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被災地の復興に必要なのは「お涙ちょうだいの物語じゃない」 今、考えるべきことは【堀 潤×藤巻亮太】

藤巻亮太×堀 潤

被災地の復興に必要なのは「お涙ちょうだいの物語じゃない」 今、考えるべきことは【堀 潤×藤巻亮太】

J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』。毎月第3日曜は、震災復興プログラム『Hitachi Systems HEART TO HEART』(ナビゲーター:藤巻亮太)をお届けしている。

2月16日(日)のオンエアでは、ジャーナリストの堀 潤をゲストに迎え、被災地の未来のために必要なことや支援のあり方について考えた。堀は、東日本大震災や熊本地震の際に、現地での取材を重ねている。

■「復興・復旧という言葉には賞味期限がある」という体感

藤巻は今回、昨年10月の台風19号で大規模な河川氾濫と土砂災害が起き、死者10人、行方不明者1人の計11人という大きな犠牲が出た宮城県丸森町を取材。丸森町の特産品の米やハチミツを使った商品開発や観光振興を手掛ける地域商社「GM7」の山本楓子さんに話を訊いた。


『Hitachi Systems HEART TO HEART』
(土砂で流された車が埋まったまま)

「GM7」は台風19号で丸森町に移転したばかりの本社が被災。被災直後から独自にボランティアの受け入れや、地域の人へ向けた炊き出しや子どもの受け入れ場所の開設などをおこなった。街の将来のために町役場とともに、事業計画を進める「GM7」の山本さんは「街の将来に必要なこと」について、こう話す。

山本:復興・復旧とお涙ちょうだい系の言葉は賞味期限があるので、それらはいつまでも続かないと思います。かつ、台風や大雨など甚大な災害は毎年起こるので、情報はアップデートされてしまう。先日、東京に行ったときに「復興・復旧の言葉は飽和しているから、みんなが聞き慣れてしまっている」と耳にして、確かにそうだなと感じました。私たちがするべきは、そういう言葉にとらわれず「丸森町はこんなに面白い町なんだ」、「こんなにおいしいものがたくさんあるんだ」など、純粋に「丸森町はいいところだ」と情報発信することが必要だと思っています。

『Hitachi Systems HEART TO HEART』
(「復興復旧お涙頂戴系は賞味期限があると思っている」とGM7の山本楓子さん/GM7 オフィシャルサイト


■堀 潤が考える。メディアは何を報じるべきか

山本さんの取材内容を聞いた堀は「自分も山本さんの話すような『賞味期限』を変えたいと思ったことがNHKを退社したいちばん大きな理由だった」と話す。

:たとえばテレビの業界用語には「日付もの」という言葉があります。「震災から3年の放送はしたけど、震災から3年4カ月のタイミングでは放送しないよね、だから次のタイミングを目指そう」とか平気で言ってしまうんです。ただ、復興・復旧に向けた取り組み、もしくは震災やさまざまな災害がそれぞれの人たちにもたらした影響は日々更新されていくわけですよね。だから僕は「いつ伝えてもいいじゃん」「毎日伝えてもいいじゃん」「タイミングなんてないよ」という思いがありました。
藤巻:テレビやラジオなど時間の枠が決められているメディアだと、どれだけ伝えられるかという問題が出てきます。でも、ウェブやSNSの普及が進み、情報の賞味期限を伸ばすことにつながっているということはあるんでしょうか。

藤巻亮太

:もちろんインターネットメディアを使って自由に発信をすることは活用していったらいいと思います。僕もそうしています。ただ、(マスメディアである)J-WAVEではこういう番組を定期的に放送しているのだから、伝える側が「やるぞ」と決めたら、いくらでも伝えられるはずなんですよね。でも、当事者である「GM7」の山本さんに「復興・復旧とお涙ちょうだい系の言葉には賞味期限がある」ということを言わせてしまう現状がある。メディアで働くひとりとして、「そんな情報発信の仕方が当たり前になっていたんじゃないか」と、自戒の念をこめて思います。

