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ゴスペラーズ・北山陽一、「音楽の力」という言葉に懐疑的だったが…震災後に出会った曲で変化

ゴスペラーズ・北山陽一、「音楽の力」という言葉に懐疑的だったが…震災後に出会った曲で変化

J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』。毎月第3日曜は、震災復興プログラム『Hitachi Systems HEART TO HEART』(ナビゲーター:GAKU-MC)をお届けしている。

7月19日(日)のオンエアでは、ボーカルグループ・ゴスペラーズの北山陽一が登場。災害の記憶を風化させない方法について考えた。


■コロナ禍で相次ぐ災害―僕らに何ができるのか

北山は東日本大震災後、一般社団法人Always With Smile(AWS)アカペラプロジェクトを立ち上げ、2011年から宮城県気仙沼市や女川町で定期的にアカペラ教室を開催するなど、災害復興支援に熱心に取り組んでいる。

GAKU-MC:新型コロナウイルスの収束も見えないまま、雨による災害が発生しています。北山さんはこの状況をどう見られていますか?
北山:みんな散々削られて余裕がないなかで、こういう災害が起こり、東京にいる僕らは「ここで何を言えるのか」「ここで何ができるのか」を突きつけられているような感じがします。もちろん、実際に被害に遭われている方はそれどころではなく大変だと思うので、支え合っていけたらいいなと思っています。


■震災前に、押し寄せる津波のスピードを体感していた

GAKU-MCは、岩手県釜石市鵜住居にオープンした津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」に勤務する川崎杏樹さんを取材した。

東日本大震災当日、津波が押し寄せるなか、600名もの児童・生徒たちが高台へと自主避難した。1人の犠牲者も出さなかったこの出来事は、“釜石の奇跡”と呼ばれている。川崎さんは、自主避難した子どものなかの1人だ。大学の卒業論文のテーマに防災教育を選んだ川崎さんは、この春から震災の伝承施設の語り部となった。川崎さんが「あの体験があったから助かった」と語る、防災教育について訊いた。

川崎:私たちは東日本大震災の前に、防災教育の一環として実際の津波の速さ・時速36キロメートルを体験していました。津波の怖さを知るためにです。先生が広い校庭でその速さの車を運転して、生徒が追いかけられるという体験です。津波の映像などで「津波はこのくらいの速さで襲ってくるんだ」と教えられても、おそらく分からないと思いますが、身をもって津波の速さを体験することで(それをより現実として実感できます)。

他にも校舎を使い、過去に起こった津波の高さからヒモを地面に垂らし、生徒たちがその高さを見上げるといった、より現実的な防災教育が行われた。川崎さんは「あんな速さで、あんな高さで津波がくるという意識が体に入り、(急には)逃げられないという実感を持っていた」と振り返った。

川崎さんの話を聞き、北山はこれらの取り組みに驚いた様子。

北山:時速36キロメートルって、100メートル競走の世界レベルですよね。
GAKU-MC:ウサイン・ボルトが時速40キロメートルくらいと言われていますからね。
北山:津波から逃げることは、世界レベルのアスリートを連れてきて鬼ごっこをして勝てるかって話ですから。
GAKU-MC:しかも、津波は100メートルじゃ済まないですからね。
北山:この防災教育はよくできているなと思いました。
GAKU-MC:ただ教室の中で先生が教えるのではなく、説得力やアイデアがその授業に詰まっていたんだと感じました。
北山:川崎さんのような方が、自分の成功体験を自ら勉強して、その意味を未来に向けて再解釈していると感じ、それはすごく大事なことだと思います。たとえば「これがよかった」みたいに引き継ぎに入ると、「なぜそれが引き継がれるくらいの価値があったんだっけ?」となる場合がけっこうあります。それはどういう組織でも、どういう団体でも。でも、川崎さんがやっていることは、「ちゃんと意味があることなんだよ」ってことを強めに発信しているような気がします。津波を恐怖から伝えていこうとする意思が感じられることに希望を感じました。

Hitachi Systems HEART TO HEART

■きちんと震災や災害を知れば、それに備えることができる

「いのちをつなぐ未来館」の川崎さんは、自身の使命感についてこう話す。

川崎:自分が今こうして生きて働けているのは、東日本大震災のときに助かったから。そして、助かったのは防災教育があったから。私は防災教育のおかげで今も生きていられることを、毎年3月11日に実感します。それは防災教育のおかげだと今の仕事をしながらも感じているので、防災教育をやっていてよかったと思います。3月11日の津波から助かった身として伝えられることは「ちゃんと備えたら助かることができるんだ」ということ。私たちが生きていることは、その証明にもなると思います。

