
元ゴールドマン・サックスで投資家の田中 渓さんが、トランプ関税とは何か、そしてその影響で日本はどうなっていくと予想されるのか語った。
田中さんが登場したのは、5月18日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のコーナー「WORLD CONNECTION」だ。
田中:トランプ関税とは3つあって、ひとつ目が「ベース」と言われている、とにかくアメリカとの貿易に全世界一律10パーセントの関税がかけられてしまったということ。ふたつ目が「相互の関税」と言われているもの。アメリカにとって日本は貿易赤字を出している国なので、日本の貿易量に対して赤字になっている金額を割ってパーセントにして、なぜか「情け容赦だ」と言ってそれを半分にして24パーセントという懲罰的な関税がかけられてしまったということなんです。本当は、日本はGoogleやAmazon、Netflixなどのためにアメリカにお金を払っているので、実際はアメリカから見て黒字なんですけど、自動車や鋼材などが赤字だと言って24パーセントという謎の相互関税をかけているんですね。3つ目は「産業別」。自動車だったり鉄鋼だとか鋼材だとか、そういう産業に25パーセントというものすごい高い関税をかけられてしまったんです。
では、なぜトランプは日本をはじめとする各国に関税をかけているのだろうか。
田中:ひとつは、トランプ氏の政治家としての人気を維持するため、プラス、防衛のためと言われています。国内の製造業を守るため、海外から安い物が入ってこないようにして、国内の製造業を潤そうというのがひとつ。ふたつ目が、日本を含めた海外のいくつかの国が、トランプ氏によると不当に儲けているのでそこを是正するため。3つ目もトランプ氏が大統領に就任する際、「いろんな税金を下げますよ」と言っているんですが、原資がないので他の国から税金を取って埋め合わせていこうということなんです。でも実際、何が起こったかというと、「トランプ氏がヒーローになるための演出だろう」とか言われていたけど、全然そんなことはなく、結局イギリスや中国とある程度、手打ちにしたりしてうやむやになっていて。でも、10パーセントは全世界の国々で引き上げられるということで、アメリカ以外の国にとってはよいことは何もない、という状態になっています。
小川:ありがとうございます。短時間ですごくわかりやすく伝えていただいたんですけど、やっぱり関税がかかると相当変わりますよね。
田中:そうですね。仮に一律10パーセントの関税がかかった場合、普通に1万円の物が1万1,000円に変わったり、10万円の物が11万円になってしまいますよね。さらに、そこから派生してくるものも考えると、10パーセントでは収まらないと言われているので、割高感が一般消費者にもあると思います。
小川:リスナーから質問がきています。「トランプ関税に対して、日本や東南アジアにはいまだ解決策はなく、高関税のリスクに晒されています。映画業界に関税をかけるというニュースが流れたりして、今後の日本経済は逆風ばかりのような気がします。このまま関税が上がると、おもに何の物価が上がると思いますか? 逆に関税の影響を受けにくい物はあるのでしょうか?」。
田中:関税に影響を受けて物価が上がる要因がいくつかあって、まずひとつ目がシンプルに「報復関税」というものです。「アメリカが関税をかけるならこっちもかけるよ」ということで、アメリカから入ってくる物に関税がかかってしまう。典型的な物が、たとえば牛肉とか小麦などの食品ですね。ふたつ目は、アメリカの貿易赤字が解消されるということは、つまり日本の貿易赤字が増えていくということなので、対ドルで円安に進んでいく可能性があります。ガソリンやワイン、iPhoneなどの輸入品が円安で値段が上がっていくでしょう。
「規模の経済」という言葉があるように、従来の日本の工場はアメリカへの輸出を前提として大量生産することでコストが下がっていたが、アメリカで物が売れない状態になると工場が稼働しなくなり国内消費するため、値段が上がるのだという。
田中:最後に、「サプライチェーン」といって、アメリカで売れないなら他の国に切り替えよう、他の国を経由して売ろうとすると、物流の流れが変わって、いままで直行便だった物がどこかを経由するようになって輸送費が上昇し、家電や洗剤など消費財のような物が値上がりする可能性があります。
続いて、逆に関税の影響を受けにくい商品も訊いた。
