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短歌を映画化、海外でも高評価の『春原さんのうた』 原作の歌人・東 直子が感じたことは

短歌を映画化、海外でも高評価の『春原さんのうた』 原作の歌人・東 直子が感じたことは

歌人・東 直子が、公開中の映画『春原さんのうた』の見どころを語り、2022年をテーマにした一首を披露した。

東が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」。ここでは、1月12日(水)のオンエアをテキストで紹介。

短歌から生まれた映画が公開中

杉田協士監督の映画『春原さんのうた』が公開中だ。今作は、東の短歌「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」(『春原さんのリコーダー』<筑摩書房>収録)から着想を得て作られたもの。すでに海外で話題となり、「第32回マルセイユ国際映画祭」のインターナショナルコンペティション部門でグランプリ、俳優賞(主演女優・荒木知佳)、観客賞の3冠を受賞。上映している映画館「ポレポレ東中野」が満席になることも多い話題作だ。
<あらすじ>
美術館での仕事を辞めてカフェでのアルバイトを始めた沙知(24)は常連客から勧められたアパートの部屋に引越しをする。そこでの新しい生活を始めた沙知だったが、心にはもう会うことの叶わないパートナーの姿が残っている。
映画公式サイトより)

クリス:作品のテイストが、国を越えてというか、空気感がとても独特だなと感じました。
東:説明をほとんどしない映画なんですよね。映像とちょっとした仕草から、いろんなことを(観客が)読み取ってくださいました。フランス以外にも、アメリカ、スペイン、ドイツ、韓国といったいろんな国の国際映画祭で上映されております。
クリス:昨年末に番組でゲスト出演していただいた映画プロデューサーの矢田部吉彦さんも、おすすめの1本だとおっしゃっていました。

「あわい」をたゆたう─短歌と映画の共通点

短歌の映像化はそう多くない。どのように作っていったのか、クリスは「杉田監督とは歌のバックグラウンドや東さんの思いを共有されたりしたのでしょうか?」と質問。

東:この歌についての具体的な説明はしていません。この歌を作ったのは1996年なんですけども、その頃に住んでいた街を杉田監督に見てもらいたいなって気持ちになったんですね。八王子市の南大沢を監督と一緒に歩いて、「ここが好きな場所なんですよ」「ここで幼稚園の送り迎えをしていました」みたいな話をしました。要するに、ただの散歩ですね(笑)。
クリス:その散歩は映画では反映されているのかしら。
東:具体的に結びついたというより、雰囲気を感じ取ってくださいましたね。
クリス:なるほどねえ。

映画について東は「余白がある作品」とコメントした。

東:「どういうことなのかな」って考えているうちに、観ている人それぞれの思い出が引き出されていくところがあるんじゃないかなと思います。
クリス:劇的に何かが起こって物語が進んでいくんじゃなくて、すごく大きなことがあったあとみたいな。誰にも見せない、誰にも会いたくないときってあるじゃないですか。そういう時間なのかなって映画を観ていて感じました。
東:何でもない時間の積み重ねなんですよね。夢なのか現実なのかわからない、「あわい」をたゆたっているようなところを、監督は映像で捉えていて。「あわい」を捉えるという部分では、短歌と(映画は)通じているのかなと思いました。

心に残った2021年の短歌をピックアップ

東は短歌コンクールの選者として、日々多くの作品を読んでいる。今回は、東が2021年に印象に残った歌を紹介した。

「来世では動物園の象になりあなたの孫に写生されたい」

クリス:こちらは2021年9月の歌とのことです。
東:瀬戸口祐子さんという方の作品で、NHKのラジオで『文芸選評』という番組があるんですけども、「象」をテーマに募集して寄せられたものです。この世であなたと親しい関係なりたかったけども、なれなかった。なので、生まれ変わったら象になってあなたの子孫である孫に写生されたいという歌ですね。
クリス:おもしろいですね。
東:なんという奥ゆかしさなんでしょうか。子孫との一瞬の出会いを独占したいという、慎ましい願いですよね。「来世では恋人になりたい」ではないんですよ。ねじれたような願望が慎ましくもあるけども、強いとも言えるような。心に打たれましたね。
クリス:テーマを決めて歌を作るっておもしろいですね。なんで象だったのでしょうか?
東:なんでだろう(笑)。いくつかテーマの候補があって、そのなかからNHKの方が選んでくださいました。このときは1時間以上象の歌ばかり詠んでいて、「こんなに象のことを考えたのは生まれて初めてかもしれない」って思いましたね(笑)。テーマを与えられると、日頃あまり考えていないことを意識するきっかけになるなと感じました。
クリス:たしかにねえ。

番組では他にも、「ミーアキャット」「発酵」「納豆」「病窓」などの言葉が綴られた歌を取り上げた。

寅年にちなんだ一首を詠む

『GOOD NEIGHBORS』では、2020年から東がその年に向けた歌を披露している。東は2022年の歌を詠み、内容を解説した。

「とりどりのひとりごとを聞いている寅の仮面をはずしたひとが」

東:寅年ということで。寅の仮面と言えばタイガーマスクですよね。今ってずっとマスクをして暮らさなければいけない状況ですけども、そろそろマスクを外せる世の中になるといいなという願いを込めました。タイガーマスクもひととき外して、いろんな人たちの思いを聞いている、という内容です。
クリス:まさか、タイガーマスクが出てくるとは(笑)。「とりどりの」っていうのは「いろんな」って意味ですかね?
東:そうですね。短歌もとりどりの独り言の1つだと思うんですけども、いろんな人の声を耳を澄ませて聞いていたいなという思いを歌に込めました。
クリス:なるほどね。この歌、今年の最後に詠むと、また違って感じたり聞こえたりしそうですね。ありがとうございます。

東の綴った言葉を町田尚子さんが絵にした絵本『わたしのマントはぼうしつき』(岩崎書店)も好評発売中。

J-WAVE『GOOD NEIGHBORS』のワンコーナー「TALK TO NEIGHBORS」では、さまざまなゲストから「とっておきの話」を訊く。放送は月曜~木曜の14時10分頃から。

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番組情報
GOOD NEIGHBORS
月・火・水・木曜
13:00-16:00