退屈な日々を送る男性が、その場しのぎで嘘を重ねる女性に翻弄されていく――「共感度0.1%の内容」とも評される森崎ウィン主演『本気のしるし 劇場版』が、10月9日(金)に全国公開される。
原作は、オリジナル脚本にこだわってきた深田晃司監督が唯一、映画化を熱望した同名コミックだ。2019年にテレビドラマとして制作・放送されると、そのクオリティが話題を呼び、映画として再編集。第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション2020に選出された。
森崎が演じるのは、真剣な恋愛をしたことがない会社員・辻一路。空虚な生活を送る辻はある日、不思議な雰囲気を持つ女性・葉山浮世に出会う。すぐに嘘をつき、行動原理がわからない浮世に振り回され、トラブルにも巻き込まれていく――男女が転がり落ちていくラブ・サスペンスだ。
一筋縄ではいないキャラクターとストーリーに、森崎はどう向き合ったのか。役への思いや印象的だったシーン、またこれから俳優として目指すことを訊いた。
――観ている側も翻弄される作品でした。サスペンスであり、ラブストーリーでもあり……森崎さんは、ストーリーを知ったとき、どう感じましたか。
森崎:「どういうことだ、何が起きているんだ」と思いましたね(笑)。ラブコメではないし、ヒューマンドラマのような部分もあるけど、一言では表現できない。すごい作品だと思いました。深田晃司監督といつかご一緒したい気持ちがすごくあったので、オーディションを受けたんです。
――森崎さんの辻の解釈がよかった、と深田監督がおっしゃっていました。
森崎:本当ですか? 嬉しいです。映画として再編集されたものを見返したら、撮影から時間が経っている分、初めて自分の作品を客観的に観られたんですけど、「辻くん、いい表情するな」と思いました(笑)。よくあれをできたな、と自分でも思います。
――浮世の不可解な行動に目が行きがちですが、物語が進むほどに辻も怖くなっていきました。二股をかけていたり、「なぜ」と思うような言動をしたりしながら、態度はずっと淡々としている。どこか虚無なんですよね。
森崎:そうそう。辻はヤバイ奴なんですよ、基本的には。刺激がほしくて毎日ああいうふうに生きているっていうのもあるんですけど、それを堂々とできるのは、やはり相当、強靭な精神力がないと無理ですよね。一見すると普通の人じゃないですか。そこがホラーだなと思いながらも、彼の中で眠っていた刺激を求める感情が、浮世との関わりで浮き出てくる様は、演じていて楽しかったです。
――ふたりの出会いは、踏切で車が動かなくなった浮世を辻が救ったことでした。助けてあげたのに、警察に事情を問われた浮世は「彼が運転していました」と責任をなすりつけようとする。その場しのぎの嘘で周囲を振り回す浮世は、関わる男性から“だらしない女性”として扱われていますが、辻だけはそれを否定します。辻は浮世をどう捉えているのでしょうか。
森崎:浮世は悪気がないじゃないですか。自分の瞬間的な気持ちに素直に動いている。そこを信用していたんじゃないかなと。浮世の親友と会って、過去を聞いたことも大きいと思います。それまでの展開で浮世に対しての信頼が増していたこともあり、自分色に染めるじゃないけど……自分が変えてやるみたいな気持ちがあったんじゃないかな。
森崎:全てにこだわりを持ってらっしゃいましたが、とくに“見え方”へのこだわりを感じました。じんわりとズームで撮影したりとか。“聞こえ方”もそうです。僕はもともと声が高いほうなので、「辻くんの声はウェイトがほしい」と言われて、トーンを落とすように意識しました。難しかったですね。
芝居は役者に任せてくれつつ、履き違えているときは「もっとこういうアプローチで」という指示もありました。深田さんは、細かくカチッとはめてくるところもあるんですが、そこに無理がないんですよね。深田さんへの信頼が厚いから乗っかれる自分もいて、演出されているときも楽しかったです。
――記憶に残るシーンはありますか。