人の尊厳をいちばん傷つけるのは「哀れみ」だと堀は続ける。そして、被災地という言葉が適切に現場を表現していないこともある、という指摘をした。

:涙を流すご遺族のまわりにたくさんのカメラが構えて手を合わせる瞬間を狙ったりする。「こんなにつらい、大変だ」という現状を伝える報道も必要かもしれません。ただ、どこに行っても笑顔はあるし、すごく力強いアイデアに満ちた現場があります。それなのに「被災地は」という言葉にしてしまうと、主語の範囲が大きすぎると思うんです。「被災地は今苦しんでいます」と伝えると「堀さん、よく言ってくれました」と言う方もいれば、「確かに地震はあったけどうちの地域は被害がなかったから、被災地と一緒くたに伝えないでくれ」と言う方もいる。そういう大ざっぱな言い方をすると、観光にしても風評被害を招くことにつながってしまうのではないか。僕も現場に足を運んだときに心がけています。


■まだ災害が起きていないだけの「未災地」という考え方

堀は、被災地の復興・復旧、その先の未来をどう考えているのだろうか。

:いろいろな災害は、想定内ではなく想定外だから、災害後に課題として残っています。「災害を事前に予測して対応を」と言うものの、地形や時間帯、気候などそのときのさまざまな状況によって対応が異なります。また、地震が単発なのか複合なのか、地震と噴火と津波が一緒に起こったらどうなるのか。そういったことでも変化がある。それを考えてもきりがありません。

堀は毎回の取材を通して、必ず「まさか自分が被災者になるとは思わなかった」という声を聞くという。その状況をどうしたらいいかと考えていたときに、当時大学で教えていた堀のもとに岩手県出身の19歳の学生が訪れ、こう話したという。

堀 潤

:その学生は「堀さんは『被災地』と言うけれど、その他の地域のことは何と言いますか。私はそこを『未災地』と呼びたい。いまだ災害が起きていないだけでいつか起こる場所。だから、みなさんは未災地に住んでいます。この言葉を広めていきたい」と話してくれました。確かにそうだなと。いまだに災害が起きていないだけでいつか必ず起きるから、自分事として未災地で何ができるかをそれぞれが考えるべきだと、その学生に教えてもらいました。
藤巻:コミュニティが希薄と言われるここ東京では、災害に備えてどんなコミュニケーションが必要だと思いますか?
:僕は知らない人でもなるべく目が合ったらあいさつをすることを心がけています。コンビニエンスストアでもマンションでも、カフェでも、なるべくそうしています。海外に行くと自然に目が合ったら軽くコミュニケーションができる空気だけど、日本に帰ってくると「えっ、なんで知らない人に急に話しかけてるの」って空気がありますよね。僕はその空気を打破していくところから始められるような、つながりが必要だと思います。これはすぐにできることなんですよね。「あのコンビニエンスストアに行けば知り合いの店員さんがいる」とか「あそこに行けば必ず声をかけられる人がいる」とか、自分の全く関わらないコミュニティにも誰かがいるということを、日々心がけていきたいですよね。


■大きな主語より、小さな主語を

最後に堀はリスナーに向けてメッセージを送った。

:言葉ってやっぱり大切で、僕はよく「大きな主語より小さな主語を使いませんか」と伝えています。「被災地は」ではなく「○○県○○町○○駅前の○○さんは今こんな状況なんです」など、小さい主語で語ることによって初めて具体的なニーズや課題が見えてきます。それがわかることで「こうしよう」とアクションが生まれる。今必要なのは「GM7」の山本さんが言うように、賞味期限のあるお涙ちょうだいの物語じゃないんです。本当に復興・復旧を前に進めるうえでは、ニーズに応えてくれるアイデアやさまざまな人脈や資金など、みんなの知見が必要なんですよね。そのために伝え手が固有名詞で伝えることを今後も心掛けて行きたいです。今はSNSを利用して誰もが発信者になる時代だから、この番組を聴いて「自分の主語はちょっと大きいかも」と思った人は、小さい主語を探す旅に出ていただけたらいいのでは、と思います。

災害の経験を風化させず、よりよきアクションやアイデアが生まれるために、まずそれぞれ発信者側が小さな主語で被災地を理解することの大切さを訴えかけた。

『Hitachi Systems HEART TO HEART』
(藤巻亮太、取材現場にて)

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年2月23日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/

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