3月28日に71歳で逝去した坂本龍一さん。その訃報をうけて、J-WAVE で放送中の番組『SAPPORO BEER OTOAJITO』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)では、坂本さんが2009年5月に出演した回をダイジェストでお届けした。オンエアは4月7日(金)。
【radikoで聴く】https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20230407230001
(再生は2023年4月14日28時59分まで)
クリス:坂本さんの思い出の曲は、ドビュッシーらしいですね。
坂本:(出会ったのは)たぶん中学2年くらい。ふたりくらい音楽好きのおじがいまして。ひとりは完全にクラシック好きで、レコードをたくさん持っていて、もうひとりは、シャンソンとか“おフランス”が趣味で。そのなかにドビュッシーの『弦楽四重奏曲』が入ったアルバムがあって。何気なくそれを手に取って。よく、おじの家には行ってたんですけど、勝手にアルバムを引っこ抜いては持って帰ってきて勝手に聴いてたりしていました。ある日、手に取ったのが、よく知らないクロード・ドビュッシーで。家に帰ってさっそく聴いてみたら、今まで聴いたこともない音楽だった。今まで聴いた音楽のどれとも似てない。「なんだろうこれは」って衝撃を受けました。
クリス:ちょっと胸キュンな感じが教授(坂本さん)にすごく近いところがあるのかなって。
坂本:そうですね。ピアノとかは習ってたんだけど、だいたいピアノで弾かされる練習曲はバッハとかベートーベンとかモーツァルトとか、ほとんどドイツのもので、フランスのものはだいぶお兄さんにならないと聴かせてくれないわけです、昔のピアノ教育なんてのはね。だから全然触れたことがなくて、当時はラジオでもあまりかかってなかったような気がします。
一方で、坂本さんはドビュッシーと出会う直前は、ベートーベンの音楽をよく聴いていたという。
坂本:ベートーベンは中学1年のときにものすごくハマって、自分でおこづかいを貯めて楽譜まで買いに行って、楽譜を見ながら聴いて自分なりに分析して。子どもですからマネして同じような曲を作ったりしていましたね。
クリス:作曲もしていたんですか。
坂本:この頃から作曲を習っていて。それはうんと初歩的なものでした。
クリス:ベートーベンの何に惹かれたんですかね。
坂本:ある種のシンプルさとか強さもあるでしょうね。特に『ピアノ協奏曲第3番』はCマイナーで、ハ短調といって短調の曲で、ちょっと大げさなんです、ドラマチックというか。そういうところも子どもにはよかったんじゃないですか。
クリス:怪獣とかも好きでした?
坂本:好きでしたね。もちろんゴジラ大好きでしたし。
クリス:ベートーベンってゴジラっぽいというか。
坂本:ダダダンって。それもありますね。
クリス:そのあたりでロックにいったのかなって。
坂本:そこですりこまれちゃったのかな。
坂本さんのゲスト回の放送数日前に忌野さんが亡くなられたということで、坂本さんがこの曲を聴きながら忌野さんとの思い出を語った。
クリス:教授は清志郎さんと仲がよかったんですよね。
坂本:そうですね。本当に短い時期だったんですけど、すごく仲良かったですね。もちろん僕自身はそれ以前から彼の音楽はずっと知ってますし、去年(2008年)も実はメールを交換したりして、「病は気からだ、ベイビー」っていうメールをもらったりしてたんですよ。一時回復されたんで、2カ月前に日本に来たときも「お見舞いに行こうかな」と思ってて事務所の方に訊いたら、「元気にレコーディングしてる」と。だから「元気なんだ、よかった」と思って行かなかったんですね。そうしたら突然の訃報なので、ショックです。
クリス:本当にロックというか、骨のある人で恐れ知らずで、でもすごく謙虚でいつもニコニコされている非常に朗らかな方ですよね。
坂本:静かな人ですね。
坂本さんは「清志郎は、日本では珍しく言葉とメロディーが一体化している、数少ない歌手というか作詞家」と表現する。
クリス:日本語ってポップスを歌うのが難しいなって思うときがあります。
坂本:ポコ、ポコ、ポコっていうオタマジャクシのなかに日本語の「わ・た・し・は」みたいな音を1個ずつ当てはめていくような作り方にどうしてもなっちゃうんです、日本語の特性上。ところが英語だとボブ・ディランとか詞の抑揚がそのままメロディーになるでしょ。基本的には全部そうじゃないですか。日本語の場合、それが分かれちゃってるんですよね。メロディーはメロディーで五線紙上に作っていくっていう作り方が多いんですよね。でも彼はそうじゃないんですよ。
