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「渋谷中の好きな服を集めて店を作る」も可能に? テクノロジーが進化させる街とエンタメ

「渋谷中の好きな服を集めて店を作る」も可能に? テクノロジーが進化させる街とエンタメ

まだまだ「画面の中の出来事」という印象もあるテクノロジー。しかし、実際の街がおもしろくなる取り組みも進んでいる。「5G、XRが創るエンターテインメント新時代」をテーマに、AR三兄弟の川田十夢と、KDDI株式会社ビジネスインキュベーション推進部長でKDDI ∞ Labo長の中馬和彦が語り合った。

2人が登場したのは、10月9日(土)に開催したイベント「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI」(通称「イノフェス」)。このイベントは、「テクノロジーと音楽で日本をイノベーション!」をテーマにJ-WAVEが主催する大型クリエイティブ・フェスティバル。6回目を迎える今年は、「ACTION FOR A NEW ERA!」をテーマに、豪華トークセッションとテクノロジーで拡張したライブパフォーマンスをお届けした。

バーチャル渋谷とは?

エンターテインメントビジネスの新規事業責任者としての顔を持つ中馬が、新規事業のひとつである配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」について解説した。

中馬:渋谷区と一緒にバーチャル空間上にもうひとつの渋谷を作って、いまはコロナ禍でコンサートとかいろいろなことができないところを盛り上げたりしています。
川田:ライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の宇川直宏さんがバーチャル渋谷内でクラブめいたことをやっていました。
中馬:クラブもできますし、コンサートやフェスもできます。
川田:DJを呼んでいましたよね。
中馬:この前はニーナ・クラヴィッツを呼んだんですよ。呼んだといっても、アバターでニーナ・クラヴィッツがプレイしていて、実際はロシアにいらっしゃるんです。
川田:それもバーチャル渋谷ならではですよね。
中馬:たぶんコロナ禍にならなかったら、こんなことやらなかったんじゃないかなと思うんです。当然ニーナはロシアから来てもらえないし、でもVR空間に渋谷もあるしDOMMUNEもあるし、アバターだって作れちゃうということで、本当に普通のフェスみたいに盛り上がっていました。
川田: DJがちょっとふざける感じがバーチャル渋谷でできていましたよね。あれがすごく面白かったです。
中馬:ニーナが急に大きくなったり小さくなったり(笑)。それってリアルではできないじゃないですか。
川田:ちょっと歩いてどこかに行っちゃったりしてたでしょ(笑)。
中馬:そうです、そうです。
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中馬和彦

川田:あれは面白いですよね。バーチャルの仕組みってそういう遊びの要素がないとちょっとしんどいなと思います。
中馬:リアルでできるものをバーチャルに“置き換える”と、たぶんデグレード版というかダウングレードしたものができるんですよね。「リアルで見ればいいじゃん」という話になるわけです。でも、バーチャルでしかできないことをバーチャルで試すと、新しいアイデアやおもちゃがわいてくるんです。
川田:街に行って余白を見つけて、じゃあ「かくれんぼやろう」みたいなことをバーチャル内でもやりたいですよね。
中馬:渋谷でゲーム『スプラトゥーン』とかやりたいじゃないですか(笑)。ゲームだからできるんだけど、もしかしたら実際の街でやってもいいかもしれない、みたいなイマジネーションはバーチャル空間でトライすることで「リアルでもできるな」とか「これ組み合わせたら面白いかも」みたいな話になるんです。
川田:バーチャルと現実をただ別々のものと考えるよりは、お互いに同じ方向を向いていて行き来できるのが面白いなと思います。

テクノロジーで、街はどのようにおもしろくなるのか?

