ピアニスト・反田恭平、ショパンコンクール前の緊迫感と「気持ちを切り替えた方法」を明かす

2021年、第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位に入賞したピアニスト・反田恭平がその舞台裏を振り返った。

反田が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは2月18日(土)。

「サッカーの選手になりたかった」がピアノに熱中したきっかけとは

まず、幼少期にショパン国際ピアノコンクールを知ったきっかけを語った反田。その当時はサッカー選手になりたかったという。

反田:当時、サッカーの選手になりたかったので。やっぱりサッカー選手って、一振りで世界が変わるじゃないですか。ピアノはなかなかないだろうなと思っていたけど、コンクールという組織・催し物の存在を知ったのが、ショパンコンクールが初めてだったんです。テレビのドキュメンタリーが放送されていて、それを見て「こういう世界があるんだな」というのがきっかけでしたね。6歳とか5歳とかじゃないですかね。

葉加瀬:ピアノに熱中し始めたのはいつぐらいなんですか?

反田:サッカーの試合中に腕を骨折して。当時、日韓ワールドカップで(開幕直前に鼻を骨折した)宮本(恒靖)選手がギブスをされていて、お医者さんに「鼻の方が手より痛いぞ」と言われて「僕には無理だな」と思って、痛くない職業ってなんだろうと考えたときに趣味でピアノをやっていたので「あ、ピアノいいんじゃない」って。

コンクール出場を決めたのは「後悔する道は選びたくなかった」

葉加瀬:ショパンコンクールは何年に一度だっけ?

反田:5年に一度なので、それこそ(4年に一度の)ワールドカップとかオリンピックと同じ。(出場した2021年の大会は)コロナ禍になってしまって6年ぶりの開催で。

葉加瀬:じゃあラストチャンスだったわけだ。年齢的に。

反田:そうですね、最初で最後って感じでした。憧れもありましたし、人生の記念の思い出の一つとしてもそうだし、いま受けなかったらきっと一生後悔して歳を重ねていくんだろうなと思ったので。後悔する道は選びたくなかった。それと、同世代の自分のオーケストラのメンバーが国際コンクールにエントリーして受賞していく姿を見ていて、背中を押されたという言い方がよいかもしれないですね。勇気づけられて、じゃあ出てみようという感じですね。

葉加瀬:予選から本戦まで何日間ぐらいあるの?

反田:応募が書類審査からなんですけど、(出場する)2年前から応募していました。でも(コロナ禍での)延期があって、予備予選は2021年の7月ぐらい。本戦の3ヶ月前です。10月にそれをクリアした1次予選が始まるので、そこから(本戦までは)大体1ヶ月ですかね。

葉加瀬:その間は、大変な集中力でしょう。キープするのが大変じゃないですか?

反田:人生で初めて、あんなに人格が変わっちゃったっていう。弾いていてゲシュタルト崩壊(のような)、同じ文字を見ていたらよくわからなくなるみたいな……。同じ音符をずっと弾き続けて、よくわからなくなってジャズっぽくなっちゃって「これいかんな」みたいなこともあったし。コンクール前からメディアに出させていただいていたので、期待値というか、応援してくれる方々の期待を裏切っちゃいけないんじゃないかというプレッシャーもあって、結構メンタルが揺れたりしましたね。結局それを打開する方法は一切ピアノに触れない時間を設けたという、それだけだったんですよね。でも、結構勇気がいるんですよ。コンクール期間中、明後日に二次予選・三次予選という時に、もう1日ピアノから、音楽から離れてゲーム三昧。好きなことをやるという。それを毎日練習している期間の中でいきなりやるのはなかなか勇気がいる決断だったんですけど、やってよかったですね。1日半、ずっと散歩したり、ビリヤードやったりしていましたね。

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ショパン生誕の地で演奏すること

葉加瀬:ポーランド・ワルシャワでコンクール。やっぱり(ワルシャワが生誕地の)ショパンに対する現地感というのは感じた?

反田:(例えると)世界各国の若手音楽家が「君が代」を日本で歌うような感じですよね。我々で言うと「君が代はこういうものであるよね」というイメージがあって、でもビブラートのかけ方だったり抑揚のつけ方だったり、日本人からするともしかしたら「ん?」っていう、そこのきわきわを決めていくのがショパンコンクールなので。なので、ポーランド人の方々もやっぱり反応が顕著に出ますね。拍手とか態度とかでも全然変わりますね。

葉加瀬:ショパンって個性の強い音楽だからね。非常にローカルじゃない。グローバルな音楽になって何百年と経ってるけど、ローカルのよさがたくさんあるじゃない。

反田:そうですね。民謡性だったり。

葉加瀬:あとは、ピアノに徹してるわけだからね。

反田:だからこそ、ショパンってピアニストにとっての最終目的地だと思うんです。やっぱりそれはショパンが「僕はピアノに心を奪われて作曲するんだ」というのを決めたからこそ。だから、ショパンが一番ピアノの扱い方について詳しいはずなんですよね。そのコンクールとなると、やっぱり“ピアニストコンクール”ですよね。僕が、一次予選が始まるぐらいまで一番迷っていたのが「コンクール向けに弾くか否か」です。枠を出て自己表現をしていいものなのか、コンクールに沿っていくべきなのか、といろいろ考えたりします。一次予選、無難に弾こうと思って、500人ちょっと応募して一次に残ったのが80人で、そこから半分半分(ずつ選抜される形)なんですよね。40人、20人って。要は2人に1人受かればいいわけだからまず無難に弾いて、他の人(の演奏)もたくさん聴いて、その結果で「今年の傾向はこれだな」というのはわかったので、「ここから自分の個性を全開に出していく」という方に変えますよね。

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葉加瀬:コンクールってコンサートとは全然違うからね。

反田:世界的に有名な、ショパンコンクールでも優勝した(マルタ・)アルゲリッチも「ショパンコンクール向けに弾いた」って言ってるぐらいですからね。

そしてファイナルではオーケストラと共演。反田は自身の原体験と重ね合わせて振り返った。

反田:(オーケストラと弾く)ファイナルまで行けば「もうこっちのものかな」というのはちょっとあったので。もちろんソロも好きですけど、何よりもコンチェルト(協奏曲)が大好きで、オケが好きなんですよね。僕が12歳のとき、ピアノをちゃんとやり始めたきっかけの一つがオーケストラで、プロのオケを初めて振らせてもらった歳なんですよ。そのときにいろんな音色やカラーをすごく感じられて、やっぱりそれが根底にあって、オーケストラとコンチェルトを弾くのが大好き。だから「ファイナルまで行ったら」っていう感じですよね。

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