夢を追う人、支える人。忘れられない恋を描く映画『劇場』の裏話を行定 勲監督が明かす

又吉直樹の原作の映画『劇場』が、7月17日(金)から全国で劇場公開を迎えると同時に、Amazon Prime Videoにて配信される。日本初の試みとして話題だ。

同作の監督である行定 勲が7月2日(木)、別所哲也がナビゲーターを務める『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「MORNING INSIGHT」に登場。監督を務めることになった経緯や、劇場公開と配信を同時に行う理由などを語った。


■「ネット配信をしたものは映画なのか?」考える日々

行定監督は、映画『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』など、数々のヒット作と舞台演出を手掛けてきた。そんな行定監督に、外出自粛期間中はどのようにすごしていたのかを尋ねた。

行定:映画の新作の公開が2作、4月17日と6月5日にありましたが、両方とも延期になるような状態だから。コロナうつじゃないですけど、初めてうつっぽい感覚があって「どうにもならないな、映画でも作るか」となって、リモート作品を2作ったら、意外と忙しくなっちゃって(笑)。
別所:なにもしないじゃなくて「なにかやろうよ、やれるはず、やっちゃおうか」というので、動き出したというのが監督の行動力でもあると思います。実はそういう流れも含めて、私たちは「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」の「Withコロナ&Afterコロナの映画業界を考えるオンライントークセッション」でも、6月4日にご一緒させていただきました。ありがとうございます。
行定:楽しかったですね。
別所:本当に刺激的で。これからの映画の未来というか、映画のあり方みたいなことを考える時間を与えられましたよね。
行定:どうしても、「ネット配信をしたものは映画なのか?」と。劇場のスクリーンで観ないと映画じゃないみたいな定義、概念が自分のなかにもあったんですよ。でも、映画館で上映される、スクリーンにかかるということは奇跡的なこと、特別なことなんだなと。配信は世界中の人が一気に観られるわけじゃないですか。それってまたすごく奇跡的なことというか、考えさせられる2ヵ月間でしたね。
別所:本当の意味でなにがシネマなのか、映画なのかという。(映画館で上映されている事実よりも)作品そのものの作品性みたいなことがより問われるし、より受け止める側も(考えるようになりました)ね。
行定:誰が映画って決めるかと言ったら、僕はわかったんですよ。作っている人間が映画だと思ったら映画ですね(笑)。
別所:(笑)。
行定:「これは映画なんだ」って言い続けられるかどうかって、自分も含めてそうですね。どうしても「映画と言うには……」というのは映画と言ってはダメなんだろうけど、「俺は映画と思って作っています」と。ただ、どこで公開をしたか、どのタイミングで世の中に発表したか、それが違うだけ。
別所:かつて「劇場公開用映画」「Vシネマ」「テレビ映画」とあって、えっと、映画って?と、いろいろなことを考えさせられた。ただ、その言葉遊びというかジャンルの作り方そのものが、これから変わっていくのかもしれないですね。


■日本初! 劇場公開と配信を同時にした理由

行定監督がメガホンをとった、映画『劇場』は7月17日(金)に公開。同日にAmazon Prime Videoでも配信される。劇場公開と配信が同時という異例の作品になっている。



<あらすじ>
高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑賢人)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。

そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡茉優)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。

女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。
映画『劇場』オフィシャルサイトより)

行定:日本では初ですね。
別所:やりますねえ、行定さん。
行定:ここにいたるには紆余曲折がありました。タイトルも『劇場』ですからね(笑)。やっぱり劇場のスクリーンにかけるように、まさに映画館と地続きになっているスクリーンがある、そういうイメージでラストシーンも作っているんですね。だからこれを配信で観た方も、恐らく「これは映画館で観たかったな」って思っていただけるようなラストシーンが訪れます。ただ、このコロナ禍で、4月17日に公開だけを待つ状態で我々は準備をしていて、ボルテージが上がった状態でいきなりシャットダウンをされました。制作費やいろいろなものを総動員したあとだから、これをもう一度立て直すとなると、商業映画でやっているのでけっこう大変なんですよ。

どうすれば一番、観客に届くか。なおかつ、作り手側も痛手が少ない状況になるか。試行錯誤した末に、、Amazon Prime Videoと手を組み、配信をすることに。さらに、「どうしても劇場で観ていただきたい」という思いが強かったため、映画館でも上映することになった。

行定監督は「なぜみんな映画館がいいと言っているのかが、たぶん体験できると思うんです」とも語り、「映画館で観るのは特別なことなんだ」と実感できる作品に仕上がったと明かした。


■「俺、監督ダメかな?」原作を読んですぐに直談判

行定監督は『劇場』の監督をするに至った経緯を告白。映画化については、なみなみならぬ想いがあったという。

別所:この作品は又吉さんの小説の映画化です。行定さんが懇願してこの作品を撮られたんですか?
行定:(原作本が)出版されて、月刊誌に載ったときですね。全文が掲載されて読み終わったときに、これを手がけようとしているプロデューサーを知っていたので「俺、監督ダメかな?」って、電話をすぐにしたんです(笑)。ラストシーンが浮かんだんです。それを実現しているんですけれども、僕は演劇も演出しているので、演劇と映画が1つになる、融合するってどういうことだろう?と、ずっと考えていて。それがまさにこの映画ができるなと。


■夢を追う人、支える人…胸に迫る恋と青春の物語

同作では、“生涯忘れられないような恋”を描く。別所は「みんな、こういう体験があるんじゃないかな」と述べた。

別所:大なり小なり、どうなるかわからない夢を追いかけている自分と、それを支えてくれる人との関係とか。山﨑賢人さん演じる永田を、松岡茉優さん演じる沙希は、支えてくんですよね。
行定:そうですね。そんなことを思いもせず、自分の道を邁進する永田という。
別所:夢を追いかけて……自分にも「ばかばかばか!」と言いたくなるけど、男女ともに、みんな心当たりがあるはず。そこに恋があり、支え合いたいという愛があり、わかりあいたいという思いがあり……誰にでも胸に秘めている忘れられない恋って、きっとあると思うので。行定さんにもあるでしょ?
行定:ありますねえ……。
別所:ふふふ(笑)。
行定:どうにもならないですね(笑)。だから『劇場』で描かれていることはよくわかるんです。

下北沢で撮影された同作には、劇場のシーンが登場する。実際の劇場は埋まっていて借りることができないため、セットで完全再現したそうだ。セットだとは思えないほどのリアリティで、行定監督の印象にも残っているという。

映画の音楽を担当するのは曽我部恵一。舞台となる下北沢に縁が深い曽我部に対し、行定監督は「いろんな夢の残骸を見てきたんだろう」と思い、オファーに至ったそうだ。

行定:下北沢って、そういうイメージがあるんですよ。あそこから旅立って大きくなった人もいるし、諦めて田舎に帰った人もいる。僕にとって下北沢はノスタルジーを感じる街で、全編を下北沢で撮っているから、これは「曽我部さんだろう」と。

夢を追いかけたことがある人。上層思考と鬱々とした気持ちを抱えながら青春時代を過ごした人。そんな自分を支えてくれる恋人や仲間の存在――別所はリスナーに「きっと胸に迫るはず」とおすすめした。映画『劇場』は、7月17日(金)から公開。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の8時35分頃から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月9日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/tmr

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