映画監督・濱口竜介さんが、お気に入りの書籍や人生に影響を与えた一説を紹介した。
濱口監督が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。12月12日(日)のオンエアをテキストで紹介。
玄理:タイトルを読みましょうか。『ジョン・カサヴェテスは語る』(幻冬舎)。映画監督のジョン・カサヴェテスの全発言集ですね。
濱口:私にとってのバイブルと言いますか、20歳ぐらいの頃に読んで、非常に励まされた本でした。
玄理:監督と最初にお会いしたとき、「ジョン・カサヴェテス監督から大きな影響を受けた」というようなことをおっしゃっていたのを覚えています。
濱口:順位はつけられないんですけれど、「影響を受けた監督は誰ですか?」と訊かれたらジョン・カサヴェテス監督の名前は常に出しますね。
玄理:ジョン・カサヴェテスは奥様であるジーナ・ローランズを役者としてたくさん起用している、インディーズ映画の監督ですよね?
濱口:そうですね。ジョン・カサヴェテスは基本的に俳優業なんですけども、そこで稼いだお金で自主映画を撮る方です。
濱口監督は20歳の頃に観たジョン・カサヴェテス監督作品の『ハズバンズ』で、「映画ってすごいな」と、深い衝撃を受けたと語る。「映画の人物のほうが、当時20歳くらいだった自分よりも濃密に『生きよう』としている。映画ってそういうものを描けるんだなと思ったことがすごく大きい」と、当時の衝撃を振り返った。
濱口監督は他にも、小野和子の『あいたくてききたくて旅にでる』(PUMPQUAKES)、『光をめぐって―映画インタビュー集』(筑摩書房)、『物語の作り方: ガルシア=マルケスのシナリオ教室』(岩波書店)などの書籍を紹介した。
濱口:フランスの映画監督・ロベール・ブレッソンが遺したメモ書きなんですね。彼が演出するにあたってどういうことを考えていたのかを知れるんですけども、この一説の前後には関係性のある言葉がないんですよ。謎めいた言葉が並んでいるんです。ただ、映画監督をしていくと「こういうことなのか」っていうのが身に沁みてくるような一説です。今回、偶然をテーマにした映画を作りましたけども、それについて触れている書籍というのもあって選ばせていただきました。
玄理:なるほど。一説にある「正確に作用する偶然」と「悪い偶然・良い偶然」とはどういう意味なのでしょうか?
濱口:おそらく、偶然というものがOKテイクを出すために必要だってことを言っていると思うんですね。(撮影時に)何かアクシデント的な部分が宿っていないと、OKテイクにならない。ただ、偶然のなかには「これは物語。偽物である」ってことを積極的に明らかにしてしまうものもあります。つまり、内容に説得力を持たせてくれる偶然ばかりとは限らないんですね。
偶然には「悪い偶然・良い偶然」があるため、OKテイクを出すためには「正確に作用する偶然」の選り分けが必要になってくると濱口監督は分析する。
濱口:ロベール・ブレッソンは、私と玄理さんが現場でやっていたような本読み(脚本家や監督が役者に台本を読み聞かせ、その意図を伝える作業)をひたすらやっていた人なんですね。
玄理:へええ!
濱口:無感情に、ひたすら何度も脚本を読み上げていたらしいです。そうすることで、「何を言うか」は完全に体に染みついている。ただ「どう言うか」に関しては必ずしも決まっていないんですね。感情的な部分には“遊び”があるというか、自由に表現する余地があるんです。
玄理:そうですね。
濱口:演技って、何度もやっているのに初めてのように振る舞わないといけない問題があるんですけども、この本ではそれを一部解決してくれるんですよね。「どう言うか」で、キャラクターとしてちゃんと表現するような「良い偶然」が入り込む余地を空けておく。そのために必要な方法が本読みなんじゃないかと思っています。
玄理:そっか。濱口監督が撮影前に本読みの時間をしっかり取るっていうのは、最近のインタビューなどで周知の事実になっていると思うんです。それはロベール・ブレッソンの影響によるものが大きかったんですね。
濱口:正確には、フランスの映画監督のジャン・ルノワールの影響です。同じようなことをやっている監督って何人かいるんですよ。監督それぞれに個性があるので、最終的な結果は全然違うんですけどね。伝統的な方法であるとは思います。
濱口:玄理さんが登場する第一話をはじめ、出演していただいた役者さんはどなたも素晴らしい形で映画のなかに存在してくれていると思います。この番組をお聴きの方は、ぜひ第一話の玄理さんの喋りに注目していただきたいです(笑)。
玄理:(笑)。けっこう喋りましたよね。タクシーに乗って15分ぐらいカメラを回していた気がします。
濱口:そうですね。使っている部分はもうちょっと短いんですけども、その前段からやっていただいて。本当にありがとうございます。
玄理:いえいえ! 映画『偶然と想像』はBunkamura ル・シネマほか、全国の劇場で公開がスタートします。最寄りの劇場については映画の公式サイトをチェックしてみてください。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
濱口監督が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。12月12日(日)のオンエアをテキストで紹介。
アメリカの映画監督・ジョン・カサヴェテスに大きな影響を受ける
「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながら玄理がトークを進行する。今回ゲストに登場した濱口監督が手がけた映画『偶然と想像』は、12月17日(金)から公開予定。「魔法(よりもっと不確か)」「扉は開けたままで」「もう一度」の3つの短編で構成された作品となっており、『ACROSS THE SKY』のナビゲーターでもある玄理は、第一話に出演している。<第一話「魔法(よりもっと不確か)」あらすじ>電子書籍派の濱口監督は、お気に入りの書籍の表紙写真を見せながら書籍について語った。
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。
『偶然と想像』公式サイトより
玄理:タイトルを読みましょうか。『ジョン・カサヴェテスは語る』(幻冬舎)。映画監督のジョン・カサヴェテスの全発言集ですね。
濱口:私にとってのバイブルと言いますか、20歳ぐらいの頃に読んで、非常に励まされた本でした。
玄理:監督と最初にお会いしたとき、「ジョン・カサヴェテス監督から大きな影響を受けた」というようなことをおっしゃっていたのを覚えています。
濱口:順位はつけられないんですけれど、「影響を受けた監督は誰ですか?」と訊かれたらジョン・カサヴェテス監督の名前は常に出しますね。
玄理:ジョン・カサヴェテスは奥様であるジーナ・ローランズを役者としてたくさん起用している、インディーズ映画の監督ですよね?
