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『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の安彦良和総監督、「シャア・アズナブルという不可解な人物を理解させようと…」

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の安彦良和総監督、「シャア・アズナブルという不可解な人物を理解させようと…」

J-WAVEで放送中の番組『TRUME TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)。5月5日(土)のオンエアでは、マンガ家、アニメーター、アニメーション監督の安彦良和さんをお迎えし、劇場公開中の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』や、ファーストガンダムこと『機動戦士ガンダム』の制作秘話などをお訊きしました。

■再び『ガンダム』に戻った理由

安彦さんは、『宇宙戦艦ヤマト』『勇者ライディーン』『無敵超人ザンボット3』などで、アニメーターとしての腕を磨き、その後に参加した『機動戦士ガンダム』では、キャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターとして、従来のアニメ作品にはなかった、深くリアルな人物像やドラマを創り出し、アニメ界に大きな影響を与えました。総監督を務めた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の劇場版最終章が公開された現在、安彦さんがなぜ再び『ガンダム』に戻ってきたかを伺いました。

市川:『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、ファーストガンダムの過去編で、元々は安彦さんのマンガで2001年から描きはじめましたが、最初はあまり乗り気じゃなかったそうですね。
安彦:けっこう自分の仕事に満足していたんですよね。好きなジャンルを好きに描いて、何の不満もなかったので、そこに話を持ってこられて「冗談じゃない」と。そんなに何百枚も描いているなかじゃないですから、仕事を一緒くたにされかねないようだったので、何度も断ったんです。
市川:やろうと思ったきっかけは何だったんですか?
安彦:『ファースト』と言われる作品が古くなって「人に観せられない」というキツイ言い方をされたもんですから(笑)。社長が営業にかけられないという意味なんですよね。お粗末というのに尽きると思います。1年半くらいで40本作って、当時のテレビアニメでは普通だけど、今からみると非常に乱暴な作りをしていますから。僕はその絵の責任者ですから、「観せられない」と言われるとつらい(笑)。現代に通ずるテーマは不動だと思いますが、設定も甘いし、絵は乱れっぱなしですね。

『THE ORIGIN』に10年かかってしまった理由を、安彦さんは以下のように話します。

安彦:原因のひとつは、僕が過去編を描いたことにあります。特にシャア・アズナブルという不可解な人物を理解させようと思ったら、生い立ちを描かないとダメだと思い、ちょっと横道に入ったつもりが一回りするくらい戻れなくなりました。

今回の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』で、シャアの生い立ちが描かれています。

■「人に言えないような恥ずかしい仕事をしていると思ってました」

安彦さんのアニメーターとしてのキャリアは、手塚治虫さんが立ち上げた「虫プロダクション」から始まりました。

安彦:養成所に入ったんです。普通はいきなり現場や下請けさんに潜り込むのですが、非常に恵まれた入り方をしました。(虫プロ)本社の養成所だったので、3カ月間ですが、給料をもらいながら教わって。余裕があったんでしょうね、その頃の虫プロは。
市川:この道を選んだ理由は?
安彦:高校生くらいまで自己流のストーリーマンガを描いていたんです。だから絵は描ける。でもマンガ家になるほどの才能はないから。アニメーターというのは、工場みたいなところで大勢で絵を描く工員さんだから、それくらいならできるかなという感じでしたね。

その後、安彦さんは「虫プロ」を退社してフリーになり、前述の『宇宙戦艦ヤマト』などのアニメーター経験を経て、『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターに加わります。

市川:当時は「俺たちはものすごいことをやっているぞ」という感覚はあったのですか?
安彦:いや、ないですね。人に言えないような恥ずかしい仕事をしていると思ってましたね。ただ、『宇宙戦艦ヤマト』というのは他社の仕事で、なぜかお声がかかって行ったら、有名な西崎義展さんというプロデューサーがいて、そこはちょっと違うんですね。
市川:何かエピソードはありますか?
安彦:関わっていた人全員が言うんですけど、会議が長い。大勢を集めて御前会議をやるんですね。深夜になっても、同じ会議を構わずにやる。この前、何かのきっかけで思い出したんだけど、『ガンダム』の第1話が始まったときも、『ヤマト』の続編の会議をやっていたんです。それで、僕は足が抜けなくてもう辞めたかったんだけど、まだ捕まっていて。それで「会議をちょっと中断してもらっていいですか? 僕の新しい仕事が、今放映が始まるので観たいです」と(笑)。御前会議を中断させて。
市川:西崎さんと一緒に『ガンダム』の1話を観たんですか? みなさんのリアクションは覚えていますか?
安彦:悪くなかったですよ。「なんじゃこりゃ」とか言うかなと思ったら言わないで。さすがに全部は観ないでCMまで。「僕の気持ちはここにはないよ。はじまったこの仕事のほうが大事なんだ」ということを見せたかったんですよね。

■日本アニメのよさ

安彦さんは、総監督として25年ぶりに『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』に加わり「デジタルでセルが消えた」と技術革新も体感しましたが、「仕事自体は昔ながらの紙に描いて、タイムシートで動きをこしらえるのは同じです。ギャップは意外となかったですね」と振り返ります。また、「セル時代の悲惨な状態を見ていたから、デジタル化は万々歳。撮影なんかも随分早くて楽になりましたし、仕上げもあっという間に色が着く。あれはすごいですね」と話しました。

日本のアニメのよさについて、安彦さんは以下のように語ります。

安彦:日本のアニメはリミテッドアニメというんだけど、簡単に言うと手抜きアニメ。いかに上手に手を抜くかというのが、非常に難しいんです、下手に手を抜くと、単なる手抜きになる。先日、高畑 勲さんが亡くなりましたけど、高畑さんの『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』を観て、「手抜きアニメでここまでできるんだ」と昔ショックを受けました。我々が作っていたものよりワンランク上質なものだったんだけど、何万枚もセルを使うような膨大な予算のものじゃないので、それでもここまでできるんだというのは当時衝撃的でしたね。『この世界の片隅に』とか新海(誠)さんの『君の名は。』も、リミテッドアニメなんですよね。長編だから手間暇かけてるけど、基本的にリミテッドなんです。でも、観てて違和感ないですよね。それは自慢していい部分だと思いますね。

最後に、これからの世代の作り手へ、安彦さんがメッセージを送りました。

安彦:気がかりなのは、昔と違ってアニメがとてももてはやされてることですよね。僕たちが恥ずかしくて顔向けできない仕事だったのが、「日本が世界に誇るアニメ」とか、いろんな言われ方をしてて、その辺を真に受けたらダメだという気がしますね。手抜きですから、基本は。手抜きの技術を身に着けて表現者になることですから。それを何か高尚なことをやってるように勘違いするとえらい目にあうと思いますね。

これからの日本のアニメ業界にも注目です。

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【番組情報】
番組名:『TRUME TIME AND TIDE』
放送日時:土曜 21時-21時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/timeandtide/

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