J-WAVEでオンエア中の『~JK RADIO~ TOKYO UNITED』(ナビゲーター:ジョン・カビラ)のワンコーナー「FEATURE FOCUS」。1月31日(金)のオンエアでは、アメリカのポピュラー音楽やポップカルチャーに詳しい慶應義塾大学教授・大和田俊之さんがゲストに登場。現地時間1月26日(日)にロサンゼルスで行われた第62回グラミー賞授賞式を振り返った。
■アメリカ音楽シーンの多様性を表現したリル・ナズ・Xのパフォーマンス
大和田さんは、印象深かったパフォーマンスにリル・ナズ・X『Old Town Road』を挙げた。
大和田:もともと黒人コミュニティではカウボーイやカウガールの格好が流行っていて、「イーハー・アジェンダ」と呼ばれています。
カビラ:カウボーイの掛け声「イーハー!」ですね。
大和田:あの曲はもともとビルボートのカウントリーチャートに上がっていたのに、なぜか途中でカントリーチャートから外されてしまった。そこでリル・ナズ・XがSNSを通じてマイリー・サイラスの父であるカントリーシンガーのビリー・レイ・サイラスに声をかけて、客演が実現。最終的に総合チャートで19連続1位という新記録を打ち立てました。バンジョーのような音が聞こえるトラック自体は、ロックバンドのナイン・インチ・ネイルズの楽曲『34 Ghosts IV』をサンプリングしています。
カビラ:あのゴリゴリロック!
大和田:はい。なので、曲の中にカントリーとロックとラップミュージックが全部入っています。そしてステージでは、ボーイズグループの防弾少年団(BTS)と「天才ヨーデル少年」と呼ばれているメイソン・ラムジーも加わった。アメリカ音楽シーンの多様性そのものが表現されていたなと思いました。
BTSはノミネートこそされなかったものの、アジアのアーティストとして初のグラミー賞ステージパフォーマンスを行ったことも話題となった。
■耳元で囁いて一人ひとりに音楽を届けているビリー・アイリッシュ
今年のグラミー賞の話題をかっさらったのは、なんと言ってもビリー・アイリッシュ。最優秀アルバム賞のほか、主要4部門を含む5冠を達成した。大和田さんは彼女のアルバムのサウンドに注目していると言う。
大和田:改めて聴くと、独特のレコーディングなんですよね。低音がモコっとした音の質感とか、ボーカルが耳元で囁くような録音になっています。僕も知らなかったんですが、耳の中で耳かきをコソコソする、脳の中がゾワゾワするような「ASMR」と呼ばれるサウンドと絡めて論じられることが多いようです。日本でも菊地成孔さんがおっしゃっていたんですけど「和音やメロディといった五線譜的なことではなく、音の質感や声色など音のテクスチャーを、人は無意識に聴くようになっている」と。たしかにこのアルバムは、その傾向が極まっている気がしますね。
ビリー・アイリッシュの成功の影にあるのは、音楽プロデューサーである兄のフィネアス・オコネル。彼らは実家のベッドルームで曲を作っていることが知られており、大和田さんは「ベッドルーム感があってとても流行している。でも一人ひとりに囁いていて、一人ひとりに届いているアルバム」と評した。
そして、ビリー・アイリッシュが時代のアイコンとして社会的なメッセージを発信している点も紹介した。
カビラ:ライブ会場ではNPOのブースを展開したり、大統領選挙の年でもあって「みんな選挙人登録をして投票しようね」と呼び掛けたり、ソーシャルなメッセージも臆することなく、声高には出さずとも会場ではしっかりフォローしてるみたいですね。
大和田:あの世代は多様性やリベラルがかなり内面化されている。特にアメリカはそうですよね。
■“日本的な音楽”ではなく、シーンの最先端で勝負する狭間美帆
日本人のノミネーションにも話が及ぶ。大和田さんが注目したのは、ジャズ作曲家の狭間美帆だ。
大和田:日本人のビッグバンドのコンポーザー、コンダクターと言うと、秋吉敏子さんが有名で、彼女も70年代以降に何度かノミネートされました。たとえばノーベル文学賞だと、最初に受賞した川端康成が日本らしさを表現して評価され、それと同じように秋吉さんも日本的なメロディを取り入れて世界で評価されました。でも(日本人2人目の受賞者となった)大江健三郎さんは世界文学として評価されましたよね。同じように狭間さんも、ジャズの中心・ニューヨークで仲間たちと切磋琢磨してシーンの最先端で勝負して頭角を現した。これが本当に素晴らしいと思いますね。
大和田さんは2月25日(火)に『ポップ・ミュージックを語る10の視点』(アルテスパブリッシング)を上梓する。大和田さんがコーディネートした音楽講座をまとめた書籍で、登壇者には狭間美帆のほか、冨田ラボや柳楽光隆、渡辺志保といった著名プロデューサーや評論家が名を連ねている。
『~JK RADIO~TOKYO UNITED』のワンコーナー「FEATURE FOCUS」では、日本や世界で進行形のニュースについて当事者、事情通に話をきいていく。放送は毎週金曜7時15分ごろから。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年2月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『~JK RADIO~TOKYO UNITED』
放送日時:毎週金曜 6時-11時30分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/tokyounited/
■アメリカ音楽シーンの多様性を表現したリル・ナズ・Xのパフォーマンス
大和田さんは、印象深かったパフォーマンスにリル・ナズ・X『Old Town Road』を挙げた。
Starting our Saturday night off with @lilnasx’s #OldTownRoad all-star #GRAMMYs performance : https://t.co/SGaED5l59F pic.twitter.com/WnnBOxvtLI
— Recording Academy / GRAMMYs (@RecordingAcad) February 2, 2020
大和田:もともと黒人コミュニティではカウボーイやカウガールの格好が流行っていて、「イーハー・アジェンダ」と呼ばれています。
カビラ:カウボーイの掛け声「イーハー!」ですね。
大和田:あの曲はもともとビルボートのカウントリーチャートに上がっていたのに、なぜか途中でカントリーチャートから外されてしまった。そこでリル・ナズ・XがSNSを通じてマイリー・サイラスの父であるカントリーシンガーのビリー・レイ・サイラスに声をかけて、客演が実現。最終的に総合チャートで19連続1位という新記録を打ち立てました。バンジョーのような音が聞こえるトラック自体は、ロックバンドのナイン・インチ・ネイルズの楽曲『34 Ghosts IV』をサンプリングしています。
カビラ:あのゴリゴリロック!