田中:値段が上がらない物といえば、直接地元で消費される地産地消の物ですね。果物とか野菜とか、国産の物は打撃を受けないということになります。また「非貿易サービス」と言われる美容院とか塾とか医療関係ですね。薬はちょっと問題になっていますが、いちおう直接的なサービス業は関係ない。あとデジタルのもので言えば、国内で楽天市場やヨドバシ.comを使ったり、NetflixじゃなくてU-NEXTやニコニコ動画で観ていれば影響はないですね。中古品も国内でぐるぐると回っていれば影響はないし、観光レジャーも国内で完結していれば関係ないでしょう。これからどこが上がって、どこが上がらないかは、国内で完結するか、しないかによって分けられるんじゃないかと思います。
小川:次のリスナーからの質問にいきます。「我々、就職氷河期世代を見渡すと、家族も増え、お小遣い制で暮らしている人が多く、資産運用の原資を確保できない人が大勢います。老後は年金制度も行き詰まっていると思うので、田中さんにお金の使い方についてアドバイスをいただきたいです」。これ、みんな不安に感じていると思うんですけど、いかがですか。
田中:どんなに原資がなくても、小さい額から始めていくことが大事なんじゃないかと思うんですよね。日本人って勉強が好きなので、すごくいろんな本を読んで、いろんな動画を見て勉強されているんですけど、実際にアクションを起こす人が非常に少ないと感じます。
田中さんは、まずは1万円からでも、株式投資や為替の投資、投資信託など、始めてみることが大切だと語る。
田中:これまでだったらよかったんです。デフレ時代が30年近く続いていたので。いままでは「別にみんなで明るく不幸でいいよね、苦しいけどみんなで頑張ろう」みたいな雰囲気でやってこれたんですが、インフレという局面になってガラッと変わってしまった。相対的にお金が目減りしてしまって、10年前に100円で買えた物が、いまは200円相当になってしまっている。いまの日本の平均年収って、350万から450万くらいって言われてるんですけど、そのままにしていると相対的には200万円相当になっちゃって、生活保護レベルに近くなっていると言われているんです。そこをきちんと見つめ直して、小さいことから始めていくのが大事なんじゃないかなと思います。
小川:最近、本屋さんに投資の本がいっぱいありますよね。そういう本を読んで勉強しながら、少しずつアクションするというのが大事だと。
田中:2冊読んだら、口座を開けて即やってみる。そうするとお金についての情報を自分で拾うようになってくるので。そういう、意識改革が勝手にされる状態にしていくのがいいと思います。
小川:ちなみに投資をするにしても、日本企業とかの国内だけの投資よりも、海外に広げていったほうがいいですか?
田中:ここずっと2年くらい流行っているのが、S&P500っていうアメリカの優良企業を束ねたものや、オールカントリー、オルカンって言われているその世界版だったりします。日本の中だけだと成長率が限定的ですし、限られた銘柄から選択しなければならないので、わからないなりにもっと大きなバスケットの中から選んでいったほうがいいと思います。投資の「基本のき」って分散投資と言われていますので、その観点からするとオールカントリーみたいなものに入れておけば、とりあえずそれでいいと思います。
小川:もうひとつ質問です。「いろいろ調べていくなかで、月々の貯金は月収の3割程度がいいと知り、そこから3割貯金をしているのですが、そもそもなぜ3割と言われているのでしょうか?」私、これ知らなかったです。そう言われているんですか?
田中:これは僕も知らなかったのですが、想像してみると、理由は3つくらいあると思います。ひとつ目、日本の平均年収である350万から450万円だと手取りが30万くらいになるので、その30パーセントの9万円を2年貯金すると200万円くらい貯まるんですよね。人間が半年生活していくギリギリの金額が200万円だと言われているんですよ。緊急で職を失ったりする場合の生活資金の確保という側面があると思います。ふたつ目が、家庭を持ってお子さんがいる場合ですね。小中高大学まで行かせると、子どもの教育費が約1,000万円かかると言われていて、18年くらい毎月9万円ずつ貯めると1,500万から2,000万円くらい貯まります。3つ目は老後ですよね。退職金や年金が足りない時代と言われているので、そこを補うために3割の一部を何万円か貯めて、それを40年間運用すれば1,500万円くらい貯まっていくと思うので、それを年金と合わせて老後の資金にすればいい。緊急事態とライフステージの変化と退職資金ということで、年収の3割を貯めておけばなんとかなるということだと思います。
小川:私もいま28歳で、同世代がそろそろ今後の資金の心配をし始めるころなんです。老後の資金問題、みんな心配していると思うのですが、どうなるのでしょうか?
