映画『国宝』の衣装デザインの裏側とは? 衣装デザイナー・小川久美子が明かす

衣裳デザイナーの小川久美子が、映画『国宝』の衣装デザインの裏側を語った。

小川が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスがいま声を届けたい人を迎える30分のトークプログラムだ。月曜から木曜はラジオでオンエアされ、翌金曜には放送された内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストが配信される。

ここでは、10月1日(水)にオンエアしたトーク内容をテキストでお届けする。

・ポッドキャストページ

映画界へのきっかけは『セーラ服と機関銃』

小川は、映画『キル・ビル』『血と骨』『悪人』『怒り』、そして大ヒットを記録している『国宝』など数々の映画の衣装デザインを手がけている。

そんな小川が衣装デザインを手がけるきっかけとなったのは、1981年公開の薬師丸ひろ子主演、相米慎二監督の映画『セーラ服と機関銃』だった。

クリス:きっかけが薬師丸さんだったそうですね。

小川:もともと、私は学生のときからアルバイトでコマーシャルの衣装のアシスタントをやったりしていたんですけど、いつの間にかスタイリストになり、コマーシャルと雑誌をメインに、衣装デザインに携わるようになりました。薬師丸さんに関しては、雑誌もやってましたけど写真集でご一緒したんですね。それを相米監督が見ていらっしゃったんでしょうね。

クリス:80年代ってコマーシャルや写真集とか、メディアの魅せる衣装が面白い時代でしたよね。

小川:世の中的には、いちばん衣装に興味や意識がいくようになった時代だけれど、映画界は私がそれまでやっていた雑誌やコマーシャルの世界から見ると、ちょっと古くささみたいなシステムがあったんですね。たぶん、相米監督はそういう世の中的なことで若い子が作品に出るんだったら、同じように考えてる若い人と仕事をしてみたいと思ったんだと思います。

その後、さまざまな衣装デザインに携わるようになった小川に、「たとえば『国宝』では何人分の衣装を手がけたのか」とクリスは問いかける。

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小川:『国宝』は役の方全員……コーディネートチェックや、私もコーディネートしながら観客のみなさんのものもやっているので。

クリス:観客のっていうのは、歌舞伎を観ている人も?

小川:そうです。なので、2、300人は(やりました)。時代もアジャストしつつ動いていってますので。

クリス:舞台が1960年代の長崎に始まって、順を追って展開しますからね。

小川:全部の衣装をコーディネートするっていうのは何人かで手分けしてやりますけど、もちろんそのチェックと時代に合ってるかと、あと観客席の並び順とかも見ますね。同じような色の服を着た人が固まってないか、年代が固まってないか、男女が固まってないか、そういうバランスも助監督さんと一緒に席替えとかをいろいろしていました。

クリス:ええ、また観に行かなきゃいけない(笑)。

画面をイメージしながら読む癖がついてる

『国宝』は、抗争によって父を亡くした喜久雄(吉沢 亮)と、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)、生まれも育ちも対照的なふたりを軸に物語が展開されていく。

クリス:そういった対称的なこともあって、衣装を決めていくうえでもパッキリと分けられたんですか?

小川:そうですね。特にこの話では、そういう生まれも育ちも対照的なふたりが同じものを目的として交差したり離れて行ったりという話なので、左右の人物ふたりがちゃんと存在として対照的にあったほうが面白いと思いました。

クリス:『国宝』ですと、原作の小説でも脚本でも衣装のことってそんなに書かれてないと思うんですけど。

小川:そうですね。『国宝』の原作は昔に1回読んで、そのまま脚本を読んだので(衣装に関する原作の内容を)忘れている部分はあったとは思います。

クリス:そういうなかで、脚本を読んでもう1回(衣装イメージを)膨らませていくっていう作業ですか?

小川:ええ。小説より映すこと前提で書かれた脚本だと、画面をイメージしながら読む癖がついてるので、絵が浮かんだりかたちが浮かんだりすると思います。

クリス:そうやって浮かんだ衣装のイメージを監督とお話されるんですか。

小川:イメージ画を見せることもありますが、完全にデザイン画として見せることもあります。たとえば、「ここの気持ちがわからない」というときには個人的に監督に訊いてみたりすることはありますね。

『国宝』の衣装デザインに関して、小川が難しさを感じた場面はあったのだろうか。

小川:難しかったっていうのは特にはなく、いつものように時代を考えてキャラクターを考えて。それプラス、役者としての普段着もあれば、完全に私人としての普段着もあればっていうそのバランスは難しかったというか、考えました。ここは着物のほうがいいなとか、ここは普段着にしようとか。あと歌舞伎の演目の衣装も。

クリス:歌舞伎演目の『鷺娘』(さぎむすめ)の衣装はお作りになられたんですよね。

小川:そうですね。『鷺娘』に関しては、どういうわけか真っ白な下の着物がなくて、どうしても最後は真っ白にしたかったので作らせてもらいました。

クリス:歌舞伎の衣装もルールとかいろいろなことがありますよね。

小川:それは過去の写真とか動画もあれば見ます。こういう話の場合は、単に時代的に洋服もすごく変わっていってますので、かなり勉強は必要でした。

いまの感覚で過去を見ることは必要

小川は「どんなに過去の衣装を手がけようと、いまのファッションを知らなければ(響かない)」と話す。

小川:過去のものでも完全にリアルに再現するわけではないので、いまの感覚で過去を見ることは必要かなと思います。再現フィルムではなく、あくまでも小説なりを映画にするわけですから、それはかなり大きいと思います。別に衣装だけではなく、メイクにしても何にしても。

クリス:あるとき、小川さんは「衣装デザインはそんなに表立つ必要がない」と話されてましたよね。

小川:スタッフは作品のためにいるとずっと思っていて、私はそのひとりという感じだったんです。でも、仕事としては本当に面白いので、やっぱりいろんな人に知ってもらいたいって思えるようになりました。若い人にも、こんなに面白い仕事があるんだよって伝えたいし、そうなるとどういうことを考えているのか発信したほうがいいのかなって。

「今後、やってみたいこと」について、小川はこう語る。

小川:なかなかお金もかかるし、実現はしないですけど、ちょっとシュールなものとか(やりたいですね)。部屋も服もリアルかどうかわからないとか、シュールファンタジー的な、画面中を作るっていうのか。

クリス:もう、監督じゃないですか。

小川:いや、私が作品を作るわけじゃないですが、そういう世界の作品は一度はやってみたいですね。いちばん難しそうですけど、面白そうだなと思いますね。それは完全に、作るって意味で楽しいんですけど、人の心と連動していくっていうのは本当に面白いですよね。

クリス:衣装デザインをするっていうことは、何人ものキャラクターにもなるっていうことですからね。

小川:私は演技をしているのを見るのも好きなので、こういう芝居をするんだったら着崩してみようかなとか、その場で上着を脱いでもらおうとか、その場その場で考えるのも面白いですよね。単純に服のデザインという意味でも楽しいんですけど、プラスそこに中身が入って感情が入ってそれが動いていくのが面白く、楽しいですね。

クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』は、J-WAVEで月曜〜木曜の13時よりオンエア。ポッドキャストでも配信中。

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2025年10月8日28時59分まで

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番組情報
TALK TO NEIGHBORS
月・火・水・木曜
13:00-13:30

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