J-WAVEで放送中の番組『ROPPONGI PASSION PIT』(ナビゲーター:DEAN FUJIOKA/三原勇希)。各界で活躍する情熱を持ったゲストを迎えて、「好き」や「情熱」をテーマにトークを展開する。8月15日(土)のオンエアでは、路上生活者支援活動に取り組む一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉 剛がゲストに登場。身近にある社会問題を考えた。
DEANが稲葉の活動を知ったのは、新型コロナウイルスの流行時。生活や経済状況が変わって路上生活者が増えるのではないかと調べていたときに、稲葉の活動に行き着いたそうだ。「本当に必要とされているけど欠けている部分を埋めて補っている。一人でも多くの方に知ってもらいたい活動だと思い、お声がけさせていただきました」と語った。
三原:稲葉さんのこれまでの活動を教えていただけますか?
稲葉:1994年から行ってきた路上生活者の支援活動では、路上での炊き出しや食事の配布、路上生活者のもとへ出向いて声をかける夜回りが中心でした。2014年に設立したつくろい東京ファンドでは、東京でも増えている空き家や空き室を借り上げ、住まいがない方に入っていただく個室シェルターの事業を進めています。
DEAN:僕は以前、他の国に家がありましたが、日本に国籍はあるのに住所がない状況でたくさんの不便がありました。住所がないことでこんなに大きな差が出るのかと。日本に国籍はあるのに住所がない人たちは、一度落ちたら二度と這い上がれない落とし穴のように感じてしまうんじゃないかなと思います。一度住所を失うことは、今の日本においてどんな意味になるのでしょうか。
稲葉:ホームレスの方々に対しては、「なぜ、あの人たちは働かないんですか?」「怠けているだけじゃないですか?」とよく言われます。しかし、私たちが仕事に就こうとすると、履歴書に書く項目で最初に出てくるのは住所ですよね。過去に住んでいたアパートに住民票があっても、退去して数年経つと住民票も消されてしまう。住所も住民票もないと、まず求職活動の入り口ではじかれてしまいます。また、面接まで進めたとしても会社から住民票を求められても出せないと、そこで話が進まなくなってしまいます。住所や住民票がないことで仕事にも就きにくく、公的サービスの利用にもハードルができてしまう。なんとかお金を貯めてもう一度アパートを借りようと思っても、不動産屋さんからも現住所を求められる。一度住まいを失ってしまうと、もう一度生活を再建することが非常に困難になってしまうことを、多くの人に知ってもらいたいと思います。
稲葉:私たちのもとに相談に来る方の中には、たとえばフリーランスや自営業の仕事をされていて、家賃十数万円のアパートに暮らしていてご家族も何人もいる中で、あるときに収入が減って家賃も払えなくなってしまった方など、今まで一度も生活に困ったことがない方もいらっしゃいます。ご自身の周りにも「まさか、こんな人が?」という方が生活に困っている場合があるのではないかと思います。ですので、ぜひ何気ない会話の中からでも生活や家賃に困っている兆候を感じたら、私たちのようなNPO団体や行政の窓口に繋いでいただければと思います。
三原:なかなか人には言えないことですもんね。
稲葉:そうですね。特に日本社会は自己責任論が言われるので、生活に困っていることを「恥ずかしい」と感じて、なかなかSOSを出せないんですよね。「困ったときはお互い様だ」という雰囲気を普段から作っていけたらと思います。
自己責任論が強い理由として、戦後から根強く続いた「頑張って働けばなんとかなる」という精神があるからだと、稲葉は指摘する。当時は頑張って仕事を探せば見つかり、仕事にしがみついて頑張れば自分の収入はなんとかなる時代だった。
稲葉:しかし、そんな時代は20年くらい前から終わっていると私は感じています。今、私たちが相談を受けている方の中にも、仕事をしているのに収入が低い「ワーキングプア」の方々もいます。そういう方々は、都内の家賃が高くて払えないのでネットカフェなどで暮らしていらっしゃいます。今、都内にはネットカフェで暮らしている方が約4000人いるという統計も出ています。そして緊急事態宣言下でネットカフェが休業したことで路頭に迷ってしまった状況がありました。そんなふうに、いくら頑張っても貧困から抜け出せないことがあり得るということを知っていただきたいですね。
DEAN:“自己”の捉え方ですよね。個人が分断されて人間一人がひとつの単位と考えるのではなく、人はお互いが繋がっていて社会の中でクロスしている部分があると認識することが大事。 “社会”という単位としての“自己”責任なら辻褄が合うと思いますね。
稲葉:新型コロナウイルスや気候変動の問題など、人類が一丸となって取り組まなければならない課題がいくつもあるのに、それぞれが自分の国のことだけを考えていると、結果的に全体が沈没してしまう危機感があります。私たち一人一人が自分の国だけではなく、世界全体がそこからどうやって抜け出すのかが課題。余裕がなくなると日本をどう守るかに意識が向きがちですが、どうやって近隣諸国と協調していけるのか、どうやって地球規模の問題に一緒に立ち向かえるのかということに、一人ひとりが意識を変えることが重要だと思います。
DEAN:2016年にバラク・オバマ前大統領が広島で核兵器廃絶を訴えましたが、どう思われましたか?