田中:いまの話はあくまで平均年収の話ですから、それ以上に稼いでいる方もいれば、それ以下だけどこれから上がっていくよという方もいる。だから、決まった金額を毎月貯金することにこだわる必要はなくて。それより、貯まったものをどう運用していくか、いわゆる金融的な投資だけじゃなく、自己投資をどうするかも含めて、もっと広い意味での投資を考えていけばいいと思います。そうすれば、そこまで不安になる必要はないかと思います。
小川:貯め方というより、使い方をどう考えるかっていうことが大事なんですね。
小川:大人になると、資金繰りに悩むことも多くなりますけど、いまって日本でも子どものころからの金融教育が広がっているんですよね。
田中:そうですね。しかし、日本のお金の教育って、すごく遅れているので、学校教育では正直言うとなかなか期待できないというのが実情です。
小川:世界の中で日本は遅れているんですね。逆に、どの国が進んでいるんですか?
田中:トップ3が不動なんですが、1位がエストニアなんですよ。エストニアってすごい国で、行政のDX、デジタルトランスフォーメーションを推進している国で、2,000くらい行政サービスがあるんですけど、そのうち結婚と離婚以外は全部デジタルでできるそうなんです。
小川:すごい! 逆に結婚と離婚はデジタルじゃできないんだ(笑)。
田中:だめらしいです。そこは人と人のセッションで。エストニアは小学1年から「貯める、使う、増やす、分ける」を学んでいて、小学6年生くらいでローンの金利の計算などをやって、中学生・高校生になると投資や税金の計算、年金の計算もやるらしいんですよね。数学オリンピックの金融版があって、決勝戦になると中央銀行、日本で言うと日銀みたいなところで学生がプレゼンするそうです。2位がフィンランドで、ここは2030年に金融教育で世界一になるという目標を掲げていて、ビジネスビレッジというのを推奨して小学6年生くらいから実際の企業で働いてお金を稼いで、そのお金でどうやって国の政策を立てていくかを研究するらしいんです。
小川:日本にも職場体験がありますが、実際に働いてお金を稼ぐ、それはやりがいが全然違いますね。
田中:3位はシンガポールです。エストニアやフィンランドとほとんど教育内容は同じなんですけど、他の国と違って詐欺対策も勉強するらしいんです。国がコミットしていて、実践的で、幼いころから学ぶというのがこの3つの国の特徴だと思います。
小川:日本でももっと進んでいくといいですね。
田中:お金についての教育は2022年に(義務化が)スタートしましたが、この年から成人年齢が18歳に引き下がりました。それに紐づけるかたちで金融教育が始まったんです。しかし、金融に関する授業は10時間にも満たないですし、先生の40パーセントが教える自信がないと回答しているそうなんです。
小川:教える側も知識が必要ですからね。
田中:いまの学校の先生に(金融教育を)押し付けるのは無理がありますので、学校にお金のプロを呼んで授業できるよう、国が予算をきっちりつけてあげてほしいですね。
田中 渓さんの最新情報は、Xの公式アカウント(@KeiTanaka_Radio)まで。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは毎週日曜の9時20分ごろから。
田中さんが登場したのは、5月18日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のコーナー「WORLD CONNECTION」だ。
そもそもトランプ関税とは?
