「なぜ、人はラジオを聴くのか?」をテーマに、哲学研究者の永井玲衣と、J-WAVE『PEOPLE’S ROASTERY』のナビゲーター・長井優希乃が、哲学対話をおこなった。
この内容をお届けしたのは、『PEOPLE’S ROASTERY』4月24日(水)のオンエア。多彩なゲストとのトーク、世界のミュージックシーンから集めた心地よい音楽をお届けする番組で、「MY FIELD NOTE」のコーナーでは、長井とゲストが語り合う。毎週水曜日は「哲学」がテーマだ。
オンエアの音声は、radikoタイムフリーで2024年5月1日(水)28時ごろまで再生可能だ。また、「MY FIELD NOTE」はポッドキャストでも配信中。
・ポッドキャストページ
哲学対話をする際には、3つの約束事がある。
1:よく聞くこと
2:自分の言葉で話す
3:「人それぞれ」で諦めない
今回のテーマは、「なぜ、人はラジオを聴くのか?」だ。まずは、リスナーからのメッセージを紹介した。
「なぜラジオ聴くのか、をぜひ取り上げてほしいです。今はSNSなど便利な情報発信で溢れているのに、音だけというとてもアナログな装置であるラジオを、あえてなぜ聴くのか。ラジオはみなさんにとって、社会にとってどんな存在なのでしょうか?」
長井:リスナーさんからいっぱいメッセージが届いております。「私はラジオを聴くと“時間の流れ”を感じます。音楽にしてもトークにしても、その時間が濃密なものとして感じ取れます」とのことです。時間の流れ、私はすごくわかります。ラジオって、生で聴いていると「この人が話し始めたから、今はこの時間だ」と思うので、時間のポイントを示してくれる感じがあります。
永井:不思議なことに、テレビやYouTubeだと「もうこんな時間!?」と一瞬に感じる感覚があるんですよね。でも、ラジオだと、時間の経過を感じられますよね。なんでかなというのは、今からご紹介するメールがヒントになると思います。
「五感のうち聴覚を使うラジオは、暮らしの邪魔にならないメディアなので、人々に愛されているのではないか。テレビと違い、耳から入った情報を考え、想像したりするので、人々は楽しいのではないか」
長井:たしかに、ラジオって耳から入ってきているけれど、自分の頭のなかで映像が作り出される感覚があるんですよね。想像の余白も与えてくれるというか。情報はたくさんあるんだけれども、そこに自分が関われる感じはありますね。料理しながらラジオは聴けるし、すごく楽しい時間になりますよね。
永井:ながら聴きできるのはラジオの大事な特徴ですよね。そのぶん余白もできて余裕もあるから、時間の流れも感じられるということなんですかね?
長井:そうかもしれないです。
一方で、テレビの音声だけを聴くのとラジオを聴くのとでは、感覚が異なるとふたりは語る。
永井:同じ音なのに不思議ですよね。
長井:テレビはビジュアルでも表現しているぶん、音声の情報がギュッとしていないのかな?
永井:(情報の)凝縮感ということなんですかね。
「一人暮らしということもあって、家で人と話すことがないぶん、無音が嫌で常時何かしらの音を流しています。テレビだと目で見ていないとわからない。音楽も好きだけど、今は違うなというときがある。そんなとき、ラジオで流れる人の声がちょうどいいことに気付きました。リスナーとの距離も近いように感じます」
永井:なぜ、テレビって出ている人と距離感があるんですかね?
長井:なぜですかね? ラジオってメッセージとかを送っていなくても、聴いているだけで距離が近い感じがするんですよね。私に話してくれている感覚があります。そこからメッセージを送ったり、SNSで感想を投稿したりすると、そこに加わっている感覚がもっとするのかなとも思います。
永井:参加する感覚って何によってつくり出されているのかな? 音だけでなぜそんな感覚が生まれてくるのでしょうね?
長井:テレビって自分が参加しているというより、誰かの何かを観察している感覚があります。
永井:そうですね。ラジオは語りかける感覚があるのかな?
長井:自分もラジオを聴いて「そうそう」と言っちゃいます。テレビでも言うかな(笑)。玲衣さんもラジオって聴いていました?
永井:はい。特に夜中、ちょっと寂しいときによく聴いていましたね。
長井:やっぱり、人恋しいから聴くのでしょうか?
永井:ラジオって夜は特に人の話に勝手に耳を澄ませて“覗き聞き”している感覚もありますよね?
