時代がどんなに変化しようとも、人の心を捉えて離さない物語がある。伝説的漫画家・岡崎京子も、時代を超越する普遍的かつエッジの効いたストーリーを紡ぐ作家の一人だ。公開中の映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』は、1989年に岡崎が発表した同名人気コミックが原作。東京に住む平坦で平凡な女子高生・渋谷ハルコと、橋の上で倒れていたエキセントリックな青年・神奈川ケンイチの平行線の恋模様を描く。
恋に恋するような女子高生ハルコを演じたのは、19歳の山田杏奈。そんなハルコが一方的に一目ぼれする青年ケンイチを21歳の鈴木仁が演じた。その年齢からもわかるように、二人ともリアルタイムでは岡崎漫画に触れてはいない。だが異口同音に口にするのは、岡崎漫画だからこその魅惑的な吸引力。山田と鈴木が『ジオラマボーイ・パノラマガール』をそれぞれの視点から語る。
山田:漫画でも映像でも、岡崎さんの創造されたキャラクターは魅力的です。私は岡崎さんの漫画を実写作品から遡る形で読んでいたので、いつか自分でも演じてみたいと思っていました。私が演じた渋谷ハルコも考え方はちょっと変わっているかもしれないけれど、ある意味で等身大です。突拍子もない女の子のように見えるけれど、実はすごく普遍的。現実と虚構の狭間にあるキャラクターを作るのが岡崎さんはとても上手だと思います。
鈴木:僕はケンイチ役が決まってから今回の映画の原作漫画を読みました。岡崎さんの描く世界は、日常感と異世界感がバランスよく共存している。だから現代に置き換えても遜色なくスッと入ってくる気がしました。衝動的に行動するケンイチの感覚的に生きる姿は共感できます。教室で急に高校を辞めると宣言するシーンは、演技ながらもスカッとしました。ほかのクラスの生徒も驚いて覗きに来るし、僕も高校時代にこんな大胆なことをしてみたかった~!と思いました(笑)。
――しかもその後にケンイチは男性教師といきなりキスをしますよね。
鈴木:脚本でその部分を読んだときは「おっ!?」と驚きました。すごいなケンイチと。その行動原理を頭で理解するとこんがらがるので、僕もケンイチ同様に衝動的に動きました。キスしたあとの顔は笑っているのか戸惑っているのか、不思議な表情をしています。そこはリアル。ケンイチの不思議さがいちばんわかる、見どころシーンかもしれません。
山田:そこは演じていて面白かったシーンで、しかも撮影初日だった気がします。瀬田監督が細かい芝居を付けてくれて、バタバタしているハルコ一家の日常と家族との関係性が見える場面です。長回しで細かい芝居も多いので、役者同士リアクションが重なってしまったり反応が早かったり、タイミングを合わせるのが大変でした。でも毎回自分の中で変化を付けながら楽しんで演じていた思い出があります。
――モノローグ的セリフを一人で語るという場面も、まさに“岡崎京子的”です。
山田:普通だったらすべて脳内で考えるような独り言ですが、ハルコやケンイチだったらやるだろうなと思いました。誰に言うわけでもなくはっきりした言葉で自分の思いを口にするわけですから、演じていてとても不思議でした。お芝居の面では相手の反応が返ってこないので難しいと感じましたが、「ハルコだったらやるだろう」という気持ちがありました。それもあってすんなりと言葉を口にすることができました。
鈴木:通常の映画ならば、ナレーションとして入るような言葉ですよね。それを現場で言うというのは不思議な感覚で。でも僕も杏ちゃんの言うように“ケンイチだったらやるよな”という思い一つでした。その気持ちは撮影中ずっとブレませんでした。リハーサルでは声のトーンやテンポ、セリフの読み方などあらゆるパターンを試しました。演じる上では「ケンイチとはなんぞや?」ということを深く考えて臨んでいました。
――お二人とも髪形など、原作からのトレースを感じました。実際に扮してみていかがでしたか?
