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現代建築は「閉じた箱」 コロナで脆さが浮き彫りに…隈 研吾が思う、これからの都市のあり方

現代建築は「閉じた箱」 コロナで脆さが浮き彫りに…隈 研吾が思う、これからの都市のあり方

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が、建築家・隈 研吾と「コロナ禍で変わる住宅や都市開発のNEW NORMAL」をテーマに語りあった。

6月第2週目のナビゲーターを務める後藤と隈がトークを展開したのは、6月14日(日)に放送された、J-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。


■人工的なシステムのもろさ

隈は東京大学建築学科大学院修了。1990年に隈研吾建築都市設計事務所を設立。2009年から2020年3月までは東京大学教授、2020年4月からは東京大学特別教授を務めている。直近では誰もが知る、新国立競技場の設計に携わる。

後藤は隈の著書『ひとの住処―1964-2020―』(新潮社)を読み「いろいろと感銘を受けました」と感想を述べる。そして、音楽家・坂本龍一が代表を務める森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」の話題に。

同団体は高知県・梼原町などに「more treesの森」を持ち、隈はこの団体とコラボレーションしたプロジェクトに携わるなどしている。

後藤:僕は「more trees」と、わりと親しくさせていただいているんです。梼原はすごく行ってみたいところのひとつだったので、その話が(『ひとの住処』に)書かれていて、すごく面白かったんです。坂本(龍一)さんもときどき、Zoomとかでお話させていただいているんです。「一緒に仕事をするかもしれないんだよ」みたいな話は伺いました。

後藤が建築に興味を持ったきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。

後藤:電車も電気も止まって街中が薄暗いなか、たまたま新横浜に行く機会があって、普段ついている電気が全部消えているわけですよね。それで「建物ってこんなに普段からエネルギーをジャブジャブ使う設計になっていたんだ」ということに気が付いたんです。建物が世の中にたくさんあるけど、この建物のあり方って僕たちの暮らし方をものすごく強く規定しているというか、動線を作っているし、「建築家が社会に果たしている役割はめちゃくちゃ大きいんじゃないか」みたいな気持ちになったんです。

これを受けて隈は「3.11の問題は今回の新型コロナとも結びついている」として、その理由を建築の歴史とともに解説した。

:人類はルネッサンス以来、さかのぼれば農業を始めたときからそうかもしれないけど、どんどん人工の上に人工を積み重ねる、アーティフィシャル(人工的)なシステムを築いてきて、建築家なんかはその中心人物だったわけですよね。それが3.11で「建築ってこんなにもろかったのか」「人工的なシステムってちょっとしたことでやられちゃうのか」と、自然というものの圧倒的なパワーの前では、人工的なシステムってゴミみたいなものだなと、そんな感じがしたんです。それで(著書の)『負ける建築』(岩波書店)というのも、そういうのと関係していて、建築も建築家もいばっているみたいな、そういう時代が日本だと戦後ずっと続いていて「なんか違うじゃないの?」と。それが3.11で決定的に偉そうな建築とか建築家が地に落ちていって、今回の新型コロナではさらに根源的なところで人工的なシステムのもろさみたいなものを思い知らされた。それが決定的に歴史の折り返し地点だなというふうに僕は感じていますね。


■「閉じた箱」によって生まれた不幸

後藤は『ひとの住処』について「最後の文章がすごく好きだった」と、その一節を朗読。そこに書かれていた「庇(ひさし)」という言葉に興味を持ったという。

:「庇」は「閉じた箱」というものと比較すると、すごくよくわかると思います。建築は「閉じた箱を作りたい」と言っている歴史だったんです。

隈によると、14世紀にペストが発生した際、街は道路も汚く、建物の外と中の境界線もはっきりとしていなかった。そのため「しっかりとした清潔な閉じた箱を作ろう」という考え方が生まれたそうだ。人間の衛生状態をよくして「閉じた箱=幸せ」という方向性は、いつしか超高層ビルを生み出していったという。

:超高層ビルは「閉じた箱の中で働く」みたいなスタイルを呼んだ。でも閉じた箱って、新型コロナで一番ヤバかったじゃない? 閉じた箱に通勤するために、鉄でできた電車とかバスといった閉じた箱に詰め込まれる。人間って閉じた箱を作って幸せになったつもりが、逆に閉じた箱で不幸になっているんじゃないの、ということをみんなが実感していると思うんですよね。そうしたときに、そんなに閉じた箱にいなくたって、実際はみんな自由にITで仕事ができるし、街だって閉じた箱より公園のほうが気持ちいい。

後藤は「庇」という表現について「日よけだったり、雨よけだったりというのは、社会のセーフティーネット。そういったものも想起させる」と語ると、隈は「『庇』は『思いやり』みたいなもの」と説明した。

:それが逆に自由な空間でもあって、自由だけど守られている、守ってあげるみたいな。そういう感じがこれからの建築や都市のあり方じゃないかと思うんです。最近の街の作り方は「新しければ新しいほどいい」。捨てたものはただのゴミで、捨てるだけで循環なんて発想はないし、生物とはまったく違う人工の極致みたいなシステムになっている。そういうところは住んでいても落ち着かないしね。


■「地方に田園都市を」

隈は、林業が盛んな、森が豊かな街に住む人が増えていくだろうと予見した。

:林業の街というのは、森がすごく力がある。梼原に行って森の中を歩くと力を感じるわけ。ああいう街で子育てをすると子どもはすごく変わると思うんだよね。そういうところで子育てをやりながら、仕事はどこかとつながってやるみたいなね。そういうことが、これからはどんどん出てくるんじゃないかと僕は思うな。

現在はリモートワークという手段があり、隈も「やってみればできる」と感じたそうだ。自社で携わっている工事現場をチェックしにいった社員が、現場の山の中に家を借りてそこに住み「東京に帰りたくない」と語ったというエピソードも明かした。

:これからのワーキングスタイルとして大ありだと思う。地方に田園都市を作らなきゃいけないとかいうと、でっかい開発をするみたいでイメージが悪いんだけど、田舎の家で普通にリモートワークができる、子育てにも最高、みたいな感じがこれから広がると思うな。

隈は地方の田園都市化計画について絵を見せられたときに「東京のコピー」のような方針もあるとして、これには異論を唱えた。

:ただ森を壊して東京のコピーを作っているだけみたいな感じが多くてさ。「新たに都市を作る」という発想じゃなくて、この東京という箱を飛び出していっちゃえばいいじゃない。今はすでに地方に空き家がいっぱいあるわけだからさ。

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。次回、第3週目となる6月21日(日)は女優で“創作あーちすと”の「のん」。続く第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

デジタル音声コンテンツ配信サービス 「SPINEAR」の他、SpotifyやYouTubeなど各ポッドキャストサービスではノーカット版を配信中。

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【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月21日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『INNOVATION WORLD ERA』
放送日時:日曜 23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信
オフィシャルサイト: https://www.spinear.com/shows/innovation-world-era/

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