秦 基博×水野良樹 対談「これがないと歌になりません」

J-WAVEでオンエア中の「SONAR MUSIC」(ナビゲーター:藤田琢己)。木曜はいきものがかりの水野良樹とお送りしています。6月29日のオンエアでは、水野と秦 基博さんの対談の様子を放送しました。こちらでは完全版をお届けします。

水野は、秦さんの存在について「刺激を受けあっている同期で、いきものがかりとしては盟友」と表現していました。そんな秦さんと、今回は「歌詞」をテーマに対談しました。「歌詞は悩みます。曲よりも時間がかかります」という秦さん。それに対し水野は、「言葉とメロディーが、この言葉じゃないと、成立しないんじゃないかと思うほどのハマり具合」と絶賛していました。

水野:そういう歌詞は、どこから出てくるんですか?
:仮にメロディを作るときには「ラララ~」だったとしても、そこであるべき言葉っていうのは、イメージとしてあると思うんです。その意味合いや響きとかはすごく考えます。音に素直じゃない言葉は威力が半減するというか、メロディを殺しかねないと思うんです。逆に、そこにイメージ通りの響きと意味合いが重なった時には、メロディが何倍にも良くなる。「メロディが呼ぶ言葉」っていうのはある気がして、それを探していく感じですね。
水野:歌詞のシーンの映像を浮かべるっていう人もいれば、その時の感情を思い出して書く人もいると思いますが、秦さんはどういうところから歌詞を紡いでいきますか?
:もちろん感情もあるし、見えている映像の色味もあるし…いろんなことがある気がします。
水野:「僕らをつなぐもの」の信号のくだりとか、どうやったら思いつくんですか?
:メロディを作る時点で、色とか香りとか、言葉になっていない景色とかがあると思うんです。それを一つずつ言葉に置き換えていっているところもあるんじゃないかと。そういうものを呼び覚ますものでないと、“歌”にはならないと思います。適当なメロディを並べて歌っても曲にはなるけど、自分に中で景色が想像できないと歌にならない。
水野:ボツにするメロディもあるんですか?
:いっぱいあります。景色がないものや情感がないものは、ボツにすることが多いかな。

と、対談の冒頭から濃い話になりました。そしてそこから秦さんが、ご自身が作詞した88曲について解説した著書「はたのもと」(KADOKAWA)にまつわる話になりました。

水野:幼少期に別れが多かったと書かれていましたが、その頃の原体験みたいなものは、歌詞に影響を与えるものですか?
:意識はしてなかったけど、別れはかなり強く影響を及ぼしてて…。引っ越しとか、学校が分校になるとか、子どもの手ではどうにもならないものに翻弄されるんです。僕が好きになった子はすぐに引っ越すし(笑)。「楽しい時間は続かない」っていう感覚があるんです。大人になった今はそこまでガラッと変わる、というようなことはないですけど。
水野:今、ご自身の歌詞に影響を与えているものは何だと思いますか?
:一番は社会。たとえば嫌だなと思うこととか、モヤモヤすることとか、生きていればあるじゃないですか。それを曲にした時に、同じように受け取っている人はたくさんいて、そういう人の思いとつながる部分が生まれてくるのかもしれないので、「社会の中に生きている自分」が何を感じているかを掘り下げて歌詞を書きたいなと思います。
水野:秦さんと出会った頃に、秦さんが「自分自身と曲との距離感を考えている」と言っていて、自分の物語だけになってしまっても困るしって。その距離感の捉え方は、この10年でどのようになっていきましたか?
:デビューしたての頃は、シンガーソングライターであるということで、曲を聴いてくれる人にとって、歌に出てくる”僕”と”秦 基博”という人がすごく近く感じられていたかな。それで、曲と自分自身が全く一緒という訳ではないし、自分ではない訳でもない、みんなにどう味わってもらうのがいいのかって試行錯誤してましたね。ただ今は、何をやっても自分が投影される表現の方法をやってると思うんです。それを逆手にとる訳じゃないけど、人間が持っている多面的なところを切り取っていくと、「この人はどんな人なんだろう?」って思っていくようになると思うんです。時には穏やかな曲を歌ったり、時にはひねた曲やセクシャルな曲を歌う…っていうことをたくさんやればやるほど、“秦 基博”ってどんなことを考えているのかっていうことになる。それが面白いんじゃないかと。
水野:世の中に曲が広がったことで、捉えられ方も変わったのかなと思うんですけど…
:実は作り手がどう思ったかは関係ないなと思うんです。自分がどういう思いで曲を書いたかっていうのは、聞いてくれた人にはあまり関係がなくて、その人なりの、それぞれの、楽しみ方をしてもらえたら嬉しいし、そういう広がりのある曲を作りたいと思っていて。
水野:なるほど。
:「ひまわりの約束」がまさにそうで、ドラえもんとのび太と自分に照らし合わせて作った曲が、結婚式でかかるとか…想像を超えている。でも「それぞれ歩いていく」っていう内容もあるけど大丈夫かな、とか心配しちゃったりしますけど(笑)。
水野:(笑)。
:でもそうやって、選んでもらえることの喜びを感じました。曲は解き放てば自由なので。その分、作る時には、自分の見える景色をしっかり描かないと、と思います。
水野:いろいろと定まっていったんですね、10年の中で。
:作れば作るほど…っていうか、水野くんもそうだと思うけど、1曲作ると見えるものがあるから。「次はこうしてみよう」とか思って、それでうまくいったりいかなかったりして…。
水野:わかります。景色が良い時って、「ポン!」と見えますよね。

