J-WAVEで放送中の番組『WITH』(ナビゲーター:武藤将胤)。ALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘病しながら脳力とテクノロジーを使い“NO LIMIT, YOUR LIFE.”というメッセージを発信している武藤将胤がお届けする、ソーシャルグッドプログラムだ。
一般社団法人「WITH ALS」の代表として、ALSの啓発活動やさまざまなコンテンツ開発を行う武藤は、2019年に気管切開手術を受けて肉声を失ったものの、音声合成技術を使ったサービス「コエステーション」によって、本番組でもメッセージを届け続けている。
3月13日(金)のオンエアでは、NPO法人「soar」理事で株式会社LITALICO社長室チーフエディターの鈴木悠平がゲストに登場。文筆家としても活動する鈴木が、自身の経験から、障害がない社会や未来とはなにかを語った。
■適応障害に苦しむなか、意識が変わったきっかけは
鈴木が理事を務めるNPO法人「soar」は、障害や病気、貧困、格差などに出会った人たちをサポートする活動や、困難の状況でも自分らしく生きる人々のストーリーを届けるウェブメディアを手掛けている。同メディアでは、武藤も鈴木によるインタビューを受けたことがある。
【soarの記事】僕は社会を明るくしたい。だから、身体が動かなくなっても挑戦し続ける。ALS当事者の武藤将胤さんを駆り立てる想い
武藤は鈴木に「活動の中で限界を感じたことはあるか」と問いかけた。
鈴木:2年前に適応障害という精神疾患にかかって、心身の調子を崩しました。その前はかなりハードに働いて、仕事量だけでなく、いろいろなプレッシャーにうまく対応できずに、体がサインを出したんだと思います。そのときに「働き方や自分の役割、動きを見直さなければいけない」と直面しました。
鈴木は、物事の捉え方を変えることでその限界を乗り越えたそうだ。
鈴木:病気になったあとに、統合失調症や双極性障害といった精神障害の方々が集まって暮らす北海道浦河町のコミュニティ「べてるの家」に行きました。彼らは自分の症状を隣人と捉え、幻聴や幻覚も「幻聴さん」などと呼び、症状と共生する在り方を当事者研究しているんです。
当事者研究とは、精神疾患などを持つ本人が、自身の症状や生きづらさを研究テーマと捉え、考え、語り合う活動のことだ。それまでの鈴木さんは、「強くあらねば」「会社の期待に応えて乗り越えなきゃ」と踏ん張っていたが、「べてるの家」の空気に触れ、意識に変化が生じたという。 br />
鈴木:もちろん苦手と戦って乗り越えていくのも学びはありますが、それだけじゃない。「べてるの家」というコミュニティの空気に触れたことで、自分らしさや自分の強み、得意なことやワクワク、自分に合った居場所、環境、働き方、役割を素直に見つけて、そこに体を持っていくことが大事なんだと気づきました。それを試行錯誤していくと、だんだん症状も楽になっていきましたね。
働き方や考え方を変えざるを得なくなった鈴木を救ってくれたのは、妻の言葉だった。
鈴木:仕事柄、もともと精神疾患に僕自身抵抗があったわけではなかったのもあって、妻やチームスタッフ、上司に「病気になったので自分なりにうまくやっていこうと思います」と伝えました。診断の帰り道にチャットをした妻から返ってきたのは「はなまる!」という一言。自分の弱さを開示して休んで一回立ち止まることをシンプルに肯定してくれたので、すごく楽になりました。
■強者と弱者がいるのではなく、一人ひとりに強い面も弱い面もある
武藤からの「今の社会に障害があるとすれば、どんなことに注視していますか?」という問いかけには、「社会の障害にはさまざまなものがあるが、一人一人の認識。障害や人間に対する捉え方をアップデートする必要がある」と鈴木は答えた。
鈴木:「病気や障害はよくない」とか「健常な肉体と精神がいい」というモデルが、人の心にしみついていると思いますが、そもそもそんなにパキっと分けられるものではない。僕も含めて誰でも働いたり歳をとったりして、いつ、いろいろな弱さと共に生きることになるかわかりません。強者と弱者がいるのではなく、一人ひとりに強い面も弱い面もあるというのは誰もが同じです。診断や手帳の有無は関係ない。その上でうまくパズルのピースをくみ上げながら、どうやって生活を作っていくのかという観点に立てば、「障害者」のラベリングは意味がないと思います。でも、どうしても人はそこに捉えられて、漠然とした不安やステレオタイプで壁を作りがちです。そこを超えていくときに、僕は“物語”の力をすごく信じているので、文筆活動やチームでのメディア運営に挑戦していますね。
鈴木の語る“物語”とは、映画や小説の筋書きではなく、一人一人にとっての物語だ。
