竹中直人から言われた「忘れられない一言」とは? 独創的な作品を生み出す特殊メイクアーティスト・快歩が語る

特殊メイクアーティストの快歩さんが、子どもの頃に影響を受けた作品や、人気ミュージシャンや大御所俳優に施した特殊メイクの内容、さらには今後のビジョンなどについて語った。

快歩さんは1996年、愛知県名古屋市生まれ、特殊メイクを軸にグラフィック、アートディレクションの分野で作品を制作し、2024年には『Forbes JAPAN』による「世界を変える30歳未満30人」に選出された人物だ。

快歩さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

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原点は小1のときに読んだ『墓場鬼太郎』

様々なミュージシャンのMVで特殊メイクやマスク、造形物を手掛け、高い技術と独創的な世界観で注目を集める快歩さん。その原点を辿っていくと、絵を描くなどのモノづくりが大好きだった子ども時代に経験した、ある漫画&映画との出合いに行き着く。そんなクリエイティブに目覚めた原体験を、六本木ヒルズを出発し、都心を駆け抜ける「BMW XM」の車中で語り始めた。

快歩:実家に『墓場鬼太郎』がたまたま置いてあったんです。小学1年生のときに初めて読んだところ、すごく怖いけど、なぜか引き込まれる。そんな未知の世界が広がっていました。そこから妖怪やファンタジーがどんどん好きになり、関連する映画を観漁っている中で出合ったのが、ティム・バートンの『ビートルジュース』です。この映画を観て特殊メイクはゾンビやグロテスクなものを再現するだけでなく、どんな表現をしてもいい技術だと知り「めちゃくちゃ面白そう」と興味を持ちました。

水木しげるとティム・バートン。日米の巨匠にインスパイアされた快歩さんは、名古屋の高校でデザインを学んだ後、18歳で上京。日本の特殊メイク業界におけるトップランナー・Amazing JIROさんが主催する特殊メイク・造形アーティスト養成学校「Amazing School JUR」に入学した。在学時について「実際に学んでみて、特殊メイクはこれまで紙や粘土などで表現していたキャラクター・世界を具現化する『妄想が目の前に現れる技術』だと知り、どんどんハマっていきました」と振り返る。

きゃりーぱみゅぱみゅのMVを担当

そんな快歩さんの特殊メイクには、見たことがない不思議さや可愛らしさ、温かみが滲み出る。その独創的なスタイルは、きゃりーぱみゅぱみゅをはじめ、King GnuやVaundyなど、様々な人気ミュージシャンのMVで活かされている。

快歩:今でもよくお仕事をさせていただくきゃりーぱみゅぱみゅさんと初めてご一緒したのは、2021年リリースの楽曲「かまいたち」のMV制作時です。スキンヘッドのきゃりーさんが頭を光らせて、妖怪のかまいたちが出てくるというMVになっています。このMVで僕の世界観を気に入ってくれたようで、今もステージのデザインやバックダンサーの被り物などを担当させていただいています。

特殊メイクが完成するまでのプロセスはすごく長いんです。メイク自体は2時間ほどで終わるのですが、モデルさんの顔の型どりやその人に合った人工皮膚の制作といった現場に行くまでの下準備に多くの時間を要します。特殊メイクをする上で一番大事なのはデザインです。どういった発想でどういったデザインにするかを決めることが、作業の半分を占めます。そこから完成に至ったとき、自分が想像していた以上のものが目の前に現れることに楽しさを感じるんですよね。

CGが進歩しても特殊メイクが必要とされる理由

快歩さんによれば、特殊メイクで使用する人工皮膚やマスク素材の進化は目覚ましく、驚くほど表現の幅が広がっているという。そのためCG技術が発達した今なお、映像作品において存在感を示し続けているようだ。

快歩:僕が特殊メイクを学び始めた頃は、ちょうどCG技術の進歩がすごい時期で、「もう特殊メイクはなくなるのでは?」という空気が漂っていました。しかし今は逆に、特殊メイクを映像作品に積極的に取り入れていく再評価の流れがきていると感じます。個人的には、映像のリアリティは特殊メイクのほうが強く、全てをCGで作ってしまうと予想外のことが起きない気がするんですよね。現場でモデルさんにメイクを施すことにより、見たことのないものが生まれるというか。100%で作ったものが120%になる感覚があるんです。

快歩さんの特殊メイクを評価するのは、ミュージシャンだけではない。とある大御所俳優からその技術・スタイルを高く買われ、忘れられないうれしい言葉をかけてもらったことがあるそうだ。

快歩:竹中直人さんの顔半分をドクロにして、もう半分をリアルな竹中さんの顔にするという短編映画の仕事があったんです。この仕事をきっかけに竹中さんと仲よくさせてもらい、僕の個展に毎回足を運んでいただいています。竹中さんからは「快歩の作品はただ可愛い、気持ち悪い、怖いではなく、どこか人間味がある。それが人を惹き付けるんじゃないか」と言っていただきました。そこは僕も意識していた部分だったので、しっかりと見ていただけているんだなと思い、すごくうれしかったですね。

