留学は「あえてマイナーなところに行くのもいい」 社会学者・古市憲寿がノルウェーでの経験を語る

社会学者の古市憲寿が、留学時代のエピソードや、印象的だった旅の思い出について語った。

古市が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは5月18日(土)。

留学先をノルウェー・オスロにした理由

1985年東京都生まれの古市憲寿。慶應義塾大学環境情報学部に在学中、ノルウェーのオスロ大学に1年間留学。大学卒業後は東京大学大学院総合文化研究科に進み、修士課程を修了。著作に『ヒノマル』(文藝春秋)、『正義の味方が苦手です』(新潮社)、『謎とき 世界の宗教・神話』(講談社)などがある。2024年2月には、タレント・小倉智昭の聞き手となって死生観や芸能界について語り合った書籍『本音』(新潮社)が発売された。

そんな古市にまず、留学時代の思い出を聞いた。

古市:学生時代、交換留学なんですけども1年間ノルウェーのオスロに住んでいました。

葉加瀬:留学先は自分で選んだの?

古市:そうです。世界中の留学生が集まってくるんですけど、お互いが初めて交わす会話はだいたい「なんでオスロなの?」でした(笑)。ノルウェー人からもなんでオスロを選んだのと言われるぐらい、イギリスやアメリカじゃなくノルウェーのオスロにしたのって話になります。

葉加瀬:素朴な質問だよね(笑)。

古市:もちろんアメリカも考えたんですけど、宿題も多くて授業についていくのも大変そうじゃないですか。ノルウェーのほうが楽かなと思って。そうしたら本当にゆったりしているんですよ。

葉加瀬:学校のカリキュラムがゆったりしているの? それとも街全体が?

古市:国全体がゆったりしているんですよね。大学の授業は週に2、3コマぐらいかな。宿題もほとんどないようなものでした。日本の学生って席の後ろから座るじゃないですか。印象的だったのが、ノルウェーも同じで、後ろから座っていって前に誰もいないんですよ(笑)。みんな内気というか、そういう部分が日本と似ていて過ごしやすかったですね。

葉加瀬:では、オスロを選んだ理由は「ゆっくりしたかった」ですか?

古市:そうですね。アメリカに行ってボストンのキャリアフォーラムに行って外資系に入るみたいな、そういう上にステップアップし続ける人生から、この辺で降りておいたほうが楽かなと学生時代に思ったんですよね。若い人の中には頑張ったほうがいい人もいますけど、僕は努力が苦手なので(笑)。でも結果的に僕には合っていましたね。あとよかったことといえば、ノルウェーでいろいろ勉強しましたけども、僕ぐらい詳しい人が日本にいないんですよ。ノルウェーの育児政策や少子化について勉強したんですけど、1年間行って帰ってくるだけで、日本ではすごく詳しい人になれるのでよかったです。

葉加瀬:なるほど。

古市:ライバルが少ない場所に行くのはめちゃくちゃいいなと思いました。

葉加瀬:(留学先を)選ぶ1つのポイントになりそうですね。

古市:もちろん、自分に自信があったらアメリカなどに行くのもいいと思います。でもそうじゃない人はあえてマイナーなところに行くのもいいと思います。

ノルウェーのチョコレートにハマる!

ノルウェーに留学した古市は、言語交換を兼ねて日本語を勉強するノルウェー人と交流を重ねたという。そこで教えてもらったことは、日本のアニメの素晴らしさだった。

古市:日本語学科のノルウェーの人と仲良くなったんですけど、やたら日本のアニメを観させられたんですよね。日本のアニメは詳しくなかったんですけど、ノルウェーで過去最高ぐらい日本のアニメを観ることになりました。

葉加瀬:『NARUTO -ナルト-』を知っているかってみんな言うでしょう(笑)?

古市:そうなんですよ。当時はインターネットをみんなが使う時代だったので、ノルウェー人が日本の漫画やアニメをめちゃくちゃ知っていて、逆に僕が教わる日々でしたね。今もですけど、日本のソフトパワーというか、コンテンツの力ってすごいですよね。

葉加瀬:そうだねえ。ノルウェーの人たちってのんびりしているの?

古市:ちょっとシャイというか、みんな大騒ぎとかはそんなにしないんですよね。ただ、お酒の席などピンポイントで騒ぐ人たちです。ノルウェーの高校生って卒業したらバスを運転手付きで貸し切って、1カ月間ぐらいノルウェー全土を走り回るんですよ。そして、そういうバスたちが集結して、全国の高校生たちがいろんな街でパーティーをするカルチャーがあります。普段は大人しいのにそういうときは大騒ぎする、その落差が面白いなと思いました。

葉加瀬:なるほどなあ。お祭りのときだけ騒ぐ感じと同じだね。ノルウェーの食事はいかがでしたか?

