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御徒町凧が詩を書く理由は? 生み出すではなく、近づく感覚

御徒町凧が詩を書く理由は? 生み出すではなく、近づく感覚

詩人・御徒町凧が5月14日(金)、J-WAVEでクリス・ぺプラーと音楽談義を繰り広げた。

御徒町が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『SAPPORO BEER OTOAJITO』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)。ビールを飲みながら、クリスとゲストが音楽談義を繰り広げる番組だ。

今回は御徒町が、家庭のこと、詩を書くことへの想いを語った。

息子に対する父性の在り方が独特?

御徒町は4月末に第2子となる男児が誕生した。クリスも2020年夏に第1子となる娘が誕生しており、ふたりは家族の話題で盛り上がった。

御徒町:僕も1人目が娘で、2人目が息子です。里帰り出産だったのですが、こういう時節なので立ち合いができないんです。だからしばらくはテレビ電話でしか観られなくて。生まれた当日に長男の動画を送ってきてくれたんです。そのとき最初に思ったのが「ちょっと泣きすぎだな」「めそめそするな」みたいな、ちょっとした厳しさがこみあげてきたんです。1人目の娘を見たときは「かわいい」「よくきたね」みたいなウェルカムモードだったんだけど。よく息子に「ジュニア」って海外の人が名付けたりするじゃないですか。息子に対する父性の在り方が独特なのかなと思いましたね。
クリス:それはわかるような気がします。僕も猫かわいがりしていて、典型的なメロメロだめだめパパみたいな感じなんだけど(笑)。息子さんになると、そこのあたりがシフトするわけですね。
御徒町:一緒に暮らすようになったらまた変わるかもしれないですけどね。

クリスは「作品の内容は子どもが誕生した前後で変化があるか」と質問する。

御徒町:どうしても子どもが生まれると日常生活が大きく変化するじゃないですか。夜中に起こされたり、毎朝保育園に送ったり、今まであまりルーティンがなかったんですけど、そういうことが生活や感覚におよぼす影響は当然あるなって感じがしますね。うちの妻も劇作と小説を書いているんです。私小説みたいな小説もよく書くので、自然と子どもの話が多くなったり。大概その小説のなかに出てくる夫像は、ボロボロに言われていることが多いです(笑)。
クリス:それは間接的に戒められている感じですか(笑)?
御徒町:間違いなくそうでしょうね。直接言えないことを小説で憂さ晴らししているみたいな。ゲラの段階で下読みするときもあるんですけど、不思議と本人としてはまったく自覚してないんですよね。「これ完全に俺に対する悪意だな」と思って読むんだけど、本人はひとつの事象としてとらえているようで。僕もモノを作る人間なので感覚がわかるというか、それで喧嘩になったりもしない。面白ければ面白い。

「詩に近づく」という感覚

クリスは御徒町が過去に「詩を書いていると詩に近づく感覚がある」と発言したことに触れる。すると、御徒町は「詩を書くこと」への想いをこう語った。

御徒町:けっきょく詩って、僕の認識ですけど、あらゆるところにあるんですよ。ある種、人間よりも先にあったというか、人間の意識とかよりも先にあるんです。「詩を生み出す」みたいな言い方って、すごく語弊があるなと思っていて。自分が詩を書いたり書けたと思ったりするときって、その存在に気づけたとか、そのものに触れたというときで。だからそのことを「詩に近づく」というふうに表現したんじゃないかな。
クリス:なるほどねえ。
御徒町:詩はどこにでもあるし誰にでも書けるんですよ。ただ意識的に詩を書こうと決めた人をいわゆる詩人とカテゴライズするだけで。詩ってなんかそんなものだよなということが、自分が詩を書いている根本的な動機かな。「だってそこにあるんだもん」っていう。

クリスが「最初に書いた詩を覚えているか」と質問すると御徒町は、授業中にノートの片隅に「お腹が減った」「眠い」など、そのときに思ったことをつらつらと言葉にして書いた思い出を振り返った。

御徒町:なぜそのことを書いていたかというと、なにか感じるものがあったからなんですよね。「お腹が減った」ということを誰かに伝えたくてそこに書き置きしているわけじゃないし、その感覚を言葉に置き換えていて、目的もなく終わるじゃないですか。それでしばらく経って、また同じ授業が訪れたときにそのページを開いて見直すんです。そうすると、そのときに書いたものをしばらく経った自分が見て、そこに客観が生まれる。それで「あれ、あのとき書いたものって、ここに書かれているけど、あのときの感覚と違う」って思うんです。あのときの感覚をこの言葉は表現していない。だったらどういう言い方だったらあのときの感覚に近づくかな、ということをたぶん授業中に延々とやっていたんです。
クリス:へえ! 授業中の空間っていいですよね。
御徒町:ゆるやかな拘束というか。本当に自由で「なにをやってもいいですよ」みたいなときには、意外と詩に向かいづらかったりもするんですよね。
クリス:わかるような気がするなあ。
御徒町:僕は結婚してしばらく経つんです。7、8年経つのかな。結婚って当初はある種の熱にほだされてするんですけど、しばらく経ってからすごく後悔することも多くて。「なんで俺、結婚したんだろう。一番結婚に合わないタイプなのにな」って、日々いろいろなことを考えるんです。でもこういうゆるやかな拘束……、うちの場合は嫁がまあまあ強くて決してゆるやかじゃないんですけど(笑)。こういうこと(結婚)でもなければ、自分がある種、理性を持って社会とつながり、詩みたいなものと向き合っていけなかったのかもな、なんていうふうにも感じたりしています。

詩は言葉から一番遠いところにある?

御徒町の最新の詩集は2019年に発売された『雑草・他』(ポエムピース)。これはひと夏で仕上げたという。しかし、その前に出した佐内正史との写真詩集『Summer of the DEAD』(対照)は約4年かかったそうだ。

御徒町:いまも詩集を作ろうなんて話があるんですけど、変な話、別に詩集って馬鹿みたいに売れるものでもないし、精神性みたいなところもあるんです。作る側もそうだし、出版社としても「とりあえず出しておこうか」とはなりづらくて。その意味合いみたいなものを考えては捨て、考えては捨てってしていると、それなりに時間がかかります。

では、『雑草・他』が早く仕上がった理由はなんだったのだろうか?

御徒町:道端に咲いている雑草が視界の外に映ったときにインスピレーションが湧いて。いわゆる雑草って「雑草だ」と思うまで雑草じゃないじゃないですか。ようするに雑草という名前の草はないんです。パッと認識して「雑草だ」と思ったときに雑草になるわけで。自分が雑草だと思うまでの瞬間に詩があると再認識し、気づいたんです。だからその瞬間を切り取ったような一連の言葉の束を作れないかなと。それがテーマで一冊になったというか。詩って言葉のメディアと思われているけど、実は言葉から一番遠いところにあると僕は思っているんです。
クリス:なるほど。
御徒町:今はコロナ禍になってしまってやりづらいんですけど、定期的にいろいろな場所で詩の朗読会をしています。個人的に詩はひとつの運動だと思っていて。だから朗読会を昔から旺盛にやっているんです。ただ粛々と詩を読むんですけど、ぜひ朗読会にも遊びに来てくれるとうれしいなと思っています。

御徒町の最新情報は、公式サイトまたは、Twitterまで。

『SAPPORO BEER OTOAJITO』の5月21日(金)の放送には、映像ディレクター・関 和亮が登場する。放送は毎週金曜23時から。

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毎週金曜
23:00-23:30