駆け出しの頃を過ごした、江戸川区一之江

「BMW XM」は江戸川区一之江へ。ここは快歩さんがキャリアの最初期に過ごした思い出の場所だという。

快歩:一之江は、駆け出しの頃に仲間とアトリエ用の一軒家を借りていた場所です。当時はちょうどコロナ禍真っ只中。みんな仕事がなかったので、アトリエに入り浸り、ひたすら作品作りに励んでいました。アトリエがあったエリアはものづくりの工場が多い場所で、何をやっても怒られませんでした(笑)。なので、かなり大胆な作業をすることもでき、スキルが上がったように感じます。もう一つ思い出すのは、一軒家の室温が夏はとにかく暑く、冬は非常に寒かったことです。特殊メイクに用いる材料の中には、気温によって凝固する速さが変わるものもあります。そんな環境下で制作していたからこそ臨機応変な対応力が磨かれ、作業スピードが向上しました。ちなみにアトリエで一緒だった仲間とは、ちょくちょく会って近況報告をしています。あの頃はみんなで遊びながら仕事をしているような感覚で、すごく楽しかったですね。

快歩さんの仕事は人に特殊メイクを施すだけに留まらない。オリジナルキャラクターのデザインや、フェス会場全体のアートディレクションを担うなど、表現の場を広げている。ジャンルにとらわれないクリエイティブに次々と挑戦する背景には、どんな思いがあるのだろうか。

快歩:従来の枠にとらわれて仕事をし続けるのは面白くないなと思っているんです。自分の技術を活かせばもっと新しい表現ができるはずだし、もっと見たことのないものを生み出せると考えていて。実際に、キャラクターデザインやフェスの会場全体のアートディレクションなど、どんどん仕事の幅が広がっていきました。とはいえ、自分的には特殊メイクとやっていることは変わらないんです。対象が人ではなく、モノや大きな空間になっただけというか。シルエットを捉えてどう面白く変化させていくかという原則は同じなんですよ。

快歩さんがアートディレクションを手がけた音楽フェスは2024年・25年夏、 茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園で開催された「LuckyFes」。会場を飾るバルーンやパネルのデザインを手がけたほか、会場のあちこちに出現する「ラッキーモンスター」というイベントのキャラクターも生み出した。

世界大会ではTOP3に入賞!

そんな快歩さんは2020年、オーストラリアで開催された特殊メイクの世界大会でTOP3に選出されている。国際的なコンペティションにエントリーした理由とは。

快歩:当時は今ほど忙しくなく、ちょっと悶々としていたので、「何かの称号が欲しい」というおかしな理由でエントリーしました(笑)。その時に作ったのは、カエルと花を融合させたような見た目の作品です。派手さと手数をとにかく増やすことを意識しました。時間はあるけどお金がなかった時期だったので「やれることは全部やってやろう」と意気込み、色々な材料を買いまくった挙句、金欠になったのを覚えています(笑)。

この作品はカラフルでサイケデリックな色遣いと奇妙な質感があってかなり気に入っているのですが、どこから着想を得たのか考えていくと、作風のルーツは実家の花屋から来ていると気が付いたんです。僕は常に身近に花がある環境で育ちました。花は綺麗な反面、細部をよく見ると少し気持ち悪かったり、毒々しかったする。そんな花が持つ二面性が今の作風に現れているのかもしれません。

快歩さんを乗せた「BMW XM」は原宿に到着。2022年に開催した初の個展「TIPSY(ほろ酔い)」の会場となった「Joint Gallery」前で、当時の思い出について振り返った。

快歩:コロナ時期に作り溜めた作品を発表する場が欲しいと思い、見つけたギャラリーがここ「Joint Gallery」です。とりあえず勢いで場所だけ抑えて、展示を決めました。しかも、ちょうど同じタイミングでアトリエの引っ越しが重なっていたので、もう超赤字(笑)。でも、やりたいことをやるというのが自分のモットーなので。覚悟を決めて強引に開催した結果すごくいい個展になり、大きなお仕事に繋がるきっかけにもなりました。だからあのとき、強引にでも挑戦してよかったと思いますし、そういった強引さはこれからも発揮していきたいですね。

独自の世界観を突き詰めつつ、特殊メイクの枠を超えた幅広いフィールドでシームレスに活躍する快歩さん。彼にとっての挑戦、そしてその先にあるFreude=喜びとは何か。尋ねると、こんな答えが返ってきた。

快歩:特殊メイクは映画やドラマでだけ使用されるものと思われがちですが、表現としては本当に何でもありなんですよ。実際、リアルイベントなど様様なシーンで活用されていますし。なので、今後も僕の想像しえない発展がもっと起こっていけばいいなと期待しています。また、この仕事をしていて一番面白いと思うのは、作品が完成したときです。自分の想像を超えたものがこの世に生まれ、それを見た人たちがいいリアクションをしてくれることがすごくうれしいんです。この驚きをより多くの人に届けていきたいです。

(構成=小島浩平)

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