ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文が、芥川賞作家・村田沙耶香とトークを展開。「言葉から生まれるイノベーション」について語った。
後藤と村田がトークを展開したのは、8月9日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーター。村田をリモート出演でゲストに招き、トークを繰り広げた。
後藤:輝かしい受賞歴で。
村田:ありがとうございます。
後藤:僕は『コンビニ人間』、そのときにすぐ買いました。
村田:うれしいです。
後藤:僕は芥川賞の選評を読むという趣味があるんです(笑)。文藝春秋の選評を10年以上前から読んでいたんです。なので芥川賞はずっとチェックをしていて『コンビニ人間』を読みました。本当に初歩的な興味ですけど、小説をいつから書こうと思ったんですか?
村田:小学校のころから書いているんです。あれを小説と言っていいのか……。すごくの遊びの文章なんですが、書き始めたのは小学校4年生か5年生か、それくらいのころです。
後藤:初めて誰かに読んでもらう瞬間はいつぐらいに訪れたんですか? 僕も曲は浪人のときに「音楽家になりたい」と思い立って曲を作り始めたんです。聴かせるのは大学に入ってから友だちに始めて聴かせました。
村田:私は最初、小学校の友だちに読んでもらったりしていたんですけれども、小学生って人間関係があるので、「女の子はウソで褒めるな」って気がついたんです。なので友だちには「見せる用」の小説を書いて、誰にも見せない本物の小説をコッソリ家で書くようになりました。
後藤:それはすごい。
村田:それで本気で書いたもの読んでもらったのは、大学に入ってからです。大学に入って純文学を書き始めて、勉強会のようなところに通うようになって、そこで初めて読んでもらいました。10人か20人くらいで感想を言い合うんですけれども、すごく賛否両論というか、最初に書いた小説から「気持ち悪い」という人と「これは好きだ」という人に分かれました。先生がいるんですが、先生が「みんなが『いい』っていう小説よりは、賛否が分かれてみんなが感想を言いたくなるような、みんなが気持ち悪くなる小説は、それはそれでいい」みたいになぐさめてくださったんです。それをずっと鵜呑みにして今でもやっています(笑)。
後藤:嫌なことを書いてくれる人をすごく信用しちゃうんです。「『書くこと』ってそういうことじゃん」みたいな。現実をただただ追認するためになにかを書いてるんだったら日記みたいになっちゃう気もするし。だから書くことでしかできないことをやらないと、書く意味がないんじゃないかと思ったり僕はしちゃっているんです。「最低なこと」はできはしないけど、書けるというのは書くことの魅力で、やったことも体験したこともないことを体験させられたり、読むまでは考えもしなかったようなことを考えさせられたりだとか、そういう魅力は本にあるなと思っているんです。
村田:私もそれは思います。子どものころってすごく本を読むのが好きだったんですけれども、子どもの向けの本は特に「きれいな内容」のものが多くて、それがすごく嫌いだったんです。『にんじん』(ジュール・ルナール著)という本があるんですけど、子どもが母親からめちゃめちゃ嫌な目にあって、最後はまったく救われずに終わる話だったんです。小説って今まで、ちょっとお説教っぽいものが多かったというか。結局「お母さんに愛されているんだよ」ってなって終わる小説ばかり読んでいたので、まったく救われず、最後まで愛されずというのに衝撃を受けたことがあったんです。それでたぶん「小説の世界は信頼できる」と思ったのが、書いたきっかけだと思います。
後藤:それは小学生のときですか?
村田:はい。
後藤:うわあ、ヤバい! ヤバいって言っちゃった……スゴいですね。
村田:(笑)。
後藤:「救いのない表現」ってあるじゃないですか。それを小学生のうちに発見できるのはすごいですよね。
村田:幸運ですよね。すごく幸せな気持ちだったし、大人は本当に信用できなかったけど、小説を書いている大人はこんなことまで書いているから信頼できる。すごく絶望をしている大人という人がいるんだと思って。学校の先生とかより、私にとって身近で信頼できる大人としていました。
後藤:僕もそんな体験したかったです。太宰 治を最初に読んだとき「暗っ」って思いました。こういう自己嫌悪ってなんだろうな?みたいな。それは僕は文学よりも音楽のほうがフィットできるというか、イギリスのレディオヘッドというバンドの憂鬱さのほうが自分の肌には合ったんです。
村田:それこそ大学のときに小説を教わった先生の宮原昭夫さんが「小説は楽譜を書いていて、読者は演奏家だ」という言葉を教えてくださったんです。その言葉を大事にして今も書いています。
後藤:僕も思います。表現は読み手や聴き手のほうが大事なんじゃないかなって、思うことが多いです。
村田:同じ小説を書いていても読む人によって全く違う音楽が流れるような、まったく違う演奏をするような、そういう感覚はすごくあります。読み手に「こうやって演奏してくれ」「こうやって聴いてくれ」と強制をするようなものよりは、自由に読んでもらえたほうがうれしいです。
後藤:僕もそこに共感します。「この歌詞の意味はなんですか?」って聞かれたりするんです。だけど、メロディーが僕の気持ちを翻訳するんだと思うんです。「それ(メロディー)は一体どんな想いか?」というのを言葉で探すほうが、僕の表現に近いというか。歌いたいことを歌っているというよりは、表したい音楽があって、それにハマる言葉を探している順序かもしれません。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-08-02/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
後藤と村田がトークを展開したのは、8月9日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーター。村田をリモート出演でゲストに招き、トークを繰り広げた。
恩師からの言葉を「鵜呑み」にして創作活動
村田は1979年生まれ、2003年にデビュー作の『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞、そして『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞を受賞。新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』も好評発売中だ。後藤:輝かしい受賞歴で。
村田:ありがとうございます。
後藤:僕は『コンビニ人間』、そのときにすぐ買いました。
村田:うれしいです。
後藤:僕は芥川賞の選評を読むという趣味があるんです(笑)。文藝春秋の選評を10年以上前から読んでいたんです。なので芥川賞はずっとチェックをしていて『コンビニ人間』を読みました。本当に初歩的な興味ですけど、小説をいつから書こうと思ったんですか?