投資家として知られている田中 渓さんは、2007年にゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。投資部門のマネージング・ディレクターとして企業の再生事業や、企業への投資、会社買収などさまざまな業務を経験。在籍17年で20カ国以上の資産家や産油国の王族などとの協業・交流もあったという。現在は退社し、投資家として毎朝3時45分に起床して活動することで知られている。まずは田中さんに、トランプ関税とは何なのかを訊いた。田中:トランプ関税とは3つあって、ひとつ目が「ベース」と言われている、とにかくアメリカとの貿易に全世界一律10パーセントの関税がかけられてしまったということ。ふたつ目が「相互の関税」と言われているもの。アメリカにとって日本は貿易赤字を出している国なので、日本の貿易量に対して赤字になっている金額を割ってパーセントにして、なぜか「情け容赦だ」と言ってそれを半分にして24パーセントという懲罰的な関税がかけられてしまったということなんです。本当は、日本はGoogleやAmazon、Netflixなどのためにアメリカにお金を払っているので、実際はアメリカから見て黒字なんですけど、自動車や鋼材などが赤字だと言って24パーセントという謎の相互関税をかけているんですね。3つ目は「産業別」。自動車だったり鉄鋼だとか鋼材だとか、そういう産業に25パーセントというものすごい高い関税をかけられてしまったんです。
では、なぜトランプは日本をはじめとする各国に関税をかけているのだろうか。
田中:ひとつは、トランプ氏の政治家としての人気を維持するため、プラス、防衛のためと言われています。国内の製造業を守るため、海外から安い物が入ってこないようにして、国内の製造業を潤そうというのがひとつ。ふたつ目が、日本を含めた海外のいくつかの国が、トランプ氏によると不当に儲けているのでそこを是正するため。3つ目もトランプ氏が大統領に就任する際、「いろんな税金を下げますよ」と言っているんですが、原資がないので他の国から税金を取って埋め合わせていこうということなんです。でも実際、何が起こったかというと、「トランプ氏がヒーローになるための演出だろう」とか言われていたけど、全然そんなことはなく、結局イギリスや中国とある程度、手打ちにしたりしてうやむやになっていて。でも、10パーセントは全世界の国々で引き上げられるということで、アメリカ以外の国にとってはよいことは何もない、という状態になっています。
小川:ありがとうございます。短時間ですごくわかりやすく伝えていただいたんですけど、やっぱり関税がかかると相当変わりますよね。
田中:そうですね。仮に一律10パーセントの関税がかかった場合、普通に1万円の物が1万1,000円に変わったり、10万円の物が11万円になってしまいますよね。さらに、そこから派生してくるものも考えると、10パーセントでは収まらないと言われているので、割高感が一般消費者にもあると思います。
関税の影響を受ける物、受けない物
まずは田中さんに、関税が上がると値上がりする可能性のある物を訊いた。小川:リスナーから質問がきています。「トランプ関税に対して、日本や東南アジアにはいまだ解決策はなく、高関税のリスクに晒されています。映画業界に関税をかけるというニュースが流れたりして、今後の日本経済は逆風ばかりのような気がします。このまま関税が上がると、おもに何の物価が上がると思いますか? 逆に関税の影響を受けにくい物はあるのでしょうか?」。
田中:関税に影響を受けて物価が上がる要因がいくつかあって、まずひとつ目がシンプルに「報復関税」というものです。「アメリカが関税をかけるならこっちもかけるよ」ということで、アメリカから入ってくる物に関税がかかってしまう。典型的な物が、たとえば牛肉とか小麦などの食品ですね。ふたつ目は、アメリカの貿易赤字が解消されるということは、つまり日本の貿易赤字が増えていくということなので、対ドルで円安に進んでいく可能性があります。ガソリンやワイン、iPhoneなどの輸入品が円安で値段が上がっていくでしょう。
「規模の経済」という言葉があるように、従来の日本の工場はアメリカへの輸出を前提として大量生産することでコストが下がっていたが、アメリカで物が売れない状態になると工場が稼働しなくなり国内消費するため、値段が上がるのだという。
