今年4月に4thアルバム『NEW GRAVITY』をリリースしたNulbarich。JQは昨年、ロサンゼルスに拠点を移し、Black Lives Matter運動を間近に感じることになった。それは、ブラックミュージックに抱いてきた「カッコいい」「憧れる」という感情を捉え直すきっかけになったそうだ。
マインドにどんな変化があったのか? ロサンゼルスでの経験や、『NEW GRAVITY』でコラボをしたアーティストについて、ライブへの思い、そして7月17日(土)に出演する「J-WAVE LIVE 2021」への意気込みまで、多岐にわたってインタビューした。
やっぱり生だなって思いましたね。本当にそれに尽きます。そもそも無観客ライブを「ライブ」と呼ぶのに違和感があるんです。ショーという表現だったらわかるんですけど。だから、久しぶりの有観客ワンマンライブでは、「そうそう、これこれ」って感じで、ライブがないとバンドをやっている意味はないなって思いましたね。
――でもまだ、観客は声が出せなかったりという問題もあるかと思います。
それは、あまり違和感はないですね。そもそもNulbarichってモッシュをしたり、コールアンドレスポンスとかするタイプではないので(笑)。わりとみなさんパーソナルスペースを大事にしているというか。だから今回のライブは踊りやすくなっていたと思う。お客さんたちは声を出したいかもしれないけれど、演奏する側としては制限があるようには感じなかったんですよ。
――なるほど。ツアーの情報も解禁されましたが、今回のツアーはどういったものになりそうですか?
ツアーって、ファイナルまで育てる様をお客さんに晒していく感じがあるんです。武道館やさいたまスーパーアリーナなど大きな会場でやる「年に一度のお祭り」という感覚とは違って。来てくれたみんなと育てるライブがまたできることにワクワクしていますね。本当にツアーは道中から楽しいですから! 正直、昨年はツアーなんて出来ると思ってもいなかったし。ライブハウスという自分の大好きな場所に帰って来れてよかったなと思ってます。
僕もやりたいですよ! 一緒に『One feat. JQ from Nulbarich』をやらせていただけたら、と思いますね。
――それは、ファンも楽しみしていると思います! ちなみに17日はKREVAさんの他にもJUJUさんや東京スカパラダイスオーケストラ、マカロニえんぴつが出演されますが、親交のある方はいらっしゃいますか?
JUJUさんは意外と共通の知り合いが多くて、何度かお会いして勝手に親近感が湧いていますね。でも本当に歌が上手だから、お手柔らかにしてほしいなって(笑)。でも出演するみなさんは僕にとっては、“テレビの画面の中の人”という感じで、正直、共演する実感がないんです。「本物だ!」ってミーハーな状態で当日も観てると思います(笑)。
――ファン目線のような感じ。
そうそう。「精一杯やらせていただきます」としか言えない。でもJ-WAVEさんにはだいぶズブズブにお世話になっているので、ズブズブ代表として恥じないライブをしようと思っています。こういったフェスではそれぞれのアーティストの楽しみ方を共有できますし、僕たちを知らない方にも見てもらえるチャンスや機会だったりするので、僕たちらしいライブができれば、面白そうだなって思ってくれる人も何人かはいるかなと思ってますね。
いままでは、ライブありきで楽曲を作ることが多かったんです。ライブで得たガソリンのようなものをアルバムに落とし込んでいた。でも2020年はそのモチベーションが完全になく、どうしようとなったときに、Vaundyくんをきっかけにコラボレーションというものに対しての、感覚的なリミットがひとつ外れたというか。コラボレーションがあったから、Disc1の楽曲や自分たちにストイックに向き合えた感覚はあります。だからコラボというガソリンがなければ、1枚目は完成しなかった。
――今回のコラボレーションは年齢やキャリアも異なるアーティストが集結しています。人選はどのように行ったんですか?
