菊地成孔が自身のルーツや楽曲制作、ライブへの想いなどを語った。
菊地が登場したのは6月25日(土)に放送されたJ-WAVEの番組『WOW MUSIC』。同番組の6月のマンスリープレゼンターはUAが担当しており、この日は菊地をゲストに招いて音楽談義を繰り広げた。
まずUAは菊地の音楽ルーツを探ることに。
UA:いちばん若い記憶は?
菊地:3、4歳ですね。うちが水商売だったので、生みの母親が僕を背負ったまま店を切り盛りしていました。
UA:背負われている肩から見るお店の風景。そこに音楽はかかってたんでしょうか。
菊地:水商売なので有線がかかってました。演歌とかムード歌謡とか。
UA:ムード歌謡?
菊地:(和田弘と)マヒナスターズとかあるじゃないですか。
UA:わからないです。
菊地:演歌じゃないんですよ。ちょっとジャズめいた昭和歌謡みたいな。
UA:なるほど。
当時、菊地の家の両脇が映画館だったそうで、泣くとよく映画館に連れられたという。
菊地:ガキだから泣くでしょ。そうすると店のお客さまに迷惑がかかるっていうんで。僕は泣くと止まらないから、母親が映画館に避難させるんです。なぜかっていうと、僕が映画館に入ると泣きやむから。
UA:もっと怖くて?
菊地:いや、映画館がめちゃくちゃ落ち着くから。映画館ってテレビよりも音がデカいじゃないですか。ライブハウスよりクラブに近いっていうか。映画館のスピーカーってデカくて、人の顔もデカく映ってるでしょ(笑)。
UA:何もかもがデカいから(笑)。
菊地:しかも3、4歳児の目から見たらものすごくデカいんですよね。音楽もせりふも、当時の日本映画の映画音楽ってヤバいんですよ。それがルーツかもしれないですね。
菊地:(当時は)圧倒的にマスメディアから入ってくる受動的なものが多くて。さっき言った映画館もそうですし、テレビも歌謡曲黄金期だったから、自分で聴くようになったのはずいぶんあと。ジャズを聴くようになってからですね。
UA:いきなりジャズなんですか。
菊地:自発的にはね。
UA:「ビートルズのレコード買ったんだ」とかないんだ。
菊地:友だちの家に行くとビートルズの赤盤・青盤があるから聴かされるじゃないですか。でもそれって受動的ですよね。それもめちゃくちゃよかったですよ。素晴らしいと思ったけど、自分で買う必要がなかったから。ジャズは自分で買わないと。
UA:ジャジーなお友だちはいなかった?
菊地:全然いなかったですね。
菊地がジャズを聴くようになるのは、父とのあるエピソードがきっかけだったという。
菊地:中学に入学するときにおやじが記念に何か買ってやるって。そのとき僕は映画監督になろうと思ってて、8ミリカメラを買う予定だったんですけど、ふとした運命のいたずらで8ミリカメラ買おうと思ってカメラ屋さんに行ったら休み。隣がオーディオに特化したお店で、しょうがないから入るかって感じで入って(笑)。そこで生まれて初めてオーディオセットでヘッドホンで音楽を聴いたらバーンってやられて、ヤベえってなって、おやじに「ごめん、カメラやめた。オーディオ買うわ」って。
UA:あら、気まぐれ(笑)。ちなみにそのとき聴いた曲は覚えてる?
菊地:かぐや姫。曲名までは思い出せないな。でもステレオで聴くのも初めてだし、ヘッドホンを装着して聴くのも初めてだったので、音ってこんなにすごいんだと思ってめちゃくちゃビックリした。
UA:それでどこからジャズを聴くようになったんですか。
菊地:オーディオ買ったら、当たり前の話なんだけどバイナル(レコード)買わないとだめじゃないですか(笑)。それがわかって、1枚目は買ってやるって言われたの。同じ店でレコードが売ってたから。でも選べないじゃないですか。だけど2枚組が得だなと思って。2枚組のレコードはいっぱいあるんだけど、やれプログレだとかやれ全集だとか。そのなかでマイルス・デイビスの『Get Up With It』ってアルバムが2枚組なんですよ。何となくの出会いってあるじゃないですか。それで買ったんですよ。
UA:自分で選んだんだ。お父さんの意見ではなく。
菊地:おやじは金を握らせただけ。
UA:嗅覚で最初にマイルスにいったんだ。それってなんなんだろう。
菊地:なんなんでしょうね。
UA:今ヒットする曲の特徴とか感じることってありますか?
