J-WAVEで放送中の番組『RADIO SWITCH』。11月3日(土)のオンエアは、「HAPPY BIRTHDAY 手塚治虫。」がテーマ。谷川俊太郎さん、坂本龍一さん、MANNISH BOYSの斉藤和義さんと中村達也さん、杏さんが手塚作品への思いを語りました。また、手塚治虫の息子である手塚 眞さんと、『SWITCH Vol.36 No.11 特集 手塚治虫「冒険王」』とのコラボ企画として、手塚治虫をオマージュした展覧会を開いたばかりのイラストレーター・黒田征太郎さんとの対談をお届けしました。
■坂本龍一が思う、手塚作品の美しい部分
手塚治虫は1928年11月3日生まれ。90年前です。その作品は色褪せることなく、多くの人々に愛されています。ここでは、坂本龍一さん、杏さんが語った手塚作品への思いをご紹介します。
坂本:僕にとっての手塚治虫さんは、物心ついたときから身近な存在。今でも家にあります。ずいぶん長い付き合いですね。漫画の基本みたいな……それは、誰にとっても同じかもしれないけれど。昭和の日本を象徴する存在ですよね。手塚作品で好きなのは、たくさんありますけど、『ブッダ』と『火の鳥』かな。すごく考えさせられる、深いストーリーもあるけれど、その中におちゃめなコマが入っていたり。それから、女性を描く曲線が魅力的ですよね。かわいいし、美しい曲線です。
杏:子どもの頃から手塚さんの作品に慣れ親しみ、『ブラック・ジャック 』や『火の鳥』、『鉄腕アトム』などなど、さまざまな作品を小中学校の図書室で借りて読んだり、親に買ってもらったりしました。なかでも好きなのは、『海のトリトン』『バンパイヤ 』『ジャングル大帝』など、動物と人間が共存したり冒険したりする作品。動物を通して人間を見る視線の鋭さに子どもながらにハッとさせられるし、大人になってから読み返しても夢があります。大人向けの政治向けなもの、ダークな部分を描いたものもたくさんあるので、人生を通して楽しんでいけますよね。「これからもよろしくお願いします」という気持ちです。私がナビゲーターをつとめる『BOOK BAR』でも、ぜひ紹介していきたいと思います。
谷川俊太郎さんは、詩を朗読しました。
谷川:103歳になったアトム。人里離れた湖の岸辺で、アトムは夕陽を見ている。103歳になったが、顔は生まれたときのままだ。カラスの群れがねぐらへ帰っていく。もう何度、自分に問いかけたことだろう。僕には魂ってものがあるのだろうか。人並み以上の知性があるとしても、寅さんにだって負けないくらいの情があるとしても。いつだったか、ピーターパンに会ったときに言われた。「君、おちんちんないんだって?」。「それって魂みたいなもの?」と問い返したら、ピーターは大笑いしたっけ。どこからか、あの懐かしい主題歌が響いてくる。「夕陽ってきれいだなあ」とアトムは思う。だが、それ以上、気持ちはどこへもいかない。ちょっとしたプログラムのバグなんだ、たぶん。そう考えて、アトムは両足のロケットを噴射して、夕陽の彼方へと飛び立っていく。
■物の見え方は自由だと教えてくれた手塚作品
黒田征太郎さんと手塚 眞さんの対談では、黒田さんが『新宝島』への思いを語りました。
黒田:小学校で、お絵描きの時間に写生をしたんです。瓦屋根が光の加減で紫色に見えたので、そのとおりに塗りました。その色で塗ったのは、40人くらいの生徒の中で僕だけ。「みんな灰色なのにお前はおかしい」と怒られて、「僕はこう見えたんです」と言い返したけど、有無も言わさず頭を叩かれまして。でも、僕はダメということを飲み込めなかったんです。そんなことがあったとき、『新宝島』のピートくんが乗っている自動車の(タイヤの)輪っかが楕円なのを見て、「これだ!」と思ったんです。「これでええねん」と。
手塚:普通、タイヤの輪っかは丸く描くんだけど、この漫画のなかでは楕円に描いてある、と。
黒田:ひとコマひとコマに、いろんな発見をしました。「こういうことでええねん。見方や考え方はもっと幅があるものだ」と。今だからこうして言葉にできるけど、そういうことを漠然と思えたのが『新宝島』なんです。
■デビュー時に「邪道だ」と言われた手塚治虫の漫画
黒田さんは自身が絵を描く際に、ウケを狙わず自然体で描きたいと、常日頃考えているそうです。「手塚治虫さんも本質的にそういう人だったんですか?」と眞さんに問いかけます。
手塚:父がデビューしたとき、先輩の漫画家さんとか出版社の人からは「あなたの漫画は邪道だ」と言われた、というのは聞いてますね。そう思った人は何人かいたみたいで「君のような漫画は君ひとりにしてほしい。こんなのが流行るようじゃ日本の漫画はおしまいになっちゃうから」と言われたと。
黒田:漫画道みたいなものから外れていたんですね。
手塚:何かが違っていたんでしょうね。さっきの話の「タイヤが楕円形になってはいけない」とか、そういうものがあったんだと思います。
黒田さんは先月まで、大阪で『僕は手塚治虫になりたかった。黒田征太郎展』を開催していました。眞さんは黒田さんの描いた『鉄腕アトム』について「純粋にいいな」と述べました。
手塚:黒田さんの描かれたアトムだとわかるところが、いいですね。真似して描いてないじゃないですか、自由にお描きになって、でもアトムとわかる。間違ってないアトムだと思うんです。どんなに似せて描いても、見た瞬間に「アトムじゃない」ということがある。アトムの本質が違うというか、「悲しみを引きずりすぎている」「暗すぎる」「空っぽにみえる」とか。でも黒田さんのお描きになったアトムは、パッとみた瞬間に輝いていて、ここにエネルギーがある感じがします。
黒田:それはすごく嬉しいですね。
手塚作品への愛がつまったオンエアとなりました。改めて、手塚作品に触れてみてください。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
※PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:土曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/
■坂本龍一が思う、手塚作品の美しい部分
手塚治虫は1928年11月3日生まれ。90年前です。その作品は色褪せることなく、多くの人々に愛されています。ここでは、坂本龍一さん、杏さんが語った手塚作品への思いをご紹介します。
坂本:僕にとっての手塚治虫さんは、物心ついたときから身近な存在。今でも家にあります。ずいぶん長い付き合いですね。漫画の基本みたいな……それは、誰にとっても同じかもしれないけれど。昭和の日本を象徴する存在ですよね。手塚作品で好きなのは、たくさんありますけど、『ブッダ』と『火の鳥』かな。すごく考えさせられる、深いストーリーもあるけれど、その中におちゃめなコマが入っていたり。それから、女性を描く曲線が魅力的ですよね。かわいいし、美しい曲線です。
杏:子どもの頃から手塚さんの作品に慣れ親しみ、『ブラック・ジャック 』や『火の鳥』、『鉄腕アトム』などなど、さまざまな作品を小中学校の図書室で借りて読んだり、親に買ってもらったりしました。なかでも好きなのは、『海のトリトン』『バンパイヤ 』『ジャングル大帝』など、動物と人間が共存したり冒険したりする作品。動物を通して人間を見る視線の鋭さに子どもながらにハッとさせられるし、大人になってから読み返しても夢があります。大人向けの政治向けなもの、ダークな部分を描いたものもたくさんあるので、人生を通して楽しんでいけますよね。「これからもよろしくお願いします」という気持ちです。私がナビゲーターをつとめる『BOOK BAR』でも、ぜひ紹介していきたいと思います。
谷川俊太郎さんは、詩を朗読しました。
谷川:103歳になったアトム。人里離れた湖の岸辺で、アトムは夕陽を見ている。103歳になったが、顔は生まれたときのままだ。カラスの群れがねぐらへ帰っていく。もう何度、自分に問いかけたことだろう。僕には魂ってものがあるのだろうか。人並み以上の知性があるとしても、寅さんにだって負けないくらいの情があるとしても。いつだったか、ピーターパンに会ったときに言われた。「君、おちんちんないんだって?」。「それって魂みたいなもの?」と問い返したら、ピーターは大笑いしたっけ。どこからか、あの懐かしい主題歌が響いてくる。「夕陽ってきれいだなあ」とアトムは思う。だが、それ以上、気持ちはどこへもいかない。ちょっとしたプログラムのバグなんだ、たぶん。そう考えて、アトムは両足のロケットを噴射して、夕陽の彼方へと飛び立っていく。
■物の見え方は自由だと教えてくれた手塚作品
黒田征太郎さんと手塚 眞さんの対談では、黒田さんが『新宝島』への思いを語りました。
黒田:小学校で、お絵描きの時間に写生をしたんです。瓦屋根が光の加減で紫色に見えたので、そのとおりに塗りました。その色で塗ったのは、40人くらいの生徒の中で僕だけ。「みんな灰色なのにお前はおかしい」と怒られて、「僕はこう見えたんです」と言い返したけど、有無も言わさず頭を叩かれまして。でも、僕はダメということを飲み込めなかったんです。そんなことがあったとき、『新宝島』のピートくんが乗っている自動車の(タイヤの)輪っかが楕円なのを見て、「これだ!」と思ったんです。「これでええねん」と。
手塚:普通、タイヤの輪っかは丸く描くんだけど、この漫画のなかでは楕円に描いてある、と。
黒田:ひとコマひとコマに、いろんな発見をしました。「こういうことでええねん。見方や考え方はもっと幅があるものだ」と。今だからこうして言葉にできるけど、そういうことを漠然と思えたのが『新宝島』なんです。
■デビュー時に「邪道だ」と言われた手塚治虫の漫画
黒田さんは自身が絵を描く際に、ウケを狙わず自然体で描きたいと、常日頃考えているそうです。「手塚治虫さんも本質的にそういう人だったんですか?」と眞さんに問いかけます。
手塚:父がデビューしたとき、先輩の漫画家さんとか出版社の人からは「あなたの漫画は邪道だ」と言われた、というのは聞いてますね。そう思った人は何人かいたみたいで「君のような漫画は君ひとりにしてほしい。こんなのが流行るようじゃ日本の漫画はおしまいになっちゃうから」と言われたと。
黒田:漫画道みたいなものから外れていたんですね。
手塚:何かが違っていたんでしょうね。さっきの話の「タイヤが楕円形になってはいけない」とか、そういうものがあったんだと思います。
黒田さんは先月まで、大阪で『僕は手塚治虫になりたかった。黒田征太郎展』を開催していました。眞さんは黒田さんの描いた『鉄腕アトム』について「純粋にいいな」と述べました。
手塚:黒田さんの描かれたアトムだとわかるところが、いいですね。真似して描いてないじゃないですか、自由にお描きになって、でもアトムとわかる。間違ってないアトムだと思うんです。どんなに似せて描いても、見た瞬間に「アトムじゃない」ということがある。アトムの本質が違うというか、「悲しみを引きずりすぎている」「暗すぎる」「空っぽにみえる」とか。でも黒田さんのお描きになったアトムは、パッとみた瞬間に輝いていて、ここにエネルギーがある感じがします。
黒田:それはすごく嬉しいですね。
手塚作品への愛がつまったオンエアとなりました。改めて、手塚作品に触れてみてください。
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【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:土曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/
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