映画監督の中川龍太郎さんが、本棚に残しておきたい一冊を紹介した。
中川さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。3月27日(日)のオンエアをテキストで紹介。
中川さんの最新作『やがて海へと届く』は4月1日(金)から公開される。番組では中川さんが最新映画の見どころを語った。
玄理:映画の本が圧倒的に多いですね。『レオス・カラックス 映画を彷徨うひと』(フィルムアート社)があります。技術的な面で必要なものを本でけっこう学んだり、情報を得たりするほうですか?
中川:そうですね。半分趣味みたいなところもありますけど。
中川監督は本棚に入れる本の数を決めているという。
中川:本棚って全部で6段ぐらいあるじゃないですか。そのうちの2段までが自分で買った本にしているんですが、2段以上の量になると捨てたり人にあげたりするって決めています。
玄理:それはなぜですか?
中川:「ものが増え過ぎるのは嫌だ」っていうのもあるんですけど、本当に必要なものだけ手元に置いておきたいと思っているんですね。そうすると、必然的に映画の本が残っていくので。
玄理:なるほど。自分のなかのトップ5の本ってなかなか入れ替わらなくないですか?
中川:そうですよね。変わんないです。
玄理:でも、大事な本とか大切な本って確実に増えていくから、入れ替わり枠がどんどん減っていきそうですね。
中川:そうですね(笑)。捨てなくないものは実家に送っています。
玄理:困っているときは実家に送る、というのはよく聞きますね(笑)。
玄理:『愛のかたち』(河出書房新社)という、小林紀晴さんが書かれた本とのことで。写真家・古屋誠一さんが、妻・クリスティーネが自殺した直後の姿をカメラに収めたというところから始まるノンフィクションなんですね。
中川:5、6年ぐらい前、北海道を旅していたときに読んでいた本です。お家時間ができたのと、小林紀晴さんとたまたまお会いする機会があったので「もう一度読みたいな」と思って読んでみました。簡単にこの本の内容を言うと、オーストラリアで写真家をやっている古屋さんという方が、オーストラリア人の奥様が自殺したときにその瞬間をカメラに収めて、メモワールという写真展に発表したんですね。
玄理:ええ!? すごいなあ。
中川:ちょっと狂気的な感じがするじゃないですか。古屋さんがどうして行動をしたのか、奥様の写真だけを発表して生きてきた古屋さんの人生を、小林紀晴さんという方がひたすら追っていったっていう話なんですよね。
中川監督は、最初に読んだ頃とは別の感想を『愛のかたち』に抱いたという。
中川:ごまかさずに言うと、5、6年前の自分はある種のロマンスを感じながら読みましたね。
玄理:(ロマンスを感じたのは)作家としての、アーティストとしてってことなんですかね?
中川:そうですね。死とか恋人に向き合って作品を作るっていう、古屋さんの“狂気を含めた強さ”に憧れる感情が当時はありました。古屋さんの作品の素晴らしさは変わらないんですけど、今読んでみると残酷な面を感じたというか。芸術家の野心による被害者という、亡くなったクリスティーネさんの視点でも作品を読むことができました。
玄理:私はこちらの本を読んではいないのですが、お気持ちはわかります。20代の頃はエッジが効いてものや鬼才と呼ばれる監督の作品に惹かれるものがありました。自分もですけど、時代の変化もあると思うんですよ。
中川:たしかにねえ。
玄理:そういうものが“才能”としてもてはやされた時代が確実にあったけれど、今って「モラル的にまずどうなの?」ってことが問われるじゃないですか。自分と時代の変化というものは、私も日々感じております。
玄理:どういったストーリーなんでしょうか?
中川:浜辺美波さん演じる、ビデオカメラを持っている「すみれ」という女の子が、東北を旅をしたときに震災に遭って行方不明になるんですね。彼女が撮っていたビデオをもとに、岸井ゆきのさん演じる「まな」が、“人生のなかですみれが本当に求めていたこと”を探していくという話です。
玄理:なるほど。中川監督は女性が主役の作品が多いイメージがあります。私、監督の『愛の小さな歴史』が大好きなんですよ。
中川:懐かしいですね(笑)。
玄理:女性が主演になる理由って何かあるんですかね?
