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今泉力哉監督が、映画制作で「今の若手のほうが大変」と思う理由。映像の質がよくなったことで…

今泉力哉監督が、映画制作で「今の若手のほうが大変」と思う理由。映像の質がよくなったことで…

映画監督の今泉力哉が、自身の過去や映画作りの手法について語った。

今泉が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『SAPPORO BEER OTOAJITO』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)。ビールを飲みながら、クリスとゲストが音楽談義を繰り広げる番組だ。ここでは10月8日(金)のオンエアをテキストで紹介する。今泉は、最新作『かそけきサンカヨウ』が10月15日(金)公開。

この番組ではゲストが、ビールに合う“おみや”を持ち寄る。今泉は、湖池屋の“ポテトチップス のり塩”だった。

映画監督になるまでの道のり

今泉は少年時代、祖父によく映画館に連れて行ってもらったそうで、それが映画界に足を踏み入れる原点だと語る。大学時代にはバンド活動をしていたが、楽器ができなかったため「楽器ができない4人組」に裏方の「音楽が作れる4人組」がついた8人体勢で活動していたという。

今泉:当時の人が聴いていたら「そんな素晴らしいものじゃない」というか、本当に遊びの延長だったんです。
クリス:部活のような感じでCDを出したみたいな。
今泉:そうです、遊びですね。
クリス:ゴールデンボンバーを想像していたんですけど、それとは違う?
今泉:恐れ多いですけど、ゴールデンボンバーが出たときに、「めちゃめちゃうまくやったらこういうことだよね」みたいな話をしました(笑)。

今泉が高校生のときに一番ハマったのはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT。CDを全部買っていたそうだ。

クリス:ちょっと激しいロックが好きだったという感じなのかな?
今泉:ライブを観に行く前にCDで初めて聴いて、「知らない音楽がある、しかもかっこいい」と衝撃を受けました。

今泉が映画監督を始めるまでには、ほかにも紆余曲折があったそうで、一時期はお笑い芸人も目指したという。

今泉:大学で映画をやりたくてそういう学校に行ったんですけど、卒業制作とかもうまくいかなくて。1回挫折して、大阪のNSC(吉本総合芸能学院)に1年通ったんです。
クリス:芸人学校に行ったんですか!?
今泉:そうなんです(笑)。でもネタ見せをするたびに先生たちから「お笑いじゃなくてお話がやりたいんでしょ?」と言われて、映画学校に戻ったという経緯があります。かまいたち、和牛、天竺鼠、藤崎マーケットが全部同期という、すごい代なんですよね。

NSCから改めて映画学校に通った今泉は、自主映画を作りながら映画館でアルバイトをしていたそうだ。

クリス:自主制作だからこそできたのかもしれないですよね。これがもしどこかの大きい撮影所とかに入っちゃうと30歳でやっと助監督みたいな世界ですもんね。
今泉:自分もそうですけど、助監督から監督になる人ももちろんいますが、やっぱり自主映画出身で、たとえば映画祭に引っかかってとか、なにか契機を経て監督デビューする人がすごく多いですね。

映画制作、映像の質がよくなったことで若手の意識も変化

ふたりは映画業界のテクノロジーの変遷についても語り合った。今泉はアナログテレビの標準画質である「SD」からデジタルテレビの標準画質の「HD」へ移り変わっていったことが、映画作りに影響を与えていると指摘した。

今泉:いまの子のほうが大変だと俺は思っていて。というのは、ある種SDだったときに友だちと自主映画を作っているのって、役者の芝居や照明をちゃんと組めないこととか、音とかの粗雑さとルック(映像の印象)が合っていたからまだ観られたものだったと思うんです。だけど、いまはもうプロと同じような技術で画が撮れちゃうから、自分のことは棚に上げてですけど、役者の演出や芝居をつけられる人が若い人に少ない気がしていて。「映画っぽいもの」「映像っぽいもの」は作れるけど、技術先行になっちゃっている気がして。

今泉は低予算の自主映画かつ当時の映像が鮮明ではなかったSDだったからこそ「俳優をいかに魅力的に描くか」で勝負をすることになり、技術が磨かれていったという。

今泉:だから、いまの子たちには人物にもっと興味を持ってほしいなと思っちゃったりはする。
クリス:なるほどねえ。映像をどれだけかっこよく見せるかに重きがいって、芝居が二の次になっちゃうのかもしれないですね。
今泉:いまありがたいことに仕事があるのは、たぶんそこだけは自分の特化している部分であるからだと思います。
クリス:演劇とか、カメラ抜きで芝居に携われるというのは大事かもしれないですね。
今泉:演劇までいかないにしても、そうですね。手を加えないものがある程度、面白い芝居になるかどうか、というところまでこだわること。ちょっと老害みたいな話ですけど(笑)。
クリス:そんなことないですよ。芸人さんの学校に行っていたのも繋がってきますよね。
今泉:生ものですから、そのへんはありますね。難しいんですよね、YouTubeやTikTokとか短い時間でなにかを表現するものが当たり前に増えているので。どうしても密度や濃度を濃くしたり、音楽にしろテロップにしろ過剰に足していく。基本、足し算で作るとすぐに飽きちゃう。たとえば2時間の映画を観られない人が多いとか。そういうなかで自分は引き算で作っている感覚がすごくあるので。でも逆にいうと、みんながそっちをずっとやってくれるほど、自分の独自性が勝手に生まれていくので、自分はずっとここにいようかなみたいな気もしますけど(笑)。

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クリスは今泉について、常に俯瞰でとらえている姿勢がかっこいいと称賛しつつ、J-WAVE創設からナビゲーターを担当している自身と重ね合わせた。

クリス:ラジオって古典芸で恐竜的な媒体だと思っているんです。僕はもうラジオを30年以上やっているんだけど、基本的に変わらないんですよね。変わらないけれども、世の中がすごく変わっているから。あとは、テクノロジーは人間の志向性というか感性にもちょっと感化する部分が出てくるから、俺もそのあたりはすごく考えるんですよ。自分自身はそんなに根本的に変わらないけど、世の中や周りが変わっていくんだったら、おのずとそれに対応した動きをしていかないと、錯誤感というか置いていかれちゃうのかなという気はするので、そのあたりはおっしゃっていることがわかるなあ。
今泉:逆に言うと、撮影部も照明部も録音部も、いろいろな技術パートって逆にいまの技術に対応する知識をいちいち学んで更新していかないといけない。もちろん監督もそうかもなんですけど、ある種そこはプロのそれぞれのスタッフにお任せする部分はその人たちに頼りつつ、自分は役者と向き合うところをサボらないようにする。もちろん全部に注力できればいいんですけど、そんな容量は自分のなかにないので、「頼りながらやる」というスタンスでやっている感じはします。逆に照明ひとつとっても「このほうがきれい」というのが過剰になってしまうときは、なるべく抑えたり、その相談をしつつ、人物が一番魅力的になる方法をみんなで考えるのが、自分の方法かなと思います。

今泉は15日(金)オンエアの同番組にも引き続き登場。放送はJ-WAVEで23時から。また、radikoではオンエア開始から22日(金)まで再生することができる。

【radikoで聴く】https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20211015230000

また、同番組は、公式サイトに過去ゲストのトーク内容をアーカイブ。オンエアで扱った音楽の情報も掲載している。

・過去ゲストのアーカイブページ
https://www.j-wave.co.jp/original/otoajito/archives.html

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2021年10月15日28時59分まで

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番組情報
SAPPORO BEER OTOAJITO
毎週金曜
23:00-23:30