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歌人・穂村弘、17年ぶりの歌集を発売 「忘れてしまっていた記憶」が蘇る一冊

歌人・穂村弘、17年ぶりの歌集を発売 「忘れてしまっていた記憶」が蘇る一冊

J-WAVEで放送中の番組『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)。5月28日(木)のオンエアでは、歌人の穂村 弘さんが登場。17年ぶりの歌集『水中翼船炎上中』について訊きました。


■「ぎょう虫検査の記憶」が短歌に

穂村さんは昨年12月以来のご登場。待望の歌集『水中翼船炎上中』の不思議なタイトルについて伺いました。

穂村:水中翼船って僕ら子どもの頃は、未来の乗り物みたいにいわれていて、水陸両用で、21世紀には空も飛んでいるはずだ、と。どこに行くにもそれだけで万能の乗り物みたいに学習雑誌や絵本などに書かれていた。でも実際、21世紀になると、どこにも水中翼船なんかない。僕のイメージの中では今でも活躍しているはずだったのに……みたいな。それで自分の心の中では、水中でも陸上でも空の上でも水中翼船が炎上している。昔の自分の夢みたいなものが、そのとおり形にならないわけですけど、その比喩のようなタイトルです。

本作は、穂村さんの17年分の作品の中から「時間」というテーマに合わせた作品を再構成。328首の短歌が掲載されています。

クリス:「蛇っぽい模様の筒に入れられた卒業証書は桜の匂い」とか、「言われてみると、たしかにそうだったなあ」と感じる短歌が収録されていますね。あとは学生を描いた「楽しい一日だったね、と涙ぐむ人生はまだこれからなのに」という短歌も印象的でした。
穂村:学生の卒業式で、これからの人生のほうが長いのに涙ぐむ、という感覚とか、たった一日の遠足がすごく重要なもののように思えるとか……大人になるとあっという間に17年くらい経っちゃうから、一回の遠足とか運動会とか、「その一日」がくっきり浮かぶという感覚が減ったと思いますね。
クリス:大人になってからの記憶って、書きとめていても忘れてしまうくらい。でも、匂いとかで覚えていることが、この本を読んでいると蘇ります。穂村さんは、どのように短歌を詠んでいるんでしょうか。
穂村:夜寝る前に、急に変な記憶が蘇ってきたりして。本の中に「それぞれの夜の終わりにセロファンを肛門に貼る少年少女」という変な歌があります。今はもうしていないかもしれないですけど、僕らの小学生のときって、そういうふうにぎょう虫検査をしましたよね。今考えるととても不思議なことのように思える。この間も、座高を測るのをやめたということがニュースになっていて、その理由は「意味がないから」という(笑)。
クリス:今までなんだったんだっていう。座高の結果でイジられたりとかしたのに(笑)。
穂村:ちょっと背中を丸めたような記憶があるんですけどね(笑)。そういうのって、大人になると全く意味がないんだけど、記憶としてはすごく鮮やかで。今は測られないんだ、座高計ってどうなっちゃうんだろう、とか。
クリス:それも水中翼船と同じですね。
穂村:そうですね。座高計も心の中では炎上して消えていくみたいな。
クリス:読んでいると、学生時代のそういう感覚を連れてきてくれる。「すごいなあ、歌って」と感じました。あと、お母さまのことかなと思うんですけど、「今日からは上げっぱなしでかまわない便座が降りている夜のなか」。
穂村:父と母と3人で暮らしていたんですよ。私、パラサイトシングルというやつで、40過ぎくらいまで(笑)。そうすると、母のために父も私も便座を下ろしていたんですよね。母が一番最初に亡くなって、ふとその夜に「もうこれからは上げっぱなしでいいんだ」って、目の前に便座が下りているのを見て思って、そのときに母の不在というか、それが強く感じられたんです。便座はただの物なんだけど、でも「ひとりの人がいなくなるって、そういうことなんだ」とすごく思いました。
クリス:ご家族が他界されたという大きなこともそうだし、先ほど話した“些細で、どうでもよかったかもしれないこと”もそうだし、「生きてるってすごいことなんだな」と感じる一冊でした。


■「メガネ拭きの墓場」がどこかに?

穂村さんはメガネをかけていらっしゃいますが、メガネ拭きで普段からものすごく磨いているそう。

穂村:僕ものすごく目が悪いので、メガネがないと何にもできないんですよ。だからメガネ拭きもすごく重要で、今も出しているんですけど(笑)。それでもすごくなくなるんです。メガネ拭きと耳かきがすぐどこかにいっちゃうから、そのふたつをなくなるはずがないくらい買っているのに、どこかに消えるんですよね。メガネ拭きの墓場みたいなのがあって、大量のメガネ拭きがあるのかな……(笑)。

次作については、「17年じゃなくて34年後だったらどうしよう」と語り、「常に連載みたいなことはしているので、書いてることは書いてるんですけど、やはり歌集は他のものに比べてまとめるのがすごく大変なんですよ。順番とかですごく印象が変わっちゃうので、本当に全力を投入したところです」と穂村さん。

クリス:アルバムの整理と同じで、短い時間でやったほうがまとめやすいのでは?
穂村:みんなはそうしてるんですが、僕はそれができなくて(笑)。今回、歌集が出たことをみんなに驚かれています。

『水中翼船炎上中』は、人気ブックデザイナー・名久井直子さんが「全力を出した」という装丁も美しい一冊です。ぜひ手にとってみてください!

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【番組情報】
番組名:『GOOD NEIGHBORS』
放送日時:月・火・水・木曜 13時-16時30分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/neighbors/

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