コロナ禍で、演劇界も「縦社会から横のつながり」へ。宮本亞門が語る、今後エンタメで広めたい価値観

J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「MORNING INSIGHT」。6月11日(木)のオンエアでは、演出家の宮本亞門をゲストに迎え、コロナ禍で発足した新プロジェクトやアフターコロナの演劇界について話を伺った。


■9月から公演再開も、いまだ“予定”

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、宮本はリモートで出演。まずは近況を語った。

別所:お元気ですか?
宮本:おかげさまでお元気でございます。
別所:このコロナ禍で、亞門さんはどうお過ごしになっていますか。
宮本:映画『ベスト・キッド』のミュージカル化のリーディング(読み合わせ)を3月にニューヨークで終えて、帰ってきてからドドドンとすべての舞台がなくなっていきました。ドイツのオペラとかも延期になったんですが、おかげさまで9月からドイツのオペラも再開、10月は『生きる』、12月は『チョコレートドーナツ』と、またやる“予定”でいます。でも、これも本当にわからないです。


■『上を向いて歩こう』を歌とダンスで届けるプロジェクト

宮本は「上を向いて~SING FOR HOPEプロジェクト」を発足。医療従事者などコロナ禍で働く人々、部屋で不安を抱え未来を案じている人々に「何かできることはないか」という想いから立ち上げたプロジェクトだ。制作までの経緯などを語った。

・上を向いて~SING FOR HOPEプロジェクト
https://uewomuite-project.squarespace.com/

宮本:『上を向いて歩こう』をみなさんで歌おうと、出演者の方たちに個人的に電話をかけました。あらゆる人が一緒に歌うということを大切にして、「医療関係者のみなさんや部屋で孤独を感じている人たちに、語り掛けるように歌ってください」とお願いをして、YouTubeにアップしました。
別所:これはシングバージョンの「SING FOR HOPE」と、ダンスバージョンの「DANCE FOR HOPE」があります。

SING FOR HOPE【春】


SING FOR HOPE【夏】


SING FOR HOPE【秋】


DANCE FOR HOPE


宮本:シングのほうは、市村正親さん、鹿賀丈史さん、大竹しのぶさん、城田 優さん、髙橋大輔さん。ダンスのほうはISSAさんと宮川大輔さん、ふなっしーさん、他にも世界トップクラスのダンサーが踊っているので、ぜひみなさんに観てほしいです。
別所:制作過程で印象に残っている方やエピソードはありますか?
宮本:本当に個人的に電話やLINEをしていったんです。「絶対やります!」とか「自分はこういうことをやりたかった」と。つまり、これは無償なんですよ。スタッフも全員タダだったので、まずはみなさんの意気込みに感動しました。医療関係者の人からの「今日も元気に病院に行きます!」という(反応に)、「自分たちが勇気づけるつもりで歌わせていただいたのに、勇気をもらった」と言っていましたね。
別所:まさに、演者のみなさんもスタッフのみなさんも一緒になって「なにかエンターテインメントを通じてできることがないか」と考えたことが凝縮した結晶。でも、亞門さんがお声がけをしてくれるから、みんな動いたというのは本当にあると思います。

別所の発言に、宮本は「いやいや」と謙遜しながら、人が人を想う気持ちに触れて心を動かされたと明かした。

宮本:人のことを想っている人たちがこれほどいるんだということに、今さらながら「人って美しいな」っていう感動をどんどんともらいました。なので「未来は絶対に明るいぞ」と僕は思っています。
別所:こうやってコロナという状況のなかで、つながりあうことの大切さも僕たちは実感していますし、分断されているからこそもっとつながらなきゃ、もっと助け合わなきゃ、という気持ちになっているんじゃないかなと思います。