森崎:けっこう長回しが多いんです。とくに、辻がタバコを吸って、浮世とベランダで喋ってから1階に降りるシーン。リアルに下に降りるまでを1カットで撮っているんですよ。あれを1カットでいくと言われたときは「どういうことですか?」って(笑)。全てに自信がないと、あの長さを1カットで勝負できないと思います。役者に対して、技術さんに対しての信頼がないとできない。あれを言える監督って、俺は他に見たことないです。俺だったら、怖いから割ります(笑)。
――引きの構図も多かったですね。
森崎:もともとドラマですが、撮り方が映画的ですよね。あんまり説明してこないっていうか。何か他のことをしながら観られる作品ではない。4時間と長いですが、映画館のスクリーンでゆったり観るのに向いていると思います。
森崎:あんまり実感が……今でも湧いてないんですよ。発表前に監督から直々にご報告をいただいてすごく嬉しかったんですけど、「わー、本当ですか? 監督、おめでとうございます。いいですね!」とか他人事のように言ってて、「あ、そうだ。俺も出てるんだ」って(笑)。カンヌも行けなかったですし、そういう意味ではあんまり実感が湧いてないですね。「イェーイ、カンヌ行った!」とはなってない。この看板の重みは、きっとこれから感じるのかなと思っています。もっと自覚できる瞬間が来るから、そのときのためにとっておこうかなって。今は純粋に、「僕らで作った作品を観てください」という感じです。
――映画になったことで、視聴者層が広がりますね。特にどんな人に観てほしいといった気持ちはありますか。
森崎:それ、インタビューでよく聞かれるんですけど、ひとりでも多くの人に観てほしいです(笑)。こういうときに、例えば「家族や大事な人と観てほしい」と答える俳優もいるけど、俺は老若男女関わらず観てほしいです。観終わったあとに嫌いだと思われてもいい。
――個人的には、誰かと感想を言い合いたくなる映画だなと思いました。
森崎:僕自身は、自分が出ていることもあって、ひとりで観終わったあとにニヤニヤしちゃったんですよね(笑)。「やっぱこれ、おもしろいな」って。一人で観るか誰かと観るかは人それぞれでいいと思いますが、そう感じていただけたのは嬉しいですね。
――森崎さんは幅広く活躍されていますね。俳優としての目標はありますか。
森崎:日本の作品はもちろんですが、他の国の作品にも出たいですね。まずは他のアジアの映画に出て、いろいろな国に顔を出す役者になって。ゆくゆくはオスカー賞にノミネートされるような、アジアを代表する役者になりたいです。それが僕のゴールです。
――挑戦したい役柄やジャンルはありますか。
森崎:うーん。出会ってみたら、全てが新鮮なキャラクターばかりですが、今はアクションをやりたいですね。Netflixの『タイラー・レイク -命の奪還-』みたいな、あのくらい大規模なものをやってみたいですね。
そういう目標はあるけど、一つひとつに瞬間的に力を入れなきゃいけないと思っています。例えば今は、取材に一生懸命答える。常に何かに対して、やるべきことに対して、100パーセントの力で向き合っていきます。
(取材・文=西田友紀、撮影=竹内洋平/ヘア&メイク:KEIKO 、スタイリング:森田晃嘉)
出演:
森崎ウィン 土村芳 宇野祥平 石橋けい 福永朱梨 忍成修吾 北村有起哉
原作:星里もちる「本気のしるし」(小学館ビッグコミックス刊)
監督:深田晃司
脚本:三谷伸太朗/深田晃司
音楽:原夕輝
撮影:春木康輔
照明:大久保礼司
録音:岸川達也
美術:定塚由里香
助監督:鹿川裕史
スタイリスト:キクチハナカ
ヘアメイク:RYO
編集:堀善介
制作統括:戸山剛
チーフプロデューサー:高橋孝太、太田雅人
プロデューサー:松岡達矢、加藤優、阿部瑶子(マウンテンゲート・プロダクション)
制作協力:マウンテンゲート・プロダクション
製作:メ~テレ
配給:ラビットハウス
2020|日本|カラー|232分
公式サイト: https://www.nagoyatv.com/honki/