古市:当時は食文化というものがあまりない国なんですよね。ノルウェーの朝ごはんは基本的にサンドイッチみたいなのを食べます。パンを自分で切ってそこにチーズとかを挟んで食べるんですけど、まったく同じものをランチにするんですよ。夜は冷凍ピザみたいな。それが当時一般的なノルウェーの食生活じゃないかって感じでした。ここ20年でだいぶ変わったみたいですけどね。

チョコレートが大好きな古市は、ノルウェーのチョコレートブランド「フレイア(Freia)」の味にハマったそうだ。

古市:フレイアのチョコレートがめちゃくちゃおいしくて、1個200グラムとけっこう大きいんですけど、1日下手したら3、4枚食べていました。他においしいものが見つけられなかったので、チョコを異様に食べていましたね。

葉加瀬:体に変調はなかったですか?

古市:なかったんですけど、(チョコが)家にないと不安になるんですよね(笑)。それぐらいチョコを食べ続けていましたね。

ロンドンならではの街の魅力とは?

続けて古市から、印象に残った街「ロンドン」にまつわるエピソードを聞いた。

古市:日本からロンドンに行ったとき、そんなに背伸びしなくてもいい気がしていて。アメリカは治安の問題もあって、怖いとも違うんですけど、「なんか違うな」と思うときがあるんですね。パリもおしゃれ過ぎて背伸びしなきゃと思うときがあるんですけど、ロンドンって街のスケール感やいろんなものを含めて違和感なく過ごせる気がして、すごく好きです。

葉加瀬:なるほど。

古市:今年3月にもロンドンに行って、そのときは舞台『となりのトトロ』を観ました。もちろん原作は日本で久石 譲さんも関わっているんですけど、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと一緒にやっていてすごくよかったです。

葉加瀬:イギリス人ってオペラをやるときも演出がとてつもなく現代的、前衛的でよくわからない世界をもってくることが多いよね。

古市:挑戦的ですよね。ロンドンって奇抜なデザインのビルがあって、そういう挑戦もちゃんとする街というか、(新旧)どっちもあるところが僕は好きですね。

葉加瀬:ピカデリー・サーカスだってオックスフォード・サーカスだって、交差点の写真をポンと撮ったら200年前とそう変わらないんだよね。それは外壁1枚だけは絶対に残すっていう決まりがあるからだけど、中に入るとどこよりも現代的じゃないですか(笑)。

古市:イタリアとかは下手したらどこも昔のまんまみたいなところがありますからね(笑)。

葉加瀬:歴史とともに生きていく感じだよね。感覚の違いがあるんだろうねえ。ロンドンではどんな風に過ごすんですか?

古市:現地に友だちがいるので会ったりしていますね。観光地に行くよりも、できるだけそこに住んでいる人みたいにいたいっていう思いがあります。僕は普段まったく料理をしないんですけど、海外に行くとキッチン付きのホテルとかに泊まって料理することがあるんですよ。

葉加瀬:面白いね!

古市:スーパーに行って肉や野菜を適当に買って適当に料理します(笑)。でも日本では自宅のキッチンが物置になっていて、一切使っていません。

葉加瀬:何がそう駆り立てるんだろうね。

球体型アリーナ「スフィア」の体験談

古市はラスベガスに2023年オープンした球体状のエンターテインメント施設「スフィア」を訪れた思い出を振り返った。

古市:僕はU2のライブが終わる間際に行ったんですけど、初めは1階で観ちゃったんですよ。1階だとU2はよく見えるんだけど、スフィアの全貌、モニターがまったく見えなかったんです。

葉加瀬:普通のアリーナになっちゃうわけだ。

古市:あまりにも悔しかったから、次の日のライブ最終日も行ったんですよ。そのときは4階にしたら、U2は遠いんだけどスフィアの全貌はめちゃくちゃ見られました。巨大な球体の中で映像が繰り広げられる感じで、新しい体験として面白かったです。でも4階って席が急で、立ち上がると落ちそうになるんですよ。アメリカの人たちも手すりに掴まりながら階段を降りていました。ライブなのに怖いから誰も立ち上がらないんですよ(笑)。

葉加瀬:なるほど。天井、つまり球体の全体に映像が映るわけ?

古市:360度全部というわけではなく、視界に入る部分は全部見える感じです。スフィアは外側もモニターになっているんで、街中でもスフィアの映像が見えるんですよ。しかもスフィアは24時間光っています(笑)。

葉加瀬:そうなんだ!

古市:住宅地だとまず無理ですよね。ラスベガスだからこそ可能な施設だと思いました。建設に3000億円ぐらいかかっているので元が取れるのかわからないですけど、新しいエンターテインメントとしてアリなのかなと思いました。

ゲストの旅の思い出を葉加瀬太郎が聞く『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜19:00-20:00オンエア。現在、radikoのタイムフリー機能では、「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」のオーナー落合務さんのトークを聞くことができる。日本でイタリア料理界の先駆者として知られる落合シェフが本番組に登場するのは10年ぶり。イタリア各地で食べ歩いた経験、さらにハワイでの新しい挑戦など、伝説のシェフが語る世界のおいしい話をお届けした。

2024年6月1日28時頃まで

番組情報
ANA WORLD AIR CURRENT
毎週土曜
19:00-19:54

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