中川:どうしてなんでしょうね。ただ、女性が主人公のほうが自分のことを出しやすいんですよ。
玄理:えっ。それはなぜですか?
中川:(主演が)男性だと自分との距離がすごく近いから、ものすごく直接的な物語になってしまって、語れないことが出てくるというか。美化して描いたり過度に批判的になってしまう傾向があります。
玄理:わかる気がします。同性は同性に厳しくなりがちと言いますか。
中川監督は『やがて海へと届く』の制作でこだわったポイントを語った。
中川:劇中ですみれが回しているカメラから見える世界はどういうものだったかにこだわりました。物語のなかでは、まなが見ていた世界とすみれが見ていた世界の両方向が描かれるんですね。そこの微妙な表情や視線の違いっていうのをすごくこだわりました。
玄理:なるほど。みなさん、中川監督の作品は画が綺麗と言いますよね。
中川:ありがとうございます。
玄理:撮影監督は毎回同じ方なんでしょうか?
中川:それがですね、毎回違うんですよ。
玄理:え! じゃあどうやって撮影監督を決めているんですか?
中川:作品を作るたびに、フレッシュな気持ちで新しい撮影監督を探します。過去にどういうものを撮ったかよりも、自分が今から撮ろうとしているものについて語り合える人かどうかを重視しているので、喋って決めることが多いですね。
玄理:それだと決めるまでに時間がかかりそうですね。内面を知るまでの過程が必要でしょうから。これから映画を観る方に向けて、注目してほしいポイントがあれば教えてください。
中川:岸井さん、浜辺さん、杉野遥亮さんといった、素晴らしい俳優さんが出てくださっている作品なので、魅力的なお芝居を楽しんでいただきたいですね。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
中川さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。3月27日(日)のオンエアをテキストで紹介。
中川さんの最新作『やがて海へと届く』は4月1日(金)から公開される。番組では中川さんが最新映画の見どころを語った。
本棚に入れる本の数を決めている
中川龍太郎さんは大学進学後、独学で映画制作を開始。2018年に公開された『四月の永い夢』は、モスクワ国際映画祭コンペティション部門に選出。2020年公開の『静かな雨』は釜山国際映画祭正式招待作品として上映され、東京フィルメックスにて観客賞を受賞した。玄理は中川さんの本棚を見ながらトークを進行した。玄理:映画の本が圧倒的に多いですね。『レオス・カラックス 映画を彷徨うひと』(フィルムアート社)があります。技術的な面で必要なものを本でけっこう学んだり、情報を得たりするほうですか?
中川:そうですね。半分趣味みたいなところもありますけど。
中川監督は本棚に入れる本の数を決めているという。
中川:本棚って全部で6段ぐらいあるじゃないですか。そのうちの2段までが自分で買った本にしているんですが、2段以上の量になると捨てたり人にあげたりするって決めています。
玄理:それはなぜですか?
中川:「ものが増え過ぎるのは嫌だ」っていうのもあるんですけど、本当に必要なものだけ手元に置いておきたいと思っているんですね。そうすると、必然的に映画の本が残っていくので。
玄理:なるほど。自分のなかのトップ5の本ってなかなか入れ替わらなくないですか?
