山口 周と長濱ねるが、「利他」をテーマに語り合った。
ふたりがトークを展開したのは、J-WAVEで放送された番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』(ナビゲーター:山口 周、長濱ねる)。オンエアは4月9日(土)。
山口:身近な利他的行動で、なにか思い当たるものはありますか?
長濱:すごく小さなことだと、自分がエレベーターで6階に降りたときに1階のボタンを押して降りるとか、ゴミステーションのゴミが散乱していたらちょっと整えるとか。
山口:なるほど。僕は利他行動が一番発動されているのは子育てのときじゃないかなと思います。子どもが悲しんでいる状態は自分にとって苦しい状態なので、利己でもあると言えるわけですけれども。
山口は「利他はいまキーワードになってきている」と話す。
山口:きっかけはコロナだったと思うんです。すべてのものがお金で換算されるようになっちゃっているでしょ? 実は僕、先日親族が亡くなったんです。昔のお葬式は人が亡くなると、その村の人がワーッとやってきてお葬式の手伝いをやっていたんですけど、いまは家のメンテナンスとかも含めて全部お金でやってもらうようになっているわけですよね。すべてがお金に換算されて「やってあげたからお金ちょうだい」「お金くれなければやってあげない」というなかでは世の中が回らない。だから、お金が介在しない形で、人の能力や時間、持っているお金を無償で差し上げる、という利他が必要になってきているのかなと思うんです。
山口:実は本田さんっていろいろなところに寄付をされているんです。「寄付をした」というTwitterに対する反応が、ヨーロッパとアメリカと日本で全然違って。ようするにヨーロッパとアメリカはポジティブな反応が返ってくるんだけど、日本ではポジティブなものより「売名行為だ」と非難のほうが多い。「積極的に利他や贈与をやろうとする人が、ものすごく嫌な思いをしなくてはいけない社会になっちゃっているんじゃないか」と言っていたんです。ねるさんはそういうのを感じますか?
長濱:あります。「誰かのためにしたことを言わない美」というか。事実なんですけど、それを言ってしまうと、それこそ「売名行為」や「いい人ぶってる」とうがった見方をされることは肌感覚として感じるので、言うのにはすごく気をつけたり「こういう言い方をしたら変にとらえられないかな?」って変な気遣いが生まれてしまったり。「それを考えるならもう言わなくていっか」と思うんです。でも本田さんのような著名な方がそういう活動をされると、私たちは「なんで寄付したんだろう?」と情報源をたどって「こういう事実があるんだ」と知れるので、本来は言っていただいたほうがすごくうれしいです。だけど寄付した本人にそういう声が届いたりするのは、(利他的行動が)しづらい世の中だと感じます。
山口:利他はすごく難しさがあって。やる側にはある程度の心の強さが必要。ジョージ・マイケルという、1980年代から1990年代にかけて活躍したアーティストで、もう亡くなりましたけど、ワム!というバンドで一世を風靡しました。彼は生前、まったくそういうことは言ってなかったんですけど、死後になってものすごい額の寄付をしていたことがわかったんです。なぜ対外的に発表していなかったのかはわからないんですけど。
山口は、新約聖書にも利他的行動は人に見えないよう行うようにと書かれていると話す。
山口:人に利他の行為を見えるようにするか、見えないようにするか。見えるようにするほうが「そういう問題があるんだ」と告知効果があるから、僕はぜひやってほしいなと思う。やった人が攻撃されて「もういいや」と思っちゃう、あるいは攻撃されているのを見て「ああいうことをやると攻撃されちゃうからやめておこう」と思っちゃうんだったら、それ自体が世の中を高原社会から谷間に落としていくような行為になっちゃうので、僕はそういう利他の行為をしている人がいたら、直感的にどう思ったとしても「すばらしいことをやったね」って褒められる社会のほうがいいんじゃないかなと思います。
