音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
毎熊克哉が明かす、今泉力哉監督の「一言の台詞へのこだわり」 映画と音楽の関係も聞いた

毎熊克哉が明かす、今泉力哉監督の「一言の台詞へのこだわり」 映画と音楽の関係も聞いた

“4つの好き”が複雑に絡み合う。3月18日(金)公開の『猫は逃げた』は、飼い猫カンタをどちらが引き取るかで揉める離婚直前の夫婦とそれぞれの恋人の物語。1匹の猫と愚かで不器用な4人の男女の恋愛模様が描かれる。

監督を務めたのは今泉力哉、脚本は城定秀夫が担当した。J-WAVE NEWSでは今泉監督と、同作で山本奈衣瑠扮するレディコミ作家・町田亜子の夫・広重役を務めた毎熊克哉の対談インタビューを実施し、撮影中のエピソードなどを語ってもらった。インタビューの後半では今泉監督が「音楽と映画の関係性」について持論を語る場面も。ぜひそちらにも注目して欲しい。

毎熊「今泉監督と一緒に撮りたいという気持ちは以前から抱いていた」

――今作の『猫は逃げた』は、今泉さんと城定さんが互いに脚本を提供しあってラブストーリーを2本制作するというコラボ企画の1つで、「L/R15(えるあーるじゅうご)」のうちの“R”にあたる作品です(※“L”にあたる作品は2月25日公開の『愛なのに』。こちらは監督を城定、脚本を今泉が務めた)。まずはこの企画がどのようにして立ち上がっていったのか教えてくれませんか。

今泉:企画を担当している直井卓俊さん(スポッテッドプロダクションズ)から「城定さんと脚本と監督の入れ替え作品を制作するというのはどうですか?」という提案をもらって「城定さんが『やる』と言ってるなら僕もやりたいです」と返事をしたのが始まりです。

――「L/R15」と銘打っていますが、“L”とはどういう意味なのでしょうか?

今泉:これは僕もいまだによくわかっていないんですよ(笑)。新しいレーベルみたいなことだと思うんですけど、僕がLなのかRなのかもわかっていないという。

(※Lは「R15+指定のラブストーリー」の“LOVE”の頭文字から取っている)

――そうなんですね(笑)。改めて、今作は「R15指定」で15歳以上が映画鑑賞の条件となっています。これまでも今泉監督の作品では“日常の生々しさ”が描かれていたと思いますが、ここまで性描写をしっかりと撮影するのは久しぶりですか?

今泉:2011年公開の『終わってる』という夫婦の話と、2012年の『ヴァージン』というオムニバス作品では描いたんですけど、最近はやってなかったので、久しぶりですね。ただ実際、日常ではあることなので、映画の中では“描くか省くか”を選択するだけの話。描くこと自体を避けていたわけではないので、城定さんとのコラボという機会で、こうして描けたのは良かったと思いますね。

――毎熊さんは今作のオファーを受けていかがでしたか。

毎熊:今泉監督と一緒に撮りたいという気持ちは以前から抱いていたので、うれしかったですね。実際にお会いしたのは……2015年でしたよね? 僕が『ケンとカズ』という作品に出演したとき、今泉監督が映画館にいらっしゃっていて「どうも〜」なんて挨拶した覚えが。

今泉:確か東京・品川の「キネカ大森」という映画館で、リバイバル上映してたときに見に行って、そこで監督の小路紘史さんと毎熊さんが上映後にトークをしていたんですよ。ご挨拶をと思って、話しかけに行って。

――そんな接点があったんですね。そういった経緯も経て今回、待望の今泉作品への出演というか。

毎熊:そうですね。今泉さんは、めちゃくちゃ映画を撮られていますけど、今回は城定さんが脚本を書いて、今泉さんが撮るというレアケースだと思うんです。それに関われてうれしいというのもありますね。

――台本を読んだ感想はいかがでしたか?

毎熊:実は最初に読ませてもらった台本と、最終的に撮影してできあがったものは、若干違う内容なんですよ。

――どういうことですか?