「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」が、10月16日(土)から10月31日(日)まで開催された。2020年も開催され、40万人が参加して盛り上がったイベントだ。2020年のハロウィンは渋谷区長の自粛願いの呼びかけもあり、参加者はステイホームをしながらバーチャルハロウィンを楽しんだ。詳細は公式サイトまで。

中馬:バーチャル渋谷はもともとバーチャルな渋谷が作りたかったわけではなくて、渋谷の街を拡張したかったんです。渋谷の街でたとえば「かくれんぼをしたいな」と思っても「車が走っているからひかれちゃうし」みたいになっちゃうじゃないですか。だからそこをバーチャル空間の体験とリアル体験をハイブリッドでやれるような環境を作りたいなというのがもともとのコンセプトだったんです。ですが、コロナ禍になってしまって、街自体の機能が停止してしまったので、じゃあコンサートができないアーティストさんやいろいろなフェスのイベントなどを一旦バーチャル空間でやろうかという形で2020年はやっていたんですけど、今年はこういう形でお客さんもちょっとずつ入れられるようになったので、もうちょっと進化してもいいかなと思っていて。本来あったリアルとの連動みたいなのをやろうと思っているんです。
川田:それは面白そうです。街に行ったときに接点があったり、バーチャルを介した街の関わり方があったり。中馬さんはファミコンやってました? ファミコンに裏技があったでしょ? もし裏技が街に隠れているとしたらめっちゃ行きたいし、バーチャル側からも現実に影響を与えられるなにかしらがそこに潜んでいたら楽しそうですよね。
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AR三兄弟の川田十夢

中馬:バックドアですね。実は2022年3月にリニューアルするんです。ひとつの事例として、渋谷の街にはパルコさんやいろいろなセレクトショップがありますが、リアル店舗の在庫は一般的にネットで見られても買えないじゃないですか。そういうものが全部API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)定義されるんです。たとえば十夢さんが「ストライプが好きだから渋谷中のストライプシャツを集めて店をやりたい」とバーチャル上にストライプ専門店を作ります。実際の在庫はすべてそれぞれの渋谷の店舗からリアルタイムで引いてきている、みたいなことができるようになります。
川田:自分のセレクトショップが作れちゃう。
中馬:そうです。ライブもいまはプロの方に開放しているんですが、本来の渋谷はストリートミュージシャンがけっこういらっしゃるので、彼らに門戸を開放したいなと。個人が街にダイブしてバーチャル空間でライブして、実際に投げ銭をもらって稼げるみたいなこともできたらいいなと思っています。
川田:ストリート商売をバーチャル上でやってもいいわけですもんね。
中馬:スクランブル交差点で人がやけにスマホをかざしていて、「なんだろう」と思ったら有名なストリートライブをバーチャル空間でやっているのがリアルで観られると、そういうこともあっていいかなと思います。
川田:XRにおけるARの役割が玄関や窓みたいになりますね。行き来して、ちょっと覗くというか、双方が見えているというかね。
中馬:見えて「あ、いいじゃん」と思ったらそのままダイブインしてその場で聴いてあげたらいいんです。

73社による「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」

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auと渋谷区観光協会・渋谷未来デザインによる三者共同プロジェクト「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」について中馬が解説した。

中馬:バーチャル渋谷でコンサートをやって盛り上がると、渋谷で店舗をかまえているみなさんから「バーチャル渋谷にも店を出せませんか」という話が続々ときたんです。シアターからも「いまお客さんを入れられないんですけど、バーチャル渋谷でシアターをオープンできませんか」という話がきました。僕らは渋谷区と一緒に作ったんですけど「みんな集まってもらって一緒に作ればいいじゃないか」と思ったので、パートナーシップというかコンソーシアムを作ったんです。「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は気が付いたら73社になっていました。いつの間にか渋谷のリアルの人たちが、渋谷でできなかったこと、本当はこういうことをやりたかったんだけど最近失われたもの、実はこれからチャレンジしたいものなどを、渋谷のバーチャル空間だからやりたいみたいな話をいまやっている場所なんです。
川田:資本関係や会社間の関係とか、業界団体ありきじゃないのがいい。「この指とまれ」みたいに、子どものときにその場にいる人たちと遊びを考えたようなダイナミクスさがありますね。
中馬:渋谷に対する想いが強い方が多いんです。そういう熱量をそのまま受け取らないといけなくて。渋谷で最も大きな会社や関係者がいらっしゃるのは東急さんだと思いますが、東急電鉄さんが関わったらやっぱりそれなりに盛り上がります。でも別に東急さんが入るからいいわけじゃなくて、東急さんのなかで渋谷にずっと携わってきた想いのある方がいます。燃え上がるような想いのある方。そういうAさんやBさんが入ることがすごく大事。