完全に僕の趣味なんですよ。Vaundyくんはそれこそ僕がロスにいて日本の情報がほぼ入ってきてない状態のときに、友だちやスタッフが「いまグイグイきてるよ!」と教えてくれて会ってみたいと思ったのがキッカケだし。唾奇くんはもともと、「In Your Pocket」という曲のM Vで踊ってくれたユナちゃんと友だちだったらしく、「Nulbarichを聴いてるみたいです」と教えてくれて。僕も唾奇くんの声が好きだったし、ワンチャン頼んだらやってくれないかなって思って(笑)。
――その他にも、Mummy-DさんやAKLOさん、BASIさんというベテランアーティストともコラボしています。
Dさん(Mummy-D)は本当にただのファンで。RHYMESTERのライブを観に行ったり、イベントに行ったりするくらい好きだった人。レーベルメイトということもあったので、ご挨拶をして、ファンだったことと「ぜひ何かやりたいです」と伝えて実現したんです。
AKLOさんは付き合いは長くて、連絡をとってない時期もあったけどデビューしてからずっと飲み友だちというか。いつかやりたいと思っていたし、フィーチャリングを解禁したら絶対やるって決めてた人ですね。BASIさんはデビュー当時からお世話になっていて、バンドメンバーもBASIさんと仲がいいんですよ。だからAKLOさん同様に僕たちがフィーチャリングをするっていうフェーズにたどり着いたときには、必ずしたいなって思ってた人ですね。
――なるほど。Phum Viphuritさんとも面識があったんですか?
JQ:Phumは88risingでピックアップされたときに初めて彼のことを知ってファンになって聴いていたんです。それで、LAで曲を作ってるときに『A New Day』のインストができあがったときに、Phumが歌ったらカッコいいだろうなって思ったんです。だから、できるできないは関係なく、いろんなツテを頼って本人に投げてみたんですよね。そしたらやりたいって言ってくれて。「マジ?」って(笑)。
――共鳴する部分があったんですね。
曲を仕上げていく中で、お互いにこの曲の持ってるポテンシャルや、この先にどう進めばいいかが見えていたので。普通にカッコいいトラックがあってそこに乗せてみましたみたいな感覚。今回はそういうことが多かったですね。本来であればこちらがちゃんと企画してお願いするくらいの素晴らしいアーティストじゃないですか。でもトラックを送ったら実現したから。嘘みたいだけど本当の話なんですよね。
――JQさんの好きな人が集まったわけですね。
そうですね! ヨルシカのn-bunaくんも好きだからお願いしましたしね。
――リリースしてから少し時間が経ちましたが、改めてJQさんにとって『NEW GRAVITY』はどんなアルバムですか?
普段、ライブで浴びるような声援をもらいながら作ったアルバムではないので、たぶん今までのアルバムよりもセンシティブで、何かを欲している感じの作品なのかなって思います。社会情勢的に何もできなかった年ではあるので、いろんなものに飢えて生々しいものに仕上がった。あとで振り返って聴いても、「このときいろいろ考えてたんだな」って思えるアルバム。一つの記録媒体、メモリーとして大切なものになったと思います。
そもそも僕はアメリカの音楽が大好きで、日本にいるときから積極的に聴いていたけど、日本では自分から触れにいかないといけないじゃないですか。でもアメリカでは、お店とかで当たり前に流れている。意図しないところでのインプットは増えたというか、日常的にそういった音楽に触れられることは、感覚的にも違ったのかなと思いますね。
――新型コロナだけでなくBlack Lives Matter運動もあり、気分が落ち込んだことはなかったですか?
そもそも外に出るタイプじゃなかったから、ロックダウンは平気でした(笑)。ご飯に困るくらいかな。でも、Black Lives Matter運動に関しては映画で観ていたような光景が目の前に広がっていて、家の前で車が燃えていたり、銃声が聞こえてきたり。どこか海の向こうの話だったものを肌で感じるのは、意識的にも違いましたね。こういうところからいろんな音楽って生まれているんだなっていうのは実感しました。
――それはどういうふうに?