田中:最後に、「サプライチェーン」といって、アメリカで売れないなら他の国に切り替えよう、他の国を経由して売ろうとすると、物流の流れが変わって、いままで直行便だった物がどこかを経由するようになって輸送費が上昇し、家電や洗剤など消費財のような物が値上がりする可能性があります。
続いて、逆に関税の影響を受けにくい商品も訊いた。
田中:値段が上がらない物といえば、直接地元で消費される地産地消の物ですね。果物とか野菜とか、国産の物は打撃を受けないということになります。また「非貿易サービス」と言われる美容院とか塾とか医療関係ですね。薬はちょっと問題になっていますが、いちおう直接的なサービス業は関係ない。あとデジタルのもので言えば、国内で楽天市場やヨドバシ.comを使ったり、NetflixじゃなくてU-NEXTやニコニコ動画で観ていれば影響はないですね。中古品も国内でぐるぐると回っていれば影響はないし、観光レジャーも国内で完結していれば関係ないでしょう。これからどこが上がって、どこが上がらないかは、国内で完結するか、しないかによって分けられるんじゃないかと思います。
資産運用は、まずは1万円からでも「やる」のが大事
続いて、リスナーから寄せられた今後の資金運用について訊かれ、田中さんは率直な思いを述べた。小川:次のリスナーからの質問にいきます。「我々、就職氷河期世代を見渡すと、家族も増え、お小遣い制で暮らしている人が多く、資産運用の原資を確保できない人が大勢います。老後は年金制度も行き詰まっていると思うので、田中さんにお金の使い方についてアドバイスをいただきたいです」。これ、みんな不安に感じていると思うんですけど、いかがですか。
田中:どんなに原資がなくても、小さい額から始めていくことが大事なんじゃないかと思うんですよね。日本人って勉強が好きなので、すごくいろんな本を読んで、いろんな動画を見て勉強されているんですけど、実際にアクションを起こす人が非常に少ないと感じます。
田中さんは、まずは1万円からでも、株式投資や為替の投資、投資信託など、始めてみることが大切だと語る。
田中:これまでだったらよかったんです。デフレ時代が30年近く続いていたので。いままでは「別にみんなで明るく不幸でいいよね、苦しいけどみんなで頑張ろう」みたいな雰囲気でやってこれたんですが、インフレという局面になってガラッと変わってしまった。相対的にお金が目減りしてしまって、10年前に100円で買えた物が、いまは200円相当になってしまっている。いまの日本の平均年収って、350万から450万くらいって言われてるんですけど、そのままにしていると相対的には200万円相当になっちゃって、生活保護レベルに近くなっていると言われているんです。そこをきちんと見つめ直して、小さいことから始めていくのが大事なんじゃないかなと思います。
小川:最近、本屋さんに投資の本がいっぱいありますよね。そういう本を読んで勉強しながら、少しずつアクションするというのが大事だと。
田中:2冊読んだら、口座を開けて即やってみる。そうするとお金についての情報を自分で拾うようになってくるので。そういう、意識改革が勝手にされる状態にしていくのがいいと思います。
小川:ちなみに投資をするにしても、日本企業とかの国内だけの投資よりも、海外に広げていったほうがいいですか?
田中:ここずっと2年くらい流行っているのが、S&P500っていうアメリカの優良企業を束ねたものや、オールカントリー、オルカンって言われているその世界版だったりします。日本の中だけだと成長率が限定的ですし、限られた銘柄から選択しなければならないので、わからないなりにもっと大きなバスケットの中から選んでいったほうがいいと思います。投資の「基本のき」って分散投資と言われていますので、その観点からするとオールカントリーみたいなものに入れておけば、とりあえずそれでいいと思います。
「年収の3割を貯金するといい」って本当?
さらに質問は続き、具体的な貯金額の割合についても田中の意見を訊いた。小川:もうひとつ質問です。「いろいろ調べていくなかで、月々の貯金は月収の3割程度がいいと知り、そこから3割貯金をしているのですが、そもそもなぜ3割と言われているのでしょうか?」私、これ知らなかったです。そう言われているんですか?