原作は、オリジナル脚本にこだわってきた深田晃司監督が唯一、映画化を熱望した同名コミックだ。2019年にテレビドラマとして制作・放送されると、そのクオリティが話題を呼び、映画として再編集。第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション2020に選出された。
『本気のしるし』<劇場版> 予告編
一筋縄ではいないキャラクターとストーリーに、森崎はどう向き合ったのか。役への思いや印象的だったシーン、またこれから俳優として目指すことを訊いた。
「何が起きているんだ」一言で表現できないストーリー
©星里もちる・小学館/メ~テレ
森崎:「どういうことだ、何が起きているんだ」と思いましたね(笑)。ラブコメではないし、ヒューマンドラマのような部分もあるけど、一言では表現できない。すごい作品だと思いました。深田晃司監督といつかご一緒したい気持ちがすごくあったので、オーディションを受けたんです。
――森崎さんの辻の解釈がよかった、と深田監督がおっしゃっていました。
森崎:本当ですか? 嬉しいです。映画として再編集されたものを見返したら、撮影から時間が経っている分、初めて自分の作品を客観的に観られたんですけど、「辻くん、いい表情するな」と思いました(笑)。よくあれをできたな、と自分でも思います。
――浮世の不可解な行動に目が行きがちですが、物語が進むほどに辻も怖くなっていきました。二股をかけていたり、「なぜ」と思うような言動をしたりしながら、態度はずっと淡々としている。どこか虚無なんですよね。
森崎:そうそう。辻はヤバイ奴なんですよ、基本的には。刺激がほしくて毎日ああいうふうに生きているっていうのもあるんですけど、それを堂々とできるのは、やはり相当、強靭な精神力がないと無理ですよね。一見すると普通の人じゃないですか。そこがホラーだなと思いながらも、彼の中で眠っていた刺激を求める感情が、浮世との関わりで浮き出てくる様は、演じていて楽しかったです。
――ふたりの出会いは、踏切で車が動かなくなった浮世を辻が救ったことでした。助けてあげたのに、警察に事情を問われた浮世は「彼が運転していました」と責任をなすりつけようとする。その場しのぎの嘘で周囲を振り回す浮世は、関わる男性から“だらしない女性”として扱われていますが、辻だけはそれを否定します。辻は浮世をどう捉えているのでしょうか。
森崎:浮世は悪気がないじゃないですか。自分の瞬間的な気持ちに素直に動いている。そこを信用していたんじゃないかなと。浮世の親友と会って、過去を聞いたことも大きいと思います。それまでの展開で浮世に対しての信頼が増していたこともあり、自分色に染めるじゃないけど……自分が変えてやるみたいな気持ちがあったんじゃないかな。
深田監督の自信と信頼を感じる「長回し」に注目
――環境音が多く、なまなましい印象の映画ですよね。深田監督からの指示で印象的だったことはありますか。森崎:全てにこだわりを持ってらっしゃいましたが、とくに“見え方”へのこだわりを感じました。じんわりとズームで撮影したりとか。“聞こえ方”もそうです。僕はもともと声が高いほうなので、「辻くんの声はウェイトがほしい」と言われて、トーンを落とすように意識しました。難しかったですね。
芝居は役者に任せてくれつつ、履き違えているときは「もっとこういうアプローチで」という指示もありました。深田さんは、細かくカチッとはめてくるところもあるんですが、そこに無理がないんですよね。深田さんへの信頼が厚いから乗っかれる自分もいて、演出されているときも楽しかったです。
撮影の様子/©星里もちる・小学館/メ~テレ
森崎:けっこう長回しが多いんです。とくに、辻がタバコを吸って、浮世とベランダで喋ってから1階に降りるシーン。リアルに下に降りるまでを1カットで撮っているんですよ。あれを1カットでいくと言われたときは「どういうことですか?」って(笑)。全てに自信がないと、あの長さを1カットで勝負できないと思います。役者に対して、技術さんに対しての信頼がないとできない。あれを言える監督って、俺は他に見たことないです。俺だったら、怖いから割ります(笑)。
