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「ワインペアリングの極意」 ワインテイスター・大越基裕さんが語る

「ワインペアリングの極意」 ワインテイスター・大越基裕さんが語る

ワインテイスターの大越基裕さんが、ワインの世界に魅了されたきっかけや2度のフランス留学で学んだこと、さらには将来のビジョンについて語った。

大越さんは1976年北海道札幌市生まれ。日本におけるペアリングの第一人者として知られ、東京・外苑前駅近くに建つベトナムレストラン「An Di」のオーナーソムリエを務めるほか、ソムリエとしての知識とスキルを活かしてワインに関する様々な仕事を行う人物だ。

大越さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

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田崎真也さんの影響でワインの世界へ

「BMW 523i M Sport」は六本木ヒルズを出発。その車中にて大越さんは、自身とワインの出会いについて語り始めた。

学生時代から「手に職を付けたい」と考えていた大越さんは「お客様のための一杯を作る」というロマンに惹かれ、バーテンダーの職を選ぶ。サービス業のイロハを学ぶ一方で、お酒に関する知識を蓄えていたところ、あるソムリエに大きな影響を受けたという。その人物とは?

大越:僕らの世代はほとんど全員がそうだと思うのですが、田崎真也さんです。田崎さんが世界チャンピオンになられたのは1995年で、僕がワインの世界に入ったのは1998年でした。95年以降、日本のメディアが田崎さんを頻繁に取り上げてくれたため、テレビでソムリエという職業をよく見聞きするようになったんですよね。そのときに僕もはじめてソムリエの本質を知ることができ、バーテンダーとはまた違う魅力があると思いました。ワインは自然が生む産物であり、熟成によって味わいが変わっていく。一生をかけても追いつくことができないぐらいバリーションがどんどん広がっていくので「これは面白そうだな」と感じたんですよね。
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1995年に第8回世界最優秀ソムリエコンクールで日本人初の優勝を成し遂げ、日本におけるワインブームの火付け役となった田崎真也さん。その活躍に触発された大越さんが、ワインを学ぶべく“本場”へ最初の長期滞在をしたのは、ソムリエ資格を取得する前の1999年のことだった。

大越:フランスに留学した期間は半年ほどです。滞在場所には、好きなワインが多いブルゴーニュを選びました。当時はバーテンダーからソムリエに仕事を変えようと思っていた時期で。田崎さんの本にも「フランスへ行くべきだ」と書いてあったこともあって、バーテンダーで貯めたお金を全部持って渡仏しました。このときはフランス語を全く話せなかったので、現地の語学学校で勉強しつつ、授業が終わったらブルゴーニュのブドウ畑を歩いて回るという日々を送っていましたね。

銀座の名店での勤務に「社員なのに浮足立ってしまった」

そうこうしているうちに「BMW 523i M Sport」は銀座へたどり着いた。ここには、ワイン好きなら誰もが知るフランス料理の名店「銀座 レカン」がある。2000年にソムリエ資格を取得した大越さんが、ソムリエという職業のすべてを学んだ思い出のお店だ。

大越:初めてのレストラン、初めてのフレンチということで。それまで僕はバーテンダーとしてワインバーでしか働いたことがなかったため、社員なのに浮足立ってしまいました。ふわふわとした質感の絨毯が敷かれた「レカン」の床は革靴で歩くと不思議な感触がして、最初に立ったときのことは今でもはっきりと記憶しています。高級フレンチということでお客様も緊張して来店される方が多いのですが、それ以上に僕が緊張しちゃって(笑)。本当にもう恥ずかしい限りでしたね。

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「レカン」は僕にとってすべてを教えてもらった場所です。サービスとはなんぞやといいますか。僕らはどれだけ綺麗な動きができるかを常に指先まで気にしているのですが、その佇まいや体さばきなどあらゆることを学ばせてもらったのがここです。接客のスキルやお客様との関わり方はバーテンダー時代の師匠も教えてくれたのですが、高級レストランでの学びはまた違っていて。バーテンダーはお客様との距離が半歩近い一方、もう半歩引いたところから心地よいサービスを提供するのが高級レストランの接客なんです。その距離感をそれぞれに教えてもらいました。

2度目のフランス留学で学ぶと決めたこと

「銀座 レカン」でソムリエとしての経験を積んだ大越さんはさらなる高みを目指し、2006年に2度目のフランス留学へと旅立つ。

大越: 1回目の留学は僕にとって期間が短すぎました。それにソムリエではなかったため、知識も半端だった。そこで、次にフランスへ行くときには何を勉強するべきか明確にしようと考えていたのですが、2006年の2度目の留学で修めると決めた学問は、ワインの醸造学と栽培学でした。ワインの勉強を長らくしていると、「ワインってどうしてこの味になるんだろう?」という疑問に必ずぶつかります。当時、僕はよく山梨の生産者さんと一緒に飲む機会がありました。そこで、一つのワインをシェアして意見を出し合っていると、僕がワインの味を寸評するのに対し、生産者さんは作り方や樽の評価をするんです。つまり、一つのワインに対し正反対の見方をしているんですよね。そのため、生産者視点の意見を持てば、生産者の方々とお話しする中でワイン一つひとつに込めた思いを引き出せるだろうと考えました。