田中:これは僕も知らなかったのですが、想像してみると、理由は3つくらいあると思います。ひとつ目、日本の平均年収である350万から450万円だと手取りが30万くらいになるので、その30パーセントの9万円を2年貯金すると200万円くらい貯まるんですよね。人間が半年生活していくギリギリの金額が200万円だと言われているんですよ。緊急で職を失ったりする場合の生活資金の確保という側面があると思います。ふたつ目が、家庭を持ってお子さんがいる場合ですね。小中高大学まで行かせると、子どもの教育費が約1,000万円かかると言われていて、18年くらい毎月9万円ずつ貯めると1,500万から2,000万円くらい貯まります。3つ目は老後ですよね。退職金や年金が足りない時代と言われているので、そこを補うために3割の一部を何万円か貯めて、それを40年間運用すれば1,500万円くらい貯まっていくと思うので、それを年金と合わせて老後の資金にすればいい。緊急事態とライフステージの変化と退職資金ということで、年収の3割を貯めておけばなんとかなるということだと思います。
小川:私もいま28歳で、同世代がそろそろ今後の資金の心配をし始めるころなんです。老後の資金問題、みんな心配していると思うのですが、どうなるのでしょうか?
田中:いまの話はあくまで平均年収の話ですから、それ以上に稼いでいる方もいれば、それ以下だけどこれから上がっていくよという方もいる。だから、決まった金額を毎月貯金することにこだわる必要はなくて。それより、貯まったものをどう運用していくか、いわゆる金融的な投資だけじゃなく、自己投資をどうするかも含めて、もっと広い意味での投資を考えていけばいいと思います。そうすれば、そこまで不安になる必要はないかと思います。
小川:貯め方というより、使い方をどう考えるかっていうことが大事なんですね。
日本の金融教育はまだまだ遅れている
お金の使い方が大事という結論に、小川は学校での教育が開始されてよかった、という感想を述べた。小川:大人になると、資金繰りに悩むことも多くなりますけど、いまって日本でも子どものころからの金融教育が広がっているんですよね。
田中:そうですね。しかし、日本のお金の教育って、すごく遅れているので、学校教育では正直言うとなかなか期待できないというのが実情です。
小川:世界の中で日本は遅れているんですね。逆に、どの国が進んでいるんですか?
田中:トップ3が不動なんですが、1位がエストニアなんですよ。エストニアってすごい国で、行政のDX、デジタルトランスフォーメーションを推進している国で、2,000くらい行政サービスがあるんですけど、そのうち結婚と離婚以外は全部デジタルでできるそうなんです。
小川:すごい! 逆に結婚と離婚はデジタルじゃできないんだ(笑)。
田中:だめらしいです。そこは人と人のセッションで。エストニアは小学1年から「貯める、使う、増やす、分ける」を学んでいて、小学6年生くらいでローンの金利の計算などをやって、中学生・高校生になると投資や税金の計算、年金の計算もやるらしいんですよね。数学オリンピックの金融版があって、決勝戦になると中央銀行、日本で言うと日銀みたいなところで学生がプレゼンするそうです。2位がフィンランドで、ここは2030年に金融教育で世界一になるという目標を掲げていて、ビジネスビレッジというのを推奨して小学6年生くらいから実際の企業で働いてお金を稼いで、そのお金でどうやって国の政策を立てていくかを研究するらしいんです。
小川:日本にも職場体験がありますが、実際に働いてお金を稼ぐ、それはやりがいが全然違いますね。
田中:3位はシンガポールです。エストニアやフィンランドとほとんど教育内容は同じなんですけど、他の国と違って詐欺対策も勉強するらしいんです。国がコミットしていて、実践的で、幼いころから学ぶというのがこの3つの国の特徴だと思います。
小川:日本でももっと進んでいくといいですね。
田中:お金についての教育は2022年に(義務化が)スタートしましたが、この年から成人年齢が18歳に引き下がりました。それに紐づけるかたちで金融教育が始まったんです。しかし、金融に関する授業は10時間にも満たないですし、先生の40パーセントが教える自信がないと回答しているそうなんです。
小川:教える側も知識が必要ですからね。
田中:いまの学校の先生に(金融教育を)押し付けるのは無理がありますので、学校にお金のプロを呼んで授業できるよう、国が予算をきっちりつけてあげてほしいですね。
田中 渓さんの最新情報は、Xの公式アカウント(@KeiTanaka_Radio)まで。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは毎週日曜の9時20分ごろから。
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小川紗良