川崎さんの目標は「災害で犠牲者を誰も出さないこと」だと続ける。

川崎:きちんと震災や災害について知っていれば、それに備えることができるので、「備えていれば助かる」としっかり伝えていきたい。近年は災害が多く、備えるのはどの災害にも当てはまることです。それを私の経験を通じてみなさんにお伝えして、備える大切さを少しでも感じていただけたらいいなと思っています。

川崎さんの話から、北山は「川崎さんが大事な人材だ」と話しつつ、「川崎さんの意思を受け取る側が気を付けなければならないことがある」と言及する。

北山:たしかに防災教育はすごく大事で、それがあったから彼女は助かったと思います。それは事実としてすごく大切なことだけど、防災教育が万能ではないという側面もちゃんと受けとめる必要があります。僕らが彼女の体験から学ぶべきことは、防災教育には災害に対して自分で考えるきっかけを与える効果があるということ。単に防災について知っているだけ、教えてもらっただけ、それだけでは実際に災害が降りかかったときに、一歩目が遅れると思います。想像力を持って、自分の受けた防災教育をかみ砕いて自分のものにすることができる人が増えないと、防災の効果はなかなかでてこないと思います。だから、受け取る側が彼女の思いをしっかり受けとめて、ちゃんとかみ砕いて、みんなで考える社会作りが必要だと思います。
GAKU-MC:災害は1回勝負だったりするじゃないですか。だから、本当は相当な予行演習を積む必要がありますよね。
北山:あまり「防災教育がすごい」と言い過ぎると、結局彼女に全てを任せることになってしまうけど、彼女が全てを背負っていいことではないですよね。本当は僕らが平等に受け持たなければならないことだと思うので、川崎さんの話ってすごく希望があって応援したいと思うんですけど、応援の仕方を周りの人で盛り立てていくという意味でも、考えなければいけないと感じました。

■工夫次第で音楽がいろんな力になれる

GAKU-MCは「災害の経験の共有方法のひとつとして音楽の力があると信じたい」と語る一方で、北山は「音楽の力」という言葉があまり好きではないと明かす。どういった理由なのだろうか。

北山:「音楽の力」ってすごく難しい言葉だと思っています。音楽が鍵穴に合えばすごい力を発揮するわけだけど、それに興味がない人にとってはある種で毒になることもあるような気がします。だけど、東日本大震災後に、すごく勇気をもらったことがあります。それは千住 明さんのイベントに出演して、『坂道のうた』という曲と出会ったときです。

合唱曲『坂道のうた』は、東日本大震災で被災した人たち話をもとに「津波がきたら高いところへ逃げなさい」という教訓を100年後に語り継ぐため、覚 和歌子が作詞し千住 明が作曲した1曲だ。この曲と同時に発表された大船渡保育園園歌『さかみちをのぼって』は『坂道のうた』のサビで構成されている。

北山:幼稚園の園歌として、『さかみちをのぼって』という歌詞を入れることによって、楽しく歌っていながら「坂道を登っているんだ」という意味付けを小さい頃から音楽として刻んでいて、「こういう風に音楽で寄り添うこともできるのか」と感じました。僕は音楽にどれだくらいの力があるのか、と少し否定的だったんですけど、工夫次第で音楽がいろんな力になるんだと教えていただきました。

北山は今年、東日本大震災で大きな被害を被った岩手県山田町に新たに誕生した、岩手県山田町立山田小学校の校歌の作詞・作曲を手掛けた。

北山:その後、この校歌を書かせていただくときに、僕は津波の被害にあっていないけど、そのエリアの人たちに向けて、どんな未来をつくる歌を書かせてもらったらいいのかとすごく悩みました。でも、いいきっかけをもらったなと思います。
GAKU-MC:みんな風土や経験は違うけど、北山さんが話す鍵穴が合ったときの思いは必ずあるなと感じました。

番組では他にも、震災体験を絵本にした高校生たちや、津波で壊滅的な被害を受けた地区の中学校の教員を取材する場面もあった。

ゴスペラーズは7月29日(水)にゴスペラーズ ミュージックビデオ・コレクション『THE GOSPELLERS CLIPS 2015-2019』をリリースする。詳しくは公式サイトより。
https://www.gospellers.tv

Hitachi Systems HEART TO HEART
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月26日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/

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