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コブクロ・小渕健太郎、神が宿る“宮島”の旅へ─1200年以上も守られる炎の前で『蕾』のルーツを語る

コブクロ・小渕健太郎、神が宿る“宮島”の旅へ─1200年以上も守られる炎の前で『蕾』のルーツを語る

世界遺産「厳島神社」で知られる広島県の宮島。“神が宿る”と言われるこの島で、人々は隣り合わせの信仰、そして古来より息づく悠久の自然とどう向き合っているのか――。放送作家の小山薫堂と音楽デュオ・コブクロの小渕健太郎が、現地への旅を通して紐解いた。

旅の模様を伝えたのは、7月18日に放送された番組『J-WAVE SPECIAL TSUCHIYA EARTHOLOGY』。人間が自然と共存するために必要な知恵とは何かを専門家とのトークを通じて考えるスペシャルプログラムであり、ナビゲーターは小山とフリーアナウンサーの高島 彩が務めた。

この番組は、ポッドキャストでも配信中だ。

厳島神社はいつ建てられたのか?

宮島にはプライベートで何度か足を運んでいるという小渕。2014年にツアーで広島を訪れた際にはバンドメンバー全員と島を一周したこともあるという。そんな小渕とともに小山は、旅の初めに、厳島神社で約50年に渡り禰宜として神主を支えてきた福田道憲さんのもとへ話を聞きに訪れた。

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小山:厳島神社は、平清盛によって建てられたというイメージがあるのですが。

福田:正確には「建て替えられた」んです。

小山:そうだったのですね。では、どなたがお建てになったのでしょうか?

福田:実は厳島神社について、平清盛が立て替えた以前の正確な記録というのはほとんどないんです。ただ、島のかたちに霊気を感じて手を合わせ始めたのが信仰の始まりで、お宮ができたのは推古天皇が即位した西暦593年だと言われています。建立された当時、どんな建物だったのかはわかりませんが、島全部がご神体ということで、どこからでも手を合わせることができた存在だったのではないかと思います。

小山:宮島には信仰心の厚い方が多いように思います。福田さんもそのようにお感じになられますか?

福田:私は日々神様のおかげで生活をしていて、それが当たり前になっているから、特別に何かを感じるというようなことはありません。逆に、よそからお越しになられた方のほうが感じ取る力は強いのではないでしょうか。

小渕:福田さんは50年に渡って厳島神社を支えてきたわけですが、今後も厳島神社を守り続けるためには何が必要だと思いますか?

福田:まぁ、ゴールのない駅伝の選手みたいなイメージでしょうか。変わらない状態で次の世代にたすきを渡すことだけを考えています。それが代々やってきていることですから。

小山:福田さんにとって信仰とは何ですか?

福田:いつもの通り。あるがままです。

小山:「自然の中で生かされている」という感覚もありますか?

福田:それもありますね。

小渕:つまり福田さんにとって信仰は、やろうと思ってやっていない日常的なことなんですね。

福田:他の人と比べようもないですしね。「あの人はこうやってる」「私だったらこうする」ということがありませんから。

島に覆う“結界”が作り出す、豊かな自然と静けさ

続いて2人は、先祖代々宮島に居を構える生粋の宮島人・舩附洋子さんのお宅を訪問。今もなお昔ながらの風習を守って暮らす彼女に「心の中にどんな神様が住んでいるのか」という話を伺った。

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小山:今、お名刺をいただきましたら「中国新聞 文化センター講師」と書いてあることに気付きました。

舩附:はい。私は宮島の先人たちが私たちに伝えてきたことを教える講師なんです。

そう言うと舩附さんは、父に連れられて厳島神社へ参拝した幼少期の記憶を辿り始めた。

父親が写真大好き男で。私が子どものときなんかは写真を撮るついでに「洋子、(厳島)神社行くから来い!」とよく連れて行かれました。到着して、厳島神社の回廊を歩くと潮が寄せてくる。西日が射す。すると父が「よう見とけ。夕日が照って、回廊の柱が海面に反射して揺らぐ。それこそが宮島の美しさなんだ」と言っていました。

またうちは、母も宮島人なんです。父は歴史や神社などの建築物、自然の素晴らしさを伝えてくれましたが、一方で母は宮島の暮らし・しきたりを教えてくれましてね。例を挙げると、大晦日に厳島神社で松明に火を灯して行う鎮火祭。私たちはこれをしなければ、新しい年を迎えられない。つまり、行事とともに生きているんですよ。私らは神様・仏様が大好きなの。「神が宿る厳島」と言われているけど、明治維新の前なんかは神も仏も一緒でしたでしょ?

小山:「神仏習合」ですね。

舩附:そう。私は特定の宗教を強く信じているわけではないですけど、神様や仏様に助けてもらったと感じることが多いんです。

小山:一方で「宮島の自然」はいかがでしょう?

舩附:いや、自然もまたええんですよ!

小山:小渕:(笑)。

舩附:なぜ宮島が良いのかと言えば、海があって厳島神社がある。その背後には、自然がそのままのかたちで残る弥山原始林が広がっている。そして何より静か。これに尽きます。

小渕:昔から「島って良いな」と思うのが、島に吹く風は「さっき吹いた風」じゃないですか。たとえば、僕らが住んでいる東京だと、海で吹いた風が街に届く頃には既に色々なものが混ざって淀んでしまっている。だけど、島は常に新しい風と空気があるというのが良いところですよね。

舩附:ほんとに空気が澄んでますよ。宮島は船でたった10分の距離にあります。これが橋がかかっちゃいけません。道路ができてないからこそ、宮島の香りがしているんじゃないかと思うんですよね。

小山:結界みたいなものですね。

舩附:そう! 結界ですよ。いいことおっしゃる!