菊地:「歌は世に連れ世は歌に連れ」って言って、僕は59歳でもうちょいで60歳なんですけど、それだけ生きてるだけでも歌って随分変わったなって思いますし、あとマーケットもテクノロジーもどんどん変わるじゃないですか。配信になったり。不変のものもありますけどね。だから今のポップの特徴って漠然と街の空気として知ってるだけで、研究したり詳しかったりするわけではないですね。
UA:専門ではないですからね。
菊地:好きなものは聴いてますけどね。
UA:ニュービジュアル系とか出てきそうな気配しません? アバターとか何でもものすごいものが当たり前な感じになってきているので、あらためてビジュアル系が新しいかたちで出てきそうな気がするんですけどね。
菊地:アバターだからもっと装飾的にね。ドラァグクイーンみたいに伝統的なやつじゃなくて、新しいやつね。それはあるかもしれないですね。
菊地は最近「すごい!」と思った楽曲として、ぷにぷに電機×Kan Sanoの『ずるくない?』を紹介しつつ、今の若者について語る。
菊地:中高年のせりふだけど「若い者にはかなわない」って。若い人は素晴らしいですよ。何の文句もない。あらゆるジャンルに才能があるからいいなと思って。今、僕の立場で直接コンタクトして「ファンです」って言っちゃうと、ちょっとした小言じゃ済まなくなる可能性もあるじゃないですか。だからあえてすごく好きなアーティストは、ただYouTubeで見てるだけにしてるんですけど(笑)。
菊地:ジャズとクラシックとかポップを分けるとする場合、ジャズはすごくスポーツに似てて。スポーツって何でもいいんだけど、バスケだったらシュートしたけど失敗する、リバウンドがある、次にまた打ってまた失敗してリバウンドがある。次こそ入ってってなってもゲームは止まらないでしょ。ずっと続いてるわけですよ。
UA:うん。
菊地:サッカーもパスが通らないととか、ボクシングも好きだけど、ボクシングなんて有効打だけだったらあっという間に試合が終わっちゃうじゃないですか。ほとんどが無効打なんですよ。有効打が何発か入って終わるわけでしょ。演奏ってうまい人が何のミスもなくやっているように聴こえるじゃないですか。だけどジャズは事故だらけで、事故が起こるんだけど演奏が続くわけ。そのリカバリーがあるのを見て楽しむんだっていう意味ではスポーティーな音楽だと思います。
UA:現実、何割くらいのお客さまがその事故を理解できてるんですかね。
菊地:事故って言っちゃうとあれですけど、例えばボクシングで打っても当たらないとか、うまく避けたとかはボクシングを観る人の楽しみじゃないですか。ジャズ聴いている人は演奏を聴いて、全部がいいなと思ってる。要するにサッカーを観てる人が全部がいいなって。パスが通らなかったりシュートが入らなかったりするようなことがジャズでは起きてるんですよ。ポップスで歌詞が飛んじゃったとか歌えなくなっちゃったとかだったらおしまいじゃないですか。
UA:うんうん(笑)。
菊地:運行停止っていうかね。だけどジャズは何があっても最後までやるので、その事故が起きて、でもそれ自体がエンターテインメントになってるんです。くるみこまれてるので、それがジャズのよさだと思いますね。
菊地成孔の最新情報は、公式サイトまで。
『WOW MUSIC』はJ-WAVEで土曜24時-25時。また、『MUSIC FUN !』のYouTubeページには、同番組のトーク動画のほか、ミュージシャンやプロデューサーによる音楽の話が数多く配信されている。
・『MUSIC FUN !』のYouTubeページ
https://www.youtube.com/c/musicfun_jp
菊地が登場したのは6月25日(土)に放送されたJ-WAVEの番組『WOW MUSIC』。同番組の6月のマンスリープレゼンターはUAが担当しており、この日は菊地をゲストに招いて音楽談義を繰り広げた。
泣くと映画館に避難させられていた
UAと菊地は2003年にライブで共演したことがきっかけで、その後さまざまな楽曲を一緒に制作。2006年にはアルバム『cure jazz』を共作した。2021年にもライブで共演するなど親交を続けている。まずUAは菊地の音楽ルーツを探ることに。
UA:いちばん若い記憶は?