歌詞から、曲作りの醍醐味にまで話がおよんだところで、音楽活動をしていく上での”計画”、5月に横浜スタジアムで行われたデビュー10周年記念ライブへの思いが明かされました。

:長・中期的ビジョンとかは思ったことがないです(笑)。水野くんは10年後のこととか考えるタイプ?
水野:憧れはありましたね。
:そのために計画も立てる?
水野:細かくは立てないですね。
:でも、しっかり考える人もいますよね。目の前の1曲を作ったら、また次の1曲を作る…っていうことしかなくて、10年後の自分がどうなってるかなんて、考えたこともなかったけど。唯一と言っていいかな、デビューして数年したころに、「いつになるか分からないけど、横浜スタジアムでライブをやりたい」と思いました。
水野:横浜スタジアムのライブの客席におじゃまして、お客さんが携帯電話のライトを点けて振るっていうシーンがあって、それが素晴らしくて、秦さんが一番綺麗な景色を見てると思うんです。今までやってきた人じゃないと見られない光景だから、シンガーとして一番幸せな光景だなと。秦さんが今後、見たい景色ってありますか?
:”見たい景色”っていうか…10年やってみて思うのは、やっぱり、自分はギターと出会って、音楽が好きでやっているから、これからもいっぱい楽しもうという感じですね。
水野:カッコいい!

なお、6月29日の「SONAR MUSIC」でも、水野は改めてこの対談を振り返りました。

水野:10年前から秦さんのステージを近いところで見てきて、いろいろな話を聞いてきて。お互いに、曲を作ることに関しての考え方が少しずつ変わってきていたりするんです。秦さんもいろいろな曲が受け入れられていったり、大きな広がりを持つ上で考えた仕事があったり、そのへんがお互いに励まし合うような感じになったところもあるのかなと思います。
藤田:改めて、秦くんはシンガーソングライターだなって、思うんですよ。自分自身が世の中でどんな影響を受けているかっていう視点を持ってるっていう点でも。
水野:”秦 基博”という人間を一つのメディアにして出てくる表現が社会の鑑のように返ってくるところなんか、まさにシンガーソングライターの姿なのかなと思います。

と、秦さんに関する話は尽きることがありませんでした。秦さんのアルバム「All Time Best ハタモトヒロ」も発売中です。こちらも要チェック。

【番組情報】
番組名:「SONAR MUSIC」
放送日時:月・火・水・木曜 23時30分ー25時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/

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