girlのサウスなまりの発音が「Gal」に近かったので、それがカッコいいからギャルって名乗っているんです。
あっこゴリラ:そのノリもギャルだね。
つやちゃん:もはやそうやって軽いノリでギャルを名乗っている人も出てきているのが面白いと思います。
あっこゴリラ:ギャルはやっぱり懐が広くて深いんですよ。「これはギャルじゃない」とかめんどくさい感じが入ってこないから好きなんですよね。

ここで、つやちゃんは最近ギャルマインドを感じるアーティストとして、戦慄かなのを挙げた。

つやちゃん:アンチを抱えていた時期もあったと思うけど、それでもめげずに自分がかわいいと思うものを努力して作り上げる。そういう自分をプレゼンしていくことがギャルだなと思っていて、それが実って今は若い女性から本当に支持を受けている。だから戦慄かなののギャル魂はすごいなと心を打たれました。

社会のネガティブが加速。増えていったエモラップ

つやちゃんは、2010年代終盤からのギャル文化とヒップホップは「闇」が健在していったと語る。

あっこゴリラ:いつの時代も若者は病んでるなって思うんですけど、10年とか20年前は派手な子ってそれを表に出してなかったのかな。それより強さを前面に出していたような印象があるけど、昨今のエモラップとか、弱さを前面に出すのが流行りくらいになってますよね。
つやちゃん:2010年代の後半からエモラップと呼ばれる鬱屈とした暗いラップが出てきました。それはいろんな背景があると言われていて、若年層の貧困とかSNSにおける分断とか、そういった社会のネガティブが加速してエモラップが増えてきた。日本でもインターネットを中心に活躍するラッパーがエモラップから派生したゴスっぽい暗いラップみたいなものをやり始めているという現象が起こっていると思います。もともとギャルは昔から闇を抱えた存在でそこをフィーチャーされることが多いという背景があるから、今はギャルマインドと重なってクロスオーバーしているのかなと思います。
あっこゴリラ:なるほど。
つやちゃん:ラッパーってうそをつかずにライフスタイルとか自分自身を訴えていく人たちで、ギャルマインドもそういった要素を含んでいると思うんですよね。本音と建前を分けることができないということなのかなと思っていて。でも今はSNSの複数アカウントを持つことが当たり前になっていって、ひとりの人物がどんどん引き裂かれていくような状態だと思うんです。そういう時代だからこそ本音と建前を分けずに一貫した姿勢を主張していくラッパーとかギャルマインドを持った人たちってつらかったり、闇を抱えがちなのかなと。だから今の新世代ラッパーたちは死の香りがすごくするなと思います。生きることは死ぬことでもあって、その両者がまた深いものになっているからゴスを漂わせたラッパーが増えているように思います。

ここで、つやちゃんは、YOYOUの『202022』を紹介。「YOYOUは、まさに今の時代のディストピア感をラップと曲で表現している希有な才能のあるラッパー」と絶賛した。
あっこゴリラ:この時代に出るべくして出たのかなって。こうやって変遷をたどっていくと面白いですね。ラッパーって社会の鑑だから。特に若い子はその鑑みたいな存在だと表現されることも多いし。

最後に、つやちゃんは「インターネットを漂っているうちに404エラーにたどり着いちゃったみたいなバグった閉塞感を感じるような曲を出している人たち」としてDr.Anonを紹介した。
あっこゴリラ:すげえ、何これ! ギャルって日本だけで自然発生的に生まれた謎のカルチャー感がすごくする。日本でしか生まれないバイブスをすごく感じますね。

J-WAVE『SONAR MUSIC』は月~木の22:00-24:00にオンエア。

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