大和田:はい。なので、曲の中にカントリーとロックとラップミュージックが全部入っています。そしてステージでは、ボーイズグループの防弾少年団(BTS)と「天才ヨーデル少年」と呼ばれているメイソン・ラムジーも加わった。アメリカ音楽シーンの多様性そのものが表現されていたなと思いました。
BTSはノミネートこそされなかったものの、アジアのアーティストとして初のグラミー賞ステージパフォーマンスを行ったことも話題となった。
■耳元で囁いて一人ひとりに音楽を届けているビリー・アイリッシュ
今年のグラミー賞の話題をかっさらったのは、なんと言ってもビリー・アイリッシュ。最優秀アルバム賞のほか、主要4部門を含む5冠を達成した。大和田さんは彼女のアルバムのサウンドに注目していると言う。
.@billieeilish shined during her #GRAMMYs debut, and then went on to win five golden gramophones that night : https://t.co/6Cr3BPt58m pic.twitter.com/nzJXt10krQ
— Recording Academy / GRAMMYs (@RecordingAcad) January 31, 2020
大和田:改めて聴くと、独特のレコーディングなんですよね。低音がモコっとした音の質感とか、ボーカルが耳元で囁くような録音になっています。僕も知らなかったんですが、耳の中で耳かきをコソコソする、脳の中がゾワゾワするような「ASMR」と呼ばれるサウンドと絡めて論じられることが多いようです。日本でも菊地成孔さんがおっしゃっていたんですけど「和音やメロディといった五線譜的なことではなく、音の質感や声色など音のテクスチャーを、人は無意識に聴くようになっている」と。たしかにこのアルバムは、その傾向が極まっている気がしますね。
ビリー・アイリッシュの成功の影にあるのは、音楽プロデューサーである兄のフィネアス・オコネル。彼らは実家のベッドルームで曲を作っていることが知られており、大和田さんは「ベッドルーム感があってとても流行している。でも一人ひとりに囁いていて、一人ひとりに届いているアルバム」と評した。
そして、ビリー・アイリッシュが時代のアイコンとして社会的なメッセージを発信している点も紹介した。
カビラ:ライブ会場ではNPOのブースを展開したり、大統領選挙の年でもあって「みんな選挙人登録をして投票しようね」と呼び掛けたり、ソーシャルなメッセージも臆することなく、声高には出さずとも会場ではしっかりフォローしてるみたいですね。
大和田:あの世代は多様性やリベラルがかなり内面化されている。特にアメリカはそうですよね。
■“日本的な音楽”ではなく、シーンの最先端で勝負する狭間美帆
日本人のノミネーションにも話が及ぶ。大和田さんが注目したのは、ジャズ作曲家の狭間美帆だ。
大和田:日本人のビッグバンドのコンポーザー、コンダクターと言うと、秋吉敏子さんが有名で、彼女も70年代以降に何度かノミネートされました。たとえばノーベル文学賞だと、最初に受賞した川端康成が日本らしさを表現して評価され、それと同じように秋吉さんも日本的なメロディを取り入れて世界で評価されました。でも(日本人2人目の受賞者となった)大江健三郎さんは世界文学として評価されましたよね。同じように狭間さんも、ジャズの中心・ニューヨークで仲間たちと切磋琢磨してシーンの最先端で勝負して頭角を現した。これが本当に素晴らしいと思いますね。
大和田さんは2月25日(火)に『ポップ・ミュージックを語る10の視点』(アルテスパブリッシング)を上梓する。大和田さんがコーディネートした音楽講座をまとめた書籍で、登壇者には狭間美帆のほか、冨田ラボや柳楽光隆、渡辺志保といった著名プロデューサーや評論家が名を連ねている。
『~JK RADIO~TOKYO UNITED』のワンコーナー「FEATURE FOCUS」では、日本や世界で進行形のニュースについて当事者、事情通に話をきいていく。放送は毎週金曜7時15分ごろから。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年2月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『~JK RADIO~TOKYO UNITED』
放送日時:毎週金曜 6時-11時30分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/tokyounited/
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