小山:ここまで舩附さんのお話を聞いていて、信仰があるからこそ日常のすべての出来事に感謝されているような印象を受けました。

舩附:意識せずに、感謝の思いが溢れてくるんですよね。何でもないときに「うわ~助けてもろた」とか。あとは、悪いことをしそうになったときに「しちゃいけん、しちゃいけん。こういうことをしたら罰が当たる」と思いますし。

宮島は「神と仏が一緒になってお祭りをしている島」

旅の終着地は、唐より帰国した空海が宮島に渡り、西暦806年(大同元年)に開山したと伝えられている、宮島に佇む霊峰・弥山と関係が深い真言宗御室派の大本山・大聖院。小山と小渕は、第77代目の住職・吉田さん案内のもと、弥山山頂付近にある「霊火堂」までやってきた。お堂の中には、空海が護摩修行をした際の残り火を消さずに1200年以上守り続けている「ともしびの火」が祀られていた。炎の揺らめきを前に2人は、悠久の時の流れに思いを馳せる。

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小山:小渕さん、こうやって火を見ていると、時間をさかのぼっていくような気分になりませんか?

小渕:そうですね。この火がずっと灯されていたんだと思うと、タイムスリップするような感覚になります。僕が作った歌で『蕾』という曲があるのですが、その歌詞に、母が自分に対して様々な愛情を注いでくれたことの喩えとして、「絶やす事無く 僕の心に 灯されていた 優しい明かりは あなたがくれた理由なき愛のあかし」という一節があるんです。一度付いた火は消せないし、消しちゃいけないというか……。「命の火」という意味で、あの言葉を書いたのかなと今ふと感じました。

粛然とした雰囲気のお堂から一歩外に出ると、木々が揺れ、鳥がさえずり、鹿が遊びに来ている。1200年前と何ら変わらないであろう弥山の常しえの自然を眼前にし、2人は思わずため息を漏らす。

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小山:この気持ち良さ……。当然、風など五感で感じる気持ち良さもあるんですけど、それとはまた違う精神的な心地良さがありますよね。

吉田:お大師さま(空海)がこのお堂を建てられ、火とともに1200年以上伝えられてきた歴史の深さと、五感を通じて感じられる自然の力がここにはあるように思います。

小山:宮島は「神の島」と呼ばれていると聞きましたが、吉田さんとしてはやはり「仏も入っている」というイメージですか?

吉田:宮島は「神と仏が一緒になってお祭りをしている島」だと私は考えています。島の形状は仏様が寝ているような姿をしていますし、島全体はご神体でもあるわけですし。

小山:では、やはり自然への畏怖もあると?

吉田:もちろんです。信仰というのは、もともと自然崇拝から来ております。太古の昔は、今のように地震が起きれば、ケータイに通知が来るようなことがなく、私たちの祖先は「土地の神様が怒っている」と畏れていたわけです。さらに言えば、山が噴火すれば「山の神様が怒っている」、大雨が降ったり、雷が落ちたりすれば「天の神様が怒っている」と解釈していた。その怒りを収めるためにお祈りをしたり、お供え物をしたりしていたわけですからね。

小山:今の時代は天候がおかしくなったら、「神様が怒ってる」ではなく、「人間が悪い」「我々が正さなきゃ」となっているところが面白いですよね。そういったしっぺ返しは、日頃から感謝の気持ちで自然と接し、「神様に与えてもらっているんだ」という意識でいたら、ちょっとは違う結果になるのかもしれませんよね。

小渕:昔は何一つ解明されていなかった自然災害について、今は様々な研究が進んでいるからこそ、便利である一方、自然に感謝し、自分の命を感じることを忘れがちですよね。

小山:吉田さんは「信仰」とはどんなものだとお考えですか?

吉田:「信仰」ですか……。難しい質問ですね(笑)。そうですね……。私にとっては心豊かに生きていくために頼るものかなと思います。

今回の宮島旅をメロディにした楽曲が完成!

旅の締めくくりに、小山と小渕は改めて“神と仏の島”宮島に思いを馳せる。

小山:今回は「信仰と自然」をテーマに宮島を旅してきましたが、濃厚な20数時間でした。

小渕:本当ですね。小山さんと一週間ぐらい一緒にいたような感覚です(笑)。

小山:たしかに(笑)。旅の中で、特に印象的だった場面は何でしたか?

小渕:「ともしびの火」があった場所ですね。あの見晴らしの良い高台が、特に印象に残っています。今回の旅では、僕自身、今まで宗教を意識してきませんでしたが、ずっと思いを馳せてた自分の信じるものや自分にとって大切にしていたことと向き合えた気がします。それはもしかしたら、自分にとっての神様なのかもしれません。人それぞれに神様がいて、その大元がこの大自然なんだなと体感した旅でした。

そして小渕は、旅のインスピレーションから『消さず燃やさず』という一つの曲を作り、宮島を代表する老舗旅館「岩惣」の美しい景観を望む窓辺に腰かけて演奏し、長い旅路のフィナーレとした。

・『J-WAVE SPECIAL TSUCHIYA EARTHOLOGY』公式ページ
https://www.j-wave.co.jp/holiday/20220718_sp/top/

(構成=小島浩平)

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