ブラックミュージックの捉え方がかなり変わりました。黒人の方が差別をされている中で嘆き、いろんなことを生み出しながら生まれた音楽だとどこか美しく捉えていたものを、より生々しく感じたというか。そこから生まれたものをカッコいいと思っていいのか、そこに対してリスペクトするってなんだろう?という感覚になってしまって……。単純にカッコいいと思っていたけれど、すごくつらいことが起きる中で生まれたもので。ブラックミュージックに憧れるってどういうことなんだろうって。
――そういった背景で生まれたものをカッコいいって言っていいのか。
そう。よくわからなくなっちゃいました。MTVか何かが看板を出していたんですよ。「(憧れてないで)助けろよ」「そういうレベルじゃないんだよ、僕たちが抱えていることは」みたいな広告に、ハッとしちゃって。昨年、多くのアーティストがBlack Lives Matterに対しての曲を出していて、それがひとつのトピックとしてグラミーにノミネートされていく。悲しい出来事の希望のひとつとして名曲が生まれていくんだと思ったんです。だとしたら、名曲って生まれないほうがいいのかなとかね。
――確かに、背景を考えるとそう思ってしまうかもしれないですね。
黒人差別への怒りや、みんなの叫びを形にするために曲が作られ、そこに大衆性が生まれていく。ハッピーな状態は人それぞれだけど、大きな悲劇や事件があると全員がそれに対して悲しむから、ひとつの希望として曲が生まれ、名曲になっていくというか。ボブ・マーリーの曲もそうだと思うし、『What's Going on』もそうだと思うし。
――マーヴィン・ゲイですね。
そう。結局、そういうときに名曲は生まれるんだなって。名曲が生まれるタイミングは不幸なときだって。時間があったので、ずっと考えちゃって、曲を作るのも嫌になった。本当に暗いほうへ進みそうだったんですけど、自分の好きな80'Sのハッピーな音楽や映画に触れて、「こうやってハッピーにやっていくのもありなんだな」とか、いろいろとマインドを転換していったんです。その中で、Phumとの曲を作り始めたんですよ。ただ楽しい曲を作ろうという真逆のモードで。コラボレーションが現実逃避になっていた感覚ですね。振り返ると苦しかったけど、あのタイミングでアメリカに行ったことは貴重だったかもしれない。
――マインドを変換するのにも、『NEW GRAVITY』の存在は大きかったんですね。
JQ:そうですね。最初はできあがるイメージもなかったし。スケジュールを組んでそこに向かうという制作工程でもなかったので。きっかけはたくさんあったけど、2020年に世の中で起きたことはかなり影響あったのかなと思います。
なんか、ローランドさんみたいになっちゃうけど、「俺が歌うか、俺じゃないか」って感じ(笑)。僕はこういう曲を作ろうっていうよりは、その人が歌う世界観を想像して作るので、mahinaちゃんが歌うならこのメロディーだろうって考えるだけというか。制作の感覚は同じなんです。本当に、「俺か俺じゃないか」って感じなんですよ。
――マインドも変えたりもしていない?
自分たちの楽曲がいちばん客観的に見られてないかもしれないですね。自分の強みとかを僕自身がわかってないんで(笑)。自分のボーカルにそんなに自信もないですしね。「こういうものがカッコいい」という感覚で自分の曲を作ってるのと、「こういうボーカリストにこういう曲を歌ってもらいたい」という気持ちで作っているのとで、ベクトル違いはあると思うんですけど、制作のマインドセットを変えてるかと言われたらそうじゃないですね。
――最後になりますが、今後の目標なども教えてください。
Nulbarichに関しては、引き続きちゃんとステップアップして常に進化していくという過程をファンの方々に見せていけたらと思っています。また、結成して5周年になるので、もう少し多角的に物事を捉えて、個人としてもバンドとしてもいろんなアプローチができればなと。僕自身もフレキシブルに動けるような人間になれたらいいなと思っています。
「J-WAVE LIVE 2021」は横浜アリーナで7月17日(土)、18日(日)の開催。Nulbarichは17日に出演する。17日はほかにも、JUJU、KREVA、東京スカパラダイスオーケストラ、マカロニえんぴつが出演。チケット詳細は公式サイト(https://www.j-wave.co.jp/special/live2021/?jw_ref=jwl21_jnw)まで。
(取材・文=笹谷淳介)
マインドにどんな変化があったのか? ロサンゼルスでの経験や、『NEW GRAVITY』でコラボをしたアーティストについて、ライブへの思い、そして7月17日(土)に出演する「J-WAVE LIVE 2021」への意気込みまで、多岐にわたってインタビューした。
「無観客ライブ」という言葉への違和感
――まずは、ライブについて伺います。先日、東京ガーデンシアターにて有観客でワンマンライブを行われましたね。率直にどうでしたか? 久しぶりの有観客は。やっぱり生だなって思いましたね。本当にそれに尽きます。そもそも無観客ライブを「ライブ」と呼ぶのに違和感があるんです。ショーという表現だったらわかるんですけど。だから、久しぶりの有観客ワンマンライブでは、「そうそう、これこれ」って感じで、ライブがないとバンドをやっている意味はないなって思いましたね。
――でもまだ、観客は声が出せなかったりという問題もあるかと思います。
それは、あまり違和感はないですね。そもそもNulbarichってモッシュをしたり、コールアンドレスポンスとかするタイプではないので(笑)。わりとみなさんパーソナルスペースを大事にしているというか。だから今回のライブは踊りやすくなっていたと思う。お客さんたちは声を出したいかもしれないけれど、演奏する側としては制限があるようには感じなかったんですよ。
――なるほど。ツアーの情報も解禁されましたが、今回のツアーはどういったものになりそうですか?
