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「令和」の出典元『万葉集』が今も愛される理由とは? 歌人・東直子が解説

「令和」の出典元『万葉集』が今も愛される理由とは? 歌人・東直子が解説

J-WAVEで放送中の番組『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)。5月1日(水)のオンエアでは、「令和」の出典や『万葉集』の魅力について歌人・東 直子さんに話を訊きました。

東さんは、1996年『草かんむりの訪問者』で第7回「歌壇賞」を受賞。2016年には『いとの森の家』で第31回「坪田譲治文学賞」を受賞しました。まずは、短歌を詠みはじめたきっかけを訊きました。

: 30年ほど前、専業主婦のときに雑誌の短歌コーナーを見て、「短歌だったら子どもが寝ている間にできるのではないか」という気持ちで、原稿用紙に書いて投稿したことです。はじめは採用されなかったんですけど、日常のことを詠んで、そのうち採用されるようになって面白くなって、どんどんハマっていきました。
クリス:今もTwitterに書いてらっしゃいますよね。
:日記とともに短歌を詠みます。スケッチのように書くときもあるし、気合いを入れて書くときもあります。


■「令和」発表時に詠んだ短歌は…

新しい元号「令和」の出典元が『万葉集』ということで話題になりました。そのことに関して東さんは「すごく嬉しかった」と話します。

:「令」という字が使われたのが初めてみたいですね。ら行が使われるのも珍しくて意外でした。響きが涼やかで気持ちよくて、「れい」という言葉には「鈴」「礼」「麗」といったように、さまざまな「れい」を引き寄せてくれるので、とてもいい響きだと思いました。

東さんは、新しい元号が発表されたときも短歌を詠みました。

「手話のうしろに刹那かくれてさよならの始まりとして生まれるために」



:菅官房長官が、元号が書かれた額縁を見せたときに、手話通訳の表示と数秒かぶってしまったんですよね。それが心温まる感じがしました。平成のときは画面の中に手話通訳がなかったと思うんですね。手話通訳があるっていうことが新しい時代だな、進んでいるんだなと思って、お茶目なハプニングだったので、そのことを詠みました。発表は4月1日だったので、平成は残り1カ月あるわけです。「令和」が生まれるための準備期間でもあるという意味で、この歌を作りました。


■「令和」の出展を解説

「令和」は『万葉集』の「梅花の歌三十二首」の序文から採用されていて、大伴旅人が書いたと言われています。

「初春の令月にして、気淑(よ)く風和ぎ、梅は鏡前の粉(こ)を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香を薫(かをら)す」

:当時、太宰府の長官であった大伴旅人の家に集まって、「庭に開花した梅をみんなで愛でて歌を詠みましょう」と促している場面です。宴会の場が、どれほど麗しい場所であるかということを、美辞麗句のような形で言っています。新春のよい月が出て、空気も綺麗で、風は柔らか、梅の花は鏡の前の美女のおしろいのように白い花びらを開いて、蘭は身を飾る香のような香りを放っているという内容です。
クリス:夢のような空間ですね。
:序文というのも意外でしたが、そこから文字をピックアップして、新しい言葉をつくるのは素敵ですよね。出典も響きも新しい時代を象徴する言葉だと思います。

また、当時は桜より梅の花のほうが外来の植物として珍しがられていたそうです。

:みんなが大切に思ってる梅の花をいろいろな人が眺めて、それぞれの人の感性で和歌にしていったということです。ひとつのものをそれぞれの価値観で、また新たな表現をしていくという意味では、多様性が求められている時代において、それぞれの感性を広げていくっていう、そういったことにちなんでいるのはいいことだと思いました。

番組では、東さんが選んだ原田知世さんの『野営(1912からずっと)』をオンエア

:1912年はタイタニックが沈んだ年で、それとともに東の国では新しい王様が生まれたという内容を歌っていて、それは大正天皇のことなんです。それを結びつけたところが面白いです。今日は令和元年の最初の日なので、大正元年と結びつけました。


■『万葉集』の魅了は?

番組後半では、『万葉集』の魅力を改めて訊きました。

:一番の魅力は、貴族階級の人だけではなくて、“詠み人知らず”のように、名前が残っていないけど歌だけ残っているという作品もあって、いろいろな人の心が歌として残っているところです。四季折々の自然と絡み合わせる形で、ひとりひとりの心が残っていって、おおらかで素朴な人間味のある作品があるところが魅力です。

さらに、東さんが『万葉集』の中で好きな歌を披露してくれました。

「多摩川にさらす手作りさらさらに 何そこの児のここだかなしき」

:「さらさらに」は「さらす」と「(川の流れを表した)さらさら」と「さらに」を呼応させています。多摩川で布をさらしていたら、「さらにさらに、どうしてこの子が、こんなに愛おしく思えるんだろう」という歌です。言葉遊びが入っていて、その音の響きもとても気持ちいいですよね。布が水の中でゆったりと流れる感じと、恋する気持ちのたゆたえみたいなものが表現されていて、すごく面白い歌だと思います。


■短歌をゆっくりと解凍していく

東さんは、歌人の穂村 弘さんとの共著『しびれる短歌』(筑摩書房)を上梓。対談形式で、近代から現代まで、さまざまな短歌をカジュアルに語り合いながら読み解いています。東さんは、短歌を読み解く魅力についてこう語ります。

:短歌を自分で作るときは、いろいろな出来事の中から一瞬を掴み取って凝縮して、無駄な言葉を排除して、冷凍するような、一瞬を永遠に閉じ込めておくような作業なんですけど、それを読み解くときは、ゆっくりと解凍していくような形です。受け手の年齢や状況などによって、解凍された結果のものがちょっと違う形で響くと思うんです。そこが面白いです。読み解きながら新しい発見があったり、歌の世界をみんなで高めていくような作業が楽しいです。

この機会に、みなさんも短歌を読み解いてみてはいかがでしょうか。

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【番組情報】
番組名:『GOOD NEIGHBORS』
放送日時:月・火・水・木曜 13時-16時30分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/neighbors/

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