加えて、1回目の留学時に現地の生産者さんとの話がすごく面白かったんですよ。「ワインのことをこんなにもたくさん知ることができるんだ」と感銘を受けましたし、彼らと同じ“言語”がほしいとも思いました。共通言語を身につけるには、フランス語を学習するだけでは足りません。フランス語で醸造や畑の勉強をしないといけないと考え、実際にそのようにしました。こうしてワインを醸造学・栽培学の観点から学ぶことでソムリエのサービスに還元でき、ひいてはお客様のお役に立てると思ったんですよね。

シェフソムリエ就任後に変えた、マリアージュの常識

2006~2008年の3年間に及ぶフランス留学を終えた大越さんは、「銀座 レカン」復帰後の2009年にシェフソムリエへ昇進する。シェフソムリエとは、ソムリエチームのトップとしてワインの仕入れから管理、熟成期間までを担う仕事だ。責任あるポジションを任せられた直後に彼が挑戦した「新たな試み」とは?

大越:そもそもワインは、それ単体ではなく食と一緒に嗜むものです。なので、フランスをはじめとしたヨーロッパ諸国では、郷土料理と郷土のワインを合わせて楽しむ文化が存在します。ただ、レストランのコース料理にワインを合わせるといっても、限られたグラスワインだけで対応することは難しい。それに、お二人でコースを予約したとして、ボトルで何本も注文できるはずもありません。たとえば、コースで5皿のメニューが提供されるとすれば、5つそれぞれ方向性が違っており、その異なる料理を同じワインではカバーしきれない。それは仕方がないという考えは、僕がワイン業界に入った25年前におけるペアリング・マリアージュの常識でした。

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しかし、2008年頃に北欧レストランがブームとなり、一つのお皿に一種類ずつのワインを合わせる方法が取られ始めました。同年に僕はフランスから帰国し、その半年後に「銀座 レカン」のシェフソムリエに就任するのですが、この職に就いて最初に出した希望は、「セラーの数を増やしてほしい」「ペアリングをやりたい」というものでした。セラーの数を増やしたい理由は、4度と7度と12度、16度、18度と、ワインの温度管理をより細かく行いたかったからです。ワインをすぐにその温度で出せる環境を作れば、ペアリングをしやすいと考えたんですよね。

ちなみにレストランでは、ワインを前提に料理を作ることはあまりしません。レストランは、料理人が今旬の素材を、今使いたい技術で調理し、今一番おいしいと思える一品に仕上げることを基本方針としています。だからこそ、その料理をシェフがどのように食べてもらいたいか意図を汲み取らなければ、僕たちはワインを合わせることができないんです。たとえば、ソースをたくさん付けて食べてもらいたいのか、ソースを少しだけ付けて食べてもらいたいのかによって、合わせるワインは変わってしまいますよね。なので、僕たちソムリエはシェフの方と「チーム」じゃないと、いいペアリングが作れないんです。

こうして大越さんの提案で生まれた料理一皿ごとに異なるワインを楽しめるマリアージュコースは大好評で、「銀座 レカン」の売りの一つとして定着している。

現在は農業にも注力

その後、「BMW 523i M Sport」は、神宮前にあるベトナムレストラン「An Di」に到着。大越さんは現在、同店の経営と並行してコンサルタントや講師など、ソムリエの知識とスキルを活かしてワインに関する多彩な仕事を行っている。このほか、ワインショップなどを対象に取り扱うべきワインを提案するセレクション業務も請け負っており、特に大きな取引先としては「日本航空」(JAL)が挙げられる。JALの国際線においてエコノミークラスからファーストクラスまでの全ラインとラウンジで、大越さんがセレクションしたワインが飲めるという。

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「よいワインが求められるところに僕たちの仕事があります」と語る大越さん。良質なワインを飲みたい消費者と提供したい事業者。その絶え間なく生まれる需要と供給を繋ぎ合わせる仲介者として、今後も活躍の幅を広げていくことだろう。そんな大越さんにとって「未来への挑戦=FORWARDISM」とは何かと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

大越:食とワインの根源は何かと突き詰めると「農業」に行き着きます。僕たちがやっていることは農作物ありきでやっている仕事です。そのため現在農業に注力していて。具体的には農業法人を立ち上げて、ワイン用のブドウとバジルを栽培しています。農業はたくさんの人を雇えるようになるまでに大変な時間と手間がかかる事業です。ただ、農業があるからこそ僕たちは生かされているという思いがあります。なので、今はまだ手探りの状態ですが、いずれは農業でもしっかりと社会へ貢献できるようなものに仕上げていきたいと考えています。

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