中馬は、街づくりには多くの人の力が必要になってくると解説した。

中馬:街は僕らKDDIの1社ではできないんです。東急さんですらもできなくて、街は特定のところで染め上げたらたぶんつまらないと思うんです。渋谷にみんなが行くのは、実は奥路地のほうにある個店が楽しかったり、レコード店があったり、そういう個性があるから。「渋谷になにかを探しに行く」ということだと思うんです。ビジネスも同じような感じになってきていますね。

フィーリングが合う人との「共創」が大切

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フィーリングを有機的に作っていくことの大切さについて語る中馬氏は、世界で初めて大企業の事業改革や新規事業創出をミッションとする組織に特化する インキュベーションセンター「ARCH」においても、重要な役目を果たしている。

川田:エンタメにおける「共創」が得意な中馬さんですが、虎ノ門ヒルズにあるインキュベーションセンターARCHでメンターとして活躍中です。

中馬氏はARCHの特徴は「日本の各産業をリードする大企業だけが入居していて、全員新規事業担当者で、必ず新しいことをやる部門のメンバーから責任者までいること」だと解説した。

中馬:みんな業態も背負っているものも違うんだけど「新規事業を立ち上げるぞ」という役割だけは全員一緒という。
川田:これは大きいですよ。僕はあるミシン会社にいたんですが、ミシン会社のなかで新規事業をやる人って僕しかいなかったんです。
中馬:孤独でしょ(笑)?
川田:孤独です(笑)。新規事業というのはやっぱり会社のなかで見るとちょっと変わった人たちでしょ? 会社が育てた事業がありながら新しいことをやるって、社内ではなかなか珍しいことだけど、その場所には同じ気持ちの人たちが 集まっている。 ゼロを1にしたいという気持ちの人が集まっている時点で、かなりいいですよね。説明がいらないというか。
中馬:全員が悩んでいるんですよね。頭を抱えてますよ(笑)。

「フィーリングの合う人となにかをやってみる、これに尽きる」と語る中馬氏によれば、チームを作る際には必ず“核”になる人物が自然発生的に出てくるのだという。

中馬:Mさんという方がいるんですが、彼が世話好きなんです。いろいろな人にとりあえず喋りかけるんですが「この人はこれを困っていた」とか「あの人に会いたい」というのをずっと紹介して周るので、気が付いたらみんな必要なところで仲間になって「一緒に事業を作りましょう」みたいな感じになっていくんです。役割が決まっていないなかでやるのに、不思議と役割ができるんです。

また、中馬氏はコラボレーションの鍵はなにかと問われると「人」だと回答。その重要性を説いた。

中馬:会社のネームバリューでも立場でもなくて、ちゃんと「この人だったらやってくれるかどうか」と人を見分けられるかどうか。僕はスタートアップの投資をしているのでよく言っているんですけど「大企業と話すときに企業名を選ぶな。人の顔が見える会社を選べ」と言っているんです。「この人」という顔が立っている会社というのは必ず権限委譲がされているということなんです。企業というのは組織で仕事するから普通は個人名が立たないんですが、個人名が立つということは逆にそういうことなので。そのあたりを意識して協業を仕掛けるとうまくゼロが1になる確度が高まると思います。

ARCHでは会員同士の交流会や、新規事業に対して企業の垣根を超えて意見交換が行われるピッチ大会など、有機的な繋がりを生み出すイベントが数多く行われている。ARCHの詳細は公式サイトまで。

・ARCH公式サイト
https://arch-incubationcenter.com/

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J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI
10月9日(土)