音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
日本語は「体の感覚」に訴えかける表現が多い…ロバート・キャンベルが解説する魅力

日本語は「体の感覚」に訴えかける表現が多い…ロバート・キャンベルが解説する魅力

J-WAVEで放送中の番組『SUNRISE FUNRISE』(ナビゲーター:レイチェル・チャン)のワンコーナー「FUTURE DESIGNERS」。6月17日(日)のオンエアでは、日本文学研究者ロバート・キャンベルさんを迎えて日本語の魅力に迫りました。


■公衆トイレで気づいたこと

キャンベルさんはアメリカ・ニューヨーク出身。カリフォルニア大学 バークレー校で学んだ美術を通して日本文学に興味を持ち、その後、ハーバード大学 大学院で江戸文化について研究をスタート。現在は、国文学研究資料館の館長も務めています。早速、日本語の魅力についてお訊きしました。

キャンベル:二つあると感じます。一つは、日本語って必ずしも人間を中心に世界が回っていないことを、鋭く見抜いている言葉だと思うんです。西洋の言語はわりとヒューマニズムだけど、日本語は必ずしもそうではないんです。
レイチェル:なるほど。
キャンベル:例えば、男性の公衆トイレに「人がいなくても水が流れることがあります」と書かれたシールが便器の上に貼ってあるんです。匂いを防ぐために、ある間隔で洗浄水が流れることを知らせてるんですけど、「人がいなくても水が流れる」というのを人に伝える必要がないんです。
レイチェル:そうですよね(笑)。
キャンベル:英語だったらありえないんです。英語のサイネージは「間違った使い方をすると怪我をする」といった具合に何かを指示することがほとんどですが、日本語のサイネージはその状況を伝えてくれる言葉が多いんです。”一事が万事”というわけではないけど、日本語は、人間はいるけれど、自然や時の移ろいがあって、人間はその中で生きているということをベースにした言葉だと思うんです。


■日本語特有! 擬態語の魅力

レイチェル:リスナーの方からのメールで「日本語には雨の表現がたくさんありますよね」という内容のものがありました。
キャンベル:それはすごく感じます。日本語の特徴のもう一つに、ロジックというよりも、体の感覚器官に直接訴えるような表現が多いんです。雨が降るときの表現だと、”ぴたぴた”とか”ザーザー”とかの擬態語が多い。
レイチェル:なるほど。
キャンベル:昨夜、スタッフと飲んでたんです。京都から来た若い女性の研究者と一緒だったんですけど、日本酒を注文するときに「”重たいめ”のやつをください」と言ったんです。”軽い”とか”重たい”ということはわかるけど、「それって、どういうこと?」と聞いたんです。
レイチェル:ワインとかだと「重め」って言いますけど。
キャンベル:「フルボディ」って言いますけど、”重たい”とはちょっと違うんじゃないかと。彼女は「今日は館長がいるから、ちょっと改まった言い方をしたけど、普通は”ズンズンくるやつ”とか、もっと擬態語を使っていつも頼むんですけど」と言ってたんです。
レイチェル:はい(笑)。
キャンベル:ロジックではなくて、その人の感覚を聞いてその人と同期できるかどうか、仲良くできるかどうかっていうのは、すごくあるんです。だから「あの人はちょっとヌメっとしている感じ」とか、日本語の特徴かなと思います。


■文学は「非常口」の役割を果たす

レイチェル:キャンベルさんが考えられる、文学の持つ力って、どういうところですか?
キャンベル:昔、ニューヨークで育ったんですけど、古いアパートの奥に行くと寝室から外に火事の時の非常口があるんです。「fire escape」っていって、鉄でできていて下に降りられるようになってるんですけど、ハッチのようなちょっとしたスペースがあって、家の中で嫌なことがあると、そこに行って一人で夕陽を見たり本を読んだりするんです。それって、子どもの頃はすごく大事な空間だったんです。
レイチェル:なるほど。
キャンベル:文学は晴れていないときに逃がしてくれる”非常口”のようなものとして、すごく重要だと思うんです。アップテンポの日も文学はすごくおもしろいんだけど、気分が沈んでるときとか、うまくいってないときに、全然違う人生の人の目を借りて生きる場所、空間、空気を感じるのは、大事なことですよね。自分の寝室に戻ってきたときに、強気でいさせてくれるとか。だから、そういうことが文学があり続けることの大切さの一つだと思います。
レイチェル:大きな震災が起きたときにもいろいろな活動をされていましたけど、その中でも、物語がひとつ役割を果たしていましたよね。
キャンベル:震災のときに宮城県で「ブッククラブ」を立ち上げ、読む活動をしていました。自分のことで精一杯で、人と話し合う余裕はない。でも、私たちは人と語り合うことが刷り込まれているので、できないとストレスになる。そこで、一緒に小説を読むという、ニュートラルな場所を作りました。
レイチェル:なるほど。
キャンベル:例えば、幸田文の小説『台所のおと』では、佐吉とあきの夫婦が小さな料理店の切り盛りをしてるんだけど、佐吉が病気になって、台所から障子一枚離れた自分の部屋で布団で寝ていて、ずっと奥さんの音を聞いてるんです。そうすることで彼女の心の中が全部見えるんです。彼女のひとつひとつの仕草が音から想像できて、彼女が感じているストレスとか、寂しい思いとか嬉しさを、人参を切っている音や魚を洗っている音とかから、言葉をこえて伝わってくるんです。余白がたくさんあるから、被災者と一緒に読んだときに、みんなが語り始めるんです。物語が根源的に持ってる力だと思うんです。先ほどのハッチのように、日常からちょっと脱出できるような空間、語り合えない、味わえない他の人の経験を、自分が一時的に引き受けることによって、人とわかりあっていくんです。
レイチェル:いろいろな形で、東北の復興支援に行かれた方も多いと思いますが、物語の力を使ったのはキャンベルさんならではだと思います。
キャンベル:逆に言うとそれ以外のことができないんです。一緒にいろいろな話をしながら、小説の中で遊ぶ空間を作る事が、僕にとっては発見でしたね。

さらにキャンベルさんは、「本を読むことで自分の言葉が豊かになるため、書物でも電子書籍でもいいから読んでください」とメッセージを送りました。

この記事の放送回をradikoで聴く
※PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『SUNRISE FUNRISE』
放送日時:毎週日曜6時ー9時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sunrise/

この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。

  • 新規登録簡単30
  • J-meアカウントでログイン
  • メールアドレスでログイン