■「元の生活」ではなくて「次の生活」へ―宮本が期待すること

別所は宮本に、新型コロナウイルスの第二波の不安もあるなか「この日々のなかで感じたこと、変化したこと」を質問。宮本は反省点や、未来への希望を語った。

宮本:まず自分が本当に日々、忙しくしていて。でも、忙しいということはうまくいっているということじゃないんです。ただただ、目の前のことを追いかけていて、ちゃんと社会や現実を見ていなかったなという反省がすごくありました。いろいろな国で起こっていることを見ても、「政治は政治家がやっておいて」とか、どこか自分のこととして深く思えていなかったと気づきました。自粛が解けて、「元の生活へ」と言う人もいるけれど、これまでと同じではなく「次の生活」、新たな自分らしい生活にみなさんが戻っていくんじゃないかと僕は期待をしているんです。そういう意味では、新たな幸せの、人生の「ものさし」をそれぞれが考える時期になったのかなと、僕自身もそう思いました。
別所:本当になにが大切なのかということを考えさせられる時間をたくさんいただいた気もします。僕たちのエンターテインメントの世界で言いますと、ドラマや映画はリモート撮影ということも試行錯誤が始まっています。舞台、演劇界、ミュージカル、この先どういう「ニューノーマル」がやってくるんでしょうか。
宮本:もちろん舞台は来月からいろいろと開始するようですが、(オンエア日の6月11日時点では)客席の間隔を開けないといけない。外国のもの(作品)は著作権があるので、ブロードウェイものも、日本ではほとんど上演できなくなると思います。観客50パーセントの上演は結局マイナスになっちゃうんです。

厳しい状況ではあるが、宮本は「オリジナルを作ればもっと世界に広がる」「今はネットがある」と前を向く。

宮本:「ネットしかない」じゃなくて「あるじゃない! こんなに情報、そして人に感動を伝える方法論が」と、あえて言いたい。絶対にそれで諦めず、「どうせ」と思わず、「そこになにかが生まれるぞ」と僕は期待しています。僕の場合はテクノロジーが下手なところが多くて、時間はかかるんですけども(笑)。でも、おかげで勉強をして徐々にやっています。ネットミュージカルも作りたいので、協力してくれる人がいたらうれしいです。
別所:協力します!
宮本:ありがたい!


■これからエンタメはどんな存在に?

新型コロナウイルスをきっかけにオンラインによる企画が多く実施されるなど、ライブエンターテインメントの世界も日々進化している。宮本は、どんな変化が求められると考えているのか。

宮本:人間の本来の生き方や、シンプルに大切にしてきたものは何か。縦社会ではなく横でつながり、お互いが語り合うことで、すべての悪いものがあぶりだされてきていると思います。やっと本来の生き方に戻っていく時期になったんだと思っています。
別所:そんななかでエンターテインメントはどんな存在になっていくべきなのでしょう。
宮本:我々は人間の心のことを伝えるためにやっている世界なので、「それぞれの考え方、生き方に多様性があっていいんだ」ってことを伝え続けていきたいですね。
別所:僕も今年前半、ミュージカルと舞台がキャンセルになりました。改めて劇場空間や人とつながることについて思い知らされるように、「本当に僕はこれが好きなのに、どうやったらできるんだろう。どうやったらつながれるんだろう」と毎日考える日々です。亞門さんは、今後どんなものを作っていきたいですか?
宮本:みんなをつなげること。演劇界もミュージカル界も案外、縦社会だったんですよね。「みんながもっとつながろう」という動きが出てきているから、それをきっかけに、ミュージカル・舞台を愛してくれているお客さんともっと交流を深めて、誰が正しい正しくない、誰がお金を取れる取れないという会話じゃなくて、こんなに歌って踊って、感情を、感動を伝えるって素晴らしいじゃないかってことを、もっと大きな輪を作っていったらいいと思いました。
別所:それはひょっとしたら日本という国の枠にとらわれずに広がっていきそうですもんね。
宮本:あとはお互いを褒める。競争ばかりしているんじゃなくて、こんなに素敵だってことを広めていければ、政府ももっと協力してくれるかもしれないし……我々から発信していくことが必要なんだなと思っています。

9月にはドイツで『蝶々夫人』が開幕、10月9日から日生劇場でミュージカル『生きる』が再演、12月にはPARCO劇場で『チョコレートドーナツ』の世界初演が行われる予定だ。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の8時35分頃から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月18日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/tmr

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