クリス:なるほど。その国の言葉ってありますからね。たとえばイタリア語のカンツォーネは言葉ありきでメロディーが出てくるし。フランス語っていう媒体があるからそういう譜割りになるし。
坂本:譜割りと抑揚が全部一緒になってる。ところが日本語はロックとかそういう音楽が輸入されたものだから。欧米の言葉によって発明された音楽が輸入されて、その上に無理やり言葉をのせてるから難しいんですよ。日本語の自然の姿は浄瑠璃とかなんですよ。でも清志郎くんは苦労してるわけでもなく、自然にそれができてるんですよ。
クリス:惜しい方を亡くしましたね。早すぎましたね。
坂本:僕は、彼は人生を全うしたと思ってます。もちろん長生きすればそれだけやれることがあるでしょうけど、彼はきちんと自分の生を全うしたと思っています。生を全うするっていうのは人生の長さじゃないですからね。正直に生きて。もしかしたら手術をすればもっと長生きできたかもしれないけど、自分の選んだ生ですからね。
クリス:アメリカの60’sの曲。
坂本:よきアメリカですよ。アメリカはいつもいいことをしてるわけではないですけど。もちろんこのときもベトナム戦争があったし。でも大国としての誇りが一人ひとりにあったと思うんです。急に(大統領がバラク)オバマですからね。それだけ実績的に……。プレジデントっていうリーダーが持っている権力が強大なわけですよね。おもしろい話があって、まだ日本が幕府の時代に勝 海舟が将軍に命令されてアメリカ見学に行くんですよ、見聞に。何カ月か行って帰って来て将軍が「どうであったか」と訊くと、勝 海舟は「かの国では能力のあるものが上に立ちまする」って言ったっていう。将軍に対して(笑)。日本は世襲制ですからね。
クリス:(笑)。
番組の公式サイトでは、過去ゲストのトーク内容をアーカイブ。オンエアで扱った音楽の情報も掲載している。
・過去ゲストのアーカイブページ
https://www.j-wave.co.jp/original/otoajito/archives.html
『SAPPORO BEER OTOAJITO』では、毎週さまざまなゲストを迎えてお酒を飲みながら音楽トークを繰り広げる。放送は毎週金曜23時から。
【radikoで聴く】https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20230407230001
(再生は2023年4月14日28時59分まで)
衝撃を受けたドビュッシーの音楽
この番組では、クリスとゲストがビールを飲みながら音楽談議を繰り広げる。坂本さんとクリスが乾杯し、まずは思い出の曲について語り合った。クリス:坂本さんの思い出の曲は、ドビュッシーらしいですね。
坂本:(出会ったのは)たぶん中学2年くらい。ふたりくらい音楽好きのおじがいまして。ひとりは完全にクラシック好きで、レコードをたくさん持っていて、もうひとりは、シャンソンとか“おフランス”が趣味で。そのなかにドビュッシーの『弦楽四重奏曲』が入ったアルバムがあって。何気なくそれを手に取って。よく、おじの家には行ってたんですけど、勝手にアルバムを引っこ抜いては持って帰ってきて勝手に聴いてたりしていました。ある日、手に取ったのが、よく知らないクロード・ドビュッシーで。家に帰ってさっそく聴いてみたら、今まで聴いたこともない音楽だった。今まで聴いた音楽のどれとも似てない。「なんだろうこれは」って衝撃を受けました。
クリス:ちょっと胸キュンな感じが教授(坂本さん)にすごく近いところがあるのかなって。
坂本:そうですね。ピアノとかは習ってたんだけど、だいたいピアノで弾かされる練習曲はバッハとかベートーベンとかモーツァルトとか、ほとんどドイツのもので、フランスのものはだいぶお兄さんにならないと聴かせてくれないわけです、昔のピアノ教育なんてのはね。だから全然触れたことがなくて、当時はラジオでもあまりかかってなかったような気がします。
一方で、坂本さんはドビュッシーと出会う直前は、ベートーベンの音楽をよく聴いていたという。
坂本:ベートーベンは中学1年のときにものすごくハマって、自分でおこづかいを貯めて楽譜まで買いに行って、楽譜を見ながら聴いて自分なりに分析して。子どもですからマネして同じような曲を作ったりしていましたね。
クリス:作曲もしていたんですか。
坂本:この頃から作曲を習っていて。それはうんと初歩的なものでした。
クリス:ベートーベンの何に惹かれたんですかね。
坂本:ある種のシンプルさとか強さもあるでしょうね。特に『ピアノ協奏曲第3番』はCマイナーで、ハ短調といって短調の曲で、ちょっと大げさなんです、ドラマチックというか。そういうところも子どもにはよかったんじゃないですか。
クリス:怪獣とかも好きでした?
