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長濱ねるが社会に出てぶつかった“多様性の壁”とは? 山口 周と「ダイバーシティ」を考える

長濱ねるが社会に出てぶつかった“多様性の壁”とは? 山口 周と「ダイバーシティ」を考える

山口 周と長濱ねるが、「ダイバーシティ」をテーマに語り合った。

ふたりがトークを展開したのは、J-WAVEで放送された番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』(ナビゲーター:山口 周、長濱ねる)。オンエアは5月7日(土)。

ダイバーシティについて考える

まずは「ダイバーシティ」という言葉を考えていく。

山口:「ダイバーシティ」は日本語だと「多様性」と言われます。最近よく聞く言葉になっていますね。
長濱:最近すごくこの言葉が身近になってきていて、私の友だちも当たり前のようにダイバーシティの考えが根底にあるというか、やわらかく入ってきているなっていう印象がありますね。

「ダイバーシティ」という言葉は、日本では組織内で活躍できる女性を増やすために用いるケースが多いと山口は語る。

山口:ダイバーシティの本来の意味は「みんな違う」ということですから、男性のなかにも多様性はあります。性的指向、考え方、国籍、出身地、学歴など。日本はなぜか“普通”が大好きなんですよね。スタンダードであることが求められるし、親御さんのなかにも「普通であってほしいだけなんです」と言う方がいらっしゃるんですが、これはもう“病”だと思います。
長濱:たしかに。高校にも普通科がありますね。
山口:「普通ってなんなんだ?」ってことですよね。ねるさんは先日、大分県に行かれたときに考えさせられることがあったそうですね?
長濱:はい。大分の番組にリモート出演したときに、大分の高校生のみんなとジェンダーについて考える機会があったんですね。私は長崎県出身で、都市からちょっと離れるとジェンダーの認識ってまだまだ進んでいないんですよ。自分の性が受け容れられないから都会に出るとか、「この街では暮らせなくなってしまう」と感じる人がいるんです。

大分の街角インタビューをしたときに、長濱は印象に残った出来事があったという。

長濱:「女性が家事をやることをどう思いますか?」と訊いたときに、「自分の親もそうなので普通なんじゃないですか?」と答える男性がいました。女性の6割ぐらいも「風習として根付いているものなので自分も苦じゃない。やるものだと思ってる」と答えていらっしゃったんですよ。その結果を聞いて私が思ったのは、「ダイバーシティだから男女で家事を分担しろ」と押し付けるのも違うと思って。「私は掃除が得意だからするね」みたいな、世帯ごとにやりやすいルールを作っていい。ダイバーシティだから絶対に平等、と押し付けるのも違うのかなと。風習として根付いている高齢者の方とかもまきこんで、どうすれば今の時代を生きやすくできるかを一緒に考えました。
山口:なるほどね。
長濱:そのなかで、一人の高校生が「大勢の人にアピールやスピーチするのではなくて、身近な人からでいいと思う」と答えていて、すごくハッとさせられたんですね。たとえば家でごはんを食べているときに、おばあちゃんに「今日は授業でこんなことを習ったんだよ。ジェンダーにはこういう問題があって、こういう考え方があるんだよ」と話す。小さい輪を広げていけばいいんじゃないかと考える高校生の方がいたんです。その考え方がすごく腑に落ちましたね。

ヴィクトリアズ・シークレットの「エンジェル」廃止に注目

「ダイバーシティ」の参考図書として、ブレイディみかこ著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を紹介。作中で描かれた人種問題について触れた長濱は、ヴィクトリアズ・シークレットの多様性に関するエピソードを語った。

長濱:ヴィクトリアズ・シークレットという、すごく有名なランジェリーブランドがあって、そこのトップモデルさんは「エンジェル」と呼ばれていて、誰もが憧れるような外見をしているんですね。でも、その「エンジェル」を企業側が廃止しますって言ったんですよ。
山口:なるほど。
長濱:そのニュースに衝撃を受けたのですが、「エンジェル」はたしかにブランドの象徴ではあったけども、「ちょっと違うよな」とも思っていたんです。
山口:ちょっと違う、っていうのはどういう違和感ですか?
長濱:ある特定の人種、髪の色、目の色、体型の細さ、手足の長さが美しいとされてしまうと、そうじゃない自分が「間違ってるのかな。美しくないのかな」と思ってしまうので、広告として世に発信していくのは(違うと感じる)。もちろん、ランジェリーが素敵に見えることが第一だとは思うんですけど。

