評論家・山田五郎が、ヨーロッパの美術館を多数巡った時のエピソードを明かした。山田氏が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは12月4日(土)。山田は今年、著書『機械式時計大全』(講談社選書メチエ)を上梓した。
山田:版画や素描の部屋で、図書館の図書カードみたいなもので作品を検索できるんです。そうすると出してくるっていうシステムになっている。レンブラント(・ファン・レインの作品)を素描でいくつか見たいやつが(あって)。そうしたら(作品が、厳重な形ではなく)裸で出てきたんですよ。「これいいんですか?」と言ったら「だっておまえ申請しただろ」「私は市民の財産を預かってるんだ」と。「その市民が見せてくれと言われたら出すのは当たり前だろう」と言われたんです。違うなぁと思って。
葉加瀬:もう根本的に(美術に対しての)考え方が違うものなんですよね。
山田:学芸員課程を取っていた時にある博物館の人に言われて、これも印象に残って未だに忘れられないんですけれど、「博物館は見せるとこじゃありません」と。「何するところなんですか」と言ったら「保存、研究する場所です」って言われて。やっぱり(美術への考え方が)違いますよね。市民革命とかで勝ち取ったものと、お上から与えられた教養とは違うんです。
山田が続いて言及したのが、イギリス・ロンドンにあるナショナル・ギャラリー。
山田:地下に当時、ギャラリーが今までつかまされた贋作のコーナーがあって、まるっきりの贋作だったり、本人作だと思ったけど工房作だったとか別人作だったりとか、それをちゃんと「何年何月に何ポンドで購入して、その後こういう理由で工房作とわかった」とか、ものすごく詳しい説明が書いてあるんですよ。なまじの新作を観るよりも全然勉強になるんですよね。それで毎日そこに行ってたら、学芸員の人が出てきて「何がそんな面白いんだ」と言うから、「勉強になるじゃないですか」って言ったら「おまえ美術史とかやってたか。もっとあるぞ」と言われて、いろいろ見せて説明してくれたりして。
葉加瀬:そこは英国の土壌というか気概というか、気質でしょうね。
山田は「自分の人生の中ですごく大きな気づきだった」、葉加瀬は「これはかなわねぇな」と思ったと明かし、それぞれのキャリアにおいてイタリアでの芸術の接し方に触れたことは大きかったようだ。
山田:その頃の学芸員ジョークで、「大英博物館は世界の泥棒倉庫だった」「ギリシャ人だかイタリア人だかに任せたら全部駄目にしちゃうから、イギリス人が、俺たちが保管してやってるんだ」というジョークがあったんですが、僕が学生の頃、それは一理あると思いましたよ。やっぱりドイツ、オランダ、イギリスの美術館、博物館の方が俄然いいんです。特にイギリスは自分のところに古典の美術がなかったから、その分保存だとか研究だとかがすごく進んでいたんですよ。イタリアとかは、もう野放し状態でびっくりするぐらい雑で。
葉加瀬:ローマを歩いていて「これ全部2000年前の壁か」と思っても、みんな普通にそこでデートしてるわけじゃないですか。「これ(らの壁)そのものが美術館でしょう」と思うものね。
山田:ローマにいたとき、サッカーの試合か何かがあってもう夜中(よるじゅう)えらいことになっていたときがあったんですよ。(ジャン・ロレンツォ・)ベルニーニの彫刻が(街中の)あちこちにあるじゃないですか。酔っ払いがそこで用を足していたんです。さすがにこれはいかんのじゃないかと思って、英語しかできなかったから、英語で「そういうことしてるから、イギリス人に『イタリア人に美術を任せられない』って言われるんだろ」って言ったら、その酔っ払いが英語わかっちゃって。「イギリス人はね、作れないからそんなこと言うんだ」「俺たちはこんなのいつでも作れる。壊れたらまた作ればいいんじゃないか」って言われたのよ。酔っ払いの他愛もない話なんだけど、人の暮らしとして、どちらが豊かなんだろうとスッゴイ考えちゃって。後生大事にガラスの向こうに囲って教養として見るのと、日常の中で普通に使い捨てていくぐらいの感じと、どちらが人の暮らしとして豊かだと思ったらイタリアだなと思っちゃって。それが自分の人生の中ですごく大きな気づきだったんです。
葉加瀬:初めてヴェローナで『アイーダ』を観たときに、隣にいた地元の60〜70(歳くらい)のおじさんがずっと僕に話しかけてくるんです。こちらは「初めて『アイーダ』観られる」と思ってるのに、ずっと喋ってるの。歌ってる間、お芝居の間ですよ! ところが、(その人の)ひいきの人の歌になった瞬間に黙って立って聴いて、終わった瞬間にポロポロ泣いてるの。(楽しみ方は)こういうものなのかと思って、17(歳)のときにカルチャーショックを受けたんですよ。「これ(芸術)はこの人たちものだな」「これはかなわねぇな」と僕も思って、純粋なクラシックのバイオリン弾きになるのはやめたの。これは食っていけないなと思いましたね。
葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜の19:00-20:00オンエア。
オランダ、イギリスの美術館での体験
