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メディアや噂に潜む“危険性”を知る一冊。映画『由宇子の天秤』春本雄二郎監督が自宅の本棚を紹介

メディアや噂に潜む“危険性”を知る一冊。映画『由宇子の天秤』春本雄二郎監督が自宅の本棚を紹介

映画監督・春本雄二郎さんが、自宅の本棚にあるおすすめの書籍や人生に影響を与えた一説を紹介した。

春本さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。10月24日(日)のオンエアをテキストで紹介。

ノンフィクションの書籍が多く並んだ本棚

「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながら玄理がトークを進行。今回は映画監督の春本雄二郎さんがゲストに登場した。 玄理:棚が三段ありまして、三段目の棚はほぼほぼ吉田修一さんの小説が入っていますね。二段目はノンフィクション、一段目は山崎ナオコーラさんの本があります。個人的には『ヤンキーと地元』(筑摩書房)という本が気になります。どんな内容なんですか?
春本:こちらは沖縄の本ですね。沖縄のヤンキーの方と仲良くなられたノンフィクションライター(打越正行)が書いたルポです。
玄理:沖縄にもヤンキーって多いんですね?
春本:そういう地域性があるみたいで。なぜそうなったのかという理由を、ヤンキーと友だちになりながら取材を進められたそうです。
玄理:ヤンキーって今もいるんですか?
春本:どうなんでしょう。僕が育った場所は神戸のニュータウンなんですけども、中学生の頃とかはよく暴走族を目撃しました。だけど、最近は地元に帰ってもそういう子たちが集まっているところをあまり見たことがないですね。時代とともにヤンキーは少なくなったと思いますが、地方に行けばまだいるのかなという気がします。
玄理:なるほど。ノンフィクションの書籍がずらっと並んでいるのは、やはり映画制作に活かすためでしょうか?
春本:そうですね。自分が映画にしたいテーマや、日本で現在起こっている問題を勉強するために買っています。

事件の真相を追ったノンフィクション書籍を紹介

春本さんは本棚にあるお気に入りの書籍として、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)を取り上げた。高橋ユキが書いたノンフィクションであり、2013年に起こった「山口連続殺人放火事件」の真相に迫った1冊となっている。

玄理:2013年の夏、わずか12人が暮らす山口県の集落で1夜にして5人の村人が殺害された事件。これだけでも「一体何が起きているんだ」という気持ちになります。犯人の家に貼られていた川柳が世間を騒がせたそうですね。
春本:そうですね。これがちょっと奇妙なものでして。「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という川柳なんですけども、すごく意味深なんですよ。「つけび」っていうのは、今だと放火を指す言葉ですね。この川柳を、マスコミが「犯行予告なのではないか」という取り上げ方をしたんですよ。その結果、ワイドショーやSNSなどで犯人に対するイメージがどんどん大きくなっていって、本当なのか嘘なのかわからない情報がたくさん出回ったんです。そうして話題になった事件をノンフィクションとして本にするために高橋ユキさんが村へ取材に行くのですが、「犯行予告だ」とメディアが取り上げたものとは違った、川柳のなかに隠されていた“真実”が見えてくるんですよ。
玄理:なるほど。
春本:「どうして犯人は犯行に及んでしまったのか」というのが、メディアでの取り上げられ方や、SNS上での情報と全然違っているんです。それが取材を進めていくうちにどんどんわかってくる内容になっています。
玄理:春本さんの最新映画には、マスコミやメディアに対する接し方や取り扱い方がテーマに含まれているじゃないですか。こちらの本にも少し通ずる部分がありそうですね。
春本:そうですね。大いに通じているなと感じます。噂が独り歩きすると、真実って見えづらくなるんですよね。「きちんとした取材って大事だな」と思いますし、メディアや噂に潜む危険性を知ることができますので、いい本だなと私は思います。

ポーランドの映画監督の言葉に影響を受ける

春本さんは「人生に影響を与えた一説」として、ポーランドの連作映画『デカローグ 第7話 ある告白』をピックアップ。監督であるクシシュトフ・キェシロフスキの制作コメントを挙げた。

「最も深刻なのは心の泥棒である。全ての登場人物はお互いを盗みあった。この物語で唯一罪がないと言えるのは子どもである」

春本:『デカローグ』は1話1時間の連作映画です。7話のストーリーを手短に話すと、母親と娘の物語なんですね。母親は教育に厳しい人で、娘は優等生でした。しかし、娘は抑圧されたストレスによって教師と関係を持ってしまい、妊娠してしまうんです。母親は娘の学校の校長先生をしていたので、秘密裏に出産させた子どもを孫ではなく“自分の子ども”として育てるんですよ。心も子どもも母親に奪われてしまった娘は、母親から子どもを取り戻そうとするが……というお話です。
玄理:なかなかハードなドラマですね。『デカローグ』は聖書の十戒をモチーフにしていて、ポーランドに住む人々が直面する道徳的・倫理的な問題が各話で扱われる物語です。日本でも十分起こりえる話ですね。
当時のポーランドの国内情勢や政治的影響もあるせいか、キェシロフスキ監督はドライに物語を描くという。
春本:キェシロフスキ監督って、引いた目で人間を描くので、表現する物語が甘くないというか、全然メロドラマではないんですよね。そこが僕は好きで。すごく影響を受けましたね。

映画のキャスティングにワークショップを利用

春本さんが監督を務める映画『由宇子の天秤』は、9月から全国公開されている。

<あらすじ>
3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ“衝撃の事実”を聞かされる。大切なものを守りたい、しかし それは同時に自分の「正義」を揺るがすことになる。果たして「“正しさ”とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…ドキュメンタリーディレクターとしての自分と、一人の人間としての自分。その狭間 で激しく揺れ動き、迷い苦しみながらもドキュメンタリーを世に送り出すべく突き進む由宇子。彼女を最後に待ち受けていたものとは?
公式サイトより)

玄理:最初は「どうしてこのタイトルなんだろう?」と思いながら観ていたんですが、観ていると「あっ、これは天秤だ」と思ったり、「自分だったらどうするんだろう」と考えさせられたりする2時間半でした。こんなに引き込まれる邦画は本当に久しぶりで、面白かったです。
春本:ありがとうございます。
玄理:なんというか絶妙なんですよね。たとえば「1と2があります。どっちを選びますか?」と訊かれても「こんなの選べないよ」っていう、絶妙なところを突いてくるんです。驚いたんですけども、こちらの作品はワークショップから生まれたそうですね?
春本:シナリオ自体は私が書いているんですけども、キャスティングは私がワークショップで実際に芝居を見て選びました。
玄理:キャスティングをワークショップでおこなった理由は何ですか?
春本:プロフィールや演じている動画だけ観ていても、その人自身のパーソナリティが見えないんですよね。「第三者の目がなく、自分自身と向き合ったときに、その人が考えていること」を何より大切にしています。なぜならば、そこから体の動きや言語化される言葉が出てくると思っているので。
玄理:なるほど。その人自身をちゃんと見定めることができる場がワークショップということですね。
春本:そういうことです。ワークショップは、シナリオがない状況でもその人自身を知ることができる場だと思います。

『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。

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