毎熊:“どこが”とはっきりと言葉にするのは難しいんですけど、最初に読ませてもらった台本は、城定さんの香りが強くすると感じたんです。活字から匂いがして(笑)。

今泉:ふはは(笑)。

毎熊:その上で撮影が始まったんですけど、大きな事件が起きるわけではない、平凡な日常の物語を今泉さんが撮影したらどうなるんだろうというのは、すごく楽しみでした。簡単に言えば、猫がいなくなる以外に、大きな出来事は起きない。だからこそ、最終的にどうなるかがまったく予想できなかったので、僕自身もワクワクしていましたね。

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「気遣いが上手すぎるかも」一言のセリフにこだわり

――まさに、なんでもない日常が描かれている作品ですが、見ている内に不思議と登場キャラクターそれぞれに感情移入していました。演技プランについては、何か話しましたか?

今泉:あんまり話してないですよね(笑)?

毎熊:話してはいないですね(笑)。でも重要なシーンは話しましたよ。そこですごく今回の演技プランが固まった気がします。

今泉:ラブホテルのシーンですよね。

毎熊:ホテルに行く前、広重の同僚で浮気相手でもある真実子(手島実優)がホテルで吐いちゃうシーンがあるんです。その後、広重は部屋でひとり、洋服についちゃったゲボを拭き取っているんですけど、真実子が戻ってきたときに掛ける第一声が「水飲む?」なんです。その間(ま)についてはすごく話をしましたね。いかようにも演じられる中で、まず僕はわりとスマートにセリフを発してしまった。それを受け今泉監督は「気遣いが上手すぎるかも」と仰ったんです。そのときはあまり意味がわからなかったんですけど(笑)。

今泉:あはは(笑)。

毎熊:でも実際に現場でOKが出たシーンを見てみると、広重のたどたどしさが伝わってきたんです。それが僕の中で、このキャラクターの方向性を決める決定打になったというか。

――なるほど。

毎熊:広重はすぱっと何かを決めることができない、優柔不断な男なんです。そういうニュアンスの空気感をあのシーンの会話が全部表現してくれていて。

今泉:僕が広重というキャラクターを面白がっていたんですよ。真実子が吐いているのが日常的なことだったら、毎熊さんが最初に演じてくれたのも間違いじゃなかったんですけど、ああいう状況になったときに、スマートに接することができないのが広重で、そこを描きたかった。でも本当にあのシーンでキャラクターをつかんでくれましたよね。

――全体を通して見ると、確かにあのシーンは広重の性格をよく現していますよね。

今泉:広重を器用だったり、どこか慣れている人にはしたくないっていうのは最初からありましたね。それはこの作品のどの人物に対しても言えることですけれど。
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1カットで撮影した緊迫感のあるシーンとは

――終盤、広重の妻の亜子、亜子と関係を持っている雑誌編集者・松山(井之脇 海)を交えた4人の話し合いのシーンも緊迫感が伝わってくる見事な内容でした。あれはどのように撮影していったのでしょうか?

今泉:テイクはけっこう重ねましたよね。

毎熊:最初から“1カットで撮影する”という話だったので、誰かが間違うと“もう1度”ということになっていましたね。10回も撮っていないと思いますけど。

――現場の臨場感は映像を通して伝わってきました。アドリブも飛び交っていたんですか?

毎熊:ほぼゼロですよね。

今泉:アドリブはないですね。全部、台本に書いてある通りです。

――セリフを叩き込んだ上での役者陣の名演だったわけですね。

今泉:1カットの撮影だと、編集で間を伸ばすとか詰めるとかはできないんです。役者さんの芝居が良くないと、編集でどうにかしていく部分もあるんですけど、あそこのシーンは“1カットで撮影する”と決めていたので、本当にちょっとでも気になるところがあれば、撮り直ししていました。OKになってもおかしくないテイクが出ても「もう1回」と言っちゃってたから、現場のみんなは困惑していたかもしれないですけど。

毎熊:いえいえ(笑)。でも座る位置とか細かい部分もけっこう相談しましたよね。

今泉:そうでしたね。この夫婦は近くにいた方がいいのか、とかは撮影しながら考えていったかな。先に僕の中に明確な答えが出てなかったんですよ。そこは実際に座ってもらいながら、試していきましたね。

――現場で徐々に構築していったんですね。

今泉:そうですね。そしてあのシーンの毎熊さんの難しさは、めっちゃ黙っているところですよね。そこは大変だろうなと思いながら(笑)。

毎熊:そうなんですよ。ほかの3人がヒートアップしていく中で、広重はひたすら黙っていますから(笑)。

――でもあの話し合いのシーンはすごく印象的でした。最後どうなるんだろうと考える中で、こうやって4人が交わっていくのかと。そして絶妙に交わってはいなくて。

毎熊:なにせ、一緒にいちゃダメな4人ですからね(笑)。

今泉監督が考える「映画と音楽の関係性」とは

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――J-WAVEは音楽との出会いを提供するラジオ局ということで、ここ最近、おふたりがハマっている音楽があれば教えてくれませんか?