まず葉加瀬が「どこが一番思い出に残っていますか」と訊ねると「いくつかありますけど、最初は、オランダのアムステルダム国立美術館ですね」と山田。「いとこがオランダに住んでるので、あそこが最初に行った大きな美術館なんです」という。山田:版画や素描の部屋で、図書館の図書カードみたいなもので作品を検索できるんです。そうすると出してくるっていうシステムになっている。レンブラント(・ファン・レインの作品)を素描でいくつか見たいやつが(あって)。そうしたら(作品が、厳重な形ではなく)裸で出てきたんですよ。「これいいんですか?」と言ったら「だっておまえ申請しただろ」「私は市民の財産を預かってるんだ」と。「その市民が見せてくれと言われたら出すのは当たり前だろう」と言われたんです。違うなぁと思って。
葉加瀬:もう根本的に(美術に対しての)考え方が違うものなんですよね。
山田:学芸員課程を取っていた時にある博物館の人に言われて、これも印象に残って未だに忘れられないんですけれど、「博物館は見せるとこじゃありません」と。「何するところなんですか」と言ったら「保存、研究する場所です」って言われて。やっぱり(美術への考え方が)違いますよね。市民革命とかで勝ち取ったものと、お上から与えられた教養とは違うんです。
山田が続いて言及したのが、イギリス・ロンドンにあるナショナル・ギャラリー。
山田:地下に当時、ギャラリーが今までつかまされた贋作のコーナーがあって、まるっきりの贋作だったり、本人作だと思ったけど工房作だったとか別人作だったりとか、それをちゃんと「何年何月に何ポンドで購入して、その後こういう理由で工房作とわかった」とか、ものすごく詳しい説明が書いてあるんですよ。なまじの新作を観るよりも全然勉強になるんですよね。それで毎日そこに行ってたら、学芸員の人が出てきて「何がそんな面白いんだ」と言うから、「勉強になるじゃないですか」って言ったら「おまえ美術史とかやってたか。もっとあるぞ」と言われて、いろいろ見せて説明してくれたりして。
葉加瀬:そこは英国の土壌というか気概というか、気質でしょうね。
イタリアで受けたカルチャーショック
トークの後半は、山田と葉加瀬の共通項としてイタリアでカルチャーショックを受けたという話題に。山田からはローマにいたときの街中でのエピソード、葉加瀬からは17歳の頃、ヴェローナでオペラの『アイーダ』を観たときのエピソードが語られた。山田は「自分の人生の中ですごく大きな気づきだった」、葉加瀬は「これはかなわねぇな」と思ったと明かし、それぞれのキャリアにおいてイタリアでの芸術の接し方に触れたことは大きかったようだ。
山田:その頃の学芸員ジョークで、「大英博物館は世界の泥棒倉庫だった」「ギリシャ人だかイタリア人だかに任せたら全部駄目にしちゃうから、イギリス人が、俺たちが保管してやってるんだ」というジョークがあったんですが、僕が学生の頃、それは一理あると思いましたよ。やっぱりドイツ、オランダ、イギリスの美術館、博物館の方が俄然いいんです。特にイギリスは自分のところに古典の美術がなかったから、その分保存だとか研究だとかがすごく進んでいたんですよ。イタリアとかは、もう野放し状態でびっくりするぐらい雑で。
葉加瀬:ローマを歩いていて「これ全部2000年前の壁か」と思っても、みんな普通にそこでデートしてるわけじゃないですか。「これ(らの壁)そのものが美術館でしょう」と思うものね。
山田:ローマにいたとき、サッカーの試合か何かがあってもう夜中(よるじゅう)えらいことになっていたときがあったんですよ。(ジャン・ロレンツォ・)ベルニーニの彫刻が(街中の)あちこちにあるじゃないですか。酔っ払いがそこで用を足していたんです。さすがにこれはいかんのじゃないかと思って、英語しかできなかったから、英語で「そういうことしてるから、イギリス人に『イタリア人に美術を任せられない』って言われるんだろ」って言ったら、その酔っ払いが英語わかっちゃって。「イギリス人はね、作れないからそんなこと言うんだ」「俺たちはこんなのいつでも作れる。壊れたらまた作ればいいんじゃないか」って言われたのよ。酔っ払いの他愛もない話なんだけど、人の暮らしとして、どちらが豊かなんだろうとスッゴイ考えちゃって。後生大事にガラスの向こうに囲って教養として見るのと、日常の中で普通に使い捨てていくぐらいの感じと、どちらが人の暮らしとして豊かだと思ったらイタリアだなと思っちゃって。それが自分の人生の中ですごく大きな気づきだったんです。
葉加瀬:初めてヴェローナで『アイーダ』を観たときに、隣にいた地元の60〜70(歳くらい)のおじさんがずっと僕に話しかけてくるんです。こちらは「初めて『アイーダ』観られる」と思ってるのに、ずっと喋ってるの。歌ってる間、お芝居の間ですよ! ところが、(その人の)ひいきの人の歌になった瞬間に黙って立って聴いて、終わった瞬間にポロポロ泣いてるの。(楽しみ方は)こういうものなのかと思って、17(歳)のときにカルチャーショックを受けたんですよ。「これ(芸術)はこの人たちものだな」「これはかなわねぇな」と僕も思って、純粋なクラシックのバイオリン弾きになるのはやめたの。これは食っていけないなと思いましたね。
葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜の19:00-20:00オンエア。
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