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田舎は人を活かす“余白”がある─地方創生に必要なものを、専門家が語る

南木曽のリゾートホテル「Zenagi」の前に広がる心地よい風景/番組公式サイトより

田舎は人を活かす“余白”がある─地方創生に必要なものを、専門家が語る

人間が自然と共存するために必要な知恵とは何か? 専門家のトークを通じて考える番組「J-WAVE SPECIAL TSUCHIYA EATHOLOGY」が11月3日にオンエア。小山薫堂と高島 彩がナビゲートした。

今回は日本の田舎に注目し、その価値を探った。長野県木曽を取材し、Kan Sanoが南木曽のリゾートホテル「Zenagi」から即興演奏を披露するなど、多角的に魅力を掘り下げた。番組はポッドキャストで配信中だ。

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ゲストのKan Sano(左)、番組ナビゲーターの小山薫堂(右)

この記事では、人や自然の本来の価値を引き出し、地域の経済循環を育ていくエーゼロ株式会社の代表・牧大介さんへのゲストインタビューを中心に紹介する。

自然は、そこで暮らす人の生活あってのもの

ゲストの牧大介さんは、京都大学大学院(森林生態学研究室)修了後、民間シンクタンクを経て、『アミタ持続可能経済研究所』設立に参画し、所長に就任。さまざまな林業経営改善をはじめ、農山漁村での新規事業を多数プロデュースし、現在はエーゼロ株式会社の代表と西粟倉・森の学校代表取締役も務めている。

小山:社名の「A0(エーゼロ)」とは、どういう意味なんですか?

牧:森林土壌の中の一番上、落ち葉や用土の層が積もっている場所をA0層といいます。A0層は、落ち葉が分解したり、水を蓄えたり、森林の循環を支える大事な場所。資源・人を含めた地域の経済をしっかり支える大事な存在になっていきたいと思い、「A0」という名前にしました。

高島:牧さんが地方の創生を始められたきっかけは?

牧:学生のときから、田舎にはよく出入りしていました。生き物の調査をするために山奥に行くことも多く、そこに住んでいる方々と出会いました。田舎で暮らしている方々は、過疎化や高齢化に悩みながら、いろいろ頑張ってらっしゃる。みなさんと接していく中で、「自分も地域を元気にしていくようなことができないか」と考えて、その土地の人たちといろいろな事業を作ってみたり、チャレンジしてみたりと、学生からずっとやってきた活動の流れの中で、今もそうさせていただいてます。

高島:興味が自然だけではなくて、人の方に向いたのはなぜですか?

牧:ただ自然が自然のまま存在しているのではなくて、そこで生きてる人たちがいて、生活があってこその自然なんだと実感するんです。自然を守りながら、人の暮らしも豊かになっていくにはどうしたらいいのだろう。そういう問いが、田舎に行くたびに深くなってきたんです。ただ生き物の勉強をするというよりは、その地域での人の暮らしも含めて、じわじわと問題意識を持っていきましたね。

観光は、地元の人が「地域のよさ」に気づくきっかけになる

地域の人と事業をつくる牧さん。その一つが原生林散策ツアーだ。

牧:私が行っていたのは、京都府の山奥にある旧美山町というところ。私の専門が生態学だったので、お客さんを自然がそのまま残る森にご案内して、森の解説をする役割で地域のお手伝いをさせていただいたり、そういう原生林散策ツアーを一緒に企画からやらせていただいたりしました。

小山:地域の人は、きっと森との距離が近すぎて、外の人が来ることによって「こんなにいい場所なんだ」と改めて気づいたのではないですか?

牧:そうですね。やっぱり地域の人たちからすると、あまりにも日常的に当たり前に存在しているので、外から来て楽しんでくださる方々がいて、その笑顔に接する中で、「自分たちの地域にある自然は、こんな価値があるんだ」というふうに思うのだと思います。そして、それをもっと生かしていくにはどうするか、もっとたくさんの人に喜んでいただけないか。そういう風に考えるきっかけになっていくことは本当に多いと思います。

小山:気づきのスイッチというか、それこそ観光の使命なのかなと思いますね。

高島:確かに、自分の周りに当たり前のようにあると、気づかないものって、ありますよね。そのスイッチをまさに牧さんが入れている。どんな反応がありますか?