毎熊:僕はブラックミュージックが好きで、よく聴いているんですけど、最近は藤井 風さんが好きなんです。YouTubeに上がっている動画をたまたま見て「誰だこの人は!?」と反応してしまいました。

――特に好きな曲は何ですか?

毎熊:まだちょっと新入りなので、具体的に好きな曲っていうのはちょっとあれなんですけど(笑)。

今泉:でもそれが1番すごいですよね。ものすごくリアルな感想というか。

毎熊:自分で邦楽のアルバムを買ったのは、恐らく10年ぶりです。藤井さんの音楽のベースには、クラシックとかジャズが流れていると思っているんですけど、それが琴線に触れたというか。配信で1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』をダウンロードして、カバー集(『HELP EVER HURT COVER』)も買っちゃいました。

今泉:僕は新しい作品に本当に疎いんです。なので、昔の楽曲を聴いています。全作品持っているのは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT。それと最近、BLANKEY JET CITYの「水色」という曲をよく聴いています。準備している映画のメインテーマとすごくリンクしているんですよ。主題歌に使えるかは、さまざま事情があり、難しいと思っているんですけど、その曲を聴いていると、映画の準備がしやすいんです。ほかにも、くるりとかを改めて聴いています。

――『猫は逃げた』の主題歌は、LIGHTERSによる「don’t cry」。そして音楽は元シャムキャッツの菅原慎一さんが手掛けていますね。

今泉:LIGHTERSは僕自身、何回もライブを見ていたわけではないんですけど、下北沢のイベントで見る機会があって。そこで“面白い”と思って、楽曲を書き下ろしてもらいました。「don’t cry」はどこか猫視点を感じることができて、映画にピッタリだと感じています。僕が監督した映画『愛がなんだ』の主題歌を担当してくれた、Homecomingsもすごく魅力的なバンドだなって。

――主題歌を聴くことで、映画のシーンがフラッシュバックするような体験もあると思います。今泉監督は「音楽と映画の関係性」をどのように考えていますか?

今泉:劇中にたくさんの音楽を使う必要はないと思っています。もともと、音楽を一切使わない映画も作っていたくらいなので。音楽をつけることと、つけないことは同じくらい大切なことだと捉えているんです。

――なるほど。

今泉:まず1回音楽がなくても、映画として成り立つものを作ることが監督としての役割だと思うんです。その上で編集して、音楽をプラスしていくという使い方をしないと、役者の芝居、そして音楽そのものに失礼だなって。足りないから音楽をつけるという感覚は僕の中になくって、一回フラットにして成り立つところに、どう音楽を絡めていくかという視点は大事にしていますね。

――どういった基準で楽曲を選んでいるのでしょうか。

今泉:悲しいシーンに悲しい曲を選ぶ、感動的なシーンに感動を誘うような曲をつけることはしないですね。そうすると、お客さんの気持ちが1つになってしまうから。僕は、シーンごとにお客さんの気持ちがバラバラで良いと思っていて。誰かが笑っていても、誰かが泣いていることもあるだろうし、そういうのはすごく意識しています。主題歌はときに大人の事情で決定する場合もあるので、そこは抗わないですけど(笑)。でも、自分で主題歌を提案できるときは、「こういうアーティストはどうですか?」と伝えるようにはしています。今回のLIGHTRSもそうですし、そういうのはこれからも極力やっていきたいですね。一方で大人の事情だったはずなのに、最高のアーティストが提示されることもある。そういうときは素直に「おお……!」と盛り上がったりもしています(笑)。

映画『猫は逃げた』の詳細は、公式サイト(https://www.lr15-movie.com/nekowanigeta/index.html)まで。

(取材・執筆・撮影=中山洋平、ヘアメイク:茂木美鈴、スタイリスト:カワサキ タカフミ)

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