ツアーって、ファイナルまで育てる様をお客さんに晒していく感じがあるんです。武道館やさいたまスーパーアリーナなど大きな会場でやる「年に一度のお祭り」という感覚とは違って。来てくれたみんなと育てるライブがまたできることにワクワクしていますね。本当にツアーは道中から楽しいですから! 正直、昨年はツアーなんて出来ると思ってもいなかったし。ライブハウスという自分の大好きな場所に帰って来れてよかったなと思ってます。
「J-WAVE LIVE 2021」は、僕たちらしいライブができれば
――「J-WAVE LIVE 2021」への出演も決まりました。同日には親交のあるKREVAさんも出演しますね。以前、KREVAさんはJ-WAVEの番組で「JQと一緒にやりたいな」とおっしゃっていました。僕もやりたいですよ! 一緒に『One feat. JQ from Nulbarich』をやらせていただけたら、と思いますね。
KREVA「One feat.JQ from Nulbarich」(Full Ver.)
JUJUさんは意外と共通の知り合いが多くて、何度かお会いして勝手に親近感が湧いていますね。でも本当に歌が上手だから、お手柔らかにしてほしいなって(笑)。でも出演するみなさんは僕にとっては、“テレビの画面の中の人”という感じで、正直、共演する実感がないんです。「本物だ!」ってミーハーな状態で当日も観てると思います(笑)。
――ファン目線のような感じ。
そうそう。「精一杯やらせていただきます」としか言えない。でもJ-WAVEさんにはだいぶズブズブにお世話になっているので、ズブズブ代表として恥じないライブをしようと思っています。こういったフェスではそれぞれのアーティストの楽しみ方を共有できますし、僕たちを知らない方にも見てもらえるチャンスや機会だったりするので、僕たちらしいライブができれば、面白そうだなって思ってくれる人も何人かはいるかなと思ってますね。
音声でメッセージも寄せてくれた
楽曲制作のガソリンは、他アーティストとのコラボだった
――4月にリリースしたアルバム『NEW GRAVITY』はキャリア初となる2枚組ということとDisc2に収録されるさまざまなアーティストとコラボレーションした楽曲がとても新鮮でした。いままでは、ライブありきで楽曲を作ることが多かったんです。ライブで得たガソリンのようなものをアルバムに落とし込んでいた。でも2020年はそのモチベーションが完全になく、どうしようとなったときに、Vaundyくんをきっかけにコラボレーションというものに対しての、感覚的なリミットがひとつ外れたというか。コラボレーションがあったから、Disc1の楽曲や自分たちにストイックに向き合えた感覚はあります。だからコラボというガソリンがなければ、1枚目は完成しなかった。
Nulbarich - ASH feat. Vaundy (Official Music Video)
完全に僕の趣味なんですよ。Vaundyくんはそれこそ僕がロスにいて日本の情報がほぼ入ってきてない状態のときに、友だちやスタッフが「いまグイグイきてるよ!」と教えてくれて会ってみたいと思ったのがキッカケだし。唾奇くんはもともと、「In Your Pocket」という曲のM Vで踊ってくれたユナちゃんと友だちだったらしく、「Nulbarichを聴いてるみたいです」と教えてくれて。僕も唾奇くんの声が好きだったし、ワンチャン頼んだらやってくれないかなって思って(笑)。
――その他にも、Mummy-DさんやAKLOさん、BASIさんというベテランアーティストともコラボしています。