鈴木:僕は普段から前髪が両目にかかるくらいのヘアスタイルです。それが髪の毛を切ったときにどうなることやらと思ったけれど、意外といけるぞと思いました。短髪にした自分の姿を見たときに得た手応えは予想外でした。
山田:ケンイチに関してはみんなで「大丈夫かなぁ?」と言っていたけれど、いざ切ってみたら「全然似合うじゃん!」と。もっと変に面白くなることを期待していたので。
鈴木:僕も薄々肌でみんなの変な期待は感じていました(笑)。
山田:私はハルコになりきるにあたり、初めて眉毛より上に前髪を切りました。新鮮でしたが、そのおかげでハルコの小動物っぽさを感覚的に掴めたような気がします。少女感もより強調された気がします。
鈴木:杏ちゃんとは同じ事務所で、これまで影のあるキャラクターを演じるイメージが強かったので、こんなポップで明るいハルコという役が凄く不思議で見慣れなくて。最初は笑ってしまいました。「杏ちゃんかわいい~!」って(笑)。
山田:お互いがお互いの見たことのない姿で目の前に現れたので、すごく楽しかった。いい空気感と関係性はもともと持っていたけれど、いつもとはタイプが違うという感覚がありまた。
鈴木:自転車で坂道を登るシーンで僕が辛そうに見えた原因は、僕の隣を電動自転車のママチャリが颯爽と駆け抜けていくからです。そのエキストラの仕掛けを僕は知らされていなくて、軽々と後ろから登ってきたことに自然に驚いてます。そのリアクションを引き出したのは、まさに瀬田監督のマジック演出。実際は見た目よりつらくはないんです。
山田:走るシーンで多かったのは、私の走る速度が速すぎてNGというもの。そのために必死な感じを出しながらも、実はゆっくりと走っていました。実際は大変ではないのに、あたかも大変そうにスピードを落として走るのは意外と苦労しました。
――山田さんは成海璃子さんからバケツの水を浴びせられていましたね……。
山田:たしかにそこは大変で、バケツの水を全身に浴びせかけられるという人生で初めての経験をさせてもらいました。びしょ濡れになるので撮影も本番の一度きり。NGは出せません。しかも季節もちょっと寒い時期。水を全身に浴びた瞬間、その水の量があまりにも大量だったので笑いを堪えるのにも必死でした。そこが最も大変だったポイントかもしれません(笑)。
鈴木:完成した作品を観ていちばん驚いたのがその場面! 「こんなにやられていたの!?」って。その後のシーンでケンイチは「姉が迷惑をかけて……」と言うような言葉をハルコにかけましたが、僕は「こんなに迷惑をかけていたのかっ!」と申し訳なく思いました。
――劇中では「好きな人さえいればいい!」というセリフがあります。お二人にとって「これさえあれば!」というものはありますか?
山田:私だったら、おいしいご飯! 一個しか選べないと言われたら、お肉です。なかでも牛タンがいちばん好き。頑張った自分へのご褒美として食べるのがいちばんおいしいです。
鈴木:僕は睡眠です。寝ることがなによりも好きだし、どこでも眠ることができます。先日も事務所に置いてある大きなソファーの上で熟睡。人もたくさん通るというのに……。こだわりなくどんな場所でも快適に眠ることができるので、もはや特技かもしれません。
<取材・文・撮影:石井隼人/[山田杏奈]ヘア&メイク:菅長ふみ、スタイリング:中井彩乃/[鈴木仁]ヘア&メイク:NOBUKIYO、スタイリング、小松嘉章(nomadica)>
■作品情報
『ジオラマボーイ・パノラマガール』
新宿ピカデリー、ホワイト シネクイント全国公開中
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
公式サイト:http://gbpg2020-movie.com/
『ジオラマボーイ・パノラマガール』予告編
山田杏奈、岡崎京子作品は「いつか自分でも演じてみたいと思っていました」
――岡崎さんの漫画が持つ魅力はどのようなところにあると思いますか?©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
山田杏奈
鈴木仁
鈴木:脚本でその部分を読んだときは「おっ!?」と驚きました。すごいなケンイチと。その行動原理を頭で理解するとこんがらがるので、僕もケンイチ同様に衝動的に動きました。キスしたあとの顔は笑っているのか戸惑っているのか、不思議な表情をしています。そこはリアル。ケンイチの不思議さがいちばんわかる、見どころシーンかもしれません。
普通の映画ならナレーションのところもセリフで…不思議な感覚
―― 一方、ハルコが朝起きて急いで支度をする様子を長回しで撮る場面も印象でした。山田:そこは演じていて面白かったシーンで、しかも撮影初日だった気がします。瀬田監督が細かい芝居を付けてくれて、バタバタしているハルコ一家の日常と家族との関係性が見える場面です。長回しで細かい芝居も多いので、役者同士リアクションが重なってしまったり反応が早かったり、タイミングを合わせるのが大変でした。でも毎回自分の中で変化を付けながら楽しんで演じていた思い出があります。
