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父・手塚治虫がマンガのように飛び上がって…手塚 眞が明かす、心あたたまる思い出【映画『ばるぼら』】

父・手塚治虫がマンガのように飛び上がって…手塚 眞が明かす、心あたたまる思い出【映画『ばるぼら』】

手塚 眞の監督映画『ばるぼら』が公開中だ。原作は手塚治虫が描いた大人向けの同名漫画。稲垣吾郎、二階堂ふみがW主演、ウォン・カーウァイ監督などで知られるクリストファー・ドイルが撮影監督を務めた。

手塚は12月11日(金)、J-WAVEで放送中の番組『INNOVATION WORLD』(ナビゲーター:川田十夢)のワンコーナー「DNP GLOBAL OPEN INNOVATION」にゲスト出演。二階堂ふみやクリストファー・ドイルにオファーした理由や、稲垣吾郎から感じる品、そして父との心あたたまる思い出を明かした。

大人のファンタジー映画が作りたい。そのとき『ばるぼら』が浮かんだ

『ばるぼら』を観た川田は「最高でした」とコメント。数々の手塚漫画のなかから、なぜ『ばるぼら』を映画化をしたのかを聞いた。

『ばるぼら』本予告

【あらすじ】
芸術家としての悩みを抱えながら、成功し、名声を得、それを失い、破滅していく人気小説家-美倉洋介。
アルコールに溺れ、都会の片隅でフーテンとして存在する、謎の少女-ばるぼら。

ある日、美倉洋介は新宿駅の片隅でホームレスのような酔払った少女ばるぼらに出会い、思わず家に連れて帰る。大酒飲みでだらしないばるぼらに、美倉はなぜか奇妙な魅力を感じて追い出すことができない。彼女を手元に置いておくと不思議と美倉の手は動きだし、新たな小説を創造する意欲がわき起こるのだ。彼女はあたかも、芸術家を守るミューズのようだった。

その一方、異常性欲に悩まされる美倉は、あらゆる場面で幻想に惑わされていた。ばるぼらは、そんな幻想から美倉を救い出す。魔法にかかったように混乱する美倉。その美倉を翻弄する、ばるぼら。いつしか美倉はばるぼらなくては生きていけないようになっていた。ばるぼらは現実の女なのか、美倉の幻なのか。狂気が生み出す迷宮のような世界に美倉は堕ちてゆくのだった・・・。
映画『ばるぼら』公式サイトより)

川田:『ばるぼら』は、こういう時期ですけど、劇場で観てもらいたい作品ですね。
手塚:やっぱり映画館の大きいスクリーンがいちばん伝わると思いますね。
川田:いろいろな手塚作品があるなかでも、『ばるぼら』という難しい作品を映像化されたのはなぜでしょうか?
手塚:「手塚治虫であるかどうか」は特に決めていなくて、大人向けのファンタジー映画を作りたいということが、まずありました。「大人向け」というのは、子どもではちょっと難しいようなストーリーや、表現が少しエロティックであるとかですね。そういうものも全部含めたファンタジーができないかなと考えていたときに、この『ばるぼら』を思い出して、「ちょうどいいじゃないか」ということで企画にしたんですね。
川田:なるほど。それもまたすごく贅沢なお話ですね。
手塚:僕だから自由に選べるということもあったのかもしれません。
川田:『ばるぼら』が「大人のファンタジー」というのもわかります。
手塚:それと『ばるぼら』のなかには自分が今まで作ってきた作品に近い要素や、自分がやりたかった要素が全部そろっているんです。「これはやらない手はないだろう」という、そんな感じでした。
川田:それは僕も(手塚)眞さんの作品を拝見していて思いました。「虚と実のあいだ」というか、なにがイマジネーションなのか、なにが現実なのかという境目の作り方が眞さんならではだなと思いました。
手塚:『ばるぼら』って、そのようにもできている話ですからね。まるで自分が作るために父親が描いたんじゃないかっていうくらいの内容だなと思いました(笑)。

稲垣吾郎、二階堂ふみは品がある「僕がいちばん好きなタイプの俳優さん」

『ばるぼら』では、ばるぼら役を二階堂ふみ、美倉洋介役を稲垣吾郎が演じている。

川田:二階堂ふみさんのキャスティングは、眞さんの頭のなかにあったものなんでしょうか。
手塚:実はこの企画は5年前からやっていて、最初から二階堂さんの名前はありました。ただ、5年前は彼女が未成年。未成年の方にやってもらうにはちょっと過激すぎるなという思いもあって一時期は諦めていました。そうこうするうちに、俳優もなかなか決まらずに年月が経ってしまい、彼女が二十歳を越えて大人向けの映画にも出るようになって。これだったらもしかしたらやってもらえるんじゃないかと思って、思い切ってオファーしました。