村田:小学校のころから書いているんです。あれを小説と言っていいのか……。すごくの遊びの文章なんですが、書き始めたのは小学校4年生か5年生か、それくらいのころです。
後藤:初めて誰かに読んでもらう瞬間はいつぐらいに訪れたんですか? 僕も曲は浪人のときに「音楽家になりたい」と思い立って曲を作り始めたんです。聴かせるのは大学に入ってから友だちに始めて聴かせました。
村田:私は最初、小学校の友だちに読んでもらったりしていたんですけれども、小学生って人間関係があるので、「女の子はウソで褒めるな」って気がついたんです。なので友だちには「見せる用」の小説を書いて、誰にも見せない本物の小説をコッソリ家で書くようになりました。
後藤:それはすごい。
村田:それで本気で書いたもの読んでもらったのは、大学に入ってからです。大学に入って純文学を書き始めて、勉強会のようなところに通うようになって、そこで初めて読んでもらいました。10人か20人くらいで感想を言い合うんですけれども、すごく賛否両論というか、最初に書いた小説から「気持ち悪い」という人と「これは好きだ」という人に分かれました。先生がいるんですが、先生が「みんなが『いい』っていう小説よりは、賛否が分かれてみんなが感想を言いたくなるような、みんなが気持ち悪くなる小説は、それはそれでいい」みたいになぐさめてくださったんです。それをずっと鵜呑みにして今でもやっています(笑)。
「小説の世界は信頼できる」と村田が思った理由
後藤は村田の作品について「自分の奥深いところを触られた」と感じられるところが好きなのだと説明。「嫌なこと」をあえて作品にしていく意義について語り合った。後藤:嫌なことを書いてくれる人をすごく信用しちゃうんです。「『書くこと』ってそういうことじゃん」みたいな。現実をただただ追認するためになにかを書いてるんだったら日記みたいになっちゃう気もするし。だから書くことでしかできないことをやらないと、書く意味がないんじゃないかと思ったり僕はしちゃっているんです。「最低なこと」はできはしないけど、書けるというのは書くことの魅力で、やったことも体験したこともないことを体験させられたり、読むまでは考えもしなかったようなことを考えさせられたりだとか、そういう魅力は本にあるなと思っているんです。
村田:私もそれは思います。子どものころってすごく本を読むのが好きだったんですけれども、子どもの向けの本は特に「きれいな内容」のものが多くて、それがすごく嫌いだったんです。『にんじん』(ジュール・ルナール著)という本があるんですけど、子どもが母親からめちゃめちゃ嫌な目にあって、最後はまったく救われずに終わる話だったんです。小説って今まで、ちょっとお説教っぽいものが多かったというか。結局「お母さんに愛されているんだよ」ってなって終わる小説ばかり読んでいたので、まったく救われず、最後まで愛されずというのに衝撃を受けたことがあったんです。それでたぶん「小説の世界は信頼できる」と思ったのが、書いたきっかけだと思います。
後藤:それは小学生のときですか?
村田:はい。
後藤:うわあ、ヤバい! ヤバいって言っちゃった……スゴいですね。
村田:(笑)。
後藤:「救いのない表現」ってあるじゃないですか。それを小学生のうちに発見できるのはすごいですよね。
村田:幸運ですよね。すごく幸せな気持ちだったし、大人は本当に信用できなかったけど、小説を書いている大人はこんなことまで書いているから信頼できる。すごく絶望をしている大人という人がいるんだと思って。学校の先生とかより、私にとって身近で信頼できる大人としていました。
後藤:僕もそんな体験したかったです。太宰 治を最初に読んだとき「暗っ」って思いました。こういう自己嫌悪ってなんだろうな?みたいな。それは僕は文学よりも音楽のほうがフィットできるというか、イギリスのレディオヘッドというバンドの憂鬱さのほうが自分の肌には合ったんです。
「小説は楽譜」の言葉の真意とは
村田は、「小説は楽譜」という言葉に感銘を受けたというエピソードがある。その理由は?村田:それこそ大学のときに小説を教わった先生の宮原昭夫さんが「小説は楽譜を書いていて、読者は演奏家だ」という言葉を教えてくださったんです。その言葉を大事にして今も書いています。
後藤:僕も思います。表現は読み手や聴き手のほうが大事なんじゃないかなって、思うことが多いです。
村田:同じ小説を書いていても読む人によって全く違う音楽が流れるような、まったく違う演奏をするような、そういう感覚はすごくあります。読み手に「こうやって演奏してくれ」「こうやって聴いてくれ」と強制をするようなものよりは、自由に読んでもらえたほうがうれしいです。
後藤:僕もそこに共感します。「この歌詞の意味はなんですか?」って聞かれたりするんです。だけど、メロディーが僕の気持ちを翻訳するんだと思うんです。「それ(メロディー)は一体どんな想いか?」というのを言葉で探すほうが、僕の表現に近いというか。歌いたいことを歌っているというよりは、表したい音楽があって、それにハマる言葉を探している順序かもしれません。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-08-02/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
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2020年8月16日28時59分まで
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番組情報
- INNOVATION WORLD ERA
-
毎週日曜23:00-23:54