Dさん(Mummy-D)は本当にただのファンで。RHYMESTERのライブを観に行ったり、イベントに行ったりするくらい好きだった人。レーベルメイトということもあったので、ご挨拶をして、ファンだったことと「ぜひ何かやりたいです」と伝えて実現したんです。
AKLOさんは付き合いは長くて、連絡をとってない時期もあったけどデビューしてからずっと飲み友だちというか。いつかやりたいと思っていたし、フィーチャリングを解禁したら絶対やるって決めてた人ですね。BASIさんはデビュー当時からお世話になっていて、バンドメンバーもBASIさんと仲がいいんですよ。だからAKLOさん同様に僕たちがフィーチャリングをするっていうフェーズにたどり着いたときには、必ずしたいなって思ってた人ですね。
Nulbarich - Together feat. BASI (Official Music Video)
JQ:Phumは88risingでピックアップされたときに初めて彼のことを知ってファンになって聴いていたんです。それで、LAで曲を作ってるときに『A New Day』のインストができあがったときに、Phumが歌ったらカッコいいだろうなって思ったんです。だから、できるできないは関係なく、いろんなツテを頼って本人に投げてみたんですよね。そしたらやりたいって言ってくれて。「マジ?」って(笑)。
Nulbarich - A New Day feat. Phum Viphurit (Official Music Video)
曲を仕上げていく中で、お互いにこの曲の持ってるポテンシャルや、この先にどう進めばいいかが見えていたので。普通にカッコいいトラックがあってそこに乗せてみましたみたいな感覚。今回はそういうことが多かったですね。本来であればこちらがちゃんと企画してお願いするくらいの素晴らしいアーティストじゃないですか。でもトラックを送ったら実現したから。嘘みたいだけど本当の話なんですよね。
――JQさんの好きな人が集まったわけですね。
そうですね! ヨルシカのn-bunaくんも好きだからお願いしましたしね。
――リリースしてから少し時間が経ちましたが、改めてJQさんにとって『NEW GRAVITY』はどんなアルバムですか?
普段、ライブで浴びるような声援をもらいながら作ったアルバムではないので、たぶん今までのアルバムよりもセンシティブで、何かを欲している感じの作品なのかなって思います。社会情勢的に何もできなかった年ではあるので、いろんなものに飢えて生々しいものに仕上がった。あとで振り返って聴いても、「このときいろいろ考えてたんだな」って思えるアルバム。一つの記録媒体、メモリーとして大切なものになったと思います。
「名曲って生まれないほうがいいのかな」BLM運動でブラックミュージックへの捉え方が変化した
――JQさんは昨年、拠点をアメリカに移されました。そもそも僕はアメリカの音楽が大好きで、日本にいるときから積極的に聴いていたけど、日本では自分から触れにいかないといけないじゃないですか。でもアメリカでは、お店とかで当たり前に流れている。意図しないところでのインプットは増えたというか、日常的にそういった音楽に触れられることは、感覚的にも違ったのかなと思いますね。
――新型コロナだけでなくBlack Lives Matter運動もあり、気分が落ち込んだことはなかったですか?
そもそも外に出るタイプじゃなかったから、ロックダウンは平気でした(笑)。ご飯に困るくらいかな。でも、Black Lives Matter運動に関しては映画で観ていたような光景が目の前に広がっていて、家の前で車が燃えていたり、銃声が聞こえてきたり。どこか海の向こうの話だったものを肌で感じるのは、意識的にも違いましたね。こういうところからいろんな音楽って生まれているんだなっていうのは実感しました。
――それはどういうふうに?
