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『Pokémon GO』開発のNiantic、新作は「現実とフィクションの境界を溶かす」挑戦的なプロジェクト

『Pokémon GO』開発のNiantic、新作は「現実とフィクションの境界を溶かす」挑戦的なプロジェクト

ライゾマティクスの真鍋大度が、『Pokémon GO』や『ハリー・ポッター: 魔法同盟』など大ヒットARゲームを開発した、Nianticのアジア担当副社長・川島優志さんと対談。『Pokémon GO』の制作秘話や次回作についての構想を明かした。

真鍋と川島さんが登場したのは、8月2日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。真鍋は同番組の第1週目のマンスリーナビゲーター。

エイプリルフールのジョークが『Pokémon GO』のきっかけに

2016年7月に日本でリリースされた『Pokémon GO』。真鍋は「街の風景が変わった」と思うくらいのインパクトがあったと振り返る。

真鍋:『Pokémon GO』はまさに社会現象で、みんながやっているアプリって当時はなかったですよね。川島さんはこのゲームにどう関わっていたんですか?
川島:『Pokémon GO』のプロジェクトは2014年に立ち上がりました。当時NianticはGoogle(グーグル)の社内ベンチャーで、僕が最初の日本人だったんです。グーグルはエイプリルフールにいろんな企画をしていて、2014年に「ポケモンチャレンジ」という企画をしました。Googleマップを活用したもので、世界中さまざまな場所にポケモンが現れます。「151匹全てのポケモンを見つけられたら、グーグルの社員として雇います」というエイプリルフールのジョークだったんです。

川島:この企画のプロモーションビデオがすごくよくできているんです。砂漠でポケモンを追いかけ回したり、海でポケモンを釣ったり。当時、僕はデザイナーのひとりとして、Nianticの初めての位置情報ARゲーム『Ingress』を制作していました。「ポケモンチャレンジ」の動画を見たときに、Nianticならこれを実現できるなと感じたんです。

Niantic社内では当時、『Ingress』の次のタイトルを検討していた。川島さんは、Niantic CEOのジョン・ハンケに「ポケモンチャレンジ」の動画を見せ、『Ingress』と『ポケモンチャレンジ』を組み合わせることを提案。ジョンも「それだ!」と快諾したそうだ。その夜に川島さんが「ポケモンチャレンジ」を制作したエンジニアに連絡を取り、株式会社ポケモンと引き合わせてくれるようにお願いしたという。

川島:そのエンジニアが、後にNianticに加わります。『Pokémon GO』プロジェクトを率いてくれるリーダーの野村達雄です。その後、Nianticはグーグルから独立するなど、本当にいろんなことがありましたが、無事『Pokémon GO』を2016年に出すことができました。

新しい場所を訪れると、それだけで人は幸せを感じられる

Niantic CEOのジョン・ハンケは、Google Earthの開発者。パソコンの前にいながら世界中を旅できるようなプログラムを作っていた。しかし、そのプログラムを作り上げたときに、実際にその場所に訪れなければ感じられない、目には見えない力が現実世界にはあると考えるようになったという。

川島:Nianticは「自分の足で、実際の場所へ行ってほしい。そこで世界を新しい目で見て感じるきっかけにしてほしい」という願いがあります。自身の子どもが天気のいい休日に一日中ソファーでゲームをしている姿を見たジョンは、「彼をなんとか外に連れ出せないか」と思いました。それならばとゲームの力を逆手に取って、人を家の外に出すこともできるのではないかと考えた結果、生まれたのが『Ingress』です。
真鍋:本当に『Ingress』はめちゃくちゃやりました。海外の旅では行くところが決まっていてそんなに出歩かなかったんですけど、『Ingress』をやるようになって、いろんな場所に小さなストーリーがあるなと思って。家の周りの小さなお地蔵さんもそうですけれど。
川島:最近の科学的研究において、新しい場所を訪れると、それだけで人は幸せを感じるという論文も出てきています。つまり、いつもと違う道、まだ行ったことのない路地を通るだけでも少し幸せになる。まさに、真鍋さんが言う“発見”ですよね。「こんなところに、こんなお店があったのか」とか、街の隠された歴史を知れたりするんですよね。それが世界と繋げ直すような体験になったりする。僕たちはそういう変化を起こせたのかなと思います。

川島さんは『Ingress』のプレイヤーとも交流がある。とある女性から伝えられた、印象的な感想とは?