鈴木:その人の在り方を肯定するもの。「ほかでもない自分ってこういう人間なんだ」、「こういう生き方でいいんだ」と思ってもらえるようなものです。たとえばALSという診断名が同じでも、武藤さんとそれ以外の方には違う物語がある。その物語を一人ひとりが見つけていくことがすごく大事だと思っています。
■相手に興味や関心があることを伝え続ける大切さ
鈴木は、プロジェクトを持続させるために重要なことは「信頼関係」だと語った。
鈴木:表面的な対立や同調ではなく、一人一人が自分の意見を素直に出し合える関係ですね。それがあると、短期的にプロジェクトの意思決定で賛否が分かれても関係は壊れず、そこで出た結論にもお互いにコミットできます。そうした信頼関係は一緒にプロジェクトを進めていくなかで築かれる部分もあるし、仕事の役割にとどまらず「いろいろな側面があって面白いよね」と、その人自身をどれだけ知っているかを共有できる機会やコミュニケーションを作ることも大事。じっくりお話を聞いて記事にして物語を共有したり、ワークショップでお互いを知り合えるような方法を提案・実施したり。
武藤も「同調で終わらないチーム作りをしたいですよね」と賛同する。
鈴木:僕は人と関わるとき、共感よりも信頼や好奇心をすごく大事にしています。簡単に他人や物事を理解できると思うのはちょっと傲慢かな。でも、「わかる・わからない」、「同じ意見になる・ならない」はさておき「私はあなたのことに関心・興味をもって知りたいと思っている」というメッセージを伝え続けることはできると思うんです。けっきょく、お互いの脳みそは共有できないので、本当の意味でわかり合っているかは検証不可能。片思いかもしれないけど、わからないなりに相手をわかろうとし続けることがすごく大事だと思います。
武藤が代表を務める「WITH ALS」では、重度の障害を持つ方への在宅療養支援「重度訪問介護事業」やファッションブランド「01(ゼロワン)」など、さまざまな活動を行っている。最後に鈴木は、こうした武藤の活動へのサポートを意欲的に語った。
鈴木:武藤さんには、ワクワクをベースに、どんどん未来を先取りするものを形にしていってほしいです。それと同時に、それらを広げて届けるときにブランドやプロダクト、武藤さんが切りひらいたことを他の多くの人が気軽に自分らしく使える環境やノウハウを広げていくことも大事。僕は、遠くへ走っていく武藤さんに伴走しながら、広げたり伝えたり共有したりするお手伝いができたら嬉しいです。
彼らの今後の活躍にも注目してほしい。
【番組情報】
番組名:『WITH』 放送日時:毎週金曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/dc4/
一般社団法人「WITH ALS」の代表として、ALSの啓発活動やさまざまなコンテンツ開発を行う武藤は、2019年に気管切開手術を受けて肉声を失ったものの、音声合成技術を使ったサービス「コエステーション」によって、本番組でもメッセージを届け続けている。
3月13日(金)のオンエアでは、NPO法人「soar」理事で株式会社LITALICO社長室チーフエディターの鈴木悠平がゲストに登場。文筆家としても活動する鈴木が、自身の経験から、障害がない社会や未来とはなにかを語った。
■適応障害に苦しむなか、意識が変わったきっかけは
鈴木が理事を務めるNPO法人「soar」は、障害や病気、貧困、格差などに出会った人たちをサポートする活動や、困難の状況でも自分らしく生きる人々のストーリーを届けるウェブメディアを手掛けている。同メディアでは、武藤も鈴木によるインタビューを受けたことがある。
【soarの記事】僕は社会を明るくしたい。だから、身体が動かなくなっても挑戦し続ける。ALS当事者の武藤将胤さんを駆り立てる想い
武藤は鈴木に「活動の中で限界を感じたことはあるか」と問いかけた。
鈴木:2年前に適応障害という精神疾患にかかって、心身の調子を崩しました。その前はかなりハードに働いて、仕事量だけでなく、いろいろなプレッシャーにうまく対応できずに、体がサインを出したんだと思います。そのときに「働き方や自分の役割、動きを見直さなければいけない」と直面しました。
鈴木は、物事の捉え方を変えることでその限界を乗り越えたそうだ。
鈴木:病気になったあとに、統合失調症や双極性障害といった精神障害の方々が集まって暮らす北海道浦河町のコミュニティ「べてるの家」に行きました。彼らは自分の症状を隣人と捉え、幻聴や幻覚も「幻聴さん」などと呼び、症状と共生する在り方を当事者研究しているんです。
当事者研究とは、精神疾患などを持つ本人が、自身の症状や生きづらさを研究テーマと捉え、考え、語り合う活動のことだ。それまでの鈴木さんは、「強くあらねば」「会社の期待に応えて乗り越えなきゃ」と踏ん張っていたが、「べてるの家」の空気に触れ、意識に変化が生じたという。 br />