中川:そうですよね。変わんないです。
玄理:でも、大事な本とか大切な本って確実に増えていくから、入れ替わり枠がどんどん減っていきそうですね。
中川:そうですね(笑)。捨てなくないものは実家に送っています。
玄理:困っているときは実家に送る、というのはよく聞きますね(笑)。
再読して印象が変わった本は
中川監督は、お家時間を利用して読んだ本のなかで、本棚に残したいと思った一冊があるそうだ。玄理:『愛のかたち』(河出書房新社)という、小林紀晴さんが書かれた本とのことで。写真家・古屋誠一さんが、妻・クリスティーネが自殺した直後の姿をカメラに収めたというところから始まるノンフィクションなんですね。
中川:5、6年ぐらい前、北海道を旅していたときに読んでいた本です。お家時間ができたのと、小林紀晴さんとたまたまお会いする機会があったので「もう一度読みたいな」と思って読んでみました。簡単にこの本の内容を言うと、オーストラリアで写真家をやっている古屋さんという方が、オーストラリア人の奥様が自殺したときにその瞬間をカメラに収めて、メモワールという写真展に発表したんですね。
玄理:ええ!? すごいなあ。
中川:ちょっと狂気的な感じがするじゃないですか。古屋さんがどうして行動をしたのか、奥様の写真だけを発表して生きてきた古屋さんの人生を、小林紀晴さんという方がひたすら追っていったっていう話なんですよね。
中川監督は、最初に読んだ頃とは別の感想を『愛のかたち』に抱いたという。
中川:ごまかさずに言うと、5、6年前の自分はある種のロマンスを感じながら読みましたね。
玄理:(ロマンスを感じたのは)作家としての、アーティストとしてってことなんですかね?
中川:そうですね。死とか恋人に向き合って作品を作るっていう、古屋さんの“狂気を含めた強さ”に憧れる感情が当時はありました。古屋さんの作品の素晴らしさは変わらないんですけど、今読んでみると残酷な面を感じたというか。芸術家の野心による被害者という、亡くなったクリスティーネさんの視点でも作品を読むことができました。
玄理:私はこちらの本を読んではいないのですが、お気持ちはわかります。20代の頃はエッジが効いてものや鬼才と呼ばれる監督の作品に惹かれるものがありました。自分もですけど、時代の変化もあると思うんですよ。
中川:たしかにねえ。
玄理:そういうものが“才能”としてもてはやされた時代が確実にあったけれど、今って「モラル的にまずどうなの?」ってことが問われるじゃないですか。自分と時代の変化というものは、私も日々感じております。
映画『やがて海へと届く』の見どころを紹介
4月1日、中川監督の最新作『やがて海へと届く』が公開される。中川:浜辺美波さん演じる、ビデオカメラを持っている「すみれ」という女の子が、東北を旅をしたときに震災に遭って行方不明になるんですね。彼女が撮っていたビデオをもとに、岸井ゆきのさん演じる「まな」が、“人生のなかですみれが本当に求めていたこと”を探していくという話です。
玄理:なるほど。中川監督は女性が主役の作品が多いイメージがあります。私、監督の『愛の小さな歴史』が大好きなんですよ。
中川:懐かしいですね(笑)。
玄理:女性が主演になる理由って何かあるんですかね?
中川:どうしてなんでしょうね。ただ、女性が主人公のほうが自分のことを出しやすいんですよ。
玄理:えっ。それはなぜですか?
中川:(主演が)男性だと自分との距離がすごく近いから、ものすごく直接的な物語になってしまって、語れないことが出てくるというか。美化して描いたり過度に批判的になってしまう傾向があります。
玄理:わかる気がします。同性は同性に厳しくなりがちと言いますか。
中川監督は『やがて海へと届く』の制作でこだわったポイントを語った。
中川:劇中ですみれが回しているカメラから見える世界はどういうものだったかにこだわりました。物語のなかでは、まなが見ていた世界とすみれが見ていた世界の両方向が描かれるんですね。そこの微妙な表情や視線の違いっていうのをすごくこだわりました。
玄理:なるほど。みなさん、中川監督の作品は画が綺麗と言いますよね。
中川:ありがとうございます。
玄理:撮影監督は毎回同じ方なんでしょうか?
中川:それがですね、毎回違うんですよ。
玄理:え! じゃあどうやって撮影監督を決めているんですか?
中川:作品を作るたびに、フレッシュな気持ちで新しい撮影監督を探します。過去にどういうものを撮ったかよりも、自分が今から撮ろうとしているものについて語り合える人かどうかを重視しているので、喋って決めることが多いですね。
玄理:それだと決めるまでに時間がかかりそうですね。内面を知るまでの過程が必要でしょうから。これから映画を観る方に向けて、注目してほしいポイントがあれば教えてください。
中川:岸井さん、浜辺さん、杉野遥亮さんといった、素晴らしい俳優さんが出てくださっている作品なので、魅力的なお芝居を楽しんでいただきたいですね。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
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