菊地:3、4歳ですね。うちが水商売だったので、生みの母親が僕を背負ったまま店を切り盛りしていました。
UA:背負われている肩から見るお店の風景。そこに音楽はかかってたんでしょうか。
菊地:水商売なので有線がかかってました。演歌とかムード歌謡とか。
UA:ムード歌謡?
菊地:(和田弘と)マヒナスターズとかあるじゃないですか。
UA:わからないです。
菊地:演歌じゃないんですよ。ちょっとジャズめいた昭和歌謡みたいな。
UA:なるほど。
当時、菊地の家の両脇が映画館だったそうで、泣くとよく映画館に連れられたという。
菊地:ガキだから泣くでしょ。そうすると店のお客さまに迷惑がかかるっていうんで。僕は泣くと止まらないから、母親が映画館に避難させるんです。なぜかっていうと、僕が映画館に入ると泣きやむから。
UA:もっと怖くて?
菊地:いや、映画館がめちゃくちゃ落ち着くから。映画館ってテレビよりも音がデカいじゃないですか。ライブハウスよりクラブに近いっていうか。映画館のスピーカーってデカくて、人の顔もデカく映ってるでしょ(笑)。
UA:何もかもがデカいから(笑)。
菊地:しかも3、4歳児の目から見たらものすごくデカいんですよね。音楽もせりふも、当時の日本映画の映画音楽ってヤバいんですよ。それがルーツかもしれないですね。
8ミリカメラを買う予定だったけど…
UAは菊地に、「自発的に音楽を聴くようになったのは?」とさらに深掘る。菊地:(当時は)圧倒的にマスメディアから入ってくる受動的なものが多くて。さっき言った映画館もそうですし、テレビも歌謡曲黄金期だったから、自分で聴くようになったのはずいぶんあと。ジャズを聴くようになってからですね。
UA:いきなりジャズなんですか。
菊地:自発的にはね。
UA:「ビートルズのレコード買ったんだ」とかないんだ。
菊地:友だちの家に行くとビートルズの赤盤・青盤があるから聴かされるじゃないですか。でもそれって受動的ですよね。それもめちゃくちゃよかったですよ。素晴らしいと思ったけど、自分で買う必要がなかったから。ジャズは自分で買わないと。
UA:ジャジーなお友だちはいなかった?
菊地:全然いなかったですね。
菊地がジャズを聴くようになるのは、父とのあるエピソードがきっかけだったという。
菊地:中学に入学するときにおやじが記念に何か買ってやるって。そのとき僕は映画監督になろうと思ってて、8ミリカメラを買う予定だったんですけど、ふとした運命のいたずらで8ミリカメラ買おうと思ってカメラ屋さんに行ったら休み。隣がオーディオに特化したお店で、しょうがないから入るかって感じで入って(笑)。そこで生まれて初めてオーディオセットでヘッドホンで音楽を聴いたらバーンってやられて、ヤベえってなって、おやじに「ごめん、カメラやめた。オーディオ買うわ」って。
UA:あら、気まぐれ(笑)。ちなみにそのとき聴いた曲は覚えてる?