鈴木:もちろん苦手と戦って乗り越えていくのも学びはありますが、それだけじゃない。「べてるの家」というコミュニティの空気に触れたことで、自分らしさや自分の強み、得意なことやワクワク、自分に合った居場所、環境、働き方、役割を素直に見つけて、そこに体を持っていくことが大事なんだと気づきました。それを試行錯誤していくと、だんだん症状も楽になっていきましたね。
働き方や考え方を変えざるを得なくなった鈴木を救ってくれたのは、妻の言葉だった。
鈴木:仕事柄、もともと精神疾患に僕自身抵抗があったわけではなかったのもあって、妻やチームスタッフ、上司に「病気になったので自分なりにうまくやっていこうと思います」と伝えました。診断の帰り道にチャットをした妻から返ってきたのは「はなまる!」という一言。自分の弱さを開示して休んで一回立ち止まることをシンプルに肯定してくれたので、すごく楽になりました。
■強者と弱者がいるのではなく、一人ひとりに強い面も弱い面もある
武藤からの「今の社会に障害があるとすれば、どんなことに注視していますか?」という問いかけには、「社会の障害にはさまざまなものがあるが、一人一人の認識。障害や人間に対する捉え方をアップデートする必要がある」と鈴木は答えた。
鈴木:「病気や障害はよくない」とか「健常な肉体と精神がいい」というモデルが、人の心にしみついていると思いますが、そもそもそんなにパキっと分けられるものではない。僕も含めて誰でも働いたり歳をとったりして、いつ、いろいろな弱さと共に生きることになるかわかりません。強者と弱者がいるのではなく、一人ひとりに強い面も弱い面もあるというのは誰もが同じです。診断や手帳の有無は関係ない。その上でうまくパズルのピースをくみ上げながら、どうやって生活を作っていくのかという観点に立てば、「障害者」のラベリングは意味がないと思います。でも、どうしても人はそこに捉えられて、漠然とした不安やステレオタイプで壁を作りがちです。そこを超えていくときに、僕は“物語”の力をすごく信じているので、文筆活動やチームでのメディア運営に挑戦していますね。
鈴木の語る“物語”とは、映画や小説の筋書きではなく、一人一人にとっての物語だ。
鈴木:その人の在り方を肯定するもの。「ほかでもない自分ってこういう人間なんだ」、「こういう生き方でいいんだ」と思ってもらえるようなものです。たとえばALSという診断名が同じでも、武藤さんとそれ以外の方には違う物語がある。その物語を一人ひとりが見つけていくことがすごく大事だと思っています。
■相手に興味や関心があることを伝え続ける大切さ
鈴木は、プロジェクトを持続させるために重要なことは「信頼関係」だと語った。
鈴木:表面的な対立や同調ではなく、一人一人が自分の意見を素直に出し合える関係ですね。それがあると、短期的にプロジェクトの意思決定で賛否が分かれても関係は壊れず、そこで出た結論にもお互いにコミットできます。そうした信頼関係は一緒にプロジェクトを進めていくなかで築かれる部分もあるし、仕事の役割にとどまらず「いろいろな側面があって面白いよね」と、その人自身をどれだけ知っているかを共有できる機会やコミュニケーションを作ることも大事。じっくりお話を聞いて記事にして物語を共有したり、ワークショップでお互いを知り合えるような方法を提案・実施したり。
武藤も「同調で終わらないチーム作りをしたいですよね」と賛同する。
鈴木:僕は人と関わるとき、共感よりも信頼や好奇心をすごく大事にしています。簡単に他人や物事を理解できると思うのはちょっと傲慢かな。でも、「わかる・わからない」、「同じ意見になる・ならない」はさておき「私はあなたのことに関心・興味をもって知りたいと思っている」というメッセージを伝え続けることはできると思うんです。けっきょく、お互いの脳みそは共有できないので、本当の意味でわかり合っているかは検証不可能。片思いかもしれないけど、わからないなりに相手をわかろうとし続けることがすごく大事だと思います。
武藤が代表を務める「WITH ALS」では、重度の障害を持つ方への在宅療養支援「重度訪問介護事業」やファッションブランド「01(ゼロワン)」など、さまざまな活動を行っている。最後に鈴木は、こうした武藤の活動へのサポートを意欲的に語った。
鈴木:武藤さんには、ワクワクをベースに、どんどん未来を先取りするものを形にしていってほしいです。それと同時に、それらを広げて届けるときにブランドやプロダクト、武藤さんが切りひらいたことを他の多くの人が気軽に自分らしく使える環境やノウハウを広げていくことも大事。僕は、遠くへ走っていく武藤さんに伴走しながら、広げたり伝えたり共有したりするお手伝いができたら嬉しいです。
彼らの今後の活躍にも注目してほしい。
【番組情報】
番組名:『WITH』 放送日時:毎週金曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/dc4/
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