ジャーナリスト・堀 潤が監督・撮影・編集・ナレーションを手がけたドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中だ。世界中を取材していてもなお、「なにも見ていなかったんだな」と衝撃を受けたエピソードとは。J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」に堀がゲスト出演し、ナビゲーターの玄理が話を聞いた。オンエアは3月15日(日)。
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■各地に足を運んで感じた「孤立した現場」
撮影に5年の歳月をかけた『わたしは分断を許さない』。福島第一原子力発電所の事故後の現場、シリア、パレスチナ、朝鮮半島、香港、沖縄、東京出入国在留管理局などで重ねた取材がまとめあげられている。
・『わたしは分断を許さない』あらすじ
(『わたしは分断を許さない』より/(C)8bitNews)
堀 潤は「真実を見極めるためには、主語を小さくする必要がある」という。香港では“人権、自由、民主”を守る為に立ち上がった若者と出会い、ヨルダンの難民キャンプではシリアで拘束された父との再会を願い、いつか医者になり多くの命を救いたいと話す少女に出会う。美容師の深谷さんは福島の原発事故により、いまだに自宅へ戻ることが許されず、震災以来ハサミを握っていない。久保田さんは、震災後に息子を共に水戸から沖縄へ移住し、普天間から辺野古への新基地移設に対して反対運動を行う人々と出会った。彼女は「声をあげること」を通して、未来の為に“わたしたち”ができるのはなにかを見つけていく。
国内外のさまざまな社会課題の現場で深まる「分断」。ジャーナリスト堀 潤が、分断の真相に身を切る思いで迫っていく。
(映画『わたしは分断を許さない』公式サイトより)
玄理:映画を観て、最初から分断というテーマがあったのか、それとも足を運んだ先々から見えてきたテーマが分断だったのかということを、ぜひ訊きたいなと思いました。
堀:そうですね……やはり、取材をしている過程で「なにが起きているんだろう?」と考えたとき、分け隔てられてしまっていてお互いの存在を知ることもできない、知ろうとしない、そして伝えようともしない、伝わってもいないという感覚がありました。そういうなかで声を上げても、誰からも見向きもされないような孤立した現場がどんどんと増えていっているという印象が強くなったんです。
映画では、普段はなかなか知ることのできない、世界中の“現場”にいる人々の姿を映し出す。社会を、彼らを分断させるものの正体とは何なのかを考えるきっかけになる作品だ。
■悪意なく記憶が薄らいでいく…原発事故の問題
2020年は東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故が起きてから、ちょうど10年目が始まる年だ。10年という歳月で、震災や事故の記憶が薄れつつある現状を指摘した。
堀:もうすっかり忘れてしまったかなと。悪意なく記憶が薄らいでいってしまっている。原発の事故があって1、2年ぐらいして「やっぱり忘却が進んでいるな」と。忘却が進む先になにがあるのかなと思うと、やっぱり存在そのものが見えなくなってしまうと思います。しかも今は経済の格差がどんどん進んでいったり、災害が多かったり、新型コロナウイルスの問題もあったりと、毎日のように本当にいろいろなことが起きるじゃないですか。もう知ろうとする気力さえ奪われている。
玄理:そうなんですよね。悪意があって忘れていくわけじゃなくて、日常にいろいろなことが起こりすぎて、悪意なく忘れてしまうということなんだろうなと思っています。災害によって家を失ったり、仕事を失ったりしている人たちの問題は解決していない人たちもたくさんいるわけじゃないですか。それをこの映画を観て、悪意なく忘れている自分というものに気づかされました。
■窓から訴えかけられて「なにも見ていなかったんだな」
玄理は作品を見て、東京出入国在留管理局の現実を知り衝撃を受けたという。映画の中では、移民や難民が、ビルの中からカメラに向かって“現状をメディアで伝えてくれ”と訴えるシーンがある。
玄理:(東京出入国在留管理局は)港区のビルなのに前を通っても見上げたことがなかったから、堀さんがカメラを向けた瞬間に窓から訴えかける姿を見て、すごく衝撃でした。「これが東京都内の港区のどこかの景色とは思えないな」と思いました。
堀:僕自身もびっくりしました。いわゆる日本はほかの国々にくらべると、難民として避難されてこられた方々を認定する割合はものすごく少ないんです。そればかりか、難民申請が認められなかった方々は「国にお戻りください」「不法滞在になります」といったいろいろな理由で、施設のなかに収容される。しかも玄理さんが言ってくれたように、東京の都心のど真ん中にある施設で。ここに暮らしている私も現場を訪ねるまで、そうした状況に気づかなかったんですよね。だから一生懸命ビルのなかから「おーい助けてくれ、伝えてくれ」と、たどたどしい日本語で聞こえてきたときには、本当にぞっとしました。なにがぞっとしたかというと「なにも見ていなかったんだな」って。
堀はこの出来事が、過去の10年間の取材を振り返るきっかけになったという。
堀:なんとなく移民や難民の問題を知ってはいるけれども、あくまでイメージで。“本当の本当”というのは、丁寧に一人ひとり、一つひとつの現場の声に耳を傾けないとわからないんだなと。今までの約10年の自分の取材を振り返ってみると、中東でもアジアでも、そして足元の日本国内でも声を上げても届かない現場が本当にたくさんありました。国内だ、海外だという線引きは、勝手に自分で引いていたんだろうな、と。同じように孤立をして、悲しい、不安だ、先行きが見通せない……そんな思いは宗教や国籍といったバックグラウンドが違っても同じだと思い、1本の映画にしたんです。
『わたしは分断を許さない』の上映情報は、公式サイトまで。
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『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、さまざまな国の最新カルチャーの今をお届けしている。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年3月22日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『ACROSS THE SKY』