撮影監督には、アジアで活躍するクリストファー・ドイルを起用している。

川田:眞さんは自分でもカメラを回せるし、照明も作れる人という印象があるんですが、あえて依頼した意図はなんですか?
手塚:この話をやろうと思ったときに、大事になるのは美倉洋介とばるぼらとの関係。「歌舞伎町という繁華街の前にいる2人をきれいに撮れるのは誰だろう?」と思ったんですね。そのときに真っ先に思いついたのがクリストファー・ドイルさんでした。彼が90年代にウォン・カーウァイ監督のもとで撮っていた映像は、街そのものがすごくすばらしい。言葉にするとセクシーだと思ったんですね。街や男女をセクシーに撮れるすばらしいカメラマンがほしいなと思ったんです。
川田:今回はちょっとダークファンタジーみたいなところもあって、どういう撮り方をするのかなと思いましたけど、やっぱり美しかったですよね。
手塚:汚れた世界、しかもダークな世界を下手な人が映してしまうと、ただ汚いだけの映像になっちゃうんです。そういう生々しさがいいという人もなかにはいるかもしれませんけど、僕は逆に、原作が手塚治虫だから、これは非常にロマンティックな世界じゃなきゃいけないと。要するに手塚漫画の絵というのは、きれいなんです。どんなにダークな話にしていてもやっぱり絵柄も線もきれいだし、かわいらしさのあるキャラクターも出てきたりするので、あんまり生々しいだけの現実感だけで作ってしまうと手塚治虫らしくなくなっちゃうなと、そういう懸念もありましたので、なるべくきれいに撮るためにドイルさんがベストチョイスでした。
川田:稲垣吾郎さんも役割としては奇天烈な役ですけど、どこかちゃんと品が残っていて、さすがだなと思いました。
手塚:稲垣さんにしても二階堂さんにしても、手塚漫画がよく似合う人ですね。立ち振る舞いもきれいだし、立ち姿もいいし、なんと言っても顔もいい。そして品がある。僕がいちばん好きなタイプの俳優さんたちなんですよ。だから本当に今回はすべてのことがいい条件でうまくそろったという感じですね。

音楽は、ピアニスト、ヴォーカリスト、作曲家である橋本一子が担当した。

川田:この曲がすごくあってましたね。
手塚:これもひとつの演出なんです。時代をいつだかわからない感じにしようと思ったときに、あえていま流行りの音楽ではなく、少し前の音楽を持ってきたほうがいいのかなと。特に新宿の繁華街が映ったときに、どういう音を合わせればいちばん活きてくるかなと考えたときに、ジャズだったんです。それも50年代から60年代ぐらいの、マイルス・デイヴィスがいちばん活躍していたような、そんな時代のジャズの演奏を合わせたらすごくいいんじゃないかと思いました。僕の映画をよくやってくださっている橋本一子さんがもともとジャズピアニストだったものですから、そのものズバリの「ジャズの曲をやってください」ということで今回お願いをして、とてもすばらしい曲を作ってもらいました。

父・手塚治虫とのエピソード

父の手塚治虫が漫画家として活躍するなか、「自分で映画を撮ろう」という思いはどのように生まれたのか、川田が尋ねた。

手塚:父親も含めて、ものを作り出す人が集まる環境で育ちました。家の隣にアニメーションスタジオもありましたから、そこに遊びに行くと、いろいろな大人たちが一生懸命、映像作りをしているんです。それを当たり前のように毎日見ていて「人間ってこういうふうに生きるんだな」と(笑)。本当はその人たちは特殊な人たちだったんですけど、僕にはその人たちが普通に見えました。
川田:そうなんですね。
手塚:「ものを作り出す」という環境自体が普通だと思っていましたから、自然と自分もそういうことを始めました。そのなかで「映画」というものに出会うのが早かったんですね。小学校に入ってすぐくらいにテレビで映画を観はじめて、自分が好きなのは漫画よりアニメより実写の映画という世界だと、かなり早い段階で自覚しました。小学校のころから映画監督になりたかったんですよ。実際に作り始めたのは、それこそ高校生になってからなんですけど、ずっとそこまで「映画を作る」ということを夢見ていました。

手塚:高校生のときに、8ミリフィルムを使って初めて映画を作った。誰にも見向きされなければやめようと思っていたが、「非常に運よく、みなさんがおもしろいと言ってくれて」と振り返る。コンクールで賞も受賞した。

「もうちょっとやってみようか」と思っているうちに、映画の世界に全部入ってしまったという感じです。だから自分の将来に悩んだり家庭に反抗したり、両親に逆らったりという暇がなかったし、そんなことを考えもしなかったです。
川田:自然とやっていた、ということなんですね。
手塚:そのまま今に至るという感じですね。

手塚が創作物を世に出したときの手塚治虫の反応は、どのようなものだったのだろうか?

手塚:よく覚えているのは、高校2年生で初めて作った映画がコンクールに入賞したとき、ちょうど父親が家にいたので報告したんですよ。その瞬間に、本当に漫画みたいにうちの父親が飛びあがって……。
川田:あはは(笑)。
手塚:それで抱きしめてくれて「よかった、よかった!」ってすごく喜んでくれたんですね。自分以上に父親が喜んでいるのを見て逆にビックリしちゃいました(笑)。もしかしたら手塚治虫という人は時代が違っていたら映画を作ったかもしれない。ただ、父親が育った時代はそんなに子どもが自由に映画を作ることなんてできないような時代ですから、それでせめて漫画を描くということだったのかなと思います。もしかしたら、映画監督になって映画を作りたかったという思いを、僕に少し託してくれていたのかなとも思いますね。
川田:手塚治虫さんが映画『ばるぼら』をご覧になったら、本当に喜んだでしょうね。
手塚:本人はいろいろとツッコミどころを持っているんじゃないかと思いますけど(笑)。ただ『ばるぼら』は幸いなことに海外の映画祭にもいっていまして、そのなかでいくつか賞もいただいているんですね。ですからまあ喜んでくれたんじゃないかと思いますね。

『ばるぼら』公式サイトはこちら。

『INNOVATION WORLD』のワンコーナー「DNP GLOBAL OPEN INNOVATION」は、各分野のエキスパートを招き業界トレンドをお届けする。放送は毎週金曜の21時15分頃から。

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2020年12月18日28時59分まで

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