菊地:かぐや姫。曲名までは思い出せないな。でもステレオで聴くのも初めてだし、ヘッドホンを装着して聴くのも初めてだったので、音ってこんなにすごいんだと思ってめちゃくちゃビックリした。
UA:それでどこからジャズを聴くようになったんですか。
菊地:オーディオ買ったら、当たり前の話なんだけどバイナル(レコード)買わないとだめじゃないですか(笑)。それがわかって、1枚目は買ってやるって言われたの。同じ店でレコードが売ってたから。でも選べないじゃないですか。だけど2枚組が得だなと思って。2枚組のレコードはいっぱいあるんだけど、やれプログレだとかやれ全集だとか。そのなかでマイルス・デイビスの『Get Up With It』ってアルバムが2枚組なんですよ。何となくの出会いってあるじゃないですか。それで買ったんですよ。
UA:自分で選んだんだ。お父さんの意見ではなく。
菊地:おやじは金を握らせただけ。
UA:嗅覚で最初にマイルスにいったんだ。それってなんなんだろう。
菊地:なんなんでしょうね。
ニュービジュアル系とか出てきそうな気配
番組後半では、菊地とUAが最近のポップシーンに言及する場面もあった。UA:今ヒットする曲の特徴とか感じることってありますか?
菊地:「歌は世に連れ世は歌に連れ」って言って、僕は59歳でもうちょいで60歳なんですけど、それだけ生きてるだけでも歌って随分変わったなって思いますし、あとマーケットもテクノロジーもどんどん変わるじゃないですか。配信になったり。不変のものもありますけどね。だから今のポップの特徴って漠然と街の空気として知ってるだけで、研究したり詳しかったりするわけではないですね。
UA:専門ではないですからね。
菊地:好きなものは聴いてますけどね。
UA:ニュービジュアル系とか出てきそうな気配しません? アバターとか何でもものすごいものが当たり前な感じになってきているので、あらためてビジュアル系が新しいかたちで出てきそうな気がするんですけどね。
菊地:アバターだからもっと装飾的にね。ドラァグクイーンみたいに伝統的なやつじゃなくて、新しいやつね。それはあるかもしれないですね。
菊地は最近「すごい!」と思った楽曲として、ぷにぷに電機×Kan Sanoの『ずるくない?』を紹介しつつ、今の若者について語る。
ぷにぷに電機×Kan Sano『ずるくない?』
ジャズの魅力は事故が起こること!?
UAが「ジャズのライブはズバリ何がいい?」と訊くと、菊地は「演奏中に事故が起こること」と表現する。菊地:ジャズとクラシックとかポップを分けるとする場合、ジャズはすごくスポーツに似てて。スポーツって何でもいいんだけど、バスケだったらシュートしたけど失敗する、リバウンドがある、次にまた打ってまた失敗してリバウンドがある。次こそ入ってってなってもゲームは止まらないでしょ。ずっと続いてるわけですよ。
UA:うん。
菊地:サッカーもパスが通らないととか、ボクシングも好きだけど、ボクシングなんて有効打だけだったらあっという間に試合が終わっちゃうじゃないですか。ほとんどが無効打なんですよ。有効打が何発か入って終わるわけでしょ。演奏ってうまい人が何のミスもなくやっているように聴こえるじゃないですか。だけどジャズは事故だらけで、事故が起こるんだけど演奏が続くわけ。そのリカバリーがあるのを見て楽しむんだっていう意味ではスポーティーな音楽だと思います。
UA:現実、何割くらいのお客さまがその事故を理解できてるんですかね。
菊地:事故って言っちゃうとあれですけど、例えばボクシングで打っても当たらないとか、うまく避けたとかはボクシングを観る人の楽しみじゃないですか。ジャズ聴いている人は演奏を聴いて、全部がいいなと思ってる。要するにサッカーを観てる人が全部がいいなって。パスが通らなかったりシュートが入らなかったりするようなことがジャズでは起きてるんですよ。ポップスで歌詞が飛んじゃったとか歌えなくなっちゃったとかだったらおしまいじゃないですか。
UA:うんうん(笑)。
菊地:運行停止っていうかね。だけどジャズは何があっても最後までやるので、その事故が起きて、でもそれ自体がエンターテインメントになってるんです。くるみこまれてるので、それがジャズのよさだと思いますね。
菊地成孔の最新情報は、公式サイトまで。
『WOW MUSIC』はJ-WAVEで土曜24時-25時。また、『MUSIC FUN !』のYouTubeページには、同番組のトーク動画のほか、ミュージシャンやプロデューサーによる音楽の話が数多く配信されている。
・『MUSIC FUN !』のYouTubeページ
https://www.youtube.com/c/musicfun_jp
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2022年7月2日28時59分まで
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