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野村萬斎、電車でつり革につかまらなくても大丈夫…能楽師ならではの「平衡感覚」を明かす

野村萬斎、電車でつり革につかまらなくても大丈夫…能楽師ならではの「平衡感覚」を明かす

J-WAVEの番組『DIALOGUE RADIO-in the Dark-』(ナビゲーター:志村季世恵/板井麻衣子)。この番組は、視覚障がいを抱える方のアテンドのもとでさまざまなシーンを体験できる暗闇のソーシャルエンターテイメント『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』を主催するバースセラピストの志村季世恵が、暗闇のバーに毎回ゲストを迎え、一切、光のない空間で語り合う。

1月12日(日)のオンエアでは、能楽師の野村萬斎をゲストが登場、能楽師ならではの感覚や、これから必要となる感覚について語った。今回の収録は昨、年11月に新国立競技場の目の前にできた三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア内にオープンした「DIALOG IN THE DARK『内なる美、ととのう暗闇。』」にて行われた。


【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年1月19日28時59分まで)


■優れた平衡感覚…電車でつり革につかまらなくても大丈夫

野村は暗闇のバーに入り、視覚障がいを持つたえさんのアテンドのもと手や足の感覚を研ぎ澄ませながら席に着いた。

志村:体のバランスが整うといろんなことが変わってくるんだろうと思うけど、私を含めて今の忙しい人たちはそれを忘れがちかなと。もう少しお腹から下のほうを意識できたらいいなと思ったりしているんです。アテンドのたえちゃんもそうだけど、目が見えてない人たちは電車内であまりつり革につかまらないんです。
たえ(アテンド):そうですね。あったら掴まりますけど、わりとなくてもいいやって思ってます。揺れない方法を知っている感じですね。地に足がついているとバランスが取れるので。
野村:それは僕もそうですね。あんまりつり革につかまらなくても大丈夫っていうか、それを楽しんでいたりすることがありますね。僕らは舞台で面をつけたりすると「本当に自分がどういうバランスで立っているんだ?」と初めて気がつくというか。面をかけ慣れていても、面をかけるたびに「自分をしっかりと保とう」という意識が働く。「今、自分は真っすぐか」と。そういうときって直立しているより少したわんでいるほうが、前後左右に対して意識があるような気がしますね。
志村:たわんでいるっていうのはどんな感じですか?
野村:ジグザグ立っている感じですかね。一本線でバレエのように立っていると電車の中で揺れたら倒れちゃいますよね。ですからこう前後左右にベクトルを感じながら、その平均値のなかで立つ。つまり、前に後ろに感じながら、その均衡の上に自分は前後に倒れることなくいるっていう感覚を持っているわけです。だから電車で前方向の揺れで負荷がかかる途端に、ものすごく急にそれに合わせるように後ろに重心をかける。粉ふるいような原理、体幹というものを能楽師は身に付けているってことですね。


■こめかみでものを聞く

能楽師は平衡感覚を保つ必要があり、その影響で体に大きな負荷がかかるという。

野村:面をつけたりして体の平衡感覚を常に気にして、しかもその身体を人に見せなきゃいけない。きれいな姿を見せなきゃいけないし、きれいな声も出さなきゃいけない。そうなると、自分の平衡感覚なり体を保とうという意識がものすごく働くので、かなりの緊張感っていうのが体に強いられるわけですね。
志村:(野村)萬斎さんはどこにも隙がないというか、本当に全身をピシッとされていますよね。
野村:そのとおりですね、僕ら「構える」っていうのは、隙なく立ってどちらにでもすぐ動けるし、どこから押されてもすぐ対応できる。そういう意味でも平衡感覚に対してすごく意識があってしかもそれを人に美しく見せるってことですね。

野村の話を聞き、目が見えない人たちも野村と同様に「ある意味で隙なく生きている」と話す。

志村:目じゃないもので目の代わりにしているというか。体の使い方は違うかもしれませんけど、バランスの取り方などに共通点とかはあるかなって。
野村:僕らの根本は人の真似をするモノマネ芸であり、目の見えない方の演技をしないといけないときには「こめかみでものを聞け」と言うんです。普通だと表情を読もうとすると絶対に顔を向けるはずなんですけど、別に表情は読み取れない。かと言ってちゃんと聞こえるので耳を向けるわけでもない。なんとなくこめかみで聞くことが習性になっているような、声がこめかみで響いてくる感じがしますね。


■食べるための実りではなく、もっと平和のための実りがある

今年いよいよ開幕する東京オリンピック・パラリンピック。野村は開閉会式演出の総合統括を務める。

志村:萬斎さんにとって2020年ってすごく大きな年になりそうですね。
野村:今、僕の頭の中は東京2020大会のことばかりが気になっています。その中で各クリエイティブディレクターにも「この体内の宇宙」みたいな話をすごくよくしているんです。外側で人間は争ったり違いを求めたりするわけですけど、体内の宇宙に自分が入っていくと落ち着いて人と話せたり、同じ人間として帰っていく原初の部分で向かえ合えるとか。そういう人間の根源、生命の尊厳、生命の根源とかっていう意味で言うと、自分の中で「今、内臓が動いている」とか、だんだん細胞レベルにまで意識がいくじゃないですか。外側ばかりじゃなくて、内なる宇宙というか、なにか人間の存在、そしてみんなこの人間存在を辿っていけばみんな祖先は一緒のところにくるわけですし。
志村:本当にそうですね。
野村:地球という生命の誕生。太陽があって偶然に水の惑星があり、その結果生命が生まれた。その中で「我々は自然の一部としているんだ」という感覚を、特に日本はそういう自然との共生感覚を持つ文化があるので、ある意味でこれから世の中は豊かになっていくんじゃないですかね。

続けて、昨年12月に銃撃され死亡したアフガニスタンの緑化事業などに取り組んでいた医師・中村 哲さんについて語り出した。

野村:中村医師の話もすごく気になっていて。ものがないと奪い合う。そのときに、実りがあって豊かであれば、分け与えることは別になんでもなくなるわけです。水を引くこと自体は今技術的にはできるわけじゃないですか。中村医師はそういうことを進められた。狂言にも五穀豊穣を願う三番叟(さんばそう)という舞があるんですけど、それは単純に豊作を祈るという概念はあるものの、実りがあるってことは争いがなくなって平和に繋がるっていうすごく根源的なことだなと改めて気付きました。食べるための実りではなく、もっと平和のための実りがあるんだなと感じていますね。
志村:そうですね。その実りがあって、それを分かち合って、そしてそれを感謝できて、自然や色んなものにその繋がりをもう一度感じるってとても大切なことですよね。
野村:我々もそうやって色んな遺伝子やら細胞や種や、なにかそういうものの中で生きているいち存在であるという感覚。これは日本の縄文以来の感覚なのかと思ったりしています。

暗闇のバーを通して野村は「(光も闇も)もバランスをやっぱりずっと持つことが必要。人間は働かないとまた生きていけないですから、働いたり、もちろん豊かになろうという意識は重要だけど、時に生命の根源みたいな所に帰ることで楽になれることは多いのではないか」と語った。

野村が主催する狂言会「狂言ござる乃座」が3月20日(金・祝)、3月25日(水)に国立能楽堂で開催される。野村の研ぎ澄まされた感覚をその目で感じてほしい。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年1月19日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『DIALOGUE RADIO-in the Dark-』
放送日時:毎月第2日曜日25時-26時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/dialogue/

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