濱口:そうですね。ジョン・カサヴェテスは基本的に俳優業なんですけども、そこで稼いだお金で自主映画を撮る方です。
濱口監督は20歳の頃に観たジョン・カサヴェテス監督作品の『ハズバンズ』で、「映画ってすごいな」と、深い衝撃を受けたと語る。「映画の人物のほうが、当時20歳くらいだった自分よりも濃密に『生きよう』としている。映画ってそういうものを描けるんだなと思ったことがすごく大きい」と、当時の衝撃を振り返った。
濱口監督は他にも、小野和子の『あいたくてききたくて旅にでる』(PUMPQUAKES)、『光をめぐって―映画インタビュー集』(筑摩書房)、『物語の作り方: ガルシア=マルケスのシナリオ教室』(岩波書店)などの書籍を紹介した。
演技に説得力を持たせてくれる“偶然”の力
濱口監督は自分の人生に影響を与えた書籍の一節を挙げた。「すばらしい偶然だ、正確に作用する偶然とは。悪い偶然を斥け、良い偶然を引きつける方法。君の作品の構成の中に、偶然を呼び込むための余地をあらかじめ空けておくこと」
(『シネマトグラフ覚書―映画監督のノート』(筑摩書房)より)
濱口:フランスの映画監督・ロベール・ブレッソンが遺したメモ書きなんですね。彼が演出するにあたってどういうことを考えていたのかを知れるんですけども、この一説の前後には関係性のある言葉がないんですよ。謎めいた言葉が並んでいるんです。ただ、映画監督をしていくと「こういうことなのか」っていうのが身に沁みてくるような一説です。今回、偶然をテーマにした映画を作りましたけども、それについて触れている書籍というのもあって選ばせていただきました。
玄理:なるほど。一説にある「正確に作用する偶然」と「悪い偶然・良い偶然」とはどういう意味なのでしょうか?
濱口:おそらく、偶然というものがOKテイクを出すために必要だってことを言っていると思うんですね。(撮影時に)何かアクシデント的な部分が宿っていないと、OKテイクにならない。ただ、偶然のなかには「これは物語。偽物である」ってことを積極的に明らかにしてしまうものもあります。つまり、内容に説得力を持たせてくれる偶然ばかりとは限らないんですね。
偶然には「悪い偶然・良い偶然」があるため、OKテイクを出すためには「正確に作用する偶然」の選り分けが必要になってくると濱口監督は分析する。
濱口:ロベール・ブレッソンは、私と玄理さんが現場でやっていたような本読み(脚本家や監督が役者に台本を読み聞かせ、その意図を伝える作業)をひたすらやっていた人なんですね。
玄理:へええ!
濱口:無感情に、ひたすら何度も脚本を読み上げていたらしいです。そうすることで、「何を言うか」は完全に体に染みついている。ただ「どう言うか」に関しては必ずしも決まっていないんですね。感情的な部分には“遊び”があるというか、自由に表現する余地があるんです。
玄理:そうですね。
濱口:演技って、何度もやっているのに初めてのように振る舞わないといけない問題があるんですけども、この本ではそれを一部解決してくれるんですよね。「どう言うか」で、キャラクターとしてちゃんと表現するような「良い偶然」が入り込む余地を空けておく。そのために必要な方法が本読みなんじゃないかと思っています。
玄理:そっか。濱口監督が撮影前に本読みの時間をしっかり取るっていうのは、最近のインタビューなどで周知の事実になっていると思うんです。それはロベール・ブレッソンの影響によるものが大きかったんですね。
濱口:正確には、フランスの映画監督のジャン・ルノワールの影響です。同じようなことをやっている監督って何人かいるんですよ。監督それぞれに個性があるので、最終的な結果は全然違うんですけどね。伝統的な方法であるとは思います。
玄理が登場する短編映画の見どころは?
濱口監督は映画『偶然と想像』の見どころを紹介した。濱口:玄理さんが登場する第一話をはじめ、出演していただいた役者さんはどなたも素晴らしい形で映画のなかに存在してくれていると思います。この番組をお聴きの方は、ぜひ第一話の玄理さんの喋りに注目していただきたいです(笑)。
玄理:(笑)。けっこう喋りましたよね。タクシーに乗って15分ぐらいカメラを回していた気がします。
濱口:そうですね。使っている部分はもうちょっと短いんですけども、その前段からやっていただいて。本当にありがとうございます。
玄理:いえいえ! 映画『偶然と想像』はBunkamura ル・シネマほか、全国の劇場で公開がスタートします。最寄りの劇場については映画の公式サイトをチェックしてみてください。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
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番組情報
- ACROSS THE SKY
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毎週日曜9:00-12:00
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玄理