ブラックミュージックの捉え方がかなり変わりました。黒人の方が差別をされている中で嘆き、いろんなことを生み出しながら生まれた音楽だとどこか美しく捉えていたものを、より生々しく感じたというか。そこから生まれたものをカッコいいと思っていいのか、そこに対してリスペクトするってなんだろう?という感覚になってしまって……。単純にカッコいいと思っていたけれど、すごくつらいことが起きる中で生まれたもので。ブラックミュージックに憧れるってどういうことなんだろうって。
――そういった背景で生まれたものをカッコいいって言っていいのか。
そう。よくわからなくなっちゃいました。MTVか何かが看板を出していたんですよ。「(憧れてないで)助けろよ」「そういうレベルじゃないんだよ、僕たちが抱えていることは」みたいな広告に、ハッとしちゃって。昨年、多くのアーティストがBlack Lives Matterに対しての曲を出していて、それがひとつのトピックとしてグラミーにノミネートされていく。悲しい出来事の希望のひとつとして名曲が生まれていくんだと思ったんです。だとしたら、名曲って生まれないほうがいいのかなとかね。
――確かに、背景を考えるとそう思ってしまうかもしれないですね。
黒人差別への怒りや、みんなの叫びを形にするために曲が作られ、そこに大衆性が生まれていく。ハッピーな状態は人それぞれだけど、大きな悲劇や事件があると全員がそれに対して悲しむから、ひとつの希望として曲が生まれ、名曲になっていくというか。ボブ・マーリーの曲もそうだと思うし、『What's Going on』もそうだと思うし。
――マーヴィン・ゲイですね。
そう。結局、そういうときに名曲は生まれるんだなって。名曲が生まれるタイミングは不幸なときだって。時間があったので、ずっと考えちゃって、曲を作るのも嫌になった。本当に暗いほうへ進みそうだったんですけど、自分の好きな80'Sのハッピーな音楽や映画に触れて、「こうやってハッピーにやっていくのもありなんだな」とか、いろいろとマインドを転換していったんです。その中で、Phumとの曲を作り始めたんですよ。ただ楽しい曲を作ろうという真逆のモードで。コラボレーションが現実逃避になっていた感覚ですね。振り返ると苦しかったけど、あのタイミングでアメリカに行ったことは貴重だったかもしれない。
――マインドを変換するのにも、『NEW GRAVITY』の存在は大きかったんですね。
JQ:そうですね。最初はできあがるイメージもなかったし。スケジュールを組んでそこに向かうという制作工程でもなかったので。きっかけはたくさんあったけど、2020年に世の中で起きたことはかなり影響あったのかなと思います。
Nulbarichとしても個人としても、いろんなアプローチをしていきたい
――JQさんにとって、昨年と今年は多くの変化があったのかなと思います。Nulbarichだけでなく、最近ではmahinaさんのプロデュースも務めています。自身の曲を作るのと提供する曲とで違いはありますか?mahina「Lamplighter」Official Music Video
――マインドも変えたりもしていない?
自分たちの楽曲がいちばん客観的に見られてないかもしれないですね。自分の強みとかを僕自身がわかってないんで(笑)。自分のボーカルにそんなに自信もないですしね。「こういうものがカッコいい」という感覚で自分の曲を作ってるのと、「こういうボーカリストにこういう曲を歌ってもらいたい」という気持ちで作っているのとで、ベクトル違いはあると思うんですけど、制作のマインドセットを変えてるかと言われたらそうじゃないですね。
――最後になりますが、今後の目標なども教えてください。
Nulbarichに関しては、引き続きちゃんとステップアップして常に進化していくという過程をファンの方々に見せていけたらと思っています。また、結成して5周年になるので、もう少し多角的に物事を捉えて、個人としてもバンドとしてもいろんなアプローチができればなと。僕自身もフレキシブルに動けるような人間になれたらいいなと思っています。
「J-WAVE LIVE 2021」は横浜アリーナで7月17日(土)、18日(日)の開催。Nulbarichは17日に出演する。17日はほかにも、JUJU、KREVA、東京スカパラダイスオーケストラ、マカロニえんぴつが出演。チケット詳細は公式サイト(https://www.j-wave.co.jp/special/live2021/?jw_ref=jwl21_jnw)まで。
(取材・文=笹谷淳介)