山口:『ペイ・フォワード 可能の王国』というアメリカの映画があります。世の中を悲観的に見ているクールな11歳の男の子が、学校の授業中にあるアイデアを提案します。「人から『利他』『贈与』を受け取ったら、必ずそれを3倍にして別の3人に返す」ということを始めるんです。そうすると、どんどんいろいろなことが動いていって大人たちも変わっていくという物語です。
また山口は、誰かから贈与を受け取ると「返さなければいけない」という「負債の感情」を抱く「利他の呪い」にも言及。親子のような閉じた関係で生じると話す。
山口:それがある種、子どもの可能性をしばるものになってしまうんだとすると、親としては「私に返さなくていいから、あなたが自分の子どもに返しなさい」あるいは「あなたが社会や友だち、仕事で面倒見てくれた人に返しなさい」と(するべき)。贈与されたもので自分の人生ができているという謙虚さに気づいたときに、そこからペイ・フォワードは始まるのかなと思っていて。
長濱:改めて自分が受けてきた贈与を思い出していました。親の子どもに対する無償の愛、でもひっくり返せば、子どもからも親への無償の信頼があると思います。
山口:今日は利他というテーマから入って、映画『ペイ・フォワード 可能の王国』の話をしました。贈り贈られる関係は、「閉じない」ということがひとつのカギになるのかなと僕は思っています。もし自分がなにかしら親や世の中から受け取っていると思うのであれば、それをもらった相手にそのまま返すんじゃなくて、できればそれを2倍・3倍にして別の人に返すことをやっていけるといいんじゃないかなといます。
J-WAVEの番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』では、哲学からテクノロジー、SDGsやエンターテインメント分野まで、よりよい生き方、よりよい社会を照らすヒントとなる多様な本をピックアップし、さまざまな課題や問題を抱える現代社会を紐解きながら、しなやかに解説していく。放送は毎週土曜日の15時から。
ふたりがトークを展開したのは、J-WAVEで放送された番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』(ナビゲーター:山口 周、長濱ねる)。オンエアは4月9日(土)。
いま注目される「利他」
まずは「利他」という言葉を考えていく。山口:身近な利他的行動で、なにか思い当たるものはありますか?
長濱:すごく小さなことだと、自分がエレベーターで6階に降りたときに1階のボタンを押して降りるとか、ゴミステーションのゴミが散乱していたらちょっと整えるとか。
山口:なるほど。僕は利他行動が一番発動されているのは子育てのときじゃないかなと思います。子どもが悲しんでいる状態は自分にとって苦しい状態なので、利己でもあると言えるわけですけれども。
山口は「利他はいまキーワードになってきている」と話す。
山口:きっかけはコロナだったと思うんです。すべてのものがお金で換算されるようになっちゃっているでしょ? 実は僕、先日親族が亡くなったんです。昔のお葬式は人が亡くなると、その村の人がワーッとやってきてお葬式の手伝いをやっていたんですけど、いまは家のメンテナンスとかも含めて全部お金でやってもらうようになっているわけですよね。すべてがお金に換算されて「やってあげたからお金ちょうだい」「お金くれなければやってあげない」というなかでは世の中が回らない。だから、お金が介在しない形で、人の能力や時間、持っているお金を無償で差し上げる、という利他が必要になってきているのかなと思うんです。
寄付を公表することの難しさ
山口はサッカーの元日本代表である本田圭佑と言葉を交わした際のエピソードを披露。本田が「すごく難しい」と語っていた利他的行動があるのだという。山口:実は本田さんっていろいろなところに寄付をされているんです。「寄付をした」というTwitterに対する反応が、ヨーロッパとアメリカと日本で全然違って。ようするにヨーロッパとアメリカはポジティブな反応が返ってくるんだけど、日本ではポジティブなものより「売名行為だ」と非難のほうが多い。「積極的に利他や贈与をやろうとする人が、ものすごく嫌な思いをしなくてはいけない社会になっちゃっているんじゃないか」と言っていたんです。ねるさんはそういうのを感じますか?