――モノローグ的セリフを一人で語るという場面も、まさに“岡崎京子的”です。
山田:普通だったらすべて脳内で考えるような独り言ですが、ハルコやケンイチだったらやるだろうなと思いました。誰に言うわけでもなくはっきりした言葉で自分の思いを口にするわけですから、演じていてとても不思議でした。お芝居の面では相手の反応が返ってこないので難しいと感じましたが、「ハルコだったらやるだろう」という気持ちがありました。それもあってすんなりと言葉を口にすることができました。
鈴木:通常の映画ならば、ナレーションとして入るような言葉ですよね。それを現場で言うというのは不思議な感覚で。でも僕も杏ちゃんの言うように“ケンイチだったらやるよな”という思い一つでした。その気持ちは撮影中ずっとブレませんでした。リハーサルでは声のトーンやテンポ、セリフの読み方などあらゆるパターンを試しました。演じる上では「ケンイチとはなんぞや?」ということを深く考えて臨んでいました。
岡崎京子のキャラらしいヘアスタイル。鈴木は「変な期待」をされていたけど…
――お二人とも髪形など、原作からのトレースを感じました。実際に扮してみていかがでしたか?
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
山田:ケンイチに関してはみんなで「大丈夫かなぁ?」と言っていたけれど、いざ切ってみたら「全然似合うじゃん!」と。もっと変に面白くなることを期待していたので。
鈴木:僕も薄々肌でみんなの変な期待は感じていました(笑)。
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
鈴木:杏ちゃんとは同じ事務所で、これまで影のあるキャラクターを演じるイメージが強かったので、こんなポップで明るいハルコという役が凄く不思議で見慣れなくて。最初は笑ってしまいました。「杏ちゃんかわいい~!」って(笑)。
山田:お互いがお互いの見たことのない姿で目の前に現れたので、すごく楽しかった。いい空気感と関係性はもともと持っていたけれど、いつもとはタイプが違うという感覚がありまた。
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
足で、自転車で…「走るシーン」の裏話
――劇中では坂道を自転車で走ったり、歩道をダッシュしたり……。体力を消耗する撮影にも思えました。鈴木:自転車で坂道を登るシーンで僕が辛そうに見えた原因は、僕の隣を電動自転車のママチャリが颯爽と駆け抜けていくからです。そのエキストラの仕掛けを僕は知らされていなくて、軽々と後ろから登ってきたことに自然に驚いてます。そのリアクションを引き出したのは、まさに瀬田監督のマジック演出。実際は見た目よりつらくはないんです。
山田:走るシーンで多かったのは、私の走る速度が速すぎてNGというもの。そのために必死な感じを出しながらも、実はゆっくりと走っていました。実際は大変ではないのに、あたかも大変そうにスピードを落として走るのは意外と苦労しました。
鈴木が完成した作品を観ていちばん驚いたシーンは
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
山田:たしかにそこは大変で、バケツの水を全身に浴びせかけられるという人生で初めての経験をさせてもらいました。びしょ濡れになるので撮影も本番の一度きり。NGは出せません。しかも季節もちょっと寒い時期。水を全身に浴びた瞬間、その水の量があまりにも大量だったので笑いを堪えるのにも必死でした。そこが最も大変だったポイントかもしれません(笑)。
山田杏奈
――劇中では「好きな人さえいればいい!」というセリフがあります。お二人にとって「これさえあれば!」というものはありますか?
山田:私だったら、おいしいご飯! 一個しか選べないと言われたら、お肉です。なかでも牛タンがいちばん好き。頑張った自分へのご褒美として食べるのがいちばんおいしいです。
鈴木:僕は睡眠です。寝ることがなによりも好きだし、どこでも眠ることができます。先日も事務所に置いてある大きなソファーの上で熟睡。人もたくさん通るというのに……。こだわりなくどんな場所でも快適に眠ることができるので、もはや特技かもしれません。
『ジオラマボーイ・パノラマガール』公開中
■作品情報
『ジオラマボーイ・パノラマガール』
新宿ピカデリー、ホワイト シネクイント全国公開中
©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会
公式サイト:http://gbpg2020-movie.com/