放送日時:毎週日曜 9時-12時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/acrossthesky/
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■各地に足を運んで感じた「孤立した現場」
撮影に5年の歳月をかけた『わたしは分断を許さない』。福島第一原子力発電所の事故後の現場、シリア、パレスチナ、朝鮮半島、香港、沖縄、東京出入国在留管理局などで重ねた取材がまとめあげられている。
・『わたしは分断を許さない』あらすじ
(『わたしは分断を許さない』より/(C)8bitNews)
堀 潤は「真実を見極めるためには、主語を小さくする必要がある」という。香港では“人権、自由、民主”を守る為に立ち上がった若者と出会い、ヨルダンの難民キャンプではシリアで拘束された父との再会を願い、いつか医者になり多くの命を救いたいと話す少女に出会う。美容師の深谷さんは福島の原発事故により、いまだに自宅へ戻ることが許されず、震災以来ハサミを握っていない。久保田さんは、震災後に息子を共に水戸から沖縄へ移住し、普天間から辺野古への新基地移設に対して反対運動を行う人々と出会った。彼女は「声をあげること」を通して、未来の為に“わたしたち”ができるのはなにかを見つけていく。
国内外のさまざまな社会課題の現場で深まる「分断」。ジャーナリスト堀 潤が、分断の真相に身を切る思いで迫っていく。
(映画『わたしは分断を許さない』公式サイトより)
玄理:映画を観て、最初から分断というテーマがあったのか、それとも足を運んだ先々から見えてきたテーマが分断だったのかということを、ぜひ訊きたいなと思いました。
堀:そうですね……やはり、取材をしている過程で「なにが起きているんだろう?」と考えたとき、分け隔てられてしまっていてお互いの存在を知ることもできない、知ろうとしない、そして伝えようともしない、伝わってもいないという感覚がありました。そういうなかで声を上げても、誰からも見向きもされないような孤立した現場がどんどんと増えていっているという印象が強くなったんです。
映画では、普段はなかなか知ることのできない、世界中の“現場”にいる人々の姿を映し出す。社会を、彼らを分断させるものの正体とは何なのかを考えるきっかけになる作品だ。
■悪意なく記憶が薄らいでいく…原発事故の問題
2020年は東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故が起きてから、ちょうど10年目が始まる年だ。10年という歳月で、震災や事故の記憶が薄れつつある現状を指摘した。
堀:もうすっかり忘れてしまったかなと。悪意なく記憶が薄らいでいってしまっている。原発の事故があって1、2年ぐらいして「やっぱり忘却が進んでいるな」と。忘却が進む先になにがあるのかなと思うと、やっぱり存在そのものが見えなくなってしまうと思います。しかも今は経済の格差がどんどん進んでいったり、災害が多かったり、新型コロナウイルスの問題もあったりと、毎日のように本当にいろいろなことが起きるじゃないですか。もう知ろうとする気力さえ奪われている。
玄理:そうなんですよね。悪意があって忘れていくわけじゃなくて、日常にいろいろなことが起こりすぎて、悪意なく忘れてしまうということなんだろうなと思っています。災害によって家を失ったり、仕事を失ったりしている人たちの問題は解決していない人たちもたくさんいるわけじゃないですか。それをこの映画を観て、悪意なく忘れている自分というものに気づかされました。
■窓から訴えかけられて「なにも見ていなかったんだな」
玄理は作品を見て、東京出入国在留管理局の現実を知り衝撃を受けたという。映画の中では、移民や難民が、ビルの中からカメラに向かって“現状をメディアで伝えてくれ”と訴えるシーンがある。
玄理:(東京出入国在留管理局は)港区のビルなのに前を通っても見上げたことがなかったから、堀さんがカメラを向けた瞬間に窓から訴えかける姿を見て、すごく衝撃でした。「これが東京都内の港区のどこかの景色とは思えないな」と思いました。
堀:僕自身もびっくりしました。いわゆる日本はほかの国々にくらべると、難民として避難されてこられた方々を認定する割合はものすごく少ないんです。そればかりか、難民申請が認められなかった方々は「国にお戻りください」「不法滞在になります」といったいろいろな理由で、施設のなかに収容される。しかも玄理さんが言ってくれたように、東京の都心のど真ん中にある施設で。ここに暮らしている私も現場を訪ねるまで、そうした状況に気づかなかったんですよね。だから一生懸命ビルのなかから「おーい助けてくれ、伝えてくれ」と、たどたどしい日本語で聞こえてきたときには、本当にぞっとしました。なにがぞっとしたかというと「なにも見ていなかったんだな」って。
堀はこの出来事が、過去の10年間の取材を振り返るきっかけになったという。
堀:なんとなく移民や難民の問題を知ってはいるけれども、あくまでイメージで。“本当の本当”というのは、丁寧に一人ひとり、一つひとつの現場の声に耳を傾けないとわからないんだなと。今までの約10年の自分の取材を振り返ってみると、中東でもアジアでも、そして足元の日本国内でも声を上げても届かない現場が本当にたくさんありました。国内だ、海外だという線引きは、勝手に自分で引いていたんだろうな、と。同じように孤立をして、悲しい、不安だ、先行きが見通せない……そんな思いは宗教や国籍といったバックグラウンドが違っても同じだと思い、1本の映画にしたんです。
『わたしは分断を許さない』の上映情報は、公式サイトまで。
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『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、さまざまな国の最新カルチャーの今をお届けしている。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年3月22日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『ACROSS THE SKY』
放送日時:毎週日曜 9時-12時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/acrossthesky/
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