牧:最近だと大手企業の研修などで、私が拠点にしている西粟倉村に来ていただくことも多いんですけれども、村の人たちからすると「大企業の方々はこんな山奥まで来て、テントで泊まっていて、何をしてるんだろう?」と。

でも、普段都会におられる方々からすると、リアルな体験とか、五感で感じる・味わうということを通じて「SDGsとか、なんとなく言ってたけど、こういうことなのかな?」とか、「人と自然のあるべき関係とは」とか、そういう問いが体感を伴って深まっていく時間だと思うんです。

そして、そういう姿を見て、村の方々も「我々が育ててきた森や自然に、今の時代の中で、こういう意味があるんだな」などと、思っていただいて。改めて地域の自然をどう育んでいくのか、議論が進んでいくこともありますね。

地方創生に必要なのは、結局「人」

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番組ナビゲーターの高島 彩、小山薫堂

豊かな自然にかこまれ、採れたての野菜を食べて……田舎暮らしは、そんなメリットが思い浮かぶ。一方、苦労はどのようなものだろうか。

高島:実際に住み始めて、どんな大変さがあるんでしょうか?

牧:ひとつは仕事があるかどうか。西粟倉村の場合は、この10年ぐらいで40社ぐらい新しく会社ができたんです。もともと人手不足だったところに、さらに新しいチャレンジで、新しい仕事も生まれてきている状況です。ただ、一般的には、仕事と住む場所の両方を同時に納得のいく環境にすることは難しいかもしれないですね。

小山:西粟倉村にはどんな面白い会社がありますか?

牧:例えば、こだわりのお酒のセレクトショップ。村の人口も少なすぎて居酒屋もほとんどないんですが、お酒好きの主人が自分の気に入ったお酒を持って、人が集まる場所を作っていく、移動式の居酒屋ができました。

小山・高島:行ってみたい!

牧:毎晩毎晩人を集めて、一緒にお酒を飲んでいたら、それなりにお金が稼げるみたいな事業は、過疎地ならではです。「自分が大好きなことを大事にしていきたいんだ」という人を結構歓迎してくれる村なんです。「とにかくお酒が好きなんだ」という人がいて、「面白そうだから採用しよう」という非常に寛容な人たちがいて。必然性があって事業が生まれるというよりは、やっぱり田舎にいろいろな余白がたくさん残っている。自分が大好きだと思えるものをそこに持ち込んだときに、面白いなと喜んでくださる方、応援してくださる方々がいて、そういうことが積み重なりながら、地域が面白くなっていく。

小山:余白って言葉がいいですね。余白があって、そこに人が集まって、その余白に面白そうな種が植えられて、まかれて、それでだんだん育って、花が咲いたら、そこにまた他の人が集まってくる。いい循環ですよね。

牧:人も苗木のようなもので、だから僕らは「植人(しょくじん)」と言ったりもするんですけど、一人ひとりが育っていくという積み重ねの中で、地域は面白くなる。それで実をならす木があって、花が咲く木があって、草があって、またいろいろな生き物が集まる。森を育てていくということと、その人の集団というものが同じように、相乗効果を持ちながら育っていく。そんなイメージがあります。

高島:そういったいい化学反応が起こる人の出会いが各地に広がっていくといいですよね。

小山:すごく可能性を感じましたね。人が自然の中に飛び込んでいって、自然に刺激を受けたり、周りの人から刺激を受けて、人が何かを作り上げたり。そして、また村が栄えていく。やっぱり結局、人なんだなと思いましたね。

高島:自然の方だけを向くのではなくて、自然と人との関わりの中で守っていくということなんですね。

番組では、星野道夫さんの妻・星野直子さん、“住みます芸人”として活動するソラシドの本坊元児、チカコホンマなどのインタビューもオンエアされた。番組の公式ページには、長野県木曽での取材の様子など、多くの写真を掲載している。

(制作:ピース株式会社 構成:五月女菜穂)

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番組情報
J-WAVE SPECIAL TSUCHIYA EATHOLOGY
2021年11月3日
18:00-19:55