長井:深夜って特にそうかも。
永井:話せば話すほどわからなくなりますね。
永井:ラジオはツール、メディアとして手軽だし、情報量はしっかりあるのに声だけと制限されることによって、シンプルに入ってくる。生活のなかに入り込みやすいし、あとは“人の気配”がするというのもありますよね。人恋しいときに聴くというメッセージがありました。声ってその人自身の性質が表れやすいんですかね?
長井:あるかもしれないですね。
永井:緊張感があるとき、アナウンサーの方はすごく張り詰めた声でお話しされますよね。そうすると「ちゃんと聴こう」という気持ちになる。一方で、優希乃さんのようにまったり囁くように言っていただくとリラックスできるんですよね。ただ、話を聞いていて、なぜわざわざ私たちの話を聴いてくれるんだろうと思っているんですよ。
長井:なぜ、人の話って聞きたくなるんでしょうね?
永井:そうなんですよ。たとえば、喫茶店でお隣の方が話しているのとラジオを聴くことってどう違うんですかね?
長井:どう違うんだろう。やっぱり、あの人が喋っているというところが加わるのって大きい気がします。
永井:そっか。完全な他者ではないですもんね。個人の名前、顔がある人の話を聴くって全然感覚が違うのか。
長井:そうですよね。あとは、ラジオをやっている側からすると、メッセージをけっこうくださるリスナーさんに対して、完全なる他人とは思えなくなるんですよね(笑)。双方向で完全になる他人では感があるのかなあ?
永井:“他人以上友だち未満”がラジオなんですかね?
長井:そっか。近所の顔見知りの人みたいな感覚。
永井:でも、じゃあなぜその人の話を聴きたいんだろう?
長井:私はけっこう1人で、脳内で会話をしているんですよ。やっぱり、1人よりも誰かの話を聞きながら、頭のなかで「そうそう」と言うほうが楽しい気がしますね。
永井:やりとりするほうが深まる感じがするのかな? 人と会話している感覚なんですね。聞くだと受け身って感じがしますけど、どこかで参加、やりとりしている感覚があるんですかね。あるといいなとも思います。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のワンコーナー「MY FIELD NOTE」では、曜日別で登場するゲストが人々の好奇心を刺激する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
この内容をお届けしたのは、『PEOPLE’S ROASTERY』4月24日(水)のオンエア。多彩なゲストとのトーク、世界のミュージックシーンから集めた心地よい音楽をお届けする番組で、「MY FIELD NOTE」のコーナーでは、長井とゲストが語り合う。毎週水曜日は「哲学」がテーマだ。
オンエアの音声は、radikoタイムフリーで2024年5月1日(水)28時ごろまで再生可能だ。また、「MY FIELD NOTE」はポッドキャストでも配信中。
再生は2adikoタイムフリーで2024年5月1日(水)28時ごろまで
ラジオを聴いていると“時の流れ”を感じる
「哲学対話」とは、日々のモヤモヤに立ち止まり、誰かと一緒に考えていくことだ。哲学対話をする際には、3つの約束事がある。
1:よく聞くこと
2:自分の言葉で話す
3:「人それぞれ」で諦めない
今回のテーマは、「なぜ、人はラジオを聴くのか?」だ。まずは、リスナーからのメッセージを紹介した。
「なぜラジオ聴くのか、をぜひ取り上げてほしいです。今はSNSなど便利な情報発信で溢れているのに、音だけというとてもアナログな装置であるラジオを、あえてなぜ聴くのか。ラジオはみなさんにとって、社会にとってどんな存在なのでしょうか?」
長井:リスナーさんからいっぱいメッセージが届いております。「私はラジオを聴くと“時間の流れ”を感じます。音楽にしてもトークにしても、その時間が濃密なものとして感じ取れます」とのことです。時間の流れ、私はすごくわかります。ラジオって、生で聴いていると「この人が話し始めたから、今はこの時間だ」と思うので、時間のポイントを示してくれる感じがあります。
永井:不思議なことに、テレビやYouTubeだと「もうこんな時間!?」と一瞬に感じる感覚があるんですよね。でも、ラジオだと、時間の経過を感じられますよね。なんでかなというのは、今からご紹介するメールがヒントになると思います。
「五感のうち聴覚を使うラジオは、暮らしの邪魔にならないメディアなので、人々に愛されているのではないか。テレビと違い、耳から入った情報を考え、想像したりするので、人々は楽しいのではないか」
長井:たしかに、ラジオって耳から入ってきているけれど、自分の頭のなかで映像が作り出される感覚があるんですよね。想像の余白も与えてくれるというか。情報はたくさんあるんだけれども、そこに自分が関われる感じはありますね。料理しながらラジオは聴けるし、すごく楽しい時間になりますよね。
永井:ながら聴きできるのはラジオの大事な特徴ですよね。そのぶん余白もできて余裕もあるから、時間の流れも感じられるということなんですかね?
