新書『「カッコいい」とは何か』(講談社)を上梓した小説家・平野啓一郎。なぜ「カッコいい」をテーマに本を書いたのか、令和時代の「カッコいい」とは何かを語った。
【8月27日(火)J-WAVE『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「ZOJIRUSHI MORNING INSIGHT」】(radikoは2019年9月3日28時59分まで)
■「カッコいい」はアイデンティティに深く結びついている
平野は1999年に『日蝕』(新潮社)により第120回芥川賞を受賞。他にも『決壊』(新潮社)、『ドーン』(講談社)、『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)、『ある男』(文藝春秋)などの著書があり、数々の文学賞を受賞している。
7月16日には新書『「カッコいい」とは何か』を刊行した。なぜこのテーマに?
平野:「カッコいい」は誰でも知っている言葉ですが、真面目にどういう意味か考えてみようとする人はあまりいなくて。この言葉についていろいろ知りたくて本を探していたんですけど、誰も「カッコいい」について本を書いていなかったいなかったんです。「カッコいい」はチャラチャラしたイメージもありますが、一方で人を怒らせたり、憧れて努力させたり、アイデンティティに深く結びついているところがあるので、そのあたりをきちんと論じてみたいなと思いました。
「『カッコいい』の捉え方は人によって違う」と話す平野は、大学時代にバーテンダーとして働いていたときのあるエピソードを披露した。
平野:男性ふたりのお客さんが、辰吉丈一郎さんの生き様をカッコいいと思うかどうかで大ゲンカし始めたんです(笑)。ひとりは心酔しているんですが、もうひとりは「カッコ悪いわ」みたいなことを言ってケンカになっていました。「『カッコいい』はこんなに人を真剣にさせるこだわりポイントなのか」と思いました。
■「カッコいい」とは何か?
「見た目だけでなく、生き様とか振る舞いにカッコよさを感じる人は多い」と平野は話す。別所の「アナーキーなこととか悪いことに対してカッコいいと思う人もいますよね」という発言に、こう付け加えた。
平野:日常的な体制やシステムに対して反抗する。でも、単に破壊的っていうんじゃなくて、その人なりの新しい価値観を伴って反抗しているとカッコいいんです。
平野によると、日本で「カッコいい」という言葉が流行ったのは1960年代。諸説あるが、もともと音楽をしていた人たちが戦中から使い始め、戦後にテレビが普及した時代に、その音楽家たちがテレビで広めていったとか。
江戸時代からある「格好がいい」という言葉は「理想像がわかっていて、それに合致しているかどうか」を指す言葉だそうで、平野はこれと比較しながら60年代以降の「カッコいい」について解説した。
平野:たとえば、理想像を知らないままロックとかを初めて聴いて、何だか体が痺れるような感動を覚えた、とか。それが「カッコいい」という体験になっていったんです。「理想像がなくても何かを評価できる態度」っていうのが「カッコいい」ということじゃないかと思います。
■"カッコいい文化"をどう作り出して発信していくか
かつてのバブル経済時代には、高価なものを所有することがカッコいいとされる価値観もあったが、現在はローコストで身軽なライフスタイルを評価する傾向にあるそうだ。
平野:今は経済格差も広がったりしている中で、昔は誇示するような消費スタイルが憧れられていましたけど、今はお金を使わないで合理的な生活をする人のほうが、情報をよく知っているという意味でカッコいいと思われる。時代や世代的なものも含めて変わってきているんじゃないでしょうか。
このように価値観が変わってきた理由について「今の人たちには『前の世代とは違う自分たちの新しい価値観を作っていきたい』という欲望があると思う」と、平野は分析した。
最近では、日本発の"カッコいい文化"にも注目が集まっている。平野は"カワイイ"との違いをこう解説した。
平野:カッコよさには自立している感じがあるんです。女性誌とかが90年代以降「カッコいい」という言葉を使い出したときも、女性が社会的に自立しているという意味で、男性から「カワイイね」と言われるのではなく「カッコいい」と憧れられる女性像を求めたんです。
そして、日本発の"カッコいい文化"をどう発信していくかについても語った。
平野:国が全面に出て音頭を取るというよりも、個人個人が頑張ってやっていることを応援していくというやり方じゃないと、なかなか"カッコいい文化"っていうのは生まれないし、評価されない気がします。
オンエアでは、平野が「カッコいい曲」としてセレクトしたThe Weeknd『Adaptation』を流した。「この曲はThe Police『Bring On The Night』のピッチを落としてサンプリングして使っているんですけど、それがThe Weekndのマイケル・ジャクソン風の甘いボーカルと重なる瞬間がカッコいい」と紹介した。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「ZOJIRUSHI MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質に迫る。放送時間は8時35分から。お楽しみに!