稲葉:非常に期待をしていたのですが、残念ながらオバマさんはそんなに実績を残せませんでした。その後、ドナルド・トランプ政権になってむしろ真逆の動きになり、トランプさんに引きずられる形で他の国々も自国ファーストに流れていることに大変危機感を持っていますね。
DEAN:我々は何をしたらいいんですかね?
稲葉:日本の経済的な力が弱まっていることの裏返しだと思うのですが、テレビなどで日本を礼賛する番組がすごく増えています。自分で自分を騙している感じがあるので、そういったところから疑ってみる、変えていく必要があるのかなと思います。
稲葉は、貧困問題も核兵器問題も、平和運動として関わっている意識を持っている。ホームレスの問題に関わるようになったのも、路上で人が亡くなる事実にショックを受けたからだ。
稲葉:貧困も戦争も、背景は異なりますが、理不尽な形で人の命が奪われることに対する憤りが、いろいろな活動の原点になっています。
DEAN:「ビッグイシュー」の活動も同じような思いでやられていますか?
稲葉:はい。私は認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同理事も務めています。ビッグイシューはホームレスの方々の仕事を作るための雑誌で、就労支援だけでなく、生活支援、ダンスやサッカーといった文化・芸術活動の応援にも力を入れています。「ホームレスがなぜダンスやサッカー?」と思われるかもしれませんが、そういった形で自分を表現することが、結果的にその人の次の力になることは、他の国の事例からもわかっているんです。欧米だと若いときに路上生活を経験したことをオープンにしているアーティストの方ってすごく多いんですよね。
DEAN:僕もバックパッカーをやっていたので、あまり変わらないなって(笑)。住所不定無職の期間が長かったので、本当にスレスレのところにいたなって思いますね。
この番組では毎回ゲストに、自分が思う「情熱」とはなにかを訊く。稲葉は「実践の楽観主義」と答えた。
稲葉:私の尊敬するイタリアの精神科医でフランコ・バザーリアという方がいます。イタリアで精神科病院をなくして、地域で精神障害を持っている方を支えていこうという改革を進めました。彼がよく「理性の悲観主義より実践の楽観主義」と言っています。理性の悲観主義とは、社会問題を頭で考えると悲観的で絶望的になってしまうことですね。しかし、一旦そこに関わって体を動かしてみると、私の場合もそうですが、支援活動をすることによって一軒家を貸してくれたりサポートをしてくれたりする人が出てくる。実践を続けていくことで楽観的になれるというのは、私がこの活動を続けられている理由だと思い、この言葉を選びました。
DEAN:なるほど。
三原:素敵です。何かに迷ったときに思い出したい言葉です。
DEAN:ポジティブにいきましょう!
『ROPPONGI PASSION PIT』は、東京・六本木に出現した、いろいろな人の“情熱”が集まり、重なり合い、さらに熱を増して燃え上がる秘密基地として、みんなの熱い思いを電波に乗せて発信。放送は毎週土曜の23時から。
DEANが「一人でも多くの人に知ってもらいたい」と出演依頼
稲葉は1994年から路上生活者の支援活動に関わり、2001年には自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談、支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。同年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組んでいる。DEANが稲葉の活動を知ったのは、新型コロナウイルスの流行時。生活や経済状況が変わって路上生活者が増えるのではないかと調べていたときに、稲葉の活動に行き着いたそうだ。「本当に必要とされているけど欠けている部分を埋めて補っている。一人でも多くの方に知ってもらいたい活動だと思い、お声がけさせていただきました」と語った。
三原:稲葉さんのこれまでの活動を教えていただけますか?