長濱:あります。「誰かのためにしたことを言わない美」というか。事実なんですけど、それを言ってしまうと、それこそ「売名行為」や「いい人ぶってる」とうがった見方をされることは肌感覚として感じるので、言うのにはすごく気をつけたり「こういう言い方をしたら変にとらえられないかな?」って変な気遣いが生まれてしまったり。「それを考えるならもう言わなくていっか」と思うんです。でも本田さんのような著名な方がそういう活動をされると、私たちは「なんで寄付したんだろう?」と情報源をたどって「こういう事実があるんだ」と知れるので、本来は言っていただいたほうがすごくうれしいです。だけど寄付した本人にそういう声が届いたりするのは、(利他的行動が)しづらい世の中だと感じます。
山口:利他はすごく難しさがあって。やる側にはある程度の心の強さが必要。ジョージ・マイケルという、1980年代から1990年代にかけて活躍したアーティストで、もう亡くなりましたけど、ワム!というバンドで一世を風靡しました。彼は生前、まったくそういうことは言ってなかったんですけど、死後になってものすごい額の寄付をしていたことがわかったんです。なぜ対外的に発表していなかったのかはわからないんですけど。
山口は、新約聖書にも利他的行動は人に見えないよう行うようにと書かれていると話す。
山口:人に利他の行為を見えるようにするか、見えないようにするか。見えるようにするほうが「そういう問題があるんだ」と告知効果があるから、僕はぜひやってほしいなと思う。やった人が攻撃されて「もういいや」と思っちゃう、あるいは攻撃されているのを見て「ああいうことをやると攻撃されちゃうからやめておこう」と思っちゃうんだったら、それ自体が世の中を高原社会から谷間に落としていくような行為になっちゃうので、僕はそういう利他の行為をしている人がいたら、直感的にどう思ったとしても「すばらしいことをやったね」って褒められる社会のほうがいいんじゃないかなと思います。
利他で動く社会の実現を
「どうしたら利他で動く社会を実現できるか」について、山口は自分が利他を受けたと実感することが大事だと話す。山口:『ペイ・フォワード 可能の王国』というアメリカの映画があります。世の中を悲観的に見ているクールな11歳の男の子が、学校の授業中にあるアイデアを提案します。「人から『利他』『贈与』を受け取ったら、必ずそれを3倍にして別の3人に返す」ということを始めるんです。そうすると、どんどんいろいろなことが動いていって大人たちも変わっていくという物語です。
また山口は、誰かから贈与を受け取ると「返さなければいけない」という「負債の感情」を抱く「利他の呪い」にも言及。親子のような閉じた関係で生じると話す。
山口:それがある種、子どもの可能性をしばるものになってしまうんだとすると、親としては「私に返さなくていいから、あなたが自分の子どもに返しなさい」あるいは「あなたが社会や友だち、仕事で面倒見てくれた人に返しなさい」と(するべき)。贈与されたもので自分の人生ができているという謙虚さに気づいたときに、そこからペイ・フォワードは始まるのかなと思っていて。
長濱:改めて自分が受けてきた贈与を思い出していました。親の子どもに対する無償の愛、でもひっくり返せば、子どもからも親への無償の信頼があると思います。
山口:今日は利他というテーマから入って、映画『ペイ・フォワード 可能の王国』の話をしました。贈り贈られる関係は、「閉じない」ということがひとつのカギになるのかなと僕は思っています。もし自分がなにかしら親や世の中から受け取っていると思うのであれば、それをもらった相手にそのまま返すんじゃなくて、できればそれを2倍・3倍にして別の人に返すことをやっていけるといいんじゃないかなといます。
J-WAVEの番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』では、哲学からテクノロジー、SDGsやエンターテインメント分野まで、よりよい生き方、よりよい社会を照らすヒントとなる多様な本をピックアップし、さまざまな課題や問題を抱える現代社会を紐解きながら、しなやかに解説していく。放送は毎週土曜日の15時から。
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番組情報
- NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~
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毎週土曜15:00-15:54
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山口 周、長濱ねる