【この記事の放送回をradikoで聴く】
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/tmr
【8月27日(火)J-WAVE『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「ZOJIRUSHI MORNING INSIGHT」】(radikoは2019年9月3日28時59分まで)
■「カッコいい」はアイデンティティに深く結びついている
平野は1999年に『日蝕』(新潮社)により第120回芥川賞を受賞。他にも『決壊』(新潮社)、『ドーン』(講談社)、『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)、『ある男』(文藝春秋)などの著書があり、数々の文学賞を受賞している。
7月16日には新書『「カッコいい」とは何か』を刊行した。なぜこのテーマに?
平野:「カッコいい」は誰でも知っている言葉ですが、真面目にどういう意味か考えてみようとする人はあまりいなくて。この言葉についていろいろ知りたくて本を探していたんですけど、誰も「カッコいい」について本を書いていなかったいなかったんです。「カッコいい」はチャラチャラしたイメージもありますが、一方で人を怒らせたり、憧れて努力させたり、アイデンティティに深く結びついているところがあるので、そのあたりをきちんと論じてみたいなと思いました。
「『カッコいい』の捉え方は人によって違う」と話す平野は、大学時代にバーテンダーとして働いていたときのあるエピソードを披露した。
平野:男性ふたりのお客さんが、辰吉丈一郎さんの生き様をカッコいいと思うかどうかで大ゲンカし始めたんです(笑)。ひとりは心酔しているんですが、もうひとりは「カッコ悪いわ」みたいなことを言ってケンカになっていました。「『カッコいい』はこんなに人を真剣にさせるこだわりポイントなのか」と思いました。
■「カッコいい」とは何か?
「見た目だけでなく、生き様とか振る舞いにカッコよさを感じる人は多い」と平野は話す。別所の「アナーキーなこととか悪いことに対してカッコいいと思う人もいますよね」という発言に、こう付け加えた。
平野:日常的な体制やシステムに対して反抗する。でも、単に破壊的っていうんじゃなくて、その人なりの新しい価値観を伴って反抗しているとカッコいいんです。
平野によると、日本で「カッコいい」という言葉が流行ったのは1960年代。諸説あるが、もともと音楽をしていた人たちが戦中から使い始め、戦後にテレビが普及した時代に、その音楽家たちがテレビで広めていったとか。
江戸時代からある「格好がいい」という言葉は「理想像がわかっていて、それに合致しているかどうか」を指す言葉だそうで、平野はこれと比較しながら60年代以降の「カッコいい」について解説した。
平野:たとえば、理想像を知らないままロックとかを初めて聴いて、何だか体が痺れるような感動を覚えた、とか。それが「カッコいい」という体験になっていったんです。「理想像がなくても何かを評価できる態度」っていうのが「カッコいい」ということじゃないかと思います。
■"カッコいい文化"をどう作り出して発信していくか
かつてのバブル経済時代には、高価なものを所有することがカッコいいとされる価値観もあったが、現在はローコストで身軽なライフスタイルを評価する傾向にあるそうだ。
平野:今は経済格差も広がったりしている中で、昔は誇示するような消費スタイルが憧れられていましたけど、今はお金を使わないで合理的な生活をする人のほうが、情報をよく知っているという意味でカッコいいと思われる。時代や世代的なものも含めて変わってきているんじゃないでしょうか。
このように価値観が変わってきた理由について「今の人たちには『前の世代とは違う自分たちの新しい価値観を作っていきたい』という欲望があると思う」と、平野は分析した。
最近では、日本発の"カッコいい文化"にも注目が集まっている。平野は"カワイイ"との違いをこう解説した。
平野:カッコよさには自立している感じがあるんです。女性誌とかが90年代以降「カッコいい」という言葉を使い出したときも、女性が社会的に自立しているという意味で、男性から「カワイイね」と言われるのではなく「カッコいい」と憧れられる女性像を求めたんです。
そして、日本発の"カッコいい文化"をどう発信していくかについても語った。
平野:国が全面に出て音頭を取るというよりも、個人個人が頑張ってやっていることを応援していくというやり方じゃないと、なかなか"カッコいい文化"っていうのは生まれないし、評価されない気がします。
オンエアでは、平野が「カッコいい曲」としてセレクトしたThe Weeknd『Adaptation』を流した。「この曲はThe Police『Bring On The Night』のピッチを落としてサンプリングして使っているんですけど、それがThe Weekndのマイケル・ジャクソン風の甘いボーカルと重なる瞬間がカッコいい」と紹介した。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「ZOJIRUSHI MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質に迫る。放送時間は8時35分から。お楽しみに!
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放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
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