長井:そうかもしれないです。
一方で、テレビの音声だけを聴くのとラジオを聴くのとでは、感覚が異なるとふたりは語る。
永井:同じ音なのに不思議ですよね。
長井:テレビはビジュアルでも表現しているぶん、音声の情報がギュッとしていないのかな?
永井:(情報の)凝縮感ということなんですかね。
ラジオは聴いているだけで“参加している”感覚になる
別のリスナーからは、ラジオを聴く理由として「人恋しいからではないか」という指摘があった。「一人暮らしということもあって、家で人と話すことがないぶん、無音が嫌で常時何かしらの音を流しています。テレビだと目で見ていないとわからない。音楽も好きだけど、今は違うなというときがある。そんなとき、ラジオで流れる人の声がちょうどいいことに気付きました。リスナーとの距離も近いように感じます」
永井:なぜ、テレビって出ている人と距離感があるんですかね?
長井:なぜですかね? ラジオってメッセージとかを送っていなくても、聴いているだけで距離が近い感じがするんですよね。私に話してくれている感覚があります。そこからメッセージを送ったり、SNSで感想を投稿したりすると、そこに加わっている感覚がもっとするのかなとも思います。
永井:参加する感覚って何によってつくり出されているのかな? 音だけでなぜそんな感覚が生まれてくるのでしょうね?
長井:テレビって自分が参加しているというより、誰かの何かを観察している感覚があります。
永井:そうですね。ラジオは語りかける感覚があるのかな?
長井:自分もラジオを聴いて「そうそう」と言っちゃいます。テレビでも言うかな(笑)。玲衣さんもラジオって聴いていました?
永井:はい。特に夜中、ちょっと寂しいときによく聴いていましたね。
長井:やっぱり、人恋しいから聴くのでしょうか?
永井:ラジオって夜は特に人の話に勝手に耳を澄ませて“覗き聞き”している感覚もありますよね?
長井:深夜って特にそうかも。
永井:話せば話すほどわからなくなりますね。
ラジオの語り手とリスナーの関係性を考える
ふたりはこれまでの対話から、ラジオがどのような存在なのか改めて考える。永井:ラジオはツール、メディアとして手軽だし、情報量はしっかりあるのに声だけと制限されることによって、シンプルに入ってくる。生活のなかに入り込みやすいし、あとは“人の気配”がするというのもありますよね。人恋しいときに聴くというメッセージがありました。声ってその人自身の性質が表れやすいんですかね?
長井:あるかもしれないですね。
永井:緊張感があるとき、アナウンサーの方はすごく張り詰めた声でお話しされますよね。そうすると「ちゃんと聴こう」という気持ちになる。一方で、優希乃さんのようにまったり囁くように言っていただくとリラックスできるんですよね。ただ、話を聞いていて、なぜわざわざ私たちの話を聴いてくれるんだろうと思っているんですよ。
長井:なぜ、人の話って聞きたくなるんでしょうね?
永井:そうなんですよ。たとえば、喫茶店でお隣の方が話しているのとラジオを聴くことってどう違うんですかね?
長井:どう違うんだろう。やっぱり、あの人が喋っているというところが加わるのって大きい気がします。
永井:そっか。完全な他者ではないですもんね。個人の名前、顔がある人の話を聴くって全然感覚が違うのか。
長井:そうですよね。あとは、ラジオをやっている側からすると、メッセージをけっこうくださるリスナーさんに対して、完全なる他人とは思えなくなるんですよね(笑)。双方向で完全になる他人では感があるのかなあ?
永井:“他人以上友だち未満”がラジオなんですかね?
長井:そっか。近所の顔見知りの人みたいな感覚。
永井:でも、じゃあなぜその人の話を聴きたいんだろう?
長井:私はけっこう1人で、脳内で会話をしているんですよ。やっぱり、1人よりも誰かの話を聞きながら、頭のなかで「そうそう」と言うほうが楽しい気がしますね。
永井:やりとりするほうが深まる感じがするのかな? 人と会話している感覚なんですね。聞くだと受け身って感じがしますけど、どこかで参加、やりとりしている感覚があるんですかね。あるといいなとも思います。
J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のワンコーナー「MY FIELD NOTE」では、曜日別で登場するゲストが人々の好奇心を刺激する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
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2024年5月1日28時59分まで
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番組情報
- PEOPLE'S ROASTERY
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月・火・水・木曜13:30-16:00
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長井優希乃