坂本:好きでしたね。もちろんゴジラ大好きでしたし。
クリス:ベートーベンってゴジラっぽいというか。
坂本:ダダダンって。それもありますね。
クリス:そのあたりでロックにいったのかなって。
坂本:そこですりこまれちゃったのかな。
忌野清志郎の歌と詞の特徴
番組ではクリスの選曲で忌野清志郎さんと坂本さんが1982年にリリースしたコラボレーション曲『い・け・な・いルージュマジック』をオンエア。坂本さんのゲスト回の放送数日前に忌野さんが亡くなられたということで、坂本さんがこの曲を聴きながら忌野さんとの思い出を語った。
クリス:教授は清志郎さんと仲がよかったんですよね。
坂本:そうですね。本当に短い時期だったんですけど、すごく仲良かったですね。もちろん僕自身はそれ以前から彼の音楽はずっと知ってますし、去年(2008年)も実はメールを交換したりして、「病は気からだ、ベイビー」っていうメールをもらったりしてたんですよ。一時回復されたんで、2カ月前に日本に来たときも「お見舞いに行こうかな」と思ってて事務所の方に訊いたら、「元気にレコーディングしてる」と。だから「元気なんだ、よかった」と思って行かなかったんですね。そうしたら突然の訃報なので、ショックです。
クリス:本当にロックというか、骨のある人で恐れ知らずで、でもすごく謙虚でいつもニコニコされている非常に朗らかな方ですよね。
坂本:静かな人ですね。
坂本さんは「清志郎は、日本では珍しく言葉とメロディーが一体化している、数少ない歌手というか作詞家」と表現する。
クリス:日本語ってポップスを歌うのが難しいなって思うときがあります。
坂本:ポコ、ポコ、ポコっていうオタマジャクシのなかに日本語の「わ・た・し・は」みたいな音を1個ずつ当てはめていくような作り方にどうしてもなっちゃうんです、日本語の特性上。ところが英語だとボブ・ディランとか詞の抑揚がそのままメロディーになるでしょ。基本的には全部そうじゃないですか。日本語の場合、それが分かれちゃってるんですよね。メロディーはメロディーで五線紙上に作っていくっていう作り方が多いんですよね。でも彼はそうじゃないんですよ。
クリス:なるほど。その国の言葉ってありますからね。たとえばイタリア語のカンツォーネは言葉ありきでメロディーが出てくるし。フランス語っていう媒体があるからそういう譜割りになるし。
坂本:譜割りと抑揚が全部一緒になってる。ところが日本語はロックとかそういう音楽が輸入されたものだから。欧米の言葉によって発明された音楽が輸入されて、その上に無理やり言葉をのせてるから難しいんですよ。日本語の自然の姿は浄瑠璃とかなんですよ。でも清志郎くんは苦労してるわけでもなく、自然にそれができてるんですよ。
クリス:惜しい方を亡くしましたね。早すぎましたね。
坂本:僕は、彼は人生を全うしたと思ってます。もちろん長生きすればそれだけやれることがあるでしょうけど、彼はきちんと自分の生を全うしたと思っています。生を全うするっていうのは人生の長さじゃないですからね。正直に生きて。もしかしたら手術をすればもっと長生きできたかもしれないけど、自分の選んだ生ですからね。
アメリカはいつもいいことをしてるわけではないけど…
坂本は番組の最後にバート・バカラックの『Make It Easy on Yourself』を選曲、オンエアした。Make It Easy On Yourself
坂本:よきアメリカですよ。アメリカはいつもいいことをしてるわけではないですけど。もちろんこのときもベトナム戦争があったし。でも大国としての誇りが一人ひとりにあったと思うんです。急に(大統領がバラク)オバマですからね。それだけ実績的に……。プレジデントっていうリーダーが持っている権力が強大なわけですよね。おもしろい話があって、まだ日本が幕府の時代に勝 海舟が将軍に命令されてアメリカ見学に行くんですよ、見聞に。何カ月か行って帰って来て将軍が「どうであったか」と訊くと、勝 海舟は「かの国では能力のあるものが上に立ちまする」って言ったっていう。将軍に対して(笑)。日本は世襲制ですからね。
クリス:(笑)。
番組の公式サイトでは、過去ゲストのトーク内容をアーカイブ。オンエアで扱った音楽の情報も掲載している。
・過去ゲストのアーカイブページ
https://www.j-wave.co.jp/original/otoajito/archives.html
『SAPPORO BEER OTOAJITO』では、毎週さまざまなゲストを迎えてお酒を飲みながら音楽トークを繰り広げる。放送は毎週金曜23時から。
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2023年4月14日28時59分まで
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番組情報
- SAPPORO BEER OTOAJITO
-
毎週金曜23:00-23:30