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「痩せていないのは努力不足」ではない─女性アイドルの健康問題を振付師・竹中夏海に聞く

「痩せていないのは努力不足」ではない─女性アイドルの健康問題を振付師・竹中夏海に聞く

女性アイドルたちが抱える“見えざる健康問題”について、振付師の竹中夏海さんが語った。竹中さんは著書『アイドル保健体育』を刊行した。

竹中さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「meeth WORLD CONNECTION」。1月16日(日)のオンエアをテキストで紹介する。

アイドルは「健康」を前提に見られやすい

竹中さんは、アイドルの半世紀分のダンス史をWEB上で連載。連載の書籍化にあたり「アイドルの未来」を描きたかったが、現状ではアイドルの健康課題が置き去りにされている点に気づき、なかなか明るい未来を落としどころに持っていくことができないと思ったそうだ。

竹中:書籍化にあたり未来の方向に着地点を設けたいと思ったんですけども、明るい未来が想像しにくいなと感じてしまったんです。その理由の1つが、「彼女たち(アイドル)の健康課題をそのままにして文化だけを成熟・発展させるのは難しい」でした。まずは置き去りにさせている健康課題をクリアにさせてからじゃないと、未来の話はしにくいなと思ったのがきっかけで、『アイドル保健体育』を書きました。

玄理:なるほど。私はこちらの書籍を読むまで「アイドルを切り口にした保健体育の本なのかな」と思っていたんですね。だけど実際に読んでみると、アイドルの方たちに向けた健康への気遣いが綴られていたんですよね。「動いたあとはクールダウンが必要」「ライブ前の準備体操の仕方」「男性スタッフが多いなかでの生理の向き合い方」など、アイドルという職業に焦点を当てた内容が書かれていました。竹中さんはアイドル史を振り返るにあたり、アイドルの運動量がアスリート並にあると気付かれたそうですね。そんな現代のアイドルが抱える健康問題というのはどういったものがありますか?

竹中:周りに男性が多い環境なので、おっしゃっていただいたように生理の問題が多いですね。あとは、摂食障害になるのも9割が女性なんですよ。スタッフやファンに想像しにくい現実があります。

アイドルは“元気を与える存在”という認識で見られるため、「常に健康・元気であること」を前提にされやすいと竹中さんは語る。

竹中:彼女たちの健康そのものを、周りが意識しづらい状況というのは問題です。広く見ると、アイドルだけじゃなくて社会で働く女性全体に言えることなのかなとも思います。

玄理:間違いないと思います。私のマネージャーは男性だし、周りのスタッフも男性が多いです。ただ、私個人の性格もあるし、事務所は所属している方が女優さんばかりなのもあって、突然の生理に関しても「ナプキンを買ってきて」と男性に言いやすい環境ではあるんですね。だけど、同じ事務所のなかでもそういう風に言えない子ってきっといると思うんですよ。アイドルに関して言えば、踊ったり激しく動いたりする場面も出てくるわけじゃないですか。アイドルをやっていないとわからないつらさというのもたくさんあるんだろうなと感じましたね。

疲労度はプロのスポーツ選手並…でもケア不足

2010年代以降、日本は「アイドル戦国時代」と呼ばれる時代に突入。これまではソロ活動が主流だったアイドルたちがグループ単位で台頭するようになり、そこで“歪み”が生じたという。

竹中:グループアイドルが増えたことによって、他のグループとの差別化をはかるためにいろんなコンセプトで活動するようになったんですね。そして、そのなかで「ストイックなライブ」ブームが起こったんです。よく知られているグループですと、ももいろクローバーZですね。彼女たちはアイドル戦国時代の象徴的な存在です。

ももいろクローバーZは「アイドルなのに汗だくでダンスをする」「アイドルなのにMCなしで、連続で歌とダンスを披露する」といった、今までのアイドル活動を覆すようなパフォーマンスを披露し、世間に衝撃を与えた。

竹中:そういった活動内容が大きくなっていき、グループアイドルのライブ内容がどんどん激しくなっていったんです。その結果、グループアイドルの運動量が劇的に増えました。スポーツトレーナーとアイドルの施術をされている先生にお話を伺ったりすると、「(アイドルの)疲労度がプロのスポーツ選手並、もしくはそれ以上」とおっしゃっていたんです。なのに、世の中全体が「そこまで激しい運動をしていない」というイメージをアイドルに対して持っているから、「ケアをしてあげよう」という考えに至らないんですよね。

玄理:私もそのイメージを抱えていたんですよ。竹中さんの本を読んで、その実態を知ることができました。

竹中:もちろん、グループによって活動内容は異なってはいます。ただ、運動量が上がったにも関わらずイメージが追い付いていないためケアも追いつかず、歪みが生じている現実がありますね。

「痩せていないのは自分の努力不足」ではない

書籍の第三章では、『アイドルと摂食障害~「アイドル体重」という言葉の罪の重さ』という内容で、アイドルのダイエット問題にも切り込んでいる。

玄理:アイドル界だけじゃなく、一般の女性にも与えるダイエットの影響についてはどうお考えですか?

竹中:世界中、特にアメリカナイズされている国に多い問題らしいんですけども、「痩せましょう」「痩せることは美しい」というメッセージが溢れすぎているんですよね。

こうしたメッセージによって、女性たちは「努力で痩せられる」という思い込みを植え付けられていると竹中さんは分析する。

竹中:逆に言えば、「痩せていないのは自分の努力不足」ってことをすごく刷り込まれているんですよ。私自身、体型とか体重というのは自分の努力次第でどうにかなるものと思い込んでいました。

玄理:わかります。

竹中:身長とか生まれ持った顔立ちって、劇的に変えることができないじゃないですか。それなのに、体重と体型に関しては変えられるものだと思い込んでいる。それって、ダイエット産業が「変えられるもの」だって発信し続けているからなんですよね。その状況にまだ気付けていない状態なのかなって思います。アイドルというのは表に出る職業なので、世の中の女性よりもさらに体型と体重を意識してしまうんですよね。彼女たちがその意識を持ったままでいると、彼女たちを見ている人たちも「努力したら痩せられるんだ」って思ってしまいがちなんです。臨床心理士の方から「体型と体重は身長や顔立ちと同じような考え方でいたほうがいい」と言われたときは目からウロコが落ちましたね。

玄理:痩せやすい、太りやすいといったものは、顔立ちや身長と同様に“体質”だということですね。それなのに努力すれば痩せられるというメッセージが万人に向けて発信されている。それって大きな誤解だし、摂食障害や思ってもみなかった病気を引き起こす原因になるということですよね。

竹中:そうですね。

最後に玄理は、書籍がさまざまな人にとっての教則本になると語った。

玄理:アイドル業をされている方、その周りでお仕事をされている方、応援しているアイドルがいらっしゃる方、運動量が多い方、学校で体育の授業を控えている方など、広い層の方たちが楽しめる本なんじゃないかなと思いました。竹中さん、お話いただきありがとうございました!

『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「meeth WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは9時20分頃から。

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