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曽我部恵一が魅せた、観客を「深夜のコンビニ」に連れていく表現力─原宿のフリーライブをレポート

曽我部恵一が魅せた、観客を「深夜のコンビニ」に連れていく表現力─原宿のフリーライブをレポート

J-WAVEの番組『GRAND MARQUEE』の公開生放送が11月12日(火)、東急プラザ原宿「ハラカド」にて、公開生放送を実施した。

この日は、『GRAND MARQUEE SPECIAL supported by しこくあーけーど』と題して、四国の魅力を発信するECサイト「しこくあーけーど」とのコラボレーション。四国を特集する特別編成でお届けしており、関連ゲストとして、サニーデイ・サービスの曽我部恵一、フォトグラファーのU-SKEが登場した。曽我部は生放送でトークをしたほか、生放送終了後にライブも披露した。ここでは、ライブの様子をお届けする。(J-WAVE NEWS編集部/ライブレポート執筆・石角友香)



東急プラザ原宿「ハラカド」からの公開生放送に出演した曽我部恵一。番組では地元である香川県坂出市のアンバサダーとして四国の魅力を語ってくれたが、20時からはECサイト「しこくあーけーど」のポップアップショップのオープンを記念したレセプションパーティー内で、フリーライブが開催された。

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MCのタカノシンヤとセレイナ・アンに呼び込まれた曽我部はアコースティックギターを携えて登場。二人に坂出市アンバサダーの名刺を渡すと、再び地元の魅力について語り始める。彼が観光名所として挙げたのは瀬戸大橋のふもとにある瀬戸大橋記念公園と沙弥島(しゃみじま)海岸のビーチ。飲食店なら「うどん一択じゃないですか? 3時ぐらいには閉まっちゃうので、お昼ご飯ですね。香川のうどんはコシがあって喉越しがよく、僕もよく生のうどんをお土産に買って帰ります。ご近所に配ると人気者になれますよ」とのことだった。

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ライブは彼のCDデビュー当時のエピソードから始まった。大学在学中にデビューを果たしたが、4年生の段階で単位が足らず、受理されにくいと聞いていたが、退学届を提出したところ、「あっさりお疲れ様でした〜、って受理されたんですよ。その当時、1994年ごろに書いた曲を歌います」、とサニーデイ・サービスの名曲「恋におちたら」を丁寧な歌唱とアコギの端正なアルペジオで届け始める。まだ友だちも少ない東京での暮らしや無性に誰かに会いたい気持ちがリアルに迫ってくる。ものの1分も経たないうちに空間が懐かしさと甘酸っぱさに覆われた。

オーディエンスを自分にも覚えのある時間に誘ってくれるエピソードトークは秀逸で、2曲目には四国にちなんだ話題から。高松の「半空(なかぞら)」という珈琲屋さんがとてもおいしいそうで、店主が曽我部氏のファンであることが実際に訪れて判明したのだそう。「ところで、コンビニのコーヒーもおいしくなってきてますでしょ?そこでコンビニのコーヒーの歌って、ないなと思って作りました」と、そのままのタイトルの「コンビニのコーヒー」(サニーデイ・サービス)を披露する。“コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい”という腑に落ちる一行目に始まり、静かな共感が大きくなって、彼の高音のロングトーンも冴え渡っていった。コアファンも初見の人もいる場所で、生身一つの表現力でその場にいる人を深夜のコンビニに運ぶ胆力に驚かされる。

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さらに、すでに成長した彼の子供たちの話へ。一番上のお嬢さんは今度、就職というタイミング。一番下の弟さんは都心の高校に通っていて夜遅くまで友だちと遊んでいるのだという。男手一つで子育てしてきたが、もう手を離れた現在に歌われる「おとなになんかならないで」は、子供が幼かった頃の父親の心情として、おそらくどんなお父さんにも通じるものじゃないだろうか。優しく素直な声色とメロディ、時折挟む語りが、歌詞にもあるように雪が降った深夜の静かな温もりのようなものを伝えてくれた。続けて披露した「魔法のバスに乗って」は、おそらく退屈な地元での日々からの脱出を夢見ていた時代を思い出しているのだろう。そして彼を連れて行ってくれた魔法のバスは音楽だったに違いない。絶唱する姿に胸を打たれた。

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若い頃には商店街も賑やかだったけれど、今は他の地方都市同様、坂出市もシャッター商店街と化しているという彼。「新しい何かができたらいいなと思って、僕もアンバサダーをやっています」と話す。すでに東京のほうが暮らし始めて長い曽我部が、他の場所から帰ってきた際に作った曲だと、「東京 2006 冬」を最後の歌として奏で始める。上京して15年、“一番楽しかったことを思い出そうとした”という歌詞が、故郷があり、現在は東京で生活している人にとって染み渡るように感じる。この曲が作られた頃から18年が経過していることを思えば、自分にとっての故郷と東京の関係も自然と変わっているはず、そんなことも思わせる弾き語りだった。

その場に居合わせた人たちの大きな拍手を受けて、「もっとやりたいですね、20曲ぐらい」と、変わらぬ人間力を見せつけた彼。膨大なレパートリーの中から、この日の彼が選んだ故郷と東京、そして大切な人への想いが立ち現れる素晴らしいライブだった。

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