川島:東北で『Ingress』のイベントをしたときに、ある女性プレイヤーが僕のところに来て、半分泣きながら「自分はギラン・バレー症候群で体が一時麻痺していたんですけど、友人の勧めで『Ingress』を始めたら、少しずつ歩けるようになって、今ではこんなイベントまで来られるようになりました」と伝えてくれました。世界各国からうつ病や自閉症の子どもが外に出て、友だちができて笑顔で元気になったという手紙が届いています。僕自身もプレイヤーの結婚式に呼ばれたり、証人になったりしたこともあるんです(笑)。
真鍋:すごい! ゲームでプレイヤーの人生を変えてますね。
川島:Googleマップのように人を迷わせないアプリを作っていた僕たちだけど、今度は人をうろうろさせるようなアプリを作っている。そういうのって巡り合わせとして面白いし、矛盾しているようでもあるけど、世界の素晴らしさと人々をもう一度テクノロジーの力で繋げたいという思いは、僕たちが共通して持っているんですよね。そういうテクノロジーの使い方が真鍋さんにも響いたんじゃないかなと思います。

新作は、没入型の演劇体験ができる劇団と一緒に制作

Nianticは次の展開として、没入型の演劇体験ができる公演『Sleep No More』で知られる劇団「Punchdrunk」とパートナーシップを結び、新たなプロジェクトを開発中だ。

『Sleep No More』

川島:通常の舞台は、ステージと観客が向かい合う感じですね。「Punchdrunk」の『Sleep No More』は、工場や倉庫みたいな場所を舞台に、観客がその場所に直接入り込んで、演者はそれぞれの場所で演技をしているんです。観覧者はマスクを着けて実際に動き回りながら、いろんな場所で起こることを体感するような体験型ショーです。
真鍋:僕もニューヨークで2回くらい『Sleep No More』を観たんですけど、脚本の作り方とかもすごく難しいだろうなとか、観客をどう動かすとか、難しい設計をエレガントに達成していて本当に衝撃を受けました。さらに「Punchdrunk」とNianticがプロジェクトをすることが衝撃的ですね。
川島:かなり挑戦的なプロジェクトです。でも、今は何にも言えなくて(笑)。ちょっとゾッとするような体験というか、今までにない挑戦をしていますね。現実とフィクションの境界を溶かしていくような、自分の身の回りにある世界がミステリアスな空間にどんどんなっていくような、不思議な体験です。もしかしたら物議を醸すかもしれないくらいの一歩踏み込んだものになると思います。ぜひ、いろいろ想像してもらえたらと思います。

そして、川島さんは「ここには未来がある」と続ける。

川島:現実世界の中で、どういう風に演者と観客の関係性が変わっていくのか。言葉で説明するのが難しいところもありますが、「Punchdrunk」が目指している世界がNianticと一緒に世界中へ届くような試みになればいいなと思っています。

他にもNianticは、同社のReal World Platformをつかった新作ARゲーム『CATAN - World Explorers(カタンの開拓者たち)』も開発中だ。

不自由がないところでは、イノベーションは起きにくい

新型コロナウイルスの感染拡大が世界中に広がっている今、川島さんは、世界からも人々からも引き離されてしまうこの状況を「断食のよう」だと表現する。

川島:コロナ禍を断食と軽く言ってしまうのは語弊があるかもしれないけど、断食が終わると普通に戻っちゃうんですよね。ただ、戻るんだけど、食べ物に対する感覚だったり味覚だったり、そういうのが少し変化することはあると思います。新型コロナウイルスのワクチンが開発されて世界が元通りになるかもしれないし、もう以前のようには戻らないかもしれない。誰もこの世界がどうなっていくかを正しく捉えられる人はまだいないけれど、いずれにせよ今回の体験は断食のように感覚を変えて、たとえ普通に戻ったとしても何かの変化に繋がっていくんじゃないかと思います。

川島さんは「あと数年すると、実際にその場所にいなくても、相当現実に近い体験が提供できる世界が訪れると思う」と予測。続けて「そのときに、僕たちがどう考えるかがすごく興味がある」と話す。

真鍋:今はみんなが模索していますよね。
川島:すごくみんなが彷徨っているなと思います。もしかしたら無駄なことをしているんじゃないかと思うときもあるかもしれないけど、そういうことも最後には目的地にたどり着くために一番大事な道だったり、実は最短距離だったりすることってあると思うんですよね。未来にとってはすごく大切なことなんじゃないかと。
真鍋:この番組はこういう状況になったときに始まったので、毎月価値観というか状況に対する考え方がすごく変化していて、こうやって遠回りしてあっちこっち行って。でも、僕もなるべくプラスに考えられるようにしています。
川島:“ものづくり”ってそういうところがありますよね。何不自由ないところではイノベーションは起きにくいかなと思っていて、何か制限があったり、難しいことがあったり、足りなかったり……そういうときに、それを何とかしようとすることでイノベーションが起きるんじゃないかと思います。最初から答えにはたどり着かないというかね。
真鍋:本当にそう思います。

現在Nianticは、世界中のプレイヤーの力を借りてスキャンし、未来のARマップを構築しようとしている。参加条件は、レベル8以上の『Ingress』エージェント、またはレベル40以上の『Pokémon GO』トレーナーであること。川島さんは、「興味のある人は、ぜひ未来のARマップ制作に協力してほしい」と呼びかけた。

番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。

・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-08-02/

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

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2020年8月9日28時59分まで

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番組情報
INNOVATION WORLD ERA
毎週日曜
23:00-23:54