山口はこの話を聞き、極端に自殺が起きにくい日本の地域「自殺希少地域」について話した。この場所を調査した人がおり、その結果が意外なものだったそうだ。

山口:たとえば、「自殺希少地域」では赤い羽根共同募金が集まらないそうです。ほかの街では「ほかの人も募金しましたよ」って言うと、「みんなはいくら募金したんですか?」と訊いて同じぐらいの額を入れるんです。ところが、その地域だと「そのお金は何に使われるの?」や「なぜお金を出さなきゃいけないの?」と声が上がり、「ほかの人も出しましたよ」と言っても「人は人。私は募金しない」と言って全然お金が集まらないらしいんですよ。

また、「自殺希少地域」では、特別支援学級(心身に障害のある児童・生徒のために特別に設けられた学級)の導入率も低いそうだ。

山口:他の街では特別支援学級を作ることに賛成がすぐ集まるのに、「自殺希少地域」では反対の声が多い。なんとなく「自殺希少地域」だから難しい立場の人に手を差し伸べる文化があるのかなと思ったら逆なわけですよ。でも裏側の話を聞いてみると、なるほどなと思ったんです。「特別支援学級はちょっと人と違ったり学習が難しい子も含めて、全部集めて別のクラスにしちゃうってことでしょう? なんで同じクラスにそういう子がいちゃいけないんですか?」っていう考え方なんですね。つまり「自殺希少地域」で見られる特徴って、「人は人、私とは違う」と考えるけども、そこで分断するんじゃない。その考え方が、ちゃんと難しい立場にいる人に手を差し伸べることも両立しているんですね。これって多様性を考えていく上で、違いを認めて一線を引いてコミュニケーションをしないことと真逆の考え方です。

山口は「人と違うところがあることをお互い認めちゃったほうがラクなはずなのに、なんでみんな“普通”が好きなんでしょうね」と、この話を締めくくった。

場違いだと感じる場に身を置くことで得られる発見

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ」という印象的な言葉が綴られている。

山口:『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』はベストセラーになったので読まれた方もけっこういらっしゃると思います。今は残念ながら、意識的にストレスのある意見のなかに入っていくことをやらない限り、似たような人が自然と集まっちゃう気がするんですよ。ねるさんはそういうことを感じることはありますか?
長濱:ありますね。たとえば、中学から高校に進学するときって、ある程度同じ学力の人が集まるので、高校のときの友だちってすごく居心地がいいんですよ。
山口:わかる、わかる。どんどん居心地がよくなるんですよね。
長濱:会話もポンポンと進みますよね。そうやって過ごしていたのに、一歩社会に出たら「こんな考え方の人がいるんだ」って私はけっこう打ちのめされたというか。いかに自分が“自分と似た人”だけで友だちを作って、自分もそっちに寄っていたか、社会に出てすごく実感しましたね。
山口:僕もその気持ち、すごくわかりますよ。どんどん居心地がよくなっていくのは、似たような人たちばかりで集まるようになってきているんだと思います。勇気を持って越境していくことがキーワードになると思います。

山口は、友人の予防医学研究者・石川善樹さんのエピソードを語る。

山口:都内で3時間ぐらいのミーティングが予定されていたんですが、突然キャンセルになったらしいんですね。そのぽかんと空いた3時間を“天から授かった3時間”だと捉えて、絶対にこれから先やらないこと、行かないであろう場所に行ってみようと思ったそうなんですよ。それで巣鴨の「とげぬき地蔵」(高岩寺)に行って散歩をしたら驚くべき発見がいろいろあったと喜んで話してくれました。彼は居心地が悪いなと感じる場所にわざわざ自分を投げ込むことで、自分の世界図を広げるきっかけを作っているんですね。

また、山口は秋元 康が月1回実践していることを明かす。

山口:前に話を聞いたとき、月1回は「大嫌いな人とごはんに行く」ってことをやっているらしいですよ。
長濱:ええ~!
山口:ごはんは当然、仲がいい人と一緒に行きたいよね。だけど、そうなると似たような考えの人ばかりが集まるようになっちゃう。世の中を正確に理解することを考えると、それは危険なことだと彼は感じているんだと思います。「本当に合わないな」って思う人と会って、「やっぱり合わないな」って確認して帰るらしいです(笑)。それってすごく大事なことだと思うんですよね。多様性が大事と言われる時代になってくると、友人の善樹くんの言葉を借りますが、「不快の海に身を投げ出す勇気」が大事になってくるのかなと思います。

J-WAVEの番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』では、哲学からテクノロジー、SDGsやエンターテインメント分野まで、よりよい生き方、よりよい社会を照らすヒントとなる多様な本をピックアップし、さまざまな課題や問題を抱える現代社会を紐解きながら、しなやかに解説していく。放送は毎週土曜日の15時から。

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2022年5月14日28時59分まで

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番組情報
NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~
毎週土曜
15:00-15:54