――引きの構図も多かったですね。
森崎:もともとドラマですが、撮り方が映画的ですよね。あんまり説明してこないっていうか。何か他のことをしながら観られる作品ではない。4時間と長いですが、映画館のスクリーンでゆったり観るのに向いていると思います。
カンヌ選出は「まだ実感がない」
――第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション2020に選出されましたね。森崎:あんまり実感が……今でも湧いてないんですよ。発表前に監督から直々にご報告をいただいてすごく嬉しかったんですけど、「わー、本当ですか? 監督、おめでとうございます。いいですね!」とか他人事のように言ってて、「あ、そうだ。俺も出てるんだ」って(笑)。カンヌも行けなかったですし、そういう意味ではあんまり実感が湧いてないですね。「イェーイ、カンヌ行った!」とはなってない。この看板の重みは、きっとこれから感じるのかなと思っています。もっと自覚できる瞬間が来るから、そのときのためにとっておこうかなって。今は純粋に、「僕らで作った作品を観てください」という感じです。
――映画になったことで、視聴者層が広がりますね。特にどんな人に観てほしいといった気持ちはありますか。
森崎:それ、インタビューでよく聞かれるんですけど、ひとりでも多くの人に観てほしいです(笑)。こういうときに、例えば「家族や大事な人と観てほしい」と答える俳優もいるけど、俺は老若男女関わらず観てほしいです。観終わったあとに嫌いだと思われてもいい。
――個人的には、誰かと感想を言い合いたくなる映画だなと思いました。
森崎:僕自身は、自分が出ていることもあって、ひとりで観終わったあとにニヤニヤしちゃったんですよね(笑)。「やっぱこれ、おもしろいな」って。一人で観るか誰かと観るかは人それぞれでいいと思いますが、そう感じていただけたのは嬉しいですね。
いつかアジアを代表する俳優に
――森崎さんは幅広く活躍されていますね。俳優としての目標はありますか。
森崎:日本の作品はもちろんですが、他の国の作品にも出たいですね。まずは他のアジアの映画に出て、いろいろな国に顔を出す役者になって。ゆくゆくはオスカー賞にノミネートされるような、アジアを代表する役者になりたいです。それが僕のゴールです。
――挑戦したい役柄やジャンルはありますか。
森崎:うーん。出会ってみたら、全てが新鮮なキャラクターばかりですが、今はアクションをやりたいですね。Netflixの『タイラー・レイク -命の奪還-』みたいな、あのくらい大規模なものをやってみたいですね。
そういう目標はあるけど、一つひとつに瞬間的に力を入れなきゃいけないと思っています。例えば今は、取材に一生懸命答える。常に何かに対して、やるべきことに対して、100パーセントの力で向き合っていきます。
(取材・文=西田友紀、撮影=竹内洋平/ヘア&メイク:KEIKO
『本気のしるし <劇場版>』作品情報
2020年10月9日(金)より全国順次公開出演:
森崎ウィン 土村芳 宇野祥平 石橋けい 福永朱梨 忍成修吾 北村有起哉
原作:星里もちる「本気のしるし」(小学館ビッグコミックス刊)
監督:深田晃司
脚本:三谷伸太朗/深田晃司
音楽:原夕輝
撮影:春木康輔
照明:大久保礼司
録音:岸川達也
美術:定塚由里香
助監督:鹿川裕史
スタイリスト:キクチハナカ
ヘアメイク:RYO
編集:堀善介
制作統括:戸山剛
チーフプロデューサー:高橋孝太、太田雅人
プロデューサー:松岡達矢、加藤優、阿部瑶子(マウンテンゲート・プロダクション)
制作協力:マウンテンゲート・プロダクション
製作:メ~テレ
配給:ラビットハウス
2020|日本|カラー|232分
公式サイト: https://www.nagoyatv.com/honki/
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