寛一郎、俳優になって見つけた父との共通言語【映画『泣く子はいねぇが』インタビュー】

文字通り、裸の付き合いが功を奏した。映画『泣く子はいねぇが』(11月20日公開)の主演・仲野太賀とは、毎日のように秋田県男鹿市の宿で温泉を満喫。初共演とは思えぬ幼馴染感が自然と形作られた。しかも湯気立ち上るその場が稽古の場として大いに役立ったともいう。秋田県男鹿半島に伝わる“ナマハゲ”をモチーフにした本作で、大人にも父親にもなれない宙ぶらりんの男・たすく(仲野太賀)の悪友・志波を演じた寛一郎が語る。

©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

物語の舞台でもある秋田県男鹿市でのロケ。毎日のように主演の仲野と温泉に浸かった。「二人で温泉に入りながら、ああでもないこうでもないと次の日に撮影するシーンの献立を考えていました。『これで決まりだ!』『もう完璧!』『男鹿デミー賞は確定だね!』となったら風呂から出る。温泉でのプランを自信満々に現場に持って行って、佐藤快磨監督にすべてひっくり返される。ボロボロで宿に戻ってまた温泉で作戦会議。その連続でした」とさながら部活のようだ。

©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

温泉は初顔合わせの仲野と距離を縮めるのに最適のシチュエーション。抜群のフレンドシップが築きあげられた。「毎日一緒にお風呂に入っていたし、僕の撮影がない日でも太賀君の帰りを待って一緒に温泉に行く。それが一つのルーティン。短い撮影期間で役柄のような関係性を結べたのは、裸の付き合いがあったからこそ。“一緒にゴハン食べる?”みたいなノリで一緒に風呂に入る。この感覚は男同士ならではのものだと思います」と得意気に笑う。

映画は父と子の物語でもあるが、寛一郎の家族構成にも物語がある。祖父はあの三國連太郎、そして父は現在も一線で活躍する実力派・佐藤浩市だからだ。「命を授かり、実際に子どもを産むのは女性です。この映画のように、男性は女性に比べて親の自覚を持つまでに時差があると思う。息子視点でいうと、僕は彼(佐藤浩市)を父親だと思ったのは二十歳を過ぎてからです。彼は僕が幼いころから多忙な人だったし、10代の頃なんて仲が悪いときもありましたから」と打ち明ける。

偶然だったのか、それとも必然だったのか。父子の溝を埋めたのは、俳優という職業だった。「彼は俳優業しかしてこなかった人でもあるので、子ども心に何をどう話していいのかわからない時期もありました。でも自分も彼と同じ仕事を志すようになって、彼の気持ちも少しは理解できるようになりました。僕が大人になったからかもしれないけれど、この仕事をしていなければ父との共通言語を見つけられずにいたかもしれませんね」と照れ笑い。

現在24歳。「父親願望はまだないです。でも想像するのは楽しい。親バカになりそうな気がする。子どもが男の子だったら気持ちのセーブもつきそうだけれど、女の子だったらヤバいかな? メロメロになる自信があります。昨年同い年の友だちに女の子が産まれて。それを見ていると、女の子だったら大変だろうなぁと思うから」。なんだかんだ良きパパになりそうだ。

『泣く子はいねぇが』は海外の映画祭で高く評価されている。あの是枝裕和も脚本に惚れ込み、バックアップを買って出たくらいだ。寛一郎は「脚本も素晴らしいけれど、それが映像になったらもっと素晴らしかった。ラストの太賀君と吉岡里帆さんのシーンも見ていて嬉しかった。すべてのピースが輝いていて、胸を張って自信作だと言えます」とアピールしている。

©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

(取材・構成・撮影:石井隼人)

作品情報

『泣く子はいねぇが』
11月20日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー

配給:バンダイナムコアーツ/スターサンズ

出演:
仲野太賀 吉岡里帆
寛 一 郎 山中 崇 田村健太郎 古川琴音 松浦祐也 師岡広明 高橋周平 板橋駿谷 猪股俊明
余 貴美子 柳葉敏郎

監督・脚本・編集:佐藤快磨
主題歌:折坂悠太「春」(Less+ Project.)
企画:是枝裕和
エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
公式HP:https://nakukohainega.com/

©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

関連記事