稲葉:1994年から行ってきた路上生活者の支援活動では、路上での炊き出しや食事の配布、路上生活者のもとへ出向いて声をかける夜回りが中心でした。2014年に設立したつくろい東京ファンドでは、東京でも増えている空き家や空き室を借り上げ、住まいがない方に入っていただく個室シェルターの事業を進めています。
DEAN:僕は以前、他の国に家がありましたが、日本に国籍はあるのに住所がない状況でたくさんの不便がありました。住所がないことでこんなに大きな差が出るのかと。日本に国籍はあるのに住所がない人たちは、一度落ちたら二度と這い上がれない落とし穴のように感じてしまうんじゃないかなと思います。一度住所を失うことは、今の日本においてどんな意味になるのでしょうか。
稲葉:ホームレスの方々に対しては、「なぜ、あの人たちは働かないんですか?」「怠けているだけじゃないですか?」とよく言われます。しかし、私たちが仕事に就こうとすると、履歴書に書く項目で最初に出てくるのは住所ですよね。過去に住んでいたアパートに住民票があっても、退去して数年経つと住民票も消されてしまう。住所も住民票もないと、まず求職活動の入り口ではじかれてしまいます。また、面接まで進めたとしても会社から住民票を求められても出せないと、そこで話が進まなくなってしまいます。住所や住民票がないことで仕事にも就きにくく、公的サービスの利用にもハードルができてしまう。なんとかお金を貯めてもう一度アパートを借りようと思っても、不動産屋さんからも現住所を求められる。一度住まいを失ってしまうと、もう一度生活を再建することが非常に困難になってしまうことを、多くの人に知ってもらいたいと思います。
貧困は個人の問題ではなく社会の問題
一度住所を失うと生活が困難になってしまう社会構造ができてしまっている。稲葉は「個人の努力の問題にするのではなく、社会の問題としてみんなで解決することが重要だ」と語る。稲葉:私たちのもとに相談に来る方の中には、たとえばフリーランスや自営業の仕事をされていて、家賃十数万円のアパートに暮らしていてご家族も何人もいる中で、あるときに収入が減って家賃も払えなくなってしまった方など、今まで一度も生活に困ったことがない方もいらっしゃいます。ご自身の周りにも「まさか、こんな人が?」という方が生活に困っている場合があるのではないかと思います。ですので、ぜひ何気ない会話の中からでも生活や家賃に困っている兆候を感じたら、私たちのようなNPO団体や行政の窓口に繋いでいただければと思います。
三原:なかなか人には言えないことですもんね。
稲葉:そうですね。特に日本社会は自己責任論が言われるので、生活に困っていることを「恥ずかしい」と感じて、なかなかSOSを出せないんですよね。「困ったときはお互い様だ」という雰囲気を普段から作っていけたらと思います。
自己責任論が強い理由として、戦後から根強く続いた「頑張って働けばなんとかなる」という精神があるからだと、稲葉は指摘する。当時は頑張って仕事を探せば見つかり、仕事にしがみついて頑張れば自分の収入はなんとかなる時代だった。
稲葉:しかし、そんな時代は20年くらい前から終わっていると私は感じています。今、私たちが相談を受けている方の中にも、仕事をしているのに収入が低い「ワーキングプア」の方々もいます。そういう方々は、都内の家賃が高くて払えないのでネットカフェなどで暮らしていらっしゃいます。今、都内にはネットカフェで暮らしている方が約4000人いるという統計も出ています。そして緊急事態宣言下でネットカフェが休業したことで路頭に迷ってしまった状況がありました。そんなふうに、いくら頑張っても貧困から抜け出せないことがあり得るということを知っていただきたいですね。
DEAN:“自己”の捉え方ですよね。個人が分断されて人間一人がひとつの単位と考えるのではなく、人はお互いが繋がっていて社会の中でクロスしている部分があると認識することが大事。 “社会”という単位としての“自己”責任なら辻褄が合うと思いますね。
被爆2世が思う「平和」とは
稲葉は広島県出身であり、自身の母親が被爆者である“被爆2世”として、幼い頃から平和の問題をずっと考えてきたという。今の世界は、お互いが自国中心主義でいがみ合い、余裕がないように見えると話す。稲葉:新型コロナウイルスや気候変動の問題など、人類が一丸となって取り組まなければならない課題がいくつもあるのに、それぞれが自分の国のことだけを考えていると、結果的に全体が沈没してしまう危機感があります。私たち一人一人が自分の国だけではなく、世界全体がそこからどうやって抜け出すのかが課題。余裕がなくなると日本をどう守るかに意識が向きがちですが、どうやって近隣諸国と協調していけるのか、どうやって地球規模の問題に一緒に立ち向かえるのかということに、一人ひとりが意識を変えることが重要だと思います。
DEAN:2016年にバラク・オバマ前大統領が広島で核兵器廃絶を訴えましたが、どう思われましたか?
稲葉:非常に期待をしていたのですが、残念ながらオバマさんはそんなに実績を残せませんでした。その後、ドナルド・トランプ政権になってむしろ真逆の動きになり、トランプさんに引きずられる形で他の国々も自国ファーストに流れていることに大変危機感を持っていますね。
DEAN:我々は何をしたらいいんですかね?
稲葉:日本の経済的な力が弱まっていることの裏返しだと思うのですが、テレビなどで日本を礼賛する番組がすごく増えています。自分で自分を騙している感じがあるので、そういったところから疑ってみる、変えていく必要があるのかなと思います。
稲葉は、貧困問題も核兵器問題も、平和運動として関わっている意識を持っている。ホームレスの問題に関わるようになったのも、路上で人が亡くなる事実にショックを受けたからだ。
稲葉:貧困も戦争も、背景は異なりますが、理不尽な形で人の命が奪われることに対する憤りが、いろいろな活動の原点になっています。
DEAN:「ビッグイシュー」の活動も同じような思いでやられていますか?
稲葉:はい。私は認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同理事も務めています。ビッグイシューはホームレスの方々の仕事を作るための雑誌で、就労支援だけでなく、生活支援、ダンスやサッカーといった文化・芸術活動の応援にも力を入れています。「ホームレスがなぜダンスやサッカー?」と思われるかもしれませんが、そういった形で自分を表現することが、結果的にその人の次の力になることは、他の国の事例からもわかっているんです。欧米だと若いときに路上生活を経験したことをオープンにしているアーティストの方ってすごく多いんですよね。
DEAN:僕もバックパッカーをやっていたので、あまり変わらないなって(笑)。住所不定無職の期間が長かったので、本当にスレスレのところにいたなって思いますね。
この番組では毎回ゲストに、自分が思う「情熱」とはなにかを訊く。稲葉は「実践の楽観主義」と答えた。
稲葉:私の尊敬するイタリアの精神科医でフランコ・バザーリアという方がいます。イタリアで精神科病院をなくして、地域で精神障害を持っている方を支えていこうという改革を進めました。彼がよく「理性の悲観主義より実践の楽観主義」と言っています。理性の悲観主義とは、社会問題を頭で考えると悲観的で絶望的になってしまうことですね。しかし、一旦そこに関わって体を動かしてみると、私の場合もそうですが、支援活動をすることによって一軒家を貸してくれたりサポートをしてくれたりする人が出てくる。実践を続けていくことで楽観的になれるというのは、私がこの活動を続けられている理由だと思い、この言葉を選びました。
DEAN:なるほど。
三原:素敵です。何かに迷ったときに思い出したい言葉です。
DEAN:ポジティブにいきましょう!
『ROPPONGI PASSION PIT』は、東京・六本木に出現した、いろいろな人の“情熱”が集まり、重なり合い、さらに熱を増して燃え上がる秘密基地として、みんなの熱い思いを電波に乗せて発信。放送は毎週土曜の23時から。
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2020年8月22日28時59分まで
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番組情報
- ROPPONGI PASSION PIT
-
毎週土